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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-113.追放者のオーク、ガンボン(52)「マジで! ヤミテ! マジで!」


 

「そもそも……ズビ、その……ズズズ……試練ってな何なんだよ?」

「詳しく……うむ、……は、ズズズ……うむ、伝承にも……ズズズ、残されて……ゴフッ!?」

「ゴク、むぐぐ……ぞ、族長!?」

「これ、ヤシ酒……」

「ふ、むぐぐ、ゴクリ……、すまんな。この赤いのは、かなり辛いぞ……」

 

「むぐむぐ、ゴクン……ふう。

 ……代わりに私が。

 古来より我ら巨人族は、古代ドワーフとの盟約により“巨神の骨盤”にある施設を守ることが伝えられている。

 しかし伝承に残されているのはそのことと、その施設で行われる試練を妨げてはならぬということのみ。

 その試練が具体的に何を示すのかは───」

 

「それが、そこのちびオークの連れだったというダークエルフのやってる、ダンジョンなんとかであろうよ」

 

 大鍋を囲んでみんなでパスタを食べながらの会話に、一人後ろに立ち憮然としている学者のドゥカムさんがそう吐き捨てるように言う。

 パスタ! は乾麺状のものをマヌサアルバ会で結構貰ってきていて、それをささっと茹でた後に、別の鍋で作っていたソースと絡める簡単なもの。ふつうの旅だと水も貴重だけど、このドゥカムさんの建てた野営キャンプには【魔法の湧き水】が設置されているので問題無く使える。沸点が低い高山だと茹でてもけっこう芯が残りやすいけど、まあそんなに気になるほどでもなかった。

 ソースは細切れにした薫製肉と酸味の効いた塩漬け発酵野菜をベースにニンニク、ハーブソルトに少量のカラシを豆油で炒めたシンプルなもの。このカラシも火山島からの高価な輸入香辛料らしく、かなーり辛い。

 で、ペペロンチーノ風パスタの出来上がり。

 ズビズバー!

 

「その、な。ダンジョンなんたらなんだけどよ───と、スープお代わりくれ」

 流石、前世で食べ慣れているからか、器用にフォークに絡めつつパスタを一飲みにしながら話を続けるJBに、パスタのゆで汁を使った肉と丸芋のポタージュスープを木樽のマグに注いで渡す。

「結局その───循環だの何だのを正す? 試練とかを達成すると、何がどーなるんだ?」

 

 そうそう、それ。

 俺もレイフも、元々は間違えて転送門をくぐってこちらへ来てしまい、出口を探す内に迷い込んだ先の成り行きでダンジョンバトルをすることになった。

 けど、どうもレイフは途中からそれを成し遂げることの意味が、「地下から脱出して闇の森へ帰ること」から別のことに変わってきて、「循環を正す」とかの意味も何かしら分かって来てるっぽかった。

 

「この場合の循環とは、まず第一にこのクトリア全土の魔力循環を指す。

 魔力とは世界のあらゆる場に遍在しており、常に循環をしているものだ。

 しかし人の営みや戦、移動、発展や衰退……そういう様々な影響で、ときに淀み、滞り、濁り、循環が阻害される。

 それが体内で起これば魔力瘤や魔力中毒等になり、外の世界で起きれば濁った魔力溜まり(マナプール)の発生から、魔獣の大量発生にも繋がる」

 

 意外にもきれいな食べ方をしながら痩せ身な巨人の人がそう続ける。

 

「それらを防ぎ、叉は改善することを、『循環を正す』と言う」

 

「言い換えれば、クトリア全土を人体に見立てると、クトリアに出来た魔力瘤を治療し、淀みや滞りを解消すること……。

 それが古代ドワーフの作った四方の遺跡の目的の一つだったというワケだ」

 

 何故か不機嫌そうにパスタを睨んだままのドゥカムさん。

 パスタ嫌いなのかな?

