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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-90.J.B.(59)Funky President.(ファンキー大統領)


 

 白亜の豪邸───なんて形容が相応しい優美な館だ。

 元々はクトリア王朝期の議事堂だったという堅牢な建物を中心に、幾つかの建造物をまとめて占拠し、増改築を繰り返し現在の形になっているらしい。

 売春業のクランドロールや、ショークラブのプレイゼス辺りに比べると、建物それ自体へのこだわりが強く、その構造は見た目にも美しい上に要塞としても堅牢。

 前面は石組みを基礎とした整えられた白いモルタル塗りだが、ただ雑に塗っているのではなく意図的に波打つような意匠を描いている。

 また内には透ける空のような青いタイルを使い幾何学的な模様。その青と白のコントラストに、また円形のエントランスホールの中央とその壁に設置された、恐らくは魔法的な仕掛けで作られているだろう噴水は、冬とは言え日差しの強いクトリアではなかなか得られない涼しげな雰囲気だ。

 

 高級感。一言で言うならばそれだ。貴族街三大ファミリーの中で、勢力としては最も小規模ながら、最も謎めいていて、そして最も……不気味で恐ろしいとも言われるマヌサアルバ会の“白亜殿”は、プレイゼスの“劇場”ともクランドロールの“大神殿”とも全く異なる空間だった。

 

 その見事な美しさに俺も驚いて居るが、俺よりもさらに見事な間抜け面をして口を開けているのはちびオークのガンボン。

 建築にも煩いドワーフであるオッサンは、驚きもあるがむしろ好奇心と興味とで目を輝かせつつ周りを見ている。

 正直、三人揃って場違い感ハンパねェ。

 今は周りに客はそう多くない。午後も周りもうじき夕方にはなるが、ディナーの時間にはやや早い。

 俺達三人は一応それなりにマシな格好をしては来ているが、比べりゃ明らかにみすぼらしい。

 俺は前にボーマ城塞で借りて後に譲ってもらった色鮮やかで長めのトーガを上に羽織ってはいるが、その下はやはり“そんなに汚れてない”程度のチェニックで、オッサンはあいも変わらず例の金ピカのドワーフ合金鎧。

 ガンボンの奴はある意味俺と同じで、黒っぽい粗めの布地の、何だかカラテの胴着みたいな珍妙な服に、妙に綺麗な水色のトーガを上から羽織っている。

 しかしその胴着みたいな服はどこのものかも分からないし、水色のフード付きトーガは妙にひんやりとした不思議な感触もあるんだが、仕立てはなんというか雑。何より鮮やかな水色と黒という組み合わせが決定的に合ってない。

 その上、普段からも付けている安物の金ピカキラキラアクセサリーをじゃらじゃらさせている。

 一言で言えば「糞だせェ」。

 

 とにかくこの、洗練されて豪華だが華美すぎない清涼感と高級感ある場所で、俺達三人はものの見事に浮いている。

 だが、仕方ない。

 何せマヌサアルバ会会頭のアルバ───言うなればこのホワイトハウスの主から直接の御招待aka.「お呼びだし」だ。

 貴族街三大ファミリーのいずれであっても、招待状を渡されて「お断りする」なんて選択肢はまず有り得ない。

 王政も階級制も機能していないクトリアにおいて、貴族街三大ファミリーはそれこそ貴族同然の「お偉いさん」。

 そりゃあ事実としては歓楽街の元締め連中でしかないが、前世の感覚で言えば商売人でありつつ本質はマフィア、みたいなもんでもある。

 気楽にお断りなんか出来るわけがない。

 

 にしても───だ。

 この白亜殿を前にしてやはり考える。

 何故、俺達三人なんだ? ……と言うことを。

 

 

 昨夜。ヴァンノーニに雇われているシモンを含めた下っ端連中数人を俺達の情報源とするために上手いこと懐柔してどんちゃん騒ぎしてきたその帰りに、アジトの前で待ちかまえていたマヌサアルバ会からの使いが渡してきた招待状は、俺とオッサンと、そして何故かこの糞だせェ格好のちびオーク、ガンボン宛て。

 取引担当のブルも、探索班リーダーのハコブの名も無い。

 俺、に関しては分からんでもない。

 モロシタテムが魔人(ディモニウム)の襲撃を受けた際、たまたま居合わせたマヌサアルバ会会頭のアルバが俺と一緒に偵察に行くと言い出し途中まで運んだのはこの俺だし、その後彼女にとっても因縁深い三悪の一人“鉄塊の”ネフィルとの死闘を共に繰り広げたパートナーも俺。

 何にせよ“シャーイダールの探索者”の中で最も彼らと関係が深いのは間違いない。

 

 じゃあオッサンは? 

