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遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~  作者: ヘボラヤーナ・キョリンスキー
第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
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2-62.J.B.(37)Midnight Ride from Dark Carnival.(真夜中を乗りこなせ/闇の謝肉祭)



 かつての東の玄関口で、今では王国駐屯軍巡回兵の駐留地でもあるが、それ以外には泊まる者もほとんど居ないため衰退しつつある宿場町モロシタテム。

 東方からの僅かな旅人や隊商の宿泊、そしてちょっとした娯楽の提供。あとは僅かな農作物の生産でなんとか保っている。

 

 俺達のアジトの改修工事を依頼しているクルス家の本拠地であり、今町を纏めているのもクルス本家の当主ラミン・クルス。

 そのモロシタテムまでクトリア市街地からは早足に歩いても1日は必要。しかも今は夜になり始め。一晩中このクトリア近郊の不毛の荒野(ウエイストランド)を走り続けることになる。

 野獣魔獣野盗山賊にいつ襲われるかも分からなければ、道無き荒野を休まず行くとなれば半ば自殺行為。暗闇はたいていの人間には幸運をもたらさないと相場は決まっている。

 

 ガエル達を無理に押しとどめて話を聞くと、夕方過ぎにモロシタテムへの襲撃の一報が入り、それを聞いたガエル、ダミオンの叔父であり、元探索者で現在クトリア旧商業地区の自警団、王の守護者ガーディアンズ・オブ・キングスの一員であるイシドロが、まず十数人の仲間と共にラクダで走り去った。

 やや遅れてそれを知ったガエル達クルス家の連中が慌てて装備をかき集めてその後を追おうとし、その途上で廃屋周りに屯していた俺達とバッティング。

 マヌサアルバ会は会頭がここに居ることで神経質になっているし、ガエル達は実家、故郷の危機と聞いて気が荒れている。だもんで……さっきの有様だ。

 

「オッサン、行けるか?」

 俺はイベンダーのオッサンに聞く。昼間はニコラウスの前では失敗したが、調整とやらが上手く出来りゃあ俺と同程度には飛べるはず。

「うーーーむ……ちと時間が欲しいな」

「おいJB、まさか一人で行くつもりか?」

 ハコブが眉根にしわを寄せて聞いてくる。

「別に俺一人で戦おうってなワケじゃねえさ。だが奴らが動いたとなりゃ、今その動きを追うのは必要だろ?」

 歩いて1日、ラクダで急いでも2刻ほど。

 だが俺の“シジュメルの翼”で飛んで行くなら、おそらく1刻するかしないか程度で着くハズだ。

 夜で視界は効かなくても、上空から気流の動きや音を感じ取れば敵の戦力状況配置なんかは調べられる。

 奴らの動向を最速で探れるのは、今ここでは俺だけだ。

 

「ハコブ、使いを出すか直接行くか、ニコラウス隊長とトムヨイ達にこの件を伝えて、もし動けるなら動いてくれ。

 俺は先行して偵察する。オッサンは調整が済んだら……」

「おうおう、後を追ってやるわ」

「ちょ、ちょ、ちょい待ち!? まさかこのまま魔人(ディモニウム)どもと決戦かよ!?」

 慌ててアダンが声を上げる。

「知るか。分からん。どっちにせよ最終的に決めるのはニコラウスだろ。

 てーかおまえ……ビビったか?」

「ばっ……てめえ俺がビビるかっつーの!?

 ただ、ほら、アレだよ。心の準備とか色々とあるだろうよ!?」

「処女と童貞の初夜かよ」

「はァ!? 何だよそりゃ!? どどど童貞ちゃうわ!」

 

 あまりの急展開で誰も頭がついてけてねえ。

 とあえずアダンをからかって少し調子を戻す。

 

「ガエル、ダミオン。

 今、王国駐屯軍と俺達とで、共同での魔人(ディモニウム)討伐隊が動き出してる。

 確実を狙うならおまえ等クルス家もそれに合わせろ。

 十数人で夜中中走ってたどり着いて、それでなんとかなる相手とはお前らだって思っちゃいねえだろ?」

 例えばの話、もし相手がクーク達の一派なら、おそらく間違いなくこいつら全員丸焼けだ。特にガエルの奴なんか、手先は器用だが体を動かすセンスはほぼゼロ。アデリア並みに動けないし戦力にならねえ。

