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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-111.追放者のオーク、ガンボン(51)「ガチの巨人、マジでけえ!! 」


 

 俺、ガンボン。身長は約160センチメートルとちょい。この世界の単位で言えば5ペスタと3ウニカちょっと。人間の平均より低いちびオーク。

 グイドさん。身長約2メートル半。この世界の単位で言えば8ペスタ弱くらい。人間の平均より遥かに大きい巨漢だが、一部のオーク城塞で飼育されている食人鬼(オーガ)の平均よりはちと小柄。

 グイドさんが本当の所“呪い”のような魔術をかけられた人間なのか、人間に近い理性と知性を備えた食人鬼(オーガ)なのか俺には分からんけど、食人鬼(オーガ)と仮定するならばちびオーガだ。

 ちびオークとちびオーガ(仮)。そして魔力により聖獣となり体長2メートルを越す巨地豚となったタカギさん。

 

 その三者の遥か上、高みより響き轟くその声の主は何か?

 

 うっすらと濃密な霧の向こうに透けて見えるのは……巨人。

 

 古来よりこのクトリアを囲む山脈の“巨神の骨”に住み、他種族と交流することが無く謎多き存在とされ、“滅びの七日間”に至るその前に、一部の巨人達は“退廃王”ザルコディナス三世とその配下邪術士達により無理矢理隷属化させられティフツデイル王都へ攻め入る尖兵とされた。

 その後、隷属化から解き放たれた巨人達はザルコディナス三世へ反旗を翻し打ち破った後、再びその姿をくらませ、二度と下界へと降りてくることはなかった───。

 

 おおざっぱに言えば、これが俺がまだ生まれたばかりの頃にあった出来事で、やや尾鰭も付き変化した話はオーク城塞にまで伝わって来ていた。

 当時、北方高地のオーク達は部族間の対立が激しく、東方シャヴィー人の遊牧民の大帝国がティフツデイル帝国にまで迫る大侵攻軍を起こしている事に対しては静観をしていた。

 シャヴィー人が我らに牙をむける前に追い返そうという部族も居れば、それを利用して両者を殲滅してやろうという過激派に、人間同士のくだらぬ争いに関わるなど無意味という達観した一派も居た。

 相手がどちらの帝国でも、城塞のオーク達は自分達が負けると言うことはまるで想定しておらず、それは確かに個体としての戦力差もあったが、端的に言えば狭いオーク城塞に籠もり外を知らない無知からくる侮り。

 俺も若くて城塞しか知らないで居た頃は無邪気に「オークこそ最強!」と信じていたけど、追放者(グラー・ノロッド)となり各地をさまよい戦団へと入ってからはすっかり考えを改めた。

 

 人間の数、戦略、知識、適応力も侮れないし、エルフの魔術、ドワーフの魔導具……と、それぞれにオークにはない利点と恐ろしさがある。

 そして今ここで言えるのは───。

 

 ガチの巨人、マジでけえ!!

 どんくらい!? えー、そうですねー。だいたい三階建ての家くらい? つまり10メートル近く。まあ霧に覆われてるしうっすらぼんやりなンだけど、多分そんくらい。

 その大巨人さんに、俺達はこう……質問? 問を投げかけられている。今。


『王たる者の資質とは何ぞや?』

 

 謎かけ? クイズ? 禅問答? 

 ちょっと待っていきなりそんなこと言われても!?

 

「───神の承認だ」

 

 あわあわと慌てる内心と裏腹に、固まり動けず声も出せない俺の横でグイドさんがそう返す。

 

「王権とは神により授かる。神に認められぬものは、例えどれほどの力、どれほどの勢力を持とうと、王たる資格はない」

 

 迷いもなく答えるその言葉には飾りも媚びもない。

 確かに。オークの城塞でも族長は呪術師達が“暴虐なる”オルクスへと伺いを立てて承認を貰う。

 前世の頃の感覚で言えば、そんなのはただのインチキでパフォーマンスに過ぎないとも考えてしまうが、この世界には魔法があり精霊や妖精や魔物が居て、当然のように神もいる。