 一応、ヤシ酒の売り込みの時に「酒豪で有名なドワーフのお墨付き」という売り文句を使っている。実際はヤシ酒の製作にも売り込みにもイベンダーのオッサンは何一つ関わって居ないが、対外的にはそう思われてない。なのでその関係から……との推測は出来る。

 結局、分からんのはこのちびオーク、ガンボンだ。

 

 

「お聞きしたいんだが、彼は一応ウチのイベンダーの知人ではあるが、正式な探索者メンバーでは無いことは御存知か?」

 どこまで踏み込んで聞けるか探りつつ、昨夜の申し出を受けた際にそう聞き返すハコブ。

 その問いにマヌサアルバ会の使者は、やはり微妙な間を置いて、

「シャーイダール探索者の皆様との正式な会食は、いずれの機会にとらせていただきたい。

 しかし今回は、その前段階としての試食会でして。言わば新たなメニュー開発の集まりです。

 それでまあ、多様な文化背景を持つ方に来て頂こうという趣旨もあります」

 

 何というか、筋は通ってるようだがしっくりこねえ。

 言ってる本人自体、あんまり信じてなさそうだ。

 つまり……アルバの何かしら個人的な思惑、ってことなんじゃねえかな。

 

 ハコブもその回答には半信半疑。とは言えさっきも言ったが、そうそう断れるもんでもない以上、言われた通りに行くしかない。

「十分に気をつけろ」との言葉と共に、こうして翌日に再び貴族街へとやって来た。

 

 

「いや、しかしこりゃなかなかたいしたもんだ。

 王朝期のクトリア建築の建物としては元々かなりのもんだったろうが、マヌサアルバ会は占拠してからさらに改築して独自のものにしているようだな。

 見事なのはけばけばしすぎない洗練された優美さと、防衛拠点としての性能の両方を兼ね備えているところだ。

 見ろ、あの曲がりの位置どり。攻め手が一旦勢いを失うそこに向けて、銃眼が四方から集中している。

 つまりあそこまで攻めたところで……バーーン! 死屍累々だ。

 なのに飾りに噴水と、一見ただ美しいだけのエントランスへの通路にしか見えない。血生臭さを見事に隠している」

 

 オッサンのご高説、まあ言ってることはなんとなく分かる。

 プレイゼスの“劇場”はけばけばしく派手で、各所に隠し部屋や隠し通路なんかが設えてはあるようだが、防衛拠点としては並み以下だ。

 クランドロールの“大神殿”は建物自体は重厚で要塞めいてはいるが、元々が神殿であり開けた場所で、後に邪術士の圧政時代には死体置き場として打ち捨てられていた事もあり損傷も激しい。王都解放後にここを娼館として占拠したサルグランデも、そこそこの補修はしたがあまり増改築までは手を着けてない。そもそもが打ち捨てられた神殿という背徳性をサルグランデは気に入ってたらしく、綺麗に整えようという意識もなかったらしい。

 

 とはいえ……だ。

 別に俺たちは建物探訪の為にここにいるわけじゃない。

 そして未だ中に入ってないのは、あまりの優雅さと自分達の場違いぶりに気遅れをしたから……ではなく。

 待ち合わせをしているから、だ。

 

 その相手は……?

「はーい! JB、おひさ! 何よ、めかしこんでんじゃーん!」

 ティエジを中心とした狩人グループの一人、方術士見習いの少女カリーナ。テンション高ェな。

「よう。てか人のこと言えるかよ。また良い服着てやがんな、おい」

 旧商業地区の狩人達の中ではもっとも腕利きで、貴族街とも取り引きがあったティエジ達のチームは旧商業地区の中じゃそれなりに裕福な方だが、ここんところの共同ハンティングやボーマ城塞との取り引きもあり、俺達ほどではないが今まで以上に潤っている。だから普段から服装なんかも旧商業地区ではかなり良いものを身に付けてたが、今日のは明らかに違う。

 いつもの東方風の長い下履きじゃなく、ゆったりした裾の帝国人風の長めのチェニックに、さらにゆったりしたスカート。肩には短めのケープを羽織り、それを綺麗な細工の施されたドワーフ合金製ブローチで留めている。

 

