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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-81.J.B.(55)Bow Down.(ひれ伏せよ)


 

 

「お、おいハコブそいつは……」

 流石にマズいだろうよ、と周囲がざわつく。

 俺達は王国軍の軍属じゃないし、クークを捕縛したのは俺たち自身。

 確かに任務として魔人(ディモニウム)勢力のボスたちの討伐、捕縛を受けはしたが、慣例としては捕虜の処遇は捕らえた俺たちの権限でどうとも出来る。極端な話「捕まえたけど逃げられた」とそらっとぼけて誤魔化すことも可能だ。

 

「……ちょ、待ってえや!? そんなん、こいつを見逃すなんてあり得んて!?」

 アデリアにとってクークは文字通りに親の仇だ。

「そうだろ、流石にマジあり得ねーぜハコブ」

 不信、反論にハコブはまるで顔色も変えず、

「まずアデリア、お前はこの討伐に参加してない。こいつを捕らえたのは俺たちだ。

 命を懸けてないお前には発言権はない」

 残酷な理屈だが、理屈は理屈だ。

 ハコブはクークに背を向けたまま、顔の正面に人差し指を立てて言葉を続ける。

「だ、だがよ、ハコブ。アデリアはもう俺たちの仲間だろ!?

 仲間の家族の仇なら、俺たちにとっても仇じゃねえのかよ?」

 握りしめた拳を突き上げるかのように動かしアダンが反論。

「まだ見習いだ。仲間じゃない」

 それに返すハコブの声は、あくまで冷淡。

 

「おいテメエ、そりゃ本気で言ってンのかよ、ええ……?」

 それまで黙っていたジャンヌが、目で呪い殺そうかッてな勢いで睨みつつそう食ってかかる。

「お前もだ。この件について話す必要はない」

「ンだとコラ!?」

 飛びかかりかねない勢いを俺とイベンダーのオッサンとで押し止め宥めつつ、半ば羽交い締めにするかのようにする。

「落ち着け、ちょっと落ち着け、な、ジャンヌ!」

「おうよおうよ。とにかく、な」

 勿論そんなんで落ち着きゃあしねえ。

「よし、一旦離れよう、一旦。な?

 アダン! アデリア連れてこい!」

「おう。アデリアちゃん、ちょっとあっちに行こう、な? な?」

 言いつつ伸ばされるアダンの手を、アデリアはバシッと払いのけ、

「うっさい、アホー! 触んな!!」

 と怒鳴りつけて走り去る。

「あー、俺が追う! 三人でついて来てくれ!」

 “シジュメルの翼”で飛び上がり追い掛ける俺の後ろから、ひゃひゃひゃとさも愉快げに笑うクークの声が聞こえる。

「良いね、良いね! あンた、分かってるじゃねえの!

 仇討ちなんざくだらねーぜ! デキる男ってのは過去になんざこだわらねえのよ!

 未来の利益を最優先にすんのさ!」

 全く……心底イラつく野郎だぜ。

 

 ■ □ ■

 

 俺たちはハコブ達と離れて三人でなんとかアデリアとジャンヌを宥めて説明する。

 この二人は新入りだ。説明されても納得いかない気持ちもあるだろうことは分かる。

 まあそれを言うとイベンダーのオッサンもそこそこの新入りで、この手の話もまだ通じちゃ居ないのだが、その辺は飲み込みが早くて助かるぜ。

 

 とにかく話をして約束をする。

 奴の前では感情を表に出さないように、そして勝手に手を出したり独断で動いたりもしないように、とも。

 

 十分に落ち着いたと思えてから元の場所へと戻ると、クークは腰と両手を縛られたまま立たされ、全員すぐに移動できるよう準備をさせられていた。

「ちゃんと説明出来たか?」

 ハコブの問いかけに、俺もアダンも無言で頷く。

 言葉は無用。ただハコブの判断に従うだけ。こと、この件に関してはな。

 それに、そもそも俺たちは恐らく誰もクークの事を信用してねえ。

 