 だから王に神の承認が必要という考えは、しごく真っ当に思える。


『───ならば問う。

 ザルコディナス三世は何故王権を失った?』

 

 ザルコディナス三世。有名すぎるほどに有名なクトリア王朝最後の王。

 “退廃王”との異名を持ち、芸術や美食に耽溺したという前半生と、多くの美女をかり集め女色に溺れ、諫める臣下の首を内城門の上にいくつも掲げ、邪術士を重用し魔人(ディモニウム)を生み巨人族を支配して……その挙げ句にシャーヴィーと密約を結んでティフツデイル帝国へと侵攻し、自滅した。

 もし神が真に王権を保証するなら、ザルコディナス三世はどう見てもそれには値せず、またそれを保証する神とはいかなる邪神、悪神か……と、そうも思う。

 

「神々はザルコディナス一世に王権を与えクトリア王朝を再興させた。その王権は子や孫へと受け継がれたが、ザルコディナス三世は神との誓約を破った。神々に見放された退廃王は、加護を失いあらゆる判断を誤りその王権を失った」

 

 神々に与えられた王権は、神々を敬愛し王として正しく在り続ける事で維持される。

 逆に王として不適格な振る舞いを続ければ、次第にその王権からは神聖が無くなり最終的には失われる。

 これもまた、この世界においてはごく自然な考え方だ。

 この世界に学校がありテストにこの問題が出たのなら、多分満点の回答。

 

 その答えに、霧の向こうの巨人が満足したのかどうか。心臓に悪い冷たい緊張があたりを包み数分ほど。

 ゆっくりと立ちこめていた霧が薄まり、同時にその巨人もまた立ち去って行く。

 響く足音に規則的な振動。次第に小さくなるそれに安堵のため息がでるのはしばらくしてから。

 その立ち去り際、幾分遠くになってから聞こえた巨人の言葉。

 

『───率いし者の末よ、西へ進み狼の口へと入れ』

 

 またも謎かけのような言葉だが、それについて考える余裕なんてこの時の俺には全くなかった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 僅かな食肉の被害と多大なる混乱を残し、強奪鳥も巨人も去って行き、残された俺達は暫くただ呆然としていた。

 いや、俺“達”というのは違うかもしれない。俺は、だ。俺は岩場を背にしてへたり込むようにして尻をついていて、ただただ何も考えられなかった。

 一体何だったのか? いや、確かにここ“巨神の骨”には巨人が住んでいると言われている。半ば伝承の類と受け止められては居るが、実在自体は確かなのだとも聞いていたし、そして実際今さっきまでそこに居た。

 実際の巨人は───怖い、とか、凄い、とか、そういうレベルで語る存在じゃあなかった。

 デカい。確かに想像以上にデカい。だがそういう物理的な意味で凄さを云々するのはあまりにも的外れで本質を見ていないように思える。

 存在としての次元が違う。

 そんな感じだった。

 

 巨人とはかつて世界を創造した古代の巨神達の末裔である───とは、神話に語られるお話。

 実際のところは知らないけど、そこがエルフやドワーフ、人間達と違うところだ。

 エルフやドワーフ、人間達は、巨神とは異なる別の神々により創られたり連れてこられたりしたという形で語られる。

 神そのものの末裔とは言われない。

 それだけ、巨人達は存在としての在り方が違うと見做されているのだ。

 

「───立てるか?」

 頭上から降りてくる渋くて深い声の主は、先程その巨人との問答を臆することもなくやり通したグイドさん。

 いつまでもへたり込んだままで居た俺は、ややばつも悪く慌てて頷き、ケツをはたいて立ち上がる。

 ブヒッ! とまるで俺を心配したかに一声かけてくれるタカギさんに、立ち上がりややよろける俺へとその野太い手を差し出すグイドさん。

 やべえ、何か俺の今のこのポジション、姫かよ。豚姫様かよ。雄だけど。

 

「大丈夫。先、進もう」

 なんとか気持ちを切り替えつつそう言うが、いやしかし何ともこれが……うーーーーむ。

 もやもやはするよなあ。

 

 あれは巨人だった。そしてここ“巨神の骨”には巨人が住んでいる。

 しかし何故現れ、何故問うたのか?