 この世界……まあ少なくともクトリアの文化圏には、例えば御伽噺のお姫様が着ているような豪華でふわっと膨らんだドレスのような服は存在してない。というか基本的な服のバリエーション自体そんなに無い。

 俺も含めて、男はたいてい股までの短めの簡素なチェニックにサンダル履きで、女は膝下までと裾の長さが変わるだけ。それを革ベルトか紐、帯を使い腰で留める。

 ちょっめかし込もうとしたり小金を持ってればその上にトーガを羽織る。まあ丁度今の俺がそれだ。

 女がチェニックとスカートを合わせるのもかなり希で、何せ元々クトリア王朝期には貴族しか許されなかったスタイル。もちろん今は貴族制自体存在しないから自由に着れるが、にしてもかなりキメキメの格好。

 

「ヒヒヒ、まあねー。アタシは今回初めてだからさー、試食会。

 いやー、マヌサアルバの新メニューだよ? もう、よだれズビッ! てな感じよ!」

 めかしこんでる割に、言動はいつもより雑になってるぞ、おい。

「ふむ? お前さん初めてなのか?」

「うん。いつもはティエジかカーラが行くんだけどさ。ティエジはトムヨイとあっちにまだ残ってるし、カーラはグレントの怪我の看病もあるしね。

 んで、テーシェ達と勝負して勝ち残ったアタシが付き添いの権利を得たわけ!」

 グレントは対魔人(ディモニウム)討伐戦のときに骨折をしてる。魔法薬でも骨折はそうそう簡単には治らない。俺も内股他数カ所を“鉄塊の”ネフィルに抉られ、体中を“猛獣”ヴィオレトに切り刻まれ、挙げ句脚から下は“炎の料理人”フランマ・クークに焼かれたりしたが、そういう表面の傷の方が魔法薬では治りが早い。勿論「表面的に」治ってるだけなので、すぐさまピンピンに……とは行かない。脚なんか特にまだ引きつり痛むから、全力で走ったりは出来ない。

 ……というか改めて思い返すと、かなりやられてるな、俺。


「ふんふん、今回は自信作なのだなーう。おぬしらも心して試食するのだなう」

 そう独特のしゃがれ声で割って入るのは、赤茶まだらの毛並みをした猫獣人(バルーティ)のアティック。こちらは普段と全く変わらぬ砂漠の民らしいゆったりした服だ。ただ。背負い肩掛けと幾つもの鞄に大荷物。材料に調理器具や調味料諸々を持ってきてるらしい。

 

「ぬお!?」

 アティックの登場に驚いたらしいガンボンが小さく変な声をあげる。ははーん、猫獣人(バルーティ)を見るのは初めて……か?

 猫獣人(バルーティ)の多くはクトリア以南の砂漠、荒野に住んでいる。さらに南に行けばもっと多様な獣人王国もあるらしいが、ほとんど交流はない。オークであるガンボンが元々北の山岳地帯で育ち、その後も王国領近辺に居たというなら、猫獣人(バルーティ)と会う機会はそうそう無かったはずだ。

「ふむ? 見知らぬ匂いよなう? 何者だ?」

「ああ、こいつはオークのガンボン。イベンダーのオッサンの古馴染みだ。

 ガンボン、改めて紹介するぜ。こっちはカリーナ。猫頭はアティック。俺達と取り引きのある狩人集団の一員で、今から行くマヌサアルバ会に狩った食肉やその他の食材を卸してる」

「よろしくー」

「ふむ? オークか。にしてはちっこいなーう」

 相変わらず悪気無く思ったことをすぐ口にするが、ガンボンも別に気にした風もなく、コクコクと頷いて、「よろ、しく……」と変に上擦ったような声でそう返す。まさかビビッてんのか?

 

 さて、カリーナ達は何でも毎回月一の試食会に呼ばれてるらしい。勿論食材を卸している関係からのことだそうだが、何でもメインはアティックで、アティックと付き添い一人、というかたちの招待なのだそうだ。

 俺達は初。なのでこの話をしたら先導役を兼ねて一緒に行こう、と誘われ待ち合わせをした。

 これでようやく中へと入れる───というときに、別の見知った人物と鉢合わせをする。

 

「───おや、これは珍しいところでお会いしますね」

 妙に堅苦しいその物言いは、旧商業地区で医療ボランティアを行っている団体、『黎明の使徒』代表の“聖女候補”グレイティアだ。

 相変わらず簡素で飾りのないローブ姿に、南方人(ラハイシュ)の血が混じったやや色の濃い肌。目鼻立ちのくっきりした顔立ちは、常から笑みというモノを忘れたかに険しい事が多く、眉間には濃いしわが刻まれている。