 

「なあ、ドゥカム。確か前に、この四方の人為的魔力溜まり(マナプール)が古代ドワーフ文明が滅びた事と関係してるんじゃねーか、みてーな話してたよな? 魔力溜まり(マナプール)そのものが循環を歪める、って 」

「ん? まあ、したな? したした。

 人為的魔力溜まり(マナプール)も所詮は道具にすぎん。きちんと使えれば繁栄もするが、使い方を誤れば滅びもする」

「今はそれが良くない状態なのか?」

「何を今更。そのときに聞いてきてただろうに。クトリア全土の魔力循環には難がある。だからここは他より魔獣が多いし、作物の実りも悪い」


「我ら巨人族の伝承にも具体的なことは伝わっていない。

 “大いなる巨人”の中には伝わっているだろうが、今の我らには知る術がない」 

 大いなる巨人? たしかそれって……。 

 

「俺とガンボンは、“霧の巨人”と会った」

 

「何!?」

「何だと!?」

 

 グイドさんのその告白に、巨人達もドゥカムさんも食い気味に驚き聞き返す。

 

「ああ、本当だ。

 ここに来る少し前、強奪鳥の群れを相手にしていたとき、突然白い霧と共に現れた」

 そう、まるで霧を身に纏っているかにして現れた、三階建ての家みたいな大巨人。

「おい、何を聞かれた? “大いなる巨人”は、試練への道筋を示すのでは無かったか!?」

「問われたのは『王たる者の資質は何か?』と、『ザルコディナス三世は何故王権を失ったのか?』だ。

 そして“狼の口”へと向かえと言われた」

 

「“狼の口”……」

「やはり……か」

 激しく食い付いたドゥカムさんへと端的に事実のみ返すグイドさん。そしてその中から出た“狼の口”という言葉に反応して口ごもる巨人達。

 

「おい、“狼の口”とは何だ? 遺跡か?」

「遺跡の入り口の一つ……と言えば良いかな。ここより西にある。

 我々も狩りのとき以外は近付かぬ。小さいが濁りのある魔力溜まり(マナプール)が出来やすく、魔獣がよく溜まる場所だ。

 そして───」

「うむ。ここ最近、特に魔獣が増えておる」

 

 んー? もしかして来る途中何度も魔獣に襲われてたのって、そのせい? 関係ない?

 

「成る程、試練が始まり、魔力溜まり(マナプール)が活性化されだした余波が、そういう形で現れたのだな……」

 ニヤリと笑いそう断言するドゥカムさん。

 そのドゥカムさんは急にこちらへと顔を向けると、

「おい、オーク! その麺はマヌサアルバ会で作られてるものと同じやつか!?」

 と、半ば怒鳴りつけるかの勢いで聞いてくる。

「へ? あ? う、うん?」

 しどもどしつつコクコク頷きそう返すと、

「ぐむむ……ええい、くそ! ならば……問題無しっ!!」

 そう叫ぶといきなり木の椀とフォークを手に取り、パスタをよそって食べ始める。

「……む!? うむむ……む!? 

 よし、確かに、マヌサアルバの、麺と同じ……!

 問題無い! 問題無く食えるぞ!」

 猛烈な勢いだ。あらお気に召されて良かった。

 

「な? 言ったろ? コイツの作る飯、うめーんだよ」

 そう言うJBに、グイドさんも三人の巨人達もうんうんと頷く。

「我らも久し振りにクトリアの味を楽しませてもらった」

 あらこれまた良かった、良かった。

 

「……ふん! 良いかオーク! 貴様には今後特別に、この私の食事を調理する栄誉を与えてやる!

 飯を食い体力と気合いを入れたら、その魔獣共の巣窟へと出向いてやろうではないか!」

 

 おおう。何か良く分からんけど、めっちゃ気合い十分じゃないですか。

 

 ◆ ◇ ◆

 

 お昼ご飯も食べ終えて、そこそこまったり。

 で、次はどうするべきかというところでちょっと一悶着。

 まあドゥカムさんが張り切りすぎて、今すぐその“狼の口”へと行くべきだと主張するも、JBもグイドさんも、巨人の人達も「時間的に遅いし距離もあるから本格的な調査は明日からにしよう」と反論。

 俺もそー思いはする。何せ魔獣の巣窟だと言うし、夜遅くにそんなところへ突撃するのは得策じゃない。

 それと巨人族の族長だと言う髭の人は、“霧の巨人”の導きを得たということから、グイドさんを中心とした俺たち一行をかなり信頼し始めたらしく、まずは彼等の集落で一晩泊まり、明日になってから巨人族数人の部隊と共に“狼の口”へと向かうことを提案してきた。