 

 他の連中になるべく見られないよう移動をする。

 城塞の深部はほとんど光も無いため、薄暗い、または真っ暗な中をマーランによる【灯明】と、オッサンの魔導具の光を頼りに進んでいく。

 右へ左へ、下に上へとぐるぐる動き、小部屋につくと隠し戸から一枚の図面。

 

「こいつは“黄金頭”アウレウムが子飼いの手下どもに作らせていたこの城塞の見取り図の一部だ。

 まだ完成しちゃいねえがな」

 その羊皮紙を受け取り、ハコブはマーランと話し合う。

「どうだ?」

「うん……そうだね、ここが……こうで、重なって……。ここからここの区画は今まで通った道と合ってるね。

 けどこの記号…印? は、何だろう……」

 マーランは方向感覚が優れているので、地図や地形を頭の中で再構成して分析するのが得意だ。

 観察力の高いダフネと共に、新たな区画の探索では特に重要な役割を担う。

 

「これらの記号は?」

 ハコブに改めて聞かれるクークは、

「は! それを今教えちゃあ取り引きになんねえ。

 お前達がちゃんと俺を解放してくれるときに、その記号の意味が書かれたメモの在り方を教えるぜ。

 それと、他の地図の場所とかもな」

 いちいち小賢しい奴だ。まあそのくらいは当然かもしんねえけどな。

 

「どうだかな。

 この図面が今まで通った場所と符合してても、未発掘部分まで正しいかは分からん」

「疑り深ぇなあ。でもま、そらそうだ。

 俺もハナからこの地図だけで取り引きしようとは思ってねえよ。その未探索部分の一つに案内するぜ。

 そこには、多分何らかの隠し区画への仕掛けがあるのは間違いねえんだけどよ。それを解く方法が俺たちにゃあさっぱり分からなくて放置されていたのよ」

 またもやふてぶてしくにやけて笑う。ひきつり気味なのは不安からか腹の痛みからか。

 

 結局クークの案内でさらに進んでいく。

 紐を握るスティッフィは既にやや退屈気味で、クロスボウを構えて狙いをつけてるニキも集中力が切れかけた疲れた顔をしてる。

 何せ上がったと思えば下がり、そこからぐるぐる回ってはまた昇り、の道程だ。

「おいてめー、わざと遠回りしてんじゃねーだろうな?」

 アダンが苛立たしげに毒づくと、

「馬鹿言う……な。俺の方が疲れてるし……腹も痛ェん……だよ……!

 仕方ねえ……だろッ! 俺……は、このルートしか……知らねえんだ。この城塞の奥の方で……通ったことのない道を進む気は……ねえんだ……よッ!」

 ぜいぜいと喘ぎながら階段を上がるクークは、見るからに飽食過ぎの肥満体だ。確かに疲労度も奴の方が上。怪我の状態も俺たちよりひどい。


 ようやくたどり着いたのはかなり高い場所だろうちょっとした広間。

 装飾が施された壁にドーム状の天井。円形のホールの直径は目算で 1アクト(30メートル)ぐれぇか。

 その右側の壁に像の彫れた石柱があり、広間内の床何カ所かにも同様の、やや低めの彫像の乗った台座。それらがまああからさまに「ここに仕掛けがありますよ」とでも言わんばかりだ。

 そしてその床はと言えば 1ペスタ半(約50センチ)四方くらいの正方形の石畳が敷かれていて、それぞれに違う意匠のレリーフが彫られている。

 

「あー……こりゃあ、“ある”な」

「“ある”なー。間違いなく“ある”わ」

「分かり易いくらいに“ある”」

「逆にここまでお膳立てして何もない、とかだったらすげぇわな」

 

 罠、仕掛け、隠された区画への入り口。それらのある典型的な場所だ。

 

