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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-112.J.B.(68)Do It Big.(デカいヤマだぜ)


 

「貴様等になど用はない!

 ……と言いたいところでもあるが、ふうむ。このタイミングでこう来たか」

 大声で叫び返す……かと思いきや、そんなことをぶつぶつと呟き眉根を寄せるドゥカム。

「いや、何だよどうなんだよ?」

「ふん。用はある。というか、連中を探し出せれば調査も早くに進むかとも思ってはいたが、奴らから出向いて来てくれたのは逆に助かる。

 だが……ふーむ。試練の方が来るワケでも無いのか……」

 何やらまた、俺にはさっぱり分からんことを自問自答。

 

「なあおい、それでどーすんだよ?

 早く返答しねーと、またあのバカでかい石ぶん投げてくるぞ?」

 奴らが実際グイドを越す巨体で、そのパワーで投げつけてくる大石は、それこそ頭にでも直撃すりゃあパカーンと脳みそぶちまけることにでもなりそうだ。

 

「あー、分かった分かった。ちょっと待っていろ」

 面倒くさげに右手をひらひらと振り、ドゥカムは何やら呪文を唱える。唱えてからふぅと一呼吸を置くと、いつもとさほど変わらぬ感じで話し出す。

 

『古の───と───誓いにより、霧の巨人、──の巨人、──の巨人、嵐の巨人の────、───者なり』

 

 おわ、古代ドワーフ語かよ。部分的にしか分かんねーぞ、おい。

 しかも大声で叫ぶでもなくごくごく普通の大きさ。これで向こうに聞こえてるのか? と思うが、どうやらきちんと聞こえてるらしい。

 その声に反応してか、向こうの様子がややざわめくようになり、すこししてから再び大音声で呼び掛けてくる。

 

「盟約と誓い、と申したな!?

 それを口にする意味を分かっているのか!?」

 

 古の盟約と、誓い? 俺には何の話かさっぱりだが、ドゥカムの奴は実際どうなんだ?

「……どうなんだよ?」

「ふん。意味なんぞ今はどーでも良い。連中が真に古代からの盟約を伝える巨人族の一員であれば、少なくとも無視は出来んハズだ」

「いや、いやいやいや、どーでも良かねーだろ!?

 まさか、本当はあんまり意味分からねーで試しに言ってみたとかじゃねえよな?」

 微妙に、微妙にだが左の眉尻がピクピクと動く。

 ここ数日、ドゥカムが苦手としてるらしいオークのガンボンが同行してることもあって、ドゥカムが感情を隠して何か誤魔化そうとしてるときの感じも少し分かってきてるが、この眉ピクピクはその反応の一つだ。多分マジでよく分からずに言ったくさい。

 

 しかしそれにどう答えるか? ヘタな事を言えばかなりマズいことにもなりそうな感じだ。

 巨人族の存在はクトリアでは半ば伝承。実在を疑う者は多くないが、それでも実在を確認したという話はほぼ皆無。酒飲み話の与太話でしか聞かれない。だから、巨人族にどう相対するのがベストなのか。それは誰にも分からない。

 そう、そのはずだった。

 

「───かつて歪められし循環を、正し導く時が来た」

 

 そう返すのは俺でもドゥカムでもない。いつの間に現れたのか、荷物持ちとして同行し後を追ってきていたガンボンに巨地豚とグイド。その一人グイドがそう大声であちらに返す。

 

「遅いではないか。しかも……まあ……やはり予想通りであったのだな」

 したり顔してそう言うドゥカムに、またも煙に巻かれているみたいな気分になる。

「一人で納得してるみてーだけど、何がどういう話なんだ?」

「あの大男が巨人族の一員だ、ということだ」

「は?」

「ふへ?」

 

 俺とガンボンが揃って間抜けな声で反応する。

「恐らく奴にかけられている“魔術”とやらは、普段は人間のように擬態をさせる効果があるのだろう。

 実際に身体を小さくすると同時に、ある種の認識を歪める効果だ。洞察力や魔法への耐性の少ない……まあつまりお前達のような凡人共に疑念すら抱かせない程度の、な。

 そしてダメージを受けそれを魔力として高めるごとに、その枷が外れて、巨人としての本性を露わにする……」

 

 いや、いや、いや、待て待て待て。

「ちょっと待て、おかしいだろ?