 

「たいしたものは出来ないが、我らなりにもてなしをさせていただく」

「巨人族のもてなし……か。うぅ……む。研究対象としては巨人族の伝承文化風俗は実に興味深い……しかし、むぐぐぅ……」

 非常に悩ましげに頭を抱えるドゥカムさん。

「貴様らの食事は、オーク城塞のものより上等なんだろうな……?」

 うへ。オークの俺が言うのも何だけど、オーク城塞の料理はかなりのマズメシだからなあ。

 

 言われた族長はやや沈黙。それから小さな声で、

「ガンボン殿……もし良ければ、その……少々手伝っていただけませんかな……?」

 あー……はい。ま、別に全然構わないけどもね。

 

 

 彼等に案内され進んだ先は、なんというか絶壁の岩山に白蟻のコロニーのような穴がいくつも開けられた集落だった。

 うーん……30階建てくらいの高層ビルディング……とでも言うかな。

 例のドワーフが作ったという廃城塞も、一部が山肌に掘られた穴と融合してたけど、ここはその掘られた部分だけのシンプルな造り。

 集落を囲う門とか柵みたいなのは特になく、家畜であろう大角羊の群れと、ベリーらしき小さな木の実の低木の畑や、ぱっと見キャベツに似た拳大の芽が幾つも生えた木、芋やネギみたいな葉、ダガーくらいの大きな房のつる豆の畑なんかが点在してる。

 畑を見た感じでは、広くはないが種類のバリエーションはそこそこありそうではあるけど、ぱっと見の建物の規模や、巨人の体格から来る必要な食料を考えると全然足りてなくも思えるので、多分狩猟や採集の収穫の比重も高そうだ。

 

 三人が先導して集落へと入ると、そこかしこに居る巨人達が作業の手や話を止めて族長へと挨拶をする。両手を身体の前で重ねるようにして合わせ、会釈のように頭を下げるような仕草が多いが、もっと深々腰を引く者も居れば、ちらりと一瞥する程度の者もいる。

 ただしそれら全ての者が、見慣れぬだろうグイドさん含めた俺たち三人と一匹には不審げな視線。そりゃそうだ。

 

「不思議に思うか?」

 やや赤い肌で痩せ身の巨人さんが言う。

 確かに全体的に不思議な感じの集落だけども、具体的に何について? 

 しかしそれに答えるのは俺ではなくグイドさん。

「……部族が集まって居るのか?」

「ああ、そうだ。我らの数は30年前の三割ほどに減っている。ザルコディナス三世に連れ去られ、戦奴となり殺された者も居れば、その後生き残り戻って来たものの、多くは病み付き早死にしたり、心を病んで暴れ、また自暴自棄になり死んだりもした……。

 それら含めて、かなりが減ってしまった。だから我等は殆どの部族が集まる新しい集落を作った。

 ヴィフオルの子、ヨルサレフの部族のヴィデダ。お前が長い時を経ても生きて戻ってきた事は喜ばしい。

 だが、我々の生き方の多くは変わってしまったのだ」

 

 前を向き歩いたまま、痩せ身の巨人さんは無表情に続ける。背の高さが俺の倍近くあるもんで実際の顔の方はほとんど見えないのに、何でかそれが分かる気がした。

 グイドさんもそれ以上は返さない。雄弁なまでの沈黙。

 その沈黙の歩みを、別の大きな声が止めた。

 

「くだらんことをさえずるのはやめな! この間抜けどもが! リリブローマばあちゃんを騙そうってのかい!?」

「黙れ、この臆病な狂人め! 貴様こそ無意味な事ばかり言いおって!」

 うわ、かなりのひどい言い争い。

 声がする方を見ると、大角羊の飼われている柵の中に数人の巨人。

 先導していた族長と二人がややばつが悪そうにそちらへ向かい割って入る。

 