 それが───分からん。

 あの問いの意味は何だ? 

 王たる者の資質?

 それに───何故グイドさんはそれにああまで堂々と答えられたんだ?

 

 謎、謎、謎。謎過ぎる。

 謎過ぎるが、そんなの俺がうんうん考えたところで、分かる訳のない話なのだ。

 

「グイ……ドさん?」

 無い知恵などを絞ったところで、どーにも俺からはカスしか出ない。再び荒れた山道を歩きつつ、俺は少しの思案の後になんとかグイドさんへと問いかける。

 問いかけつつも、実際何から聞けば良いのかどうか。うーーーむ……分からん!

 

 言葉に詰まる俺に対し、グイドさんはややあって、

「“霧の巨人”……。

 伝承に伝わる“大いなる巨人”の一人だ。

 先触れとして姿を表し、資格在る者を導くが、そうでなければ魔法で溺れ死にさせるとも言われる……」

 

 あらやだ、超怖い!

 てことはあれ、グイドさんが問いに答えてなかったら殺されてた!?

 何だよそれ、アレだよ! 都市伝説とかの、口が裂けてて雨の日に出て、「私きれい?」って聞いてきて……いや、何か違うな。

 

 あわわうわわとばたつく俺に対し、前を歩くグイドさんは再び口を開いて、

「随分と……久し振りに会った」

 と、そう小さく呟いた。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 それから、グイドさんはまた以前のようにむっつりと押し黙ったままただ杖の示す先へと向かって歩き続ける。

 太陽も中天近くへと差し掛かり、抜けるような冬の青い空に眩く光る。

 クトリアの平地はサバンナに近い気候な為、冬でも夜以外はカラッとしててけっこう暑い。湿気がないのでそれなりに過ごしやすくあるけれど、ここまで高いところへ登ると冬相応なくらいには空気が冷たい。

 

 杖の反応が強くなり、学者のドゥカムさんが建てたらしい魔力中継点(マナ・ポータル)が見えてくる。高さ6メートルくらいのモニュメントみたいなそれに杖が強く反応するが、そうでなくとも既に目視できる距離だ。

 ようやく昼飯が食える、ということで気分が少しだけ高揚する。

 移動の度に魔獣に襲われ、登坂の難易度はどんどん上がり、挙げ句巨人に遭遇してガクブルになりと、心身共にかなりお疲れ。なのでもう飯を食うくらいしか気分転換出来ることもない。

 

 俺もタカギさんもやや、少しずつ早足気味になるが、いやいや焦るな焦るな。こういうときに急ぐと大惨事になるぞ、と心のブレーキ。

 しかしその心のブレーキよりも強い抑制が目の前を塞ぐ。俺達を押し止めるのはグイドさんの野太い腕。

 何か、と腕の下から覗くようにして前を見やると、 魔力中継点(マナ・ポータル)越しの向こうの高台に影。かなり遠くではあるが、前世よりかなり視力が良いのである程度見える。

 誰? お客さん? いやいや待て待て、もう少し目を凝らして……んんんーーー……?

 あ、あれもしかして……?

 

「盟約と誓い、と申したな!?

 それを口にする意味を分かっているのか!?」

 恐らくはその上の方に居る三人組みの中の一人が、そう大声で聞いてくる。

 俺達に……てことはないだろうから、JBやドゥカムさんとの話し合い? なのだろうが、いや何でこう立て続けに質問ばっかされてんの?

 

 その問に対してまたも答えたのはグイドさんだ。

 

「───かつて歪められし循環を、正し導く時が来た」

 

 すみません、本当もう、何の話かさっぱり分からないし、あとすげー腹減ってきてます。

 


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