 “印”なり何なりで制限を加える事が出来るんだから、施された術式はその逆じゃねえのか?」

 

 もしグイドが生来的に巨人族の力を持っていて、それを身体に施された術式で抑えてるっつーんなら、その術式を抑え込めばどんどん巨人化する筈だが、実際は違う。術式を抑え込むことで狂暴な巨人化をある程度制限している。


「いや、ドゥカムの見立ては半分は当たりだ」

 そう答えるのは下からゆっくりと登ってくるグイド本人。

「だがそれより……」

 ちらりと視線を向ける方角から、警告と問いを発してきていた三人が降り、近付いてくる。

 全く、ややこしい話しかねえのかよ。せめて順序よく来てくれよ。

 

 ■ □ ■

 

「“霧の巨人”の眷族、ヴィフオルの子、ヨルサレフの部族の者。帝国で付けられたら名はグイドだが、父より授かった名はヴェデダ」

 三人の巨人を前に、グイドはそう名乗りを上げる。

「この小さき者達は?」

「オークのガンボン。

 南方人(ラハイシュ)のJB。

 エルフの学者、ドゥカム」

 巨人の問いに簡潔に返す。

 

 三人……。明らかに1パーカ(3メートル)近くはある巨人達は、それぞれに魔獣の毛皮らしき素材の衣服を身に纏っているが、防寒着という程きちんとしておらず、前の二人はほぼ半裸に近い。それに、半裸に近いからこそよく分かるが、それぞれにやや肌の色合いも違ってる。

 最も体格の大きい石を手にしていた一人はほぼ腰巻きのみで、岩鱗熊の頭部から作ったらしい兜を被っている。肌はやや浅黒く灰色がかっても見える。

 もう一人は他の二人と比べると痩せ身でスマートな印象。長い黒髪を頭頂部で束ねていて、動物の骨や牙から作られた幾つかの装身具に腰巻き。それと細い毛皮を放射状に束ねたような飾りの肩掛けをしている。肌はやや赤銅色めいて暗い。

 真ん中にいる一人はボサボサの髪には白髪が混じり、焦げ茶色の長い髭を生やしている。恐らくは三人の中では最年長で、立場も高いと思える。痩せ身の巨人と似たような装身具に、肩掛けの長くなったようなケープに近いものを纏っている。そして肌はやや青みがかった白。

 顔立ちはそれぞれ、確かにどこかグイドに似ている。彫りが深く厳つい。目はやや小さく黒目がちで鼻の幅が広い。なんとはなしに猛獣めいた雰囲気があるが、それは決して野蛮さを感じさせるという意味じゃあない。

 

 三人の中の一人、長い黒髪を束ねた痩せ身の巨人がまずは問いかけてくる。

「霧の眷族、ヴィフオルの子ヴェデダ。貴様が王の試練を受けるのか?

 それともそのエルフか?」

 試練? まただ。さっきはドゥカムがその言葉を言い、今は巨人の一人がそう言った。

「俺は受けぬ。俺には王たる資格はない。

 ドゥカムも受けぬ。この者は王たる事を望まない」

 

「おい待て。勝手に話を進めるな! 誰が試練を受けぬと言った?」

 巨人とグイドのやりとりに、慌てて割って入るドゥカム。

 それを聞きグイドは向き直り改まった調子で、

「すまない、勝手に代弁してしまったか」

 と謝る。

「ではエルフよ、貴様は王たる事を望み、試練を受けるのか?」

 巨人に問いかけられたドゥカムは、ふん、とふんぞり返りながら堂々たる風格で、

「王になどならん! この世で最もつまらぬものの一つではないか! は、は、はーー、だ!」

 と言い放つ。

 

 ならねえのかよ! じゃあ良いだろ、そこは流して!

 

「だがな、試練は既に始まっておるぞ?

 お前たちがわざわざこちらにまで降りてきて我らの様子を探りにきたのも、何らかの異変を感じ取っていたからではないのか?

 既に水、火、土までは起動されている。四方のウチ後は残るはここ、“巨神の骨盤”のいずれかにあるだろう“風”だけだ」

 そう続けて言い放つドゥカムに、相手の巨人達……特に真ん中の年長者とこちらへと話しかけていた痩せ身の一人が色めき立つ。

 

「───エルフよ、何故それが分かる?」

 初めて口を開いた長い顎髭をたくわえた年長者らしき一人。

「ここ以外三カ所の遺跡はもう確認してきた。魔力溜まり(マナプール)はもう起動し、活性化し支配されている。

 思うに、お前たちでも既に細かい伝承は失われているのではないか? それで、何者かが外部から山を登って訪れて試練が始まると、そう解釈していた───違うか? 」

 続けるドゥカムの言葉に、またも二人がざわめいた。

 