「へっ、さすが古代ドワーフ遺跡探索の専門家とか言うだけあって、見てすぐ分かるもんなんだな。

 まあ見ての通りだけどよ。ここの仕掛けをどうすりゃ良いのかは俺達にも“黄金頭”アウレウムにも分からなかった」

 相変わらずの薄ら笑いを浮かべつつのクーク。

 しかしここまでは確かに奴は、最初に言った通りにこちらへ有益な情報を提供している。

「なあ、これで俺のネタは信用出来るッて分かったろ?」

「……確かにな。

 ま、だが取りあえず今は、あそこの像のある石柱にまで移動してみろ」

 ハコブが右の壁を指し示してそう指示する。

「お、おい、そこまでは取り引きに入ってねえだろ?」

「だがお前はこの床の罠に関しては知ってるな?」

 罠について知らせず、そこにはまればしめたもの……と、まあその程度の考えでは俺達をハメるには程遠い。

 

「糞……分かったよ!」

 ふてくされつつも開き直り、縄につながれたままクークが意匠の刻まれたタイルの床を進む。

 明らかに踏む順番を知っている動き。前後左右に動きながら、一本の石柱の前へと出る。

「……成る程、四元素か」

「循環だね。水、火、土、風の順番」

 床タイルの意匠は四種類で、古代ドワーフ遺跡によくある四元素をあらわすものだ。

 決められた順番で踏むことで、罠を回避できるという単純なもののようだ。

 俺たちもまた順番通りに進み、柱の前へ。

 その柱にもデフォルメされたドワーフの胸像が彫り込まれていて、その下のところに四段分横に回せる場所がある。

「言っとくがここから先は本当に分かんねえぞ。

 ここまでの踏んで良い順番見つけるまでも、相当奴隷共を潰しちまってるらしいしな」

 ……なるほど、罠や仕掛けを確認させるのに、捕まえてきた捕虜……奴隷を使ってたってわけか。

「試したのか?」

「いや、聞いた話じゃそこのいかにも動かせそうなところも、実際には全く動かせなかったらしいぜ」

 動かせそうな場所にはこれまた数種類の意匠が彫り込まれていて、言わば数字を回して合わせるダイヤル式鍵のように、絵合わせで作動する仕掛けなのだろうと思えるが……。

 

「うむ、こりゃ絵合わせじゃないな」

 イベンダーのオッサンがそうしれっと事も無げに言う。

「え? な、なんで?」

「どう見ても絵合わせ鍵じゃないのサ?」

 マーランとニキがそれぞれに反論するが、俺もそう思う。

「何か根拠はあるのか?」

 ハコブにそう聞かれ、オッサンは、

「これは“仕掛け”に見せかけた“表示”だな。

 何かの状態が変化することで表示される意匠に変化が出る。

 現在は、上から二段分の水と火が、下二つの土、風と状態が異なっていることを現している」

 言われて見てみると、確かに上の二つは水と火の意匠がきちんと真ん中に揃って位置しているが、下の二つはズレている。

「つまり、ここの仕掛けで何かの装置を動かすんじゃなく、どこかの仕掛けを動かしたら、ここの表示が変わる……ということか?」

 ふーむ、とオッサンはやや考えてから、

「確信はないが、多分そんなところじゃないか?」

 しかしまあだとしたら、ありもしない仕掛けを開けるために殺されただろう奴隷達には浮かばれない話だ。

 と、その時だ。

 

「熱ッ……!!」

 アダンの悲鳴と同時に、凄まじい熱気。

 熱と光に照らされる室内には、部屋中の床や柱から縦横に噴き出す炎。

「フヘハハハ! 残念だったな糞共が!」

 その炎の向こう側で高笑いしつつ叫ぶクーク。奴は俺たちの目を柱のしかけに向けさせて隙を作り、こっそり移動してわざと炎の噴き出す罠を作動させた。

「アデリア!?」

 しかも身体の前に抱えているのはアデリアで、これまた文字通りの“人間の盾(ヒューマンシールド) ”にしてやがる。

「は、離しいこの……デブ!! ハゲ!! アホウ!!」

 罵りの内容は全く緊張感が無いが、状況は洒落にならねえ。

 

「俺はここに来てこの罠を作動させたかったんだよ!

