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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-70.J.B.(45)What Would U Do?(UはDoする?)


 

「だーからっさー。

 アタシがだーーーん! っつって、ドジャーン! だろ?

 したら奴はおッ死ンでてよー。んで? あー……おしまい?」

 スティッフィによる三回目のその説明に、20代のわりに老け気味の髭面をますます老けさせながら、“悪たれ”部隊隊長にして、今回の魔人(ディモニウム)討伐軍の指揮官であるニコラウス・コンティーニが諦めたように手を振る。

「分かった、もういい。

 次、そっちのドワーフ」

 

 モロシタテムの町の外、南のちょっとした高台に設営された野営地の真ん中にある作戦本部の天幕の中、集められたのは俺、イベンダーのオッサンにスティッフィの三人と、マヌサアルバ会正会員の中の「入札のときにきた奴」……だと思われる一人。

 ある種の奇跡的に行われた“鉄塊の”ネフィル討伐の仔細についての報告……というか事情聴取の様なもので、横に並ばさせられた俺達と、両サイドにズラリ屈強な兵達の真ん中には、広げた折りたたみ椅子に座ったニコラウスと切り落とされたネフィルの首。

 指紋だのDNA鑑定だのありゃしないこの世界では、本人かどうかを確認するのに顔を知る誰かの証言が必要なためなンだが、正直見てて気持ちの良いもんじゃあねェな。

 

「うーんむ、だがまあ、俺の方からもそんなに言える事はないんだわな。

 俺がスティッフィを背負って町に着いた頃には、あらかた趨勢は決まっちまってた。

 上から見てて……そうだな、まず町全体にうっすらとある種の結界のような魔力に覆われて居て、その中で大きな魔力の働きは三つだけだった。

 それ程大きくないものも散発的に五、六ヶ所で、それももう戦闘中のような激しさは収まってた。

 三つの大きな魔力は、一つは負傷しているかに小さく揺れて、二つが激しく動き回っていた。

 で、多分そこに強い魔人(ディモニウム)が居るんだろう……と行ってみたら、まあJBとソイツだったわけだ」

 

 あらましとしてイベンダーのオッサンが知ってることはその程度だ。

 しかしそれより、オッサンにアルバと同じ様な「魔力の反応を見る」能力があるとは思わなかった……と、後で聞くとこれも魔導具によるものらしい。

 そういや最初にマヌサアルバ会の連中と会ったときも、変な手鏡っぽいものを見ながら、「アルバの膨大な魔力反応」とやらを見つけてカマを掛けてたっけか。アレが言わば“魔力探知レーダー”みてーなもんなのかな?

 何にせよ、二人ともニコラウスの求めてる情報は持ってない。

 当然その矛先は俺とマヌサアルバ会の正会員に向けられる。

 

「殆どはマヌサアルバ会の魔術と策だよ。俺はその策の上に乗っかって飛び回っていただけだ」

 俺が話せる範囲での情報をまとめると、結局はそうなる。

 アルバとネフィルの関係性、そして死霊術に関しては「内密に」との約束があるが、けど死霊術のことはどう誤魔化そうと無理じゃねえのか?

 

「全ては我らの幻術によるものです」

 しかし正会員の奴はニコラウスに問われると、しれっとそう答えて抜けた。

「幻術? 死して尚戦う聖戦士とやら全てがか?」

「ええ、その通りでございます」

 

 ぬけぬけと、と言うか、いけしゃあしゃあと、とでも言うか……まあたいしたもんだ。

「まず町全体を大きな結界で囲みました。

 それにより幻術の効果を最大化。ネフィルの手下達に【恐怖】の効果を与え、『自分たちの殺した死者が襲ってくる』という幻覚を見せ、また町の住人達にはより神々しくそれを見せまして、士気を高めます。

 士気が完全に逆転した事と、会頭とJB殿とでネフィルを他の者達と分断し、元々町の出身であるイシドロ殿が町の人々を率いた結果、ネフィルの手下達は完全に瓦解しました」

 

 右の膝の上に肘を突き、右手で顎を支えるような姿勢。その右手の中指でトントントン、と頬を軽く叩く。

 鋭い眼光。こちらを見定めるかのように眉根を寄せてニコラウスはフン、と息を吐いて続ける。

 

「……良かろう。

 で、その大規模な幻術を利用した策はまた使えるのか?」

「半年ほどお待ちいただければ」

「長い」

「ええ、左様で」

 

 こりゃまた、お互いたいしたもんだ。

 死霊術は王国では禁呪、邪術の扱いだ。いくらクトリアでの魔人(ディモニウム)討伐とはいえ、王国軍属のニコラウスが指揮するそれで大々的に使われたとなれば問題になる。だから「公式にはそんな事実は無かった」と、お互い素知らぬ顔で言ってのけたわけだ。

 そしてあの大規模な死霊術は次の討伐戦では使えない。少なくとも半年は……と、まあそう主張している。

 実際あんな規模の……町全体を範囲に収め、百体かそこらの死体を動かすような術がそうそうしょっちゅう使えたらたまったもんじゃない。

 それに、昨夜アルバがネフィルに対して使い、“反射の守り”とやらに跳ね返された術のせいでアルバはかなりの魔力を失ったらしいし、その後深手も負っている。

 このまま次の討伐作戦に参加する……ってワケにもいかないだろう。

 

「ふゥ~~~……む……」

 今度はややさっきよりも深い溜息。

 まあ、あてにはしていたんだろう。マヌサアルバ会という新たな戦力を。そのあてが見事にはずれたワケだ。

 

「で、お前達は結局参戦するつもりなのか?