「待て待て、ちょっと待て。

 悪いがここで口を挟まさせて貰うが、試練だの王だの、……それからグイドのこともだが、俺にも分かるよう話を整理してくれ」

 巨人の二人が言葉に詰まったその隙間に、俺はそう無理矢理ねじ込んで話を止める。

 とにかく今のままの流れじゃ、俺とガンボンは完全において行かれちまう。

 

「ふん、そうだな。

 私も改めて整理したいことや聞きたいこともある。

 頭から順に、腰を据えて話し合おう。

 それで構わんな?」

 

 巨人達へ確認するドゥカムだが、答えを聞くより先にコンロの脇へ戻り、折り畳み椅子へとどっかと座り込んで冷めた茶を暖め直していた。

 

 ■ □ ■

 

 巨人達の歴史。そこからまず話が始まる。

 

 彼ら巨人族は、古の巨神の末裔である───。少なくともそう伝承され、またそう彼らも信じている。

 その巨人達にも幾つかの部族があり、その部族は大別すると四種の“眷族”とに別れている。

 目の前にいる三人はそれぞれに別の眷族であり、その眷族というのはそれぞれ別の“大いなる巨人”に仕えている者達。

 

 俺達“下界”の者が一般的にイメージする巨人族はその“大いなる巨人”ではなく今目の前にいる彼らで、また噂で伝わる“巨神の骨盤に住む食人鬼(オーガ)”の多くは、彼らの見間違えや誤解から来るのだという。

 とは言え彼らに言わせても、食人鬼(オーガ)とは「暴虐なるオルクスに堕落させられた巨人」らしいので、“巨神の骨”近辺に全く居ないというワケでも無いそうだ。ただ、巨人族の近くには住み着かない。

 

 グイド───俺達が“邪術士により施された呪いの様な術式”によって容貌魁偉な怪力大男に変えられてしまったと思っていた男は、確かに彼ら巨人族の一員で、そしてグイドに施された術式の一部は、グイドをやや人間のように見せる効果もあるのだという。

 

「俺にかけられているのは、複合的で複雑な術式だ。

 まず俺の巨人としての能力を半減させ、人間の様に擬態させる。

 それからダメージに応じてそれを魔力へと変換し、それが増えることで知性を失わせて行く。

 知性を失わせるのは、俺が理性的でいられないようするためだ。そして理性的でなくなることで、俺の中の巨人としての力はより解放される」

 

 何やらややこしい術式だ。一体何故そんな術式を課したんだ? とも思うが……。

 

「そもそもそれは、ザルコディナス三世が、我ら巨人族を支配しようとしてかけた“呪い”なのだ……」

 補足するように付け加えるのは、年長者らしき長い髭の巨人。

 

 ザルコディナス三世はかなり長期にわたり、なんとかして巨人族を自分の支配下にしたいと計画を練り、臣下の邪術士達に様々な研究をさせていたらしい。

 クトリア王朝が秘密裏に巨人族へ貢ぎ物を贈る習わしは、途中で途切れたことはあれどもかなり昔からで、ザルコディナス三世もそれに倣い、またその量や質も共にそれまで以上のものだった。

 

 ある時使者が、ザルコディナス三世が偉大なる巨神の末裔たる巨人族の為、特別な宴を催したいと告げてくる。

 古代ドワーフ達との交友が失われて以来、巨人族達は他の種族との積極的な関わり合いを避けてきた。この提案はまさにその長きに渡る巨人族の歴史を変えうるもので、部族長達の意見は大きく分かれた。

 その中で、これを機に広く他種族達とも交友を深めるべきだと意見した中心に居たのが───グイド、いや、ヴェデダの父ヴィフオルだと言う。

 

 かくして一部の部族長達は宴へと赴き、そして酒に仕込まれていた特殊な薬により自由を奪われ捕虜にされてしまう。

 巨人族の中では部族長の存在は絶対的だ。その部族長が捕虜となり人質にされれば、残った者達は逆らえない。

 従属の首枷を使われ、さらに禍々しい呪いのような術式を埋め込まれて、部族の者達はザルコディナス三世の“奴隷”へとさせられる。

 その術式には、普段は今のグイドのように、「人間に比べれば非常に強いが、本来の巨人族の力の半分程度の能力しか発揮できない」ようにする効果と、「ダメージに応じて能力を解放しつつ、知能を下げる」効果があった。

 

 何故こんなややこしい術式をしたのか? 今までよく分からなかった理由が今分かった。

 その力を抑制、半減させられてても巨人の力は並みの人間の10人20人は軽く蹴散らせる。

 けれども戦場で酷使し続ければ当然次第にダメージは蓄積される。つまり弱くなる。

 ならば、それに応じて制限を解除すれば、ダメージの蓄積による弱体化はカバー出来る。

 それでは知性を下げるのは?