 

 そう言われ、ガエル達は口惜しげに唇をかむ。

 理屈じゃ俺が正しいことは十分に分かってる。だが気持ちじゃそれに納得なんか出来ない。

 

「よし、それで行こう。

 ニキ、アダン、ダミオン。先にマクオラン遺跡駐屯基地に走ってこの件を伝えてくれ」

 状況をまとめて、ハコブが改めて指示を出す。

「ガエル。お前達全員でも良いし、誰か数人でも良いが、詳しく情報を伝えられる者を他に同行させてくれないか?」

「……分かった、俺達全員で行く」

「スティッフィ、マーラン。アジトに戻って準備だ。万が一このまま決戦になっても良いようにな。

 俺は一旦ティエジの所に寄って狩人達に今の話を伝えてから戻る」

「うえ~、たっりィな~。まー、しゃーねえかー」

 スティッフィのこう言うときの緊張感の無さはある意味筋金入りだ。

 

 さて、こーなりゃグズグズしてらんねえ。

「行きすがらイシドロ達見かけたら、無理して突っ込まねえよう話とくわ。

 とにかく俺は行くぜ……」

 

 そう言って入れ墨の魔力を“シジュメルの翼”へと通して飛び立とうとしたそのとき───。

 

「わ、わ……わた、私も、行き……ます」

 

 俺のチェニックの裾を遠慮がちに引っ張りながら、マヌサアルバ会会頭がそう言って来た。

 

 ◆ ◇ ◆

 

 月を背にして夜空を行く。

 二つの月……今の時期は所謂ごく普通の、黄金の月と、夜空を黒く切り抜いたかのような黒の月。この二つが夜空に浮かび支配している。

 不毛の荒野(ウエイストランド)の岩場、サボテン、影に潜む魔獣や魔虫、朽ち果てた廃屋を下に見て、それらを飛び越えて南東へと飛び続ける。

 

「あ、あの、すみません。わたし、ひ、人見知りが……強くて……」

 

 地表には灯りと呼べるものは殆ど無い。

 旧商業地区ですら、この時間になっても灯りがあるのはごく一部。貴族街は夜中にも魔法の灯りが灯っているが、この世界でそんな場所はめったに無いだろう。

 

「あの、わたし、闇属性魔法が……ちょっと、得意……なので、結構お役に立つる……てる、と、思いますから……」

 

 まるで漆黒の海の上を泳ぐかのようだ。

 その闇の中を、俺は鈍く金色に光る翼を広げ風属性魔法で飛び続ける。

 

「日も……暮れて来て、黒の月も満ちてきておる……。

 これからはさらに我が闇属性の魔力が強まるしな……。恐れるな南方人(ラハイシュ)の若者よ、何も心配することなど無いぞ」

 

 俺は長時間にはなるものの、例のマヌサアルバ会会頭を後ろから抱えるようにしている。

 絶対について行くと言い張るのを断るのも面倒だし、少なくとも魔力についてはハコブやイベンダーのオッサンの保証付き。

 身体がアデリア達より小さいし、“シジュメルの翼”の効果であまり重さも感じない……が。

 

「フフフ……心地良い闇夜の冷気が我が魂を慰撫してくれる……。今宵は特に闇の力を発揮できよう……」

 

「……てか誰だ、お前!?」

「ふむ、そう言えば名乗りがまだだったか。

 我が名はアルバ。マヌサアルバ会の会頭にして、闇夜を統べる女王……」

「そこじゃねえし!?

 何だその痛えゴス女みてえなノリ!?」

「存外に失礼な奴だな」

 

 いや、おかしいだろ。さっきまでの人見知りのおどおどキャラはどこ行ったよ!?

 ノリも勿論おかしいが、何より体型が既に違ってきてる。

 子供としか思えなかった小さな身体は、既にやや小柄な成人女性並。全体のボリューム感も変わり、後ろから抱えているこの体勢がかなり傍目にヤバい。

 

「ちょっと待った。一旦降りる。状況整理だ」

 俺はアルバを抱えたまま手頃な岩山の上に降り立つ。

 平らなてっぺんに広めな直径。ぱっと見は小型のエアーズロックだ。

 

「……こんなところで二人きりとは、貴様何を考えておる?」

 妙なしなを作り、両手で胸元を強調でもするかに堂々たる腕組み。お前こそ何考えてる。

「お前が何者なのか考えてるよ!