「何だい、まだ文句があるッてのかい、お前達は!?」

「待て、やめろ。客人が居る。何を騒いでいる」

 髭の族長が右手を上げて双方を制止。

「マーカルロ、客人だと? どういう事だ?」

 そう返すのは赤黒い……というよりやや青黒い色の混じった感じの赤紫っぽい肌の巨人。毛皮の服がメインの他の巨人達と違い、何かの骨やら金属やらを加工した小手や胸当てを着けている。なんというか、武闘派感すげえある。

 もう一人は腰の曲がった老人のような巨人で、三つ編みにした長い髪につば広の麦わら帽子。エプロンのような皮の前掛けをしていて、手には農具。多分大きめのすきのようなものを持っている。

 

「 俺は“霧の巨人”の眷族、ヴィフオルの子、ヨルサレフの部族の者。父より授かった名はヴェデダ。ティフツデイルの王都に捕らわれていたが、今戻ってきた。三人は俺の連れだ」

 進み出て名乗りをあげるグイドさんに、言い争っていた巨人達もそれぞれに驚きの声や表情。

「ああ、ちょうど良い。お前達の話は後で聞く。広間に各部族とその上位の代表達を集めよ。試練に関する重大な話がある」

 マーカルロと呼ばれた髭の族長が宣言し、やや問答はあったもののそこに居たもの達が各方面に散ってそれを伝える。

 

 で、俺だけちょっと外れて別の場所へ。

 

 

 俺だけ一旦外れたのは、調理場へ向かうため。手伝ってほしいと頼まれてのことだけど、まあそんなに出来ることあるかなあ?

 三人の中で最も巨体で最も無口だった、岩鱗熊の頭の帽子を被った巨人さんに案内された先は、調理場と言うにはあまりにシンプルな場所で、エルフに並んで最も古い種族と言われるわりには正直お粗末だ。

 調理器具も基本は石器か古びた鉄器。幾つか魔獣の骨か角か牙だかを利用したものや、古代ドワーフのドワーフ合金製の器具類もあるが、全体としてかなり手入れも良くなく切れ味も悪そう。

 

 ホールみたいな洞窟の真ん中には大きなたき火があり、そこには幾つかの肉焼き串があって、多分毒蛇犬やらオオヤモリや……あー、あれもしかしたら強奪鳥? そんなのがまんま肉串に刺されて炙られている。

 試しにと毒蛇犬らしき肉をつまんでみると……うーん、臭い!

 毒蛇犬は元々穴掘りネズミ同様に臭みの強い肉で、俺は酒につけ込みハーブソルトを擦り込むことで臭みを軽減させたけど、これはもうそのまんまだ。

 塩は多分岩塩を砕いて擦り付けてはあるけども、雑に砕いているのでムラがある。ただ、何か独特の臭いのする調味液も塗られているっぽいけど……んー、何だろう?

 

 他にも、壺で煮込まれた魔虫やら内蔵やらもあるが、これもかなり臭い。冷暗所には木枠に吊られた皮袋のようなものがいくつも並んでいて、よくよく見ると多分大角羊の胃袋で、中には発酵した乳が入っているのだけどもこれまた物凄く臭い。とてつもなく臭いチーズみたいで、乳酒の一種なのか乳酸発酵させたものなのかよく分からない。他にも塩漬けの虫や塩漬けの内蔵らしきものもあり、ことごとく発酵させているのかこれまた臭い。

 全部が全部、という訳でもないが、八割方は臭い。

 

 で、肝心の料理はなんというか……正直……うーーーんむむむむ。

 肉の焼き方の雑さはオーク城塞並ではある。下処理とかほとんどしてないっぽい。味付けは基本塩のみ。甘味は多分ベリーとかの果汁かな? ハーブや香辛料はもちろん無い。材料、素材のバリエーションの無さに、細かい手間をかけない調理法、というあたりはオーク城塞でのものに近いが、全体としてはオーク城塞の料理ともまた違ったキツさがある。

 おおざっぱに言えば調理法のバリエーションが、オーク城塞では「とにかく塩をすり込んで焼く」「とにかくやたらに煮込む」の二つだけなのだが、ここにはさらに「とにかく発酵させる」が加わってるようだ。

 

 発酵食品というのはそれぞれ人種民族気候風土により変化する特有の文化だ。日本で言えば鮒寿司、くさや、納豆、塩辛なんかがあるし、韓国には国民食とも言えるキムチ。酒はもちろんアルコール発酵だし、チーズの一部やヨーグルトもそう。文化の数だけ発酵食品はあるとも言えるが、中には他の文化圏では受け入れにくいレベルのものも少なくない。

 で、正直ここの発酵食品は……余所者にはキツいぞー!