 最初はある種の副作用のようなものだったが、それを研究していく過程で、反乱反逆しにくくさせるように目的が変わったらしい。

 

 部族長を含めた人質により部族全体を支配する。

 特殊な術式を施すことで力を抑制する。

 ダメージを受け力が弱まることをカバーするため、段階的に抑制を解除しつつ知性を無くさせて狂暴化させる。

 

 そして、シャーイダール……の仮面をしたナップルが当初イベンダーのオッサンにしていた従属の首輪。あれと同じ仕組みの魔装具。

 知性を低下させることは、狂暴化して単純に戦力として強くなる、敵兵に恐慌や混乱をもたらすと言うことだけでなく、そういう単純な従属の効果が上がる、という点にもある。

 人間を奴隷にし従属支配するときにも、疲労や薬物などを利した洗脳で出来るだけ思考力を奪い、“愚か”な状態にしておこうとするのと同じだ。

 逆らう、反乱するという発想すら浮かばなくさせる。

 

 グイドはそのザルコディナス三世の“巨人軍部隊”の一員として、30年前のクトリア軍による帝都侵攻に参加させられていた。

 クトリア巨人軍は通常の人間の軍では行えない山脈越えによる侵攻をし、現在辺境四卿と呼ばれる連中の防衛する地域を突破。そのまま帝都奥深くへ侵入し、東方人のシャーヴィー軍と連動して帝国兵達を蹂躙した。

 そして───“滅びの七日間”が起きる。

 

 その大混乱を生き延びたグイドと、巨人軍部隊を指揮した邪術士は、そのまま旧帝都領内に潜伏する。

 最初は廃屋荒野に洞窟などを転々としていたが、野盗崩れや地方豪族を殺し、または巧みに取り入り勢力を得て、どのようにしたものかいつの間にやらその邪術士は元帝国貴族という身分を奪って成り代わった。

 そして、王国での長い剣闘奴隷生活が始まる。

 

 元帝国貴族という偽の身分を隠れ蓑にしてその邪術士がやりたかったことは、贅沢三昧な暮らしというよりは研究の継続だったらしい。

 より巨人族への支配力を高め、その力を効率的に使うにはどうすれば良いか? それを突き詰め極めていくには?

 研究は実際進められ、グイドにかけられた“呪い”はより強固で洗練され複雑化したものになる。特に人間のように擬態させる効果はこの時により強化された。何せ普段のグイドを見ても、かなりの巨漢だとは思えども巨人族だとまでは思わない。

 こう並べて見てみない限り、同じ種族とも思えないしな。

 

 グイドのかつての主だった邪術士により複雑化された術式は、かなり多層的な構造になる。

 それが結果として「普通に術式の制限をかけようとする」ことの結果を奇妙なものにした。

 「巨人の力を抑制し、人間のように擬態させる」術式は、その多層的な構造の奥深くにある。

 それらより表層に、「ダメージに応じてその制限を解除し、知性までをも低下させる」という術式がある。

 この複雑な構造を理解せず、普通に“印”を加えたりして制限を課しても、実際に制限されるのは表層にある「ダメージに応じて、大元の巨人の力の制限を解除し、知性を下げる術式」のみ。

 そのため、結果として「巨人の力を制限し、人間のように擬態させる術式」のみが強い力を持ったまま残される。

 

 主の邪術士が剣闘奴隷としてグイドを戦わせ続けていたのも、それらの実験、検証データを得るのが当初の目的だった。

 しかし長年の貴族暮らしで気持ちもだれて、研究そのものは次第におざなりになる。

 その事がグイドへの支配力を低下させ反抗へとつながった。その後の経緯は以前に聞いた話とさほど変わらない。

 

 グイドの中には、故郷である“巨神の骨”へと戻りたいという気持ちと、今更恥を晒して舞い戻ることなど出来ないという気持ちとがせめぎ合い争い合っていたという。

 流されるままに囚人としてクトリアへ連れてこられ、あるいはこれも運命かと思っていたところ、さらなる運命的出会いが事態を変えていく。

 

「JB、ドゥカム、ガンボン……。おまえ達との出会いだ」

 

 俺達“シャーイダールの探索者”と出会い、ドゥカムのお供をすることで、古代ドワーフ遺跡の現状を知る。

 そしてガンボンの出現により、部族に伝えられていた「四方の魔力溜まり(マナプール)の活性化と循環の正常化」……つまり“試練”が、今まさに行われつつあることを知る。

 そのことを、生き残った巨人族達へと伝えなければ……。

 