 いや、とにかく何で態度が全然変わったよ? さっきまでのは演技か?

 それに絶対お前、体型変わってんだろ?」

 距離を置きつつ、“シジュメルの翼”の魔力も切らず、いつでも逃げ出せるようにしたまま距離を置き問い詰める。

 

「さっきも言っただろう?

 私は夜が深まれば深まるほど、闇属性の魔力が強くなりその力が増していくのだ」

 宵の口だった先程の“密会”からすれば、今は既に完全な夜。

 理屈としちゃあそうなのか、とは思うが、だからってキャラも体型も変わりすぎだ。

 いや、キャラに関しては……まあそういう奴も居るだろう。うん、居る。夜になるとハイになったりするような奴な。

 が、体型だ。

 ぶかぶかだった白の貫頭衣は、今はその身体のラインをくっきりと浮き上がらせている。特に胸と尻が分かり易いほどにその存在を主張している。

 顔立ちそのものは変わっちゃいない……と思う。

 ただ、伏し目がちで周りを伺うように俯いてたのが、今や睥睨するかに堂々としてる。

 元より、つり目で目鼻立ちはぱっちり、やや厚みのある唇に長い睫毛、と、改めて見れば派手な造形。態度が変わるだけで全く印象も違ってくる。

 

「いやいやいや……にしたって別人すぎるだろうよ……?」

 それに、魔力が増幅して体型が変わるとか聞いたことねえわ。

 

「やれやれ、細かいことに煩い奴だな……。

 今はそんな話をしている場合か? 聞いた感じではのんびりしていられる風でもなさそうだったがな」

 色々納得はいかねーが、実際確かにその通り。魔人(ディモニウム)達の動きもそうだが、イシドロ達も追わなきゃならない。

 しかし、何だ。胡散臭ェってのを別としても……こう、今までガキかと思っていたのが急に大人の体つきになったものだから、後ろから抱きかかえて運ぶというのが心理的にやりにくい。

 俺が腰と太股に手を回し抱え上げ、あっちには俺の首に手を回して貰う……てのも、たぶん可能な抱き抱え方だろうけれども……んーーーー。

 

 俺がそんなしょーもないことを悩んで居ると、アルバは不意に横へと顔を向け、何かを探るような顔つきで薄く目を閉じる。

 何だ? と思っていると、

「血だ……」

 と呟く。それから一気に駆け出して岩山の端へと向かうと、あっという間にそこから飛び降りた!


「ちょ、待……!!??」

 止める間もない暴挙だが、落ちたかと思えばさにあらず。そのまま闇をまとわりつかせてふわり浮き上がると、宙へと舞い上がり飛んで行く。

「ついて来い!」

 って……飛べるのかよ!?


 慌てて俺も“シジュメルの翼”へと入れ墨の魔力を通わせると、風魔法で飛び上がりその後を追う。

 魔力の高さは聞いていたが、アルバがどれほどの使い手かまでは俺は知らない。

 最初から飛べたのにさっきまでは俺に抱えられていたのか? とも一瞬思うが、多分そうじゃねえのか。

 さっき本人が言っていたが、口調態度に体型までが変わった様に、きっと使える魔法や何やらまでもが昼と夜とでは全てがガラリと変わってしまう。理由は分からねーが、そんなことなんだろう。

 

 追い続けて数分、“シジュメルの翼”の効力で俺の耳にも喧騒が聞こえてくる。争い、叫び声。数人の集団……それに複数の吠え声唸り声も混じってるな。

「“夜追い”だな」

「夜追い?」

「毒蛇犬とも言う。

 全体はマダラミミグロ犬に似てるが、背中から下半身にかけて蛇の鱗が生えていて、その尾の先は毒蛇の頭だ。

 夜行性で群れなし狩りをする肉食の魔獣よ」

 いわゆる合成獣(キメラ)というやつだ。複数の別種の生き物の特徴や性質を併せ持つタイプの魔獣。

 確かトムヨイから聞いたことはあるな。

 昼間と夜では、また危険な生き物が変わってくるんだとかなんとかで。

 

