表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
132/496

2-87.追放者のオーク、ガンボン(43)「とりあえず、寝る!」


 

「あのさ」

 天幕の中で荷物をまとめて整理していると、目尻の少し下がったやや色白の女の人が不意にそう話しかけてきた。

 方々へ話し合いに行ってた内の三人ほどは戻って来ていて、イベンダーは入れ替わりに呼ばれて出て行ってしまい、正直ちょっぴり心許ない。

 俺は少し───うん、本当に少しだけだよ? ビクリとしてそちらへと振り向く。

 目が合うとやはり訝しげ、というか不信げ、というか……まあとにかく冷たーーー……い視線がグサグサ突き刺さる。痛い! 痛いよ!?


「アンタさ……」

 やや間をおいて、女の人はぼそぼそと切り出した。

「本当に“疾風戦団”の一員なの?」

 ふへ。まあ、はい、ですよねぇ~。そう見えませんよねぇ~。

 俺は一応コクコクと頷いて是正する。

 分かりますよ、はい。そうは見えないんでしょ? 俺もそう思うもん!

 

「なあ、ニキ。オッサンも言ってたけどその、しっぷうナンタラっての何なんだよ?」

 顎と鼻の尖った方の黒人の人がそう聞くと、ニキと呼ばれた女の人が、ふぅ、と息を吐いてから返す。

「王国領内じゃそれなりに名の知れた戦士団だよ。70年だかそんくらいの歴史がある連中でさ。けっこう凄腕の集まりだってな話なんだけどねえ……」

 言いながら俺を見る目はやはり……冷ややか。

「マジか!? じゃあコイツもこう見えて実はすげー強ぇのかよ!?」

 驚く顎とんがりさんに、変わらぬ様子で、

「さぁねえ……」

 

「おう、強いぞ強いぞ。まあ少なくとも腕力ならここの誰よりも強いわな」

 そう言いながら天幕の中へ戻って来たのは元タルボットのイベンダー。

「マジかよ!? ま、確かに腕は太いかもだけどよォ~」

 彼らはこれからクトリア城壁内のアジトに戻る組と、ここに残って遺跡の調査を続ける組に別れるらしい。

 イベンダーはその戻る組で、俺もそれについていく。……ここに残ってもぼっちだし。

 

「正直、悪いけどさー。アンタが戦団員だったってのも、あんまり信じられないンだよねえ」

 と、ニキと呼ばれた女の人はイベンダーへと向き直る。

「ふむ? そうか?」

「あー、まあ、確かにオッサン、魔導具作りや何かはすげえけどよ。普通に試合すると弱ェもんなあ」

 顎とんがりさんも続けて言うが、実際確かにその通りだ。イベンダー自身は戦士としてそんなには強くはない。


「ああ、そりゃそうだ。俺は戦団員だが戦士じゃない。魔鍛冶と魔導具が専門だからな。

 この辺はけっこう誤解されて伝わってるが、疾風戦団は純粋な戦士だけの集まりじゃあないぞ。

 勿論殆どはそうだが、戦士の活動をサポートする特殊技能や何かの専門家も居る。

 俺は魔鍛冶含めた装備品の補修や製作の担当だったし、ガンボンは一応料理番だ」

 

 料理番、そして特に遠方への遠征時に多くの荷物を持って行き、野営や何やらを管理するのが、戦団内での俺の主な仕事だった。

 何せ単純に常人の三倍近くは荷を運べるしね。

 

「そうなの?」

「ウチで言うならマルクレイやブルみてーなもんか」

「そんなところだ。

 まあここの、“シャーイダールの探索者”の方は目的が遺跡探索に特化されているから役割分担も明確で、その分補助メンバーの方が多いが、疾風戦団は基本的には戦士兼何々、てなところかな。

 俺だって戦団の中じゃさほど強かぁねぇが、そこらの山賊野盗程度なら魔装具無しでもそうそう負けんぞ?」

「あぁ~~~? 本当かァ~~~? ちょォ~~~っとフカシこいてねぇかー?」

 イベンダーの言葉に、顎とんがりさんが大袈裟に返す。なんつーかこの人、すげー感情表現が豊かだなあ。

 

 で、当のイベンダーはというとニヤリと不敵な笑みを浮かべて、

「ふふん? 単純な腕力でなら、アダン、お前にも勝てるがなー?」

 と挑発。

「……ほぉ~~~う? そりゃちょっと聞き捨てならねえなー?」

 ……あ、何かすごい、ヤンキー同士のメンチの切り合いみたいになってる。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「もっ……むぅおっ……とっ……のぅぐあァッッ!!??」