 もしそうなら、俺の指揮下に入って貰うがな」

「今回に限る一時的同盟関係としてならば、貴公の指示で動くのもやぶさかではありません。

 ただ……我らの力は強力ですが、使いどころによりますのでご注意を」

 

 マヌサアルバ会の正式な参戦はかなり「デカい」。

 連中の凄さは、昨夜側で見ていた俺が良く分かっている。

 貴族街三大ファミリーの中で最も小勢力ながら、最も恐ろしいと囁かれるだけはある。

 闇に紛れ幻惑と詐術を巧みに使い密やかに敵を仕留める。戦場での戦働きとは真逆だが、派手な攻撃魔法をバンバンぶちかますよーな奴らより敵に回したくない。

 そして連中自身の言うとおり、確かに使いどころは慎重にしなきゃなんねえ力だわな。

 

 相変わらず頬を軽く指で叩きつつ、ニコラウスはしかめ面をしている。元々傷跡もある凶相が益々の悪党面だ。

 ぶつぶつと小さく何かを呟いているが、思考に集中し過ぎて声が漏れ出しているのだろう。

 しばらくしてから再び、なんとも厭そうな表情で顔をあげると、これまた地の底から響くかのような声で吐き出して来る。

 

「まァ~~~~~~……お前らの危惧してるだろうことくらい分かる。

 俺がクトリア人達を捨て駒にしてぶつけて、最後に弱り切った魔人(ディモニウム)を自前の部隊で討ち果たして手柄を独り占めにする……と。

 まあそんなのを予想してるんだろう?」

 

 いきなりど真ん中から切り込んで来るニコラウス。

 いや、まあ確かにその通りだ。というか今さっきここに来る前に話していたことだ。

 ただ一人スティッフィだけは「何の話してっか分っかンねーけど、さっさと帰りてーなー」という面をしてるが、俺もオッサンも、そしてマヌサアルバ会の正会員も、分かっちゃいるけど触れられないと避けていた話題、疑念。

 

「確かにそいつは“いつもの帝国流”だ。属国の兵や傭兵、現地人を盾にして消耗させ、最後に帝国正規兵や市民兵の部隊が頂く。

 帝国兵の被害が少なければ少ないほど良い。ただ勝つのではなく、帝国兵の損失を減らす事こそ名将の条件。そうやって、かつての帝国は版図を広げてきた。

 ───ま、それを否定する気はない。被害を減らすのは重要なことだ。被害の過多は、場合によっちゃあ勝ち負けよりも政局的問題にもなる。

 そのことは、今の王国軍でもそう大差はない」


 “闇の主討伐戦”の司令官を任じられ、多大な被害をもたらしたとされるニコラウスの父、リッカルド将軍。そのことが意識に上っての言葉なのかどうか。

 

「だがな。今回は違う。いや、被害を度外視するってな話しじゃない。

 今回の討伐戦で“盾”になるのはお前らじゃなく、この俺だ」

 

 は? どういうこった?

 と、そんな内心が言葉にせずとも顔に出ていたんだろうな。

 又も厭そうに顔をしかめて、

 

「連中には、全力で俺の首を狙いに来て貰う。

 今、連中は“黄金頭”アウレウムの元に集結しつつある。ネフィルやクーク共が必死で新しい手勢を集めてたのもそのためだ。

 今までそれなりの均衡と距離を保っていた連中が、結集してさらにデカい勢力になろうとしている」

 捕虜にした連中や脱走囚人等からの情報を総合した結果、一連の動きはこの流れにあるという。

 そこまでしてボーマ城塞を手に入れたい事情は分からねえが、奴らにはそうするだけの理由がある。

 ま、どっちが先なのか、てのもあるけどな。

 ボーマ城塞を手に入れるための結集なのか、結集して勢力拡大をするのに今のままじゃアジトが手狭なのでボーマ城塞を確保したいのか。

 

「半壊した廃虚とは言え、連中が拠点にしているのは古代ドワーフ遺跡を改修した元城塞。完全に守りに徹しきられたら面倒だ。

 だから、八分の力を五分、三分に見せつつ膠着状態を作り、アジトに籠もらせず打って出させてこちらに引き込む。

 そのための釣り餌として最適なのは、総司令官たるこの俺だ。

 そして───お前達……“シャーイダールの探索者”と“マヌサアルバ会”を主軸とした潜入部隊に、奴らを腹の内側からズタズタに引き裂いて貰い───」

 ここで、両手の平を合わせるようにしてバン、と打ち合わせて、

「内と外、両側から挟んで叩き潰す」

 

 再び、俺たちの顔を見回して一瞥。やはりその顔に出ていただろうことを読み取ったかに吐き捨てて、

 

「しょうがないだろう。

 どう計算してもこのやり方が一番勝率が高い。

 あ~~~~~、糞! 面倒な戦だ!」


 ニコラウスは再び苛立たしげに頭を掻いた。

 




 やや短め。

 

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