 進むと確かにそれらしき影が、ラクダとそれに乗った十数人の集団を襲っている。

 そしてその集団は、案の定先行してモロシタテムへと駆けつけようとしていたイシドロ・クルスとその仲間達。

 

「チッ……乱戦になってるな。クッソ面倒臭ェ!」

 お互いが距離を置いて対峙していれば、“シジュメルの翼”の【突風】で一方だけを吹き飛ばす、なんてことも出来るンだが、この状態だとそれは出来ねえ。

 慎重にコントロールを定め、一匹ずつ【風の刃根(はね)】を撃ち込むしかないが、この暗さではそれも難しい。下手すりゃイシドロ達に当たる。


「ふむ。それではまずは軽く牽制といくか」

 俺の前を飛ぶアルバはそう呟くと、何かしら呪文の詠唱を始める。

 

 闇の中のさらなる闇。凝縮されまるで物体のような圧力を得た闇の触手が、地面を這い伝わるようにして奴らの元へ近付いて、数匹の毒蛇犬の足元へとまとわりつき絡みついてその動きを阻害する。

 正確に毒蛇犬だけを選んで絡みついたそれをある種の目印にして、俺は数本の【風の刃根】を撃ち込んでやる。

 ギャン! という悲鳴がし、立て続けに数匹が倒れ、また怪我を負う。毒と素早い動き、そして群れによる連携が強味の魔獣だが、それらも闇魔法と遠隔、しかも上空からの攻撃では形無しだ。

 

 イシドロ達は何が起きたかすぐには理解できないで居たようだったが、それが反撃の好機であることは見逃さず、曲刀や棍棒など各々の武器で毒蛇犬を切り、殴る。

 俺は近づきつつも距離を保ち旋回し、イシドロ達から離れた位置の数匹へとさらに攻撃。暫くすると毒蛇犬の半数は逃げ出して、残りは骸へと変わっていた。

 

「助かった! アンタ、何者だ!?」


 やたらにデカい声でそう話しかけてくるイシドロ。そのやや離れた位置へと俺とアルバは着地する。

 ガエル、ダミオンもそうだが、全体的に細面でスラリとした体躯のクルス家の人間としてはやや異質で、ややずんぐりとした筋肉質。脂肪が適度に乗った屈強さを感じさせる体型。丁度ダミオンを少し縦に縮めて横に拡大したような雰囲気だ。

 俺たちはそのイシドロ達へと両手を見せながらゆっくりと近付く。一応、敵意が無いことを表すポーズだ。

「シャーイダールの探索者、JBだ。あんたはイシドロだな?

 ガエル達からモロシタテムの件は聞いている!」

「おお! 助っ人か!」

 いやー、それはちょっと違うが……ま、まずはこいつらの状態だ。


 俺は倒れてうずくまる数人の元へと行き、

「怪我はひどいか?」

「いや、怪我はたいした事はないが、尾の毒蛇に噛まれた。毒を吸い出しては居るんだが……」

 苦しげに唸り、脂汗を垂らしているのは三人ほど。

 連中はほとんど王の守護者ガーディアンズ・オブ・キングスの下っ端達で、装備も例の黒皮か厚手のロングパンツにチェニックのみか、皮ベスト。

 素足でサンダル履きが多いクトリア周辺の一般的服装からすれば足元の守りは少し上だが、それでも毒蛇犬の牙からは守れなかった。

 

 それぞれの様子を看て、俺は腰のポーチから薬入りの小瓶を取り出す。

「シャーイダールの魔法薬だ。毒消し効果もあるから、三人に分けて飲ませてやってくれ。

 あ、そっちの奴には少し多めに、な」

 魔法薬が一般の薬草、調合薬と違うのは例えば毒消しにしても多くの場合特定の毒ではなく毒全般への効果を発揮するところ。

 魔蠍の毒も毒蛇犬の毒も、それぞれ本来別種の毒だが、毒消し効果のある魔法薬を使えばどちらも消せる。つまり万能毒消しだ。

 イベンダーのオッサン曰く、「魔法薬の毒消しは、毒の成分ではなく毒という概念を打ち消す」んだそーな。まあ、意味は良く分からん。

 