 雄叫びだか悲鳴だか分からないような声を上げて、右手の甲を木箱の上に叩きつけられる。

 これでイベンダーは腕相撲で四勝〇敗。というか連戦連勝。

 まずアダンと呼ばれた顎とんがりさんが二連続で負けて、横でゴロゴロしてたスティッフィと言う名の長身色黒美人さんをけしかけるも普通に負け。アダンがもう一度やらせろと食ってかかるも……まあこの有り様。

 

「くそー、オッサン! やっぱ何か力を上げる魔装具か何か隠してねーか!?」

「もっとらん、もっとらん」

 実際、二人とも上半身の装備は外して胸板も腕もむき出し。

 そして二人ともかなり筋肉質だ。

 アダンと言う黒人の人は、服を着ているときの印象はひょろりとしてるけど、脱ぐと所謂細マッチョとでも言うか、絞り込まれた良い身体をしてる。ちょっと羨ましい。

 イベンダーの方は、如何にもドワーフらしいごつごつした労働者の身体。やや肉も付き腹も出てるので所謂ガチムチ? なレスラー体型で、俺に比べればまだ痩せ身。

 

 途中でやる気なさげに参戦したスティッフィさんも、何気にかなりの筋肉質。実際彼女の武器はドワーフ合金製の両手持ちの戦鎚で、確かにこれをぶん回してるんなら納得の腕力だ。ただ、腕相撲そのものにはまるでやる気を見せてなかった。

 

「くそー、おい、ニキ! お前だ! お前が勝利をつかめ!」

「はぁ? ヤだよ、やるかよ! アンタら脳筋ズと一緒にしないでよ!?」

「俺だってもうお断りだ、体力が保たんわ」

 荒く息を吐くイベンダーだが、多分嘘だ。見ているとイベンダーはまだまだ余力を残している。

 単純に腕力体力だけの話ではなく、腕相撲の最中にもテクニックを使い力をセーブしてた。

 

 つまり、例えば相手の手の握り方とか、なるべく自分の胸元に引きつけるようにするだとかの、「腕相撲のコツ」みたいなのを分かってる。

 腕相撲はこっちの世界でも前世でもさんざんやってて、こういうのも前世の柔道部で教わってたので見て分かる。

 

「だいたいさ、アダン。鍛冶師ってのはたいがい力持ちって相場が決まってんだろ?

 鍛冶師が一日にどんだけハンマー振るってると思ってんだよ」

「どんだけだよー?」

「知らねーよ」

「知らねーのかよ!?」

「知るわけねーだろ。アタシは鍛冶師じゃねーんだからよ。

 とにかく鍛冶師は力があって当たり前なんだから、腕相撲で勝とうなんてすンなっての」

 何だか漫才みたいなやりとりだが、ニキという女性は「とにかく鍛冶師は力持ち」というそれこそ力押しの理論でそう言い切った。

 

 まあ鍛冶師が技術職であると同時に肉体労働者で、何よりも体力勝負なのは間違いない。とは言えだからって必ずしも誰もが筋肉もりもりなマッチョってワケじゃ無い。

 イベンダーが腕相撲に勝ててたのは、さっきも言ったテクニックの使用と、イベンダー個人、そしてドワーフという種族の特性としての腕力から。アダンって人だってかなりのもんだよ。

 

「何ガチャガチャ騒いでんだよ、うるせーな」

 再び、外から入ってくるのはもう一人の“飛んで”来た黒人の人。

「おおー! ちょうど良いぜJB!

 上脱げ! 脱げ脱げ!」

「はぁ? 何だよお前、モテなさすぎて気が狂ったか?」

「ちっげーよ! 腕相撲だよ、腕相撲!

 お前ならオッサンに勝てる!」

「あぁ?」

 

 何か既に目的が変わって来てないかい?


「おーい、待て待て待てと言うとろーに。

 俺はもうやらんぞ! 五連戦もやってられるか。

 やるならそうさな……」

 そう顔をしかめて言い放つと、不意に俺へと顔を向け、

「この、ガンボンとやれ」

 と、矛先を変える。いや待って、やめてよ!?


 JB、と呼ばれた彼は、イベンダーと俺とアダンとの間に視線を行き来させ、

「いや、やんねーよ。勝てるワケねーだろ」

 と素っ気ない。

「はァ~~!? 待てコラJB! お前には男の意地はねーのか!?」

「いや、普通に勝てるワケねーっての。あいつの腕の太さ、俺より二回りくれーは太ェぞ?」

「かァ~~! やってみなきゃ分っかンねーだろォ!?