 それが、グイドがこの探索行へと自ら志願した理由だ。

 

 

「ヴィフオルの子、ヴェデダ。お前がここにいる理由と目的は分かった。それは受け取っておく。

 しかし───ドゥカムと言うエルフよ。そして……“邪術士”の手下の南方人(ラハイシュ)にオーク……。

 この者等を連れて来たことはそう簡単には認められん。

 特に───」

 三人の中では痩せ身な一人が、話を引き取りそう返してくる。

 

「───ふふん、私が居なければ伝承をほぼ失ってるであろうおまえ達だけで正しく状況を見極めることなど出来なかったのは明白ではないか。

 もし早計な判断で試練の妨害なんぞをしてしまったらどうする?

 いくら伝承の多くを失ったとは言え、それは許される事ではあるまい?」

 まるっきり強気全開でそう言うドゥカム。

 

 ちょこまか動いて簡単な昼飯を用意しているガンボンは、話を聞いてるのか居ないのか。

 そして───。

 

「───“邪術士”の手下などとはな……」

 

 ああ、こりゃ……まあ当然の反応か。

 俺が邪術士シャーイダールの探索者だということはグイドも言わなかったし、隠しておくという手もあるにはあった。

 しかし話の流れ上、何よりもジャンヌとアデリアの行方を探すという一番の目的上、巧く誤魔化して話を進めるのは難しい。

 その中、何も考えてないかの無頓着な言い方で俺が邪術士シャーイダールの手下だと言うことに触れたのはドゥカムで、なし崩し的にそのまま話が進んだ。

 

 ザルコディナス三世が彼ら巨人族に対して行って来たことを踏まえれば、連中の中での“邪術士”への感情が一般のクトリア人や王国軍以上に悪いのは当たり前だろう。

 何より、グイド自身も───。

 

「───JBは信頼に足る人物だ」

 

 そう、きっぱりと言い切るグイド。

 

「俺は長い間王国で邪術士の奴隷となり、常に薬と邪術の実験台にされ、無理矢理殺し合いをさせられ続けて来た。

 そこには名誉も尊厳もない。ただ道具として、邪術の実験台としての意味しかなかった。

 今でも───その頃のことが思い出され、激しい痛み、苦しみ、恐怖に後悔───そして“怒り”に突き動かされそうになる」

 

 ここに来て……普段は無口を通しているグイドの饒舌。そこにはやはり、いつものように感情を表に現さぬ岩のような顔があり張り付いている。だがその裏にはどれほどの怒り、感情が渦巻いているのか───そのことを俺は知らない。

 

「その俺が、保証する。

 JBは公正で信頼の出来る人間だ。シャーイダールの他の手下達も、かつて我々を苦しめたザルコディナスの配下の邪術士やその手下達とは違う」

 

 過分なまでの評価。確かに俺達はかつてザルコディナス三世が配下にしてた邪術士達とは違うし、そもそもシャーイダールは本物のシャーイダールじゃなくて、シャーイダールの仮面を被った間抜けなコボルト。お宝探しの遺跡漁りをしているだけで、邪悪な魔術の実験をするような集団じゃあない。

 だがまあ……グイドが今言った程に人品性質確かなものかっつーと、正直胸を張れる程じゃねえ。

 

「ドゥカムは態度は尊大だが、研究者としては誠実だ」

「何? 貴様は言葉を知らんな?

 良いか、尊大などというのは分不相応な思い上がりの上に……」

「いや、いいから今は黙れ」

 

 そして次に評されるのは当然こいつ。

 

「ガンボンは正直で思いやりがあり諍いを嫌うが、必要なときには勇敢さ示すことが……」

「───熱ッ……!!」

 

 グイドが言い終わるより前に悲鳴をあげるガンボン。

 鍋に沸かしたお湯で指を火傷したっぽいが……見事なタイミングだ。

 

「───何にせよ、彼らは信頼出来る」

 

 俺も含めてかなりの過大評価だとは思うが、とは言えこの流れだと、彼ら巨人族に信用して貰えなければ話が進みそうにない。

 

「───分かった。そこまで言うのなら、試練への道までは通そう。

 その者達が信義に足らぬのであれば、いずれにせよ道は閉ざされるであろうからな」

 

 重々しくそう言う年長者らしき巨人。

 その言葉が終わり少しの沈黙が辺りを包んだ後にそれを打ち破ったのは───。

 

「えっと……お昼ご飯、出来たよ?」

 

 本当に見事なタイミングだな!

 


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