 俺より頭一つは抜けた長身。やや見上げるようにしてそちらへと振り向き、

「そりゃこっちのセリフだぜグレイティア。こんな金持ち相手の飽食御殿には無縁かと思ってたぜ」

 

 ベガスの高級レストランに呼ばれてきたら、スラム街で炊き出ししている神父さんと出くわすみたいな違和感。

 『黎明の使徒』は、この御時世に珍しい弱者救済を旨とした団体だ。

 資金が潤沢とは言えない為そう大量ではないが、旧商業地区の貧民相手にスープの配給なんかもしてる。美食家サロンのマヌサアルバ会とはある意味水と油と言うほどかけ離れているように思える。

 

 グレイティアはそう言われてやはり眉間のしわをより一層濃くすると、

「ドゥカムの名代です。本来なら彼が呼ばれる手筈が、急に行けなくなったと言い出して仕方なく来ました」

 あらま。そりゃ……うん、俺らとも関係ある話だ。

 

「あたしゃお陰で美味い飯が食えてありがたいがね」

 ざらついた声でそう言うのは一人の女。全身焼けただれたケロイド状に傷だらけに見える姿だが、ターシャという名のこの半死人(ハーフデッド)の女は『黎明の使徒』の警備兵で、特にグレイティアが外へ出るときには必ず一緒に居る、半ば専属護衛のような存在だ。

 貧者救済を旨とする団体だが、それでも危険とは無縁じゃない。それにヤク中アル中ゴロツキなんてのもちょいちょいやってきて、時には暴れ出すこともある。そういう場面で被害を少なくして取り押さえるのには、かなりの実力が必要だ。

 護衛らしく革鎧姿に一応はトーガを纏ってるが、腰にはいつもの(こん)はない。マヌサアルバ会は貴族街の他の店同様、武器持ち込みが禁止だからな。

 

「ふんふん? となるとおぬしも、試食会に参加するのか?」

 アティックが鼻をひくひくさせつつ、ターシャにそう話しかける。

「ああ? そうなんだろ? まあダメっていわれても喰うつもりでいるけどな」

 いきなり聞かれてやや戸惑ったように切り返すが、

「ふーーーー……んむむむ。半死人(ハーフデッド)に果たして味がどれほど分かるのかのぉ~」

「はァ!? おい何だテメェ、喧嘩売ってンのかコラ!?」

 あー、この辺の無自覚に喧嘩売る感、変わんねえなあ。

 

「また! そういう言い方しない!」

「ターシャ、無闇に争ってはいけませんよ」

 それぞれにお目付役と雇い主とが止めにはいる。しかし雇い主に喧嘩を止められる護衛って、それちょっとまずいだろ。

 

「のう、アティック。さっきからちと気になっておったが、もしかしてお前さん、“試食する側”ではないのではないか?」

「ん? そりゃ、食材を持ってくる役なんじゃないのか?」

 多めの荷物はその試食会用に注文された食材なんだろう、と思っていたが、言われてアティックは「何を今更」とでも言うかの物言いで、

「ふむ、当たり前だなーう。わしは新メニューを考案し、それを売り込みに来ているのだなーう。

 ふふん、採用されれば金も出るのだぞ?」

 と得意顔。

 

「へー。そんで、今までどんくらい採用されたんだ?」

 成る程、確かにアティックは料理上手だったな、と思い返してそう聞くと、

「…………だ」

「ん?」

「……0だ。あいつら、何かと文句ばかりでなかなか採用しようとせんのだな!」

 ふてくされたような態度でそう吐き捨てる。

「はっ! 人に味が分かるのかとか言ってきて、お前さんの腕の方が怪しいもんだな!」

 ケラケラと笑いながら挑発するターシャを再びそれを窘めるグレイティア。雇い主なのに大変だな。

「別におぬしに味が分かるならそれで構わんのだなう。ただ今まで半死人(ハーフデッド)用の味付けを研究したことがないから、どういうものが好まれるか分からんのだ」

 いつも糸のように細い目をますます細めながらぶつくさと言うアティック。そうそう、こいつはそんな奴だ。とにかく意図に反して物言いが悪い。

 