 お前ね、ダメだよそんなんじゃ!? 気合いが足りねーよ、気合いが!! 戦う前に負けること考えてどうする!?」

「いやだからなんで戦う必要があンだって?」

 

 んーむ。何だろ。

 このJBという人、最初のときはめちゃくちゃ怖い感じで睨んで来てたけど、なんて言うか基本的には落ち着いたところがあるというか、あんまり好戦的じゃないのかな? 

 まあ何にせよそれで一段落か……と思いきや。

 

「何ならアダンとJBの二人掛かりでやってみたらどうだ?

 それでもガンボンが勝つと思うがな」

 

 ……ち、ちょっと空気変わったんですけどその発言で!? 煽らないで!?

 

 ◆ ◆ ◆

 

 さすがに……、そう、さすがにね。「お前ら二人掛かりでも勝てやしない」とか言われたら、温厚かつ冷静なJBさんでも冷たい頭にカチンときちゃうでしょうよ、そりゃね。

 

「ぬぅあァァァ~~~~!!」

「くっ! ぐぉっ……とっ! とぁっ!!」

 

 だがしかし。だがしかし……!

 

「ムヌヌヌヌヌヌッッッッ!!」 

「お、おおお、おぉ~~~~~!!?? お、お!? おお!?」

 

 じわり、じわりと、確実着実に……その拳の位置は下がって行き……。

 

「おおおォォォーーー!!!」

 

 どん、と台に着くのは、アダンとJBの手。

 

「クソォ~~~! マジかよこの馬鹿力!!!」

「……しんどっ!!」

「はぁ~……イベンダーの言う通りだったねえ……」

 

 やられはせん、やられはせんのだよ……!

 ……いや、俺もけっこうしんどかったですよ!? いきなりの無茶ぶりだしっ!!??

 二人掛かりとなると握り方や引き込むことで相手の腕を伸ばし力を出させないというようなテクニックも使えない。

 なので単純な腕力勝負。それでもまあ、しんどいながらもなんとか勝てた。

 別に無理して勝たなくても良かったのかもしれないけど、アダンって人もかなりマジになってたので、半端に手を抜くのも何かなぁ~、という気がして、一応全力でいかせてもらった。

 ていうか……俺、すげえな。

 自分で思ってる以上に俺すげえな。

 

「おい、何だよ、その、戦団ってのはよ……。

 こんだけすげー奴が、戦士じゃ無くて、りょ、料理番、やってんの、か?」

「他の奴らはどんだけなんだよ?」

「いや、多分単純な腕力なら、ガンボンが戦団随一だろう。コイツに腕相撲で勝てそうな奴はおらん。

 ただ、技術や戦歴でなら、より戦士として上の奴らがゴロゴロ居るってだけだ」


 まあ、うん。そうだよね。

 

「それにコイツは性格が戦士向きじゃない。こう見えて根が優しいからな」

 

 え? 根が臆病、じゃなくて?

 

「……はっ! そりゃいいわ。本当に面白ぇ奴だな!」

「クソォ~、今度リベンジしてやるからな! だろ、JB!?」

「はァ!? イヤだよ、俺はもうやんねーよ!」

「やれよ! てか、やろうよ、ねぇ~、一緒にさァ~~」

「一人でやれよ!」

「バカやろう! 一人でなんて絶対勝てるワケねーだろ!?」

「威張るなよ!」

「よし、スティッフィ、ニキ! お前らも加われ! 四人だ! これなら勝てる!」

「だりぃわ」

 

 またもや漫才みたいな掛け合い。

 

「……あ~あ、本当バカ……」 

 呆れたようにそう呟くのはニキという女性。

 それから俺の方へ、

「アンタ、凄いね。あのバカのことは気にしないで良いから」

 と。その表情には、最初のときのような険しいものはない。

「……それと、悪かったよ。侮辱するみたいな事言ってサ」

 そう言われ、ん? 何のことだ? と少し考えてから、ああ、多分「本当に疾風戦団か疑わしい」みたいなことか、と気付き、正直別に何も気にはしてなかったので、ぶんぶんと首を振りつつ、「大丈夫。気にしない」と告げる。

 するとまたニキと言う女性はやや驚いたように少し目を見開いてから、すぐにすっとそれを細めて、

「……本当に、優しいんだね、アンタ」

 と微笑んだ。

 

 べ、別に、や、優しいとかと違うんだからっ!! いやマジで。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「おい、何を騒いでる? 準備は出来てるか?」

 入って来るのはこの探索者達のリーダーらしきハコブという名の怖い顔の人と、ローブの魔術師。

 騒いでたアダンを筆頭に、空気がさっと変わりそれぞれ居住まいを正す。

 