 俺が手伝いを頼まれたのは、きっかけとしてはドゥカムさんが「オーク城塞のものよりマシな食い物が食えるのか?」と言い出したことからで、学者としては巨人達の料理を食べることも必要だろうけど、とは言えこれだけでは厳しい。JBは学者じゃないから特にだ。

 

 何にせよここにある材料に手持ちのカードじゃ大したことも出来ないし……さて、どーするかねえ。

 

 ◆ ◇ ◆

 

 しかし……改めてもすげー事になってきてる。

 俺は本来人間より平均身長の高い種族のオークのくせに、ずば抜けて小さいちびオークちゃんだが、ここに居るのは全員だいたい3メートル越えの巨人達。幼児と大人くらいの身長差がある。

 グイドさんも大きかったけど、ここの巨人達に比べると小さい。それは彼に埋め込まれた術式によるもので、身体を小さくし、一見すると巨人ではなく見える……というより、「周りの者の認識を狂わせ、巨人であると思わなくさせる」ようにする効果のせいだとか。

 俺がグイドさんのことを食人鬼(オーガ)だと思ったのもある意味それのせいみたいだ。巨人ではない別のものとして認識するようにさせる魔術の効果で、俺の場合食人鬼(オーガ)を直接見て知っていたからそういう風に思えた……んだろうかな、と。

 けど巨人達からすると食人鬼(オーガ)と思われるのはかなりの侮辱になるっぽいので、それは言わないよう気をつけよう。

 

 で、そんな巨人達が広間に集まっている。

 すでに日は落ち、外は暗い。巨人達の住居には扉というものがなく、この広間も岩肌に掘られた大きな穴の通路が交差する場所。

 全体としては高さも幅も20メートルくらいの大きなドームで、真ん中には結構大きめな石組みの枠の中に焚き火。中の燃料は黒っぽいので、薪ではなく炭かもしれない。

 それを囲むように何人もの巨人達。肌の色や着ているものに特徴がある数人ずつで纏まって座っている。

 そして吹き抜けのホールの上の階の通路にも何人もの巨人達。焚き火の柔らかな灯りに照らされて、背後の岩肌に浮かび上がる影はさらに巨大だ。

 その中央の焚き火を囲む一角に、例のマーカルロという族長さんに、その仲間らしき巨人達。そしてその横にはドゥカムさん、グイドさん、JBにタカギさん。つまり客人たちが居る。

 

 しばらくして、ややざわめいた感じから次第にゆっくりと静まりだす。多分呼び集められた巨人達が全員揃ったのだろう。

 頃合いを見計らい、マーカルロ族長が立ち上がり右手を掲げると、

「“大いなる巨人(マイナギアト)”に」

 と宣誓。

 それに倣って、集まった全ての巨人達が復唱する。

 どうやらそれが会合開始の合図のようだ。

 

「まず初めに紹介する。或いは知ってる者も居るかもしれんが、“霧の巨人”の眷族、ヴィフオルの子、ヨルサレフの部族のヴェデダが長き時を経て我らの元に帰って来た。この非常に喜ばしい帰還を祝い、“大いなる巨人”へと感謝を捧げよう」

「“大いなる巨人(マイナギアト)”に感謝を」

「“大いなる巨人(マイナギアト)”に感謝を!」

 

 手に持った武器……というか棒というか丸太? 棍? 各々がそんなものを掲げては地面へと打ちつけながら繰り返す。

 彼らにとってはあの、「霧の中から現れた巨人」は、ある種の信仰の対象のような存在のようだ。

 