 お前達全員を黒焦げに出来るだけの炎を吹き出してくれる、この罠をな!」

 魔力による炎なら何でも操れるというクーク。他者の術によるものも、魔獣によるものも、魔法の仕掛罠によるものも。

「食らえ!」

 内なる魔力を循環させ、周りの炎へと繋げる。そして自分の魔力と炎の魔力を一体化させ、嵐のような炎の渦を作り出して俺達へとぶつける───つもりだったんだろうな。

 

「───な、なん……で、だ?

 おい、ふざけんな!? 動け、動けよ!?」

 焦りながら何度も動け動けと叫んでいるが、罠の炎は噴き出す勢いは止まらないものの、奴の意のままに動くという気配はまるでない。

 当然だ。奴を会話が出来る程度に治療する際に、マーランは“印”をつけている。そしてその“印”には、一定の短い期間、付けられた者の魔力の循環を阻害する……つまり魔術の行使をさせない効果がある。

 この“印”は、特定の儀式が必要なため、戦闘中に相手に付けるなんて真似は出来ないが、十分な時間と術具、触媒等があれば無力化した相手に施すのは難しく無い。

 クークが真面目に取り引きをして解放されようと考えてないのは明白で、だからハコブは敢えて「乗った“ふり”」をした。


 そしてこれらは俺たち全員分かってここまで来ている。

 ハコブが話をしながら「人差し指を顔の前に立てる」ときは、「嘘をつくから巧く合わせろ」のサイン。返すアダンが握った拳を突き上げるように動かしたのは「よっしゃ分かったぜ!」のサイン。

 古株の俺たちはその時点で「クークの提案に乗ったふり」をしていたワケだが、アデリアとジャンヌはそんなこと知る由もない。

 なので二人をそこから一旦離して懇切丁寧に「説明」した。

 

「糞……どーなってやがんだ!?」

 混乱するクークだが、奴が基本をちゃんと学んだ魔術師なら、自分に魔力循環阻害の“印”を施されている可能性も考えついただろうし、それを確認する事も出来ただろう。けど奴は無理やり与えられ魔術を使えるだけで、魔術理論や知識に関しては素人同然。“印”の存在もその可能性も思い付かない。

 

「てめーら、寄るんじゃねえぞ、こ、こっちには……」

 人質がいる。そうアデリアを引き寄せながら再びがなり立てたクークの言葉は、言いかけて途中で途切れる。

 即断即決の行動力。縦横に噴き出している炎の隙間を飛び越えて、その顔面に蹴りを食らわしたのは小柄なジャンヌだった。

 抱えていたアデリアから手が放れる。それをすかさず抱き留めて、勢いのまま背中からまた炎の隙間を潜り抜け別の柱の方へと突っ込みその場を離脱。幾分火に焼かれはしたものの、一瞬のことで大きな火傷はない。

 

 蹴られた勢いでよろけるクークへと、俺とオッサンの魔法に、ニキのボルトが追い討ちをかける。

 悲鳴を上げてさらに倒れ込んだ先は───奴自身の作動させた炎の罠の真っ只中。

「ひぃ! ひぃや、ぢぃっ!! 熱ィッ!! 燃え、燃えるッ!! たす、助け……!!!」

 叫びながらものたうち回り、必死で火を消そうともがくものの、転がる先にも別の火が噴き出ている。

 元々話して歩ける程度にしか回復させられていなかったクークは、程なくして転がることも出来なくなり、肉の焼ける嫌な臭いだけを残して絶命した。

 


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