「よし、いいか。

 狩人達ともニコラウスとも話はつけた。あとあのドゥカムという研究者ともな。

 俺達が居ない間のリーダーはマーランだ。あの奥の盆地での注意事項はこいつの言った事を守るようにしておけ」

 

 ドゥカム、という名の出たときに、少しだけイベンダーがぴくりと反応したけど、何故かは分からない。

 これから、イベンダーと俺、そしてJBとハコブの4人は、ひとまずクトリア市街地の城壁内にあるという彼等のアジトへと移動する。

 モロシタテムという宿場まで行って一泊し、翌朝また移動。明日の午後から夕方には着く予定らしいけど……むむー。

 荷物、減らした方が良いかな? 少しばかり居残り組へと置いていこう。

 

 モロシタテムまではまず道無き道、荒れた渓谷のようなところを歩いていく。

 開けた土地へと出ても、所謂岩砂漠、礫砂漠とでも言うような荒野ばかりで、まばらな灌木やサボテンが散見されるくらい。

 そのサボテンのいくつかに赤くて丸い野球ボールくらいの実がついていて、JBがすっと飛んでそれを幾つか摘んで来ると、「食うか? 甘いぞ」と手渡してくれた。

 実の回りに少し固めのトゲがあり、それらをナイフでこそいで薄い皮ごとかぶりつく。食べると甘味はやや少ないが、爽やかなメロンに似た風味で瑞々しく、気持ちもリフレッシュ。

 小指の爪くらいの小さな種が幾つかあり、間違えて噛むとやや苦い。

「その種も滋養強壮の効果があり炒れば食材にも薬の材料にもなるんだが、正直旨く無いからな。そこらに吐いて捨てるといい」

 ぷぺぺ、と種を飛ばしながらイベンダー。

 俺も真似をして飛ばしていると、強面ハコブさんと目が合って、なな、何かしらん? とリトルびびっちゃう。


「ミスリル製か。けっこうな業物だな」

 見てたのは俺ではなく、サボテンフルーツのトゲをこそいでたミスリルダガーのようだ。

「ダークエルフに、もらった」

 しかもケルアディード郷の“元”氏族長ナナイさんお手製の、だ。あざーっす。

「何かを付呪されてるな」

「多分」

 色々言ってたけど、あんまり良く分からんかった。

 確か【不壊】か何かだった気がする。要するに壊れにくい。テフロン加工で傷つかない! みたいな?

 

「……ふ。手の内はそうそう簡単には明かさん、ということか。

 意外と用心深さも持っているようだな」

 独り言のようにそう言われてしまったけど、え、全然そんなんじゃないですよ?

 そう言うハコブさんも、何気にドワーフ合金製の魔装具や武器を結構持ってる。

 ドワーフ合金製のものは、黄金に似た輝きがあるのでゴージャス感が半端ない。

 ていうかイベンダー筆頭にだいたいみんなキンキラキンなのよね。傍目にはすげー成金集団みたい。

 俺も欲しい。ゴジャーースなやつ!

 

 

 モロシタテムという町は、最近魔人(ディモニウム)の襲撃を受けたとかで、真新しい墓穴が沢山掘られて、怪我をした人たちも大勢居た。

 一見すると野球少年みたいな子が出迎えに来て、ダミオンという名のひょろりとした彼はこの町出身の探索者見習いだそうだ。

 俺の姿を見て怪訝そうに色々聞いてきたところに、「あー、あとで諸々答えるから、取りあえず落ち着かせてくれ」と今夜の宿を。

 泊まるのはそのダミオン少年の実家だそうで、この町の町長の邸宅らしい。

 どうやらその先の襲撃の時にJBとイベンダー、あとスティッフィとが、魔人(ディモニウム)撃退の手助けをしたらしく、かなーりの歓迎ぶりだった。俺、何もやってない、というか部外者なんだけど、どうすべ? 良いの? 一緒にもてなされちゃって? 図々しくない?

 

 町長によるもてなしという形の晩餐の席で、その町長の弟でもあるイシドロと言う名のロケンローラーな感じ溢れる人に紹介される。

 何がロケンローラー感あるかというと、革ジャンぽいソフトレザーのジャケットにリーゼントっぽく油で撫でつけた髪型ね。

 紹介というか……んー、面通し? 顔見せ?