「そして───ヴェデダとその連れてきた者達によれば、ドワーフ遺跡での“循環の試練”は既に始まっているという」

 マーカルロ族長の続く言葉に、それぞれにざわめきや驚き、戸惑いが広がる。

「“苔岩の巨人”の眷族より聞く。それは確かなのか?」

 浅黒い肌の巨人達の一人が右手の棒を高く突き上げつつ聞く。

「確か───と言える確信はまだ無い。直接の証言はこのエルフのドゥカムによるもので、裏付けをするのはヴェデダが“霧の巨人”に“問い”を与えられたことのみだ」

 再び、また別のざわめき。

 

「“霧の巨人”の眷族より聞く。その者は真実間違いなく“霧の巨人”と会い、問いを問われたのか? そして何と答えた?」

 これにはマーカルロ族長から促され、再びグイドさんが先ほどと同じように答える。

 

「“嵐雲の巨人”の眷族より聞く。何者がその試練を行うのか? ヴェデダとその連れの者達か?」

 また同じ問答になり、今度はドゥカムさんへと注目が移り説明がされる。そしてもちろん当然の流れとして、ドゥカムさん曰わく「現在その試練を受けている」ことになるダークエルフ、レイフの連れであるオークのこの俺にも注目が集まる。

 

「ばかげた話だ!」

 突然の大声に、俺達も巨人達も静まり返って注目をする。

 

「“灼熱の巨人”の眷族よ、何を言うか?」

「巨人でも無く、ドワーフでもなく、クトリア王家の者でもない、汚れたよそ者のダークエルフが、久しく失われていた試練を再開し、“大いなる巨人”の承認を得ることなどあり得ぬ! ドワーフが去り、クトリア王家の失われた今、試練を受ける資格があるのは我ら巨人族のみであるはず!」

「しかし我らの伝承も多くが失われている」

「ヴェデダはそのオークと共に“霧の巨人”に会った。我々は同じ“霧の巨人”の眷族として、失われた部族の最後の一人であるヴェデダを承認する」

 様々な意見が出る中、最初に異議を唱えた“灼熱の巨人”の眷族だと言う武闘派感のある赤紫っぽい肌の巨人はさらに続ける。

 

「そのヴェデダと名乗る者の言うことも信用出来ぬ! 何故何十年もここを離れていた者に、“霧の巨人”が直接会うようなことがある!? 我らとて殆ど会うことは叶わなくなりつつあり、この俺ですら時折声を聞ける程度ではないか?」

 あらら。グイドさんのことまで疑われだした。まあでもこっちも特に証拠があるわけでもないしねえ。うーんむ。


「馬鹿をお言いでないよ、このトンチキが! お前に“大いなる巨人”の声が聞こえてるだって!?

 聞こえし者でも無いお前さんにそんなことがあるわけが無いだろう!

 年寄りだからって馬鹿にすんじゃないよ!!!」

 

 そう、二階の吹き抜けのバルコニーから突然その中に割り込んできたのは、さっき来る途中で武闘派感ある巨人の人と言い争っていた麦わら帽子の年老いた巨人。

「黙れ! お前こそ、今がいつだかも分からぬ狂人のくせに!」

「黙るもんかい、この大嘘付きが!」

 再び荒れ出す広間の空気。険悪、なんてもんじゃなく、一触即発、火花散るかと思えるほどだ。

 

「ああーーーーーー! くだらん、くだらん! 本当にくぅ~~~だらん!

 私は古代の巨神の叡智を受け継ぐとされる巨人族の集まりに呼ばれたと思っていたが、ここは食人鬼(オーガ)の洞窟だったのか?

 なら私は来るところを間違えたようだな! 」

 その荒れた空気をつんざくように、いきなり甲高い声でそう言うのはドゥカムさん。うへ、すげえ。この空気でそんなこと言う!?

 

 当然、集まってる全巨人達の視線が一気に集まる。横にいたJBなんかは「うわぁ……」って顔して頭抱えてる。

「貴様!? 我らを食人鬼(オーガ)などと愚弄する気か!?」

「ふん? 先ほどのくだらん喚き合いを見る限り、私には巨人族と食人鬼(オーガ)の違いが分からなくなってくるぞ!」

 ぶひー、ちょっとこれ以上煽らないでー!?

 そんな願い虚しく、赤紫っぽい武闘派な感じの巨人がつかみかかりそうな勢いで立ち上がる。

 マジで! ヤミテ! マジで!

 

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