 反して、挑発したつもりが肩すかしを食らった形になったターシャは、鼻白んだような顔。

 そのとき、後ろで何やらガンボンとごにょごにょとやり取りをしてたオッサンが、

「その新メニュー考案ってのは、誰でも出来るのか?」

 と変なことを聞いてきた。

「へ? いや……誰でもって事は……ないと思うけど……。

 うーん、元々はマヌサアルバ会の会員達が、会頭さんの出したお題に対して料理を考案して競い合う、みたいなことやってたところに、アティックが無理を言って強引に割り込んでるみたいなもんだからねー」

「ふん、無理など言っておらんぞ? わしの料理は美味い!」

 ……うーん、美味いというのに反論はあまりないが、絶対無理は言ってるな、こりゃ。

 

「ほほう……つまり、無理押しすれば参加可能……と?」

 あ、いやちょっと待てオッサン。

「待て待て待て、何考えてるよ!?」

「あー、安心しろ、JB。

 参加するのは俺じゃない。コイツだ、ガンボンだ」

 

 ニヤニヤと笑いながら後ろに隠れてたちびオークを引っ張り出して、ぽんと両肩を叩く。叩かれ、ばたばたと慌てた風によろめきつんのめって、バランスを崩して倒れそうになり……踏みとどまる。

 

「え?」「はい?」「なんと?」

 一堂、当然ながらポカーンだ。

 いやいやいや、何を言い出すんだよオッサン。

「無茶言うなよ、オッサンよ」

「面白いだろ?」

「そーゆー問題じゃねえよ!」

 

「───なかなかに笑えない冗談ですな」

 騒ぎ立てている俺達の側に、いつの間にやら出迎えに来ていたのかマヌサアルバ会の正会員とお付きの準会員数人。

 しかも……あらー、これはあんーーーまり、和やかな雰囲気じゃねえぞ?

「我らの料理はかつてのクトリア王朝はもとより、ティフツデイル帝国の宮廷料理すら超えた、新たな創意と技術の研鑽によるもの。

 オーク城塞の“餌”とは、比較するのも馬鹿らしい」

 前言撤回。こりゃガチ怒りだ。

 

 基本的にオークは食い物に関しては無頓着で知られてる。連中はだいたい肉に塩振ってデカい暖炉か焚き火で丸焼きにするか、内臓その他をひたすら煮込むかしかしない。その丸焼きにしてもほぼレア、というかただの半生を平気で喰うらしい。不味い物を喰ったときに定番の冗談が、「オーク料理よりはマシだな」だ。

 そのオークが試食メニューの考案をする、なんて話は、美食サロンを気取るマヌサアルバ会としちゃあ聞き捨てなら無いのもそりゃ当然。

 

「そりゃオーク城塞の丸焼きごった煮と比べりゃ不味いも美味いもありゃせんわな。

 だがコイツが料理番をやっとったのはオーク城塞じゃなく疾風戦団でだ。戦団の連中も、ああ見えてなかなか飯にはうるさいぞ?」

 またもやニヤリと不敵に笑うイベンダーのオッサン。

「おい、オッサン。勝算あってのことだろうな? マジであいつならイケるのか?」

 オッサンを引っ張り寄せて小声で詰問。俺はガンボンとやらの料理の腕を知らない。下手なもん出して話を拗らせたりしたら、どーなるもんか分かりゃしねえ。

 

 しかしオッサンは俺の心配もガンボンの慌てふためきパクパクと機械的に開け閉めを繰り返す間抜けな大口のことも、ましてやかなりのガチ怒りテンションなマヌサアルバ会の正会員のことも素知らぬ顔で、

「そんなもん無いわい。採用されたら奇跡だろうよ」

「はァ!? どーゆーこったよ!?」

「良いじゃねェかよ、細けぇ事ァよ。採用されようがされまいが損するわけじゃねえ。

 そもそもあちらさんの思惑も分からず呼び出されてンだ。何かしら意外なことでもやらんことにゃ面白くもない」

 そーゆー問題か!?

 

 半ば放心状態なガンボンに、表情を変えぬグレイティアとへらへら笑いで面白がっているターシャ。アティックはじろじろガンボンを見て、カリーナは小声で俺達へと話しかける。

「ねえちょっと、本気? 大丈夫?」

「……俺に聞くな」

「あのさ、一応言っておくけど、あの人。

 マヌサアルバ会の総料理長で、会頭さんの次くらいにえらい人だかんね?」

 ……わお。そりゃガチ切れするわな。

 てかあいつ、酒のときもモロシタテムでも一緒に居たけど、そんな上の方の奴だったのかよ。知らんかったわ。

 

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