 加えて調合によっては複数効果を併せ持たせることも出来、シャーイダールの調合レシピでは基本として体力回復、外傷の治癒、病気の治癒、毒消しと、四種類の効果を併せ持たせている。文字通りに魔法の万能薬だ。

 効果のほどは素材と出来具合によるが、最高級品はそうそう作れない。それでもこのくらいの毒消しなら、今渡したやつでも十分なはず。

 

「何から何まで助かる!」

 これまたデカい声で礼を返してくるイシドロ。

 全体に肉付きがよく顔立ちもやや長方形のこの男は、声もデカくてざっくばらん。何というかさっぱりとして豪快ではあるが、繊細さやきめ細やかさとは無縁そうな雰囲気だ。

 俺は今まで深いつきあいは無いンだが、伝え聞くその人となりは決して悪くない。だが、その性格故「戦士としては一流だが、探索者としては三流以下」となっていたらしい。

 ドワーベン・ガーディアンをブッ倒すのは得意でも、罠や仕掛け、隠し部屋を探り当てる慎重さや繊細さには欠けていた。

 

 細かいことには頓着せず、直情的で感謝や感動をストレートに表現するから、周りの男どもからはかなり好かれる。

 今ここに居る下っ端達は、別にモロシタテムには縁もゆかりもなけりゃあ、命令されて無理矢理つれてこられた訳でもない。

 イシドロが故郷を救うため戦いに行く。ならついて行くに決まってるだろう、というこれまたシンプルでストレートな理由からだ。

 

「とりあえず少し休め。薬を飲んでも即座に全回復するわけじゃねえからな。

 それと……モロシタテムの周囲で、町の様子を伺いつつ身を隠すのに丁度良い場所はあるか?」

「町の南側にちょっとした小高い岩場がある。それともう少し離れた西側は切り立った岩壁のある高い丘だ。

 様子をうかがうならそのどちらかだろうが……」

「俺達は先行してそこから様子を見てくる。

 ここからならラクダで……半刻か?」

「4半刻程度ね」

「行くなら、まずそこ……そうだな、西の丘の方にするか。そこに着てくれ」

 そう言うとイシドロのみならず周りの連中共に驚きざわめく。

「おい、協力してくれるのか?」

「いや、違う」

 イシドロの問いにそう即答するとざわめきがさらに広がり、一部はあからさまな不満、悪態を口にする。

 

「今、俺達と王国駐屯軍とで魔人(ディモニウム)討伐隊を編成している。

 ガエル達は今頃マクオラン遺跡駐屯基地に行って合流してるはずだ」

「それじゃ、その軍が……!?」

「それは分からん。指揮官は対魔人(ディモニウム)部隊のニコラウス隊長だ。

 そしてどう動くかを決める為にも俺が偵察しに来た」

「糞……! じゃあ来るかどうかも分からんのか……!!」

 苛立たしげに地面を蹴りつけるイシドロ。それから少しの間を置いて、

「……すまん、アンタに言うことじゃなかったな」

 と、生真面目な顔で謝ってくる。

 

「気にするな。気持ちは分かる。

 だが、選択肢は一つじゃねえってことは、覚えといてくれ」

 ガエルやダミオンの様に、理で説いて思いとどまれる奴ならそれで良いが、知らせを聞いて直情的にここまでラクダを走らせるイシドロ達にそれが通じるとも思えない。

 やめとけ、勝ち目がない、なんてさんざ言われてきてるだろう。否定されれば意地になって益々走り出し止まれなくなる。

 だから、ひとまず立ち止まって考える材料だけは渡す。

 考えに考えて……それでも無謀を選ぶなら、それはもう止めようはない。

 黄金の月と黒の月。その二つの月を頂く夜空の元、不毛の荒野(ウエイストランド)に立ち尽くす男たちが何を選択するのか。それは俺には分からないことだ。

 


 JBは元アメリカ人なので、「何その中二病なノリ!?」ではなく、「ゴス女なノリ!?」と言うのです。

 場面によっては「オタク」ではなく「ギーク」とも言うかもしれません。


※後程挿し絵追加予定。


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