 何でもこの人はクトリア市街地の自警団の一員らしく、クトリアでは珍しいオークの俺が変に疑われないように……とのことらしい。

 

 食事内容はシンプルだけど量は結構多かった。インドのナンに似た薄焼きのパンのようなものにチーズ、何かの獣肉を細かくサイコロ状に切ったものを芋やその他の野菜とともに甘辛く煮込んだもの。川魚のスープは辛目の香辛料も入ってて、なんとなくエスニックな感じ。

 香辛料も甘味料も結構貴重らしいので、やはりこれはかなりのおもてなし料理らしい。

 夜になると砂漠地帯の気候らしくやや薄寒くなる。とは言え俺の皮下脂肪ことミートテック的にはむしろちょうど良いんだけどもね。

 

 翌朝、水浴びをして諸々準備を済ませて朝食を頂く。

 何もしてないのにもてなされっぱなしなのも申し訳無いので、“地の迷宮”で手に入れた食材を幾らかお返しする。魔獣肉は人間には食べにくいので、蜂蜜や干したフルーツなど。これはどちらも貴重なので、逆に向こうからさらに色々とお返しを貰ってしまう。

 荷物が……さらに増えた。

 

 ここからは徒歩だとさらにかかる。

 や、タカギさんも居るは居るけど、俺だけ騎乗してるってのも何じゃない?

 まあ荷物の半分はタカギさんに背負って貰ってるけどさ。

 

 この辺りの騎乗用動物はラクダが主で、荷運びには牛が使われるらしい。

 大角羊という牛くらいの羊っぽい家畜もいるけど、彼らは絶対に荷運びもしないし騎乗もさせてくれないそうだ。

 んで、こちらも牛くらいの大きさの地豚、という超珍しい動物を連れているのでやや注目される。

 特に子供らが遠巻きにしてて、恐る恐る近付こうかどうしようかと悩んでるようなので、手招きして呼び寄せ遊ばせてあげたりもした。

 

 出発の時刻になると、イシドロがラクダを一頭貸してくれると申し出てきた。

 元々彼とその仲間がクトリア城壁内からこちらに来るときに使っていたものなので、返すのは向こうで構わないとか。

 で、そうすると俺はタカギさん、ハコブがラクダ。そんでイベンダーとJBは、というと……飛ぶんだって!

 二人して空を飛べる魔装具を装備してるってんだからねー。すげーなあ。

 

 魔人(ディモニウム)討伐戦に参加した人たちの中では、他にボーマ城塞というところに住んでる人達と、イベンダー等と同じくクトリア城壁内に住んでる狩人たちが、共に帰路に就く。

 王国駐屯兵達はまだ色々忙しく、報酬やら何やらの正式な授与は後日行うそうだけど、まあその辺は俺にはあまり関係ない。討伐戦参加してないしね。

 ボーマ城塞の人達は、アデリアという名前の上から落ちてきてレイフと共に転移門を潜ってしまった女の子の仲間でもあるそうで、金髪碧眼のイケメンの人に色々詳細を聞かれたりもしたけど、内容的には既にイベンダー達に話したことと同じになる。

 

 そしてまた夕方頃にそのクトリアの都市へと辿り着いたんだけど、うーんむ。ここ、半分くらい廃虚のまんま。

 滅びの七日間とか、邪術士支配の時代とかで荒れ果てたという話は聞いてたけど、いやいやこりゃあひどい有り様だよ。

 んで、しかもイベンダーが今連んでいるシャーイダールの探索者達のアジトはというと、この都市の地下にある古代ドワーフ遺跡の上層階部分を補修改築した区画だそうだ。

 けっこう日陰者な感じ? 周りの雰囲気からしても、ぶっちゃけ明らかに貧民窟っぽいしなあ。

 

「とりあえず増築したばかりの、新入り見習い用の部屋の一つを使ってくれ。

 悪いがこの奥には一応以前からの面子以外基本立ち入り禁止ってことになってるから、特別扱いは出来ないんでな」

 と言われ、俺とタカギさんの新たな仮宿を得る。

 

 で、荷物を下ろし整理して一旦落ち着きはするものの、まあやることがない。

 いや、「やらなきゃいけないこと」はあるけど、どうすればそれが出来るのかが分からない。


 闇の森、叉は疾風戦団の本部へと連絡を取ること。これは必ずやらないとまずいんだけど、どーやってやりゃ良いのかなー。

 イベンダーに相談するしかないか。

 てか、何でタルボットはイベンダーって名乗ってるのよ。

 何もかもぼんやりよく分からないまま、その日は自分の荷物の中から適当な食材を使い夕飯を食べてからぐがーっと熟睡した。

 もう、ね。

 とりあえず、寝る!

 そうするしかありゃあしないわ、もう。



炎尾「とりあえず、寝る!」

大哲「とりあえず、寝る!!??」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