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咲けない華 椿鬼  作者: 明渡雅夢
1 夏休み
10/27

望まぬ再会 3


 牛蒡と話を終え、学園を出た椿鬼、ロード、ほたるの三人はヤマトに誘導されて繁華街まで出てきていた。


 これまで椿鬼の家周辺までしか行動できなかったロードとほたるは見慣れない、コントラストの強い街の風景に目を奪われていた。


 彼らのほぼ自然物で構成されていた村と比べて色彩が鮮やかで眩しい。

 気候の違いか、物だけでなく空気すら色付いているようだ。

 雨風に晒されて色褪せた看板、建て直されたばかりの百貨店。

 あか抜けない雑貨店に飲み捨てられた空き缶、怪し気な広告付きのティッシュ配り。これこそが、このまとまりのない場所こそが繁華街だと胸躍らせる。


 違うのは人工物ばかりでない。自然物もまるで違う。

 むせるような緑の臭いが排気ガスに混じって漂っている。

 その臭いからは肉厚で色の濃い葉を想像させた。

 太い道路に時折植えられている背の高い木などまるで南国のヤシの木のようで、そこだけ切り取れば日本の風景ではない。


 ああ、ここは知らない場所だ。

 やっと来た旅行というシチュエーションへのときめきに少年二人は我を忘れていた。



「ヤマト、どこに向かってるんだ?」


 そんな二人とは対照的に少女は静かだった。

 きょろきょろと見回して近辺の店を値踏みしているのは椿鬼だ。

 空腹のためか目が若干座っており、偶然にも視線を向けられた人々がその鋭さにぎょっと肩をすくめる。

 文字通り毛色が違う幼い少年と男子中学生、道行く人を睨みつける少女とどこか怪し気な男性という組み合わせは悪い意味で目立っていた。

 だが本人たちは知る由もない。知ろうとすらしていなかった。


「前に貰った割引券が今日までなんですよ。だからそこでご飯でもと思いまして。お二人は何も食べていないんでしょう?」


 そう言われて返事をしたのはほたるの腹の虫だった。

 細く長く鳴り続ける腹を抑えながらほたるは誤魔化すように笑った。

 元気がいいことですと嫌味とも取られかねない微妙なヤマトの発言は、ほたるだからこそ流せたのだろう。場にはのんびりとした空気が満ちていた。

 しかしのんびりとした空気もそう長くは持たない。

 空腹というものは人を短気にしてしまう。


「どこで食べるんだ?今日は光琉もいないし遠出は流石に避けるべきだと思うんだけど……」

「この辺ですよ」


 椿鬼の質問にヤマトはぼんやりとした答えで答える。

 しかしこの辺りはこの県で一番の繁華街である。

 有名どころだけでも指が足りないほどの飲食店があり、この辺りと一言言われても特定は難しい。

 カフェに定食屋、ファストフードにラーメン屋と飲食店はよりどりみどり。

 昼前ということもあって人も多く、あと少しもすればどこの店もいっぱいになってしまうことだろう。


 一向に向かう先を言おうとしないヤマトに椿鬼の眉が不機嫌そうに寄る。

 椿鬼が口を開こうとしたその時、ピタリとほたるが止まった。


「……なんだ?」

「え、何が――」


 纏う空気を一変させた友人にロードが問いかけた瞬間だった。




「キャーーッ」


 人々の雑踏が混ざりあって灰色だった繁華街を真っ二つに割るような高い悲鳴が上がった。

 突然の悲鳴に街から音が一瞬消え、そして急速にどよめきが広がっていく。

 悲鳴からやや遠いところにいた椿鬼たちもやはり他の人々と同じように立ち止まった。


「なんだ!」


 悲鳴の方に目を向けるも、椿鬼たちと同じように立ち止まっている人々が壁となってしまっていて何が あったのか確認することができない。

 しかし集まってくる野次馬たちの視線が向けられている方向が一点に集中しており、恐らくはその先で何かがあっただろうことは察することができた。


「この音」


 ほたるがひくりとした。目が細められる。


「音?」


 ロードが聞き返す。音といわれてもここは音に溢れすぎていていったいどの音を指しているのかわからない。人が歩く音、鳥の羽ばたく音、声、車、破裂音。

 ――破裂音?



 ぱんぱんぱん。

 大きく膨らませた袋を手で挟んで割ったような乾いた音が小さく彼らの耳に届いた。

 悲鳴やざわめきにまぎれてはいたが確かにそれが聞こえた。

 この、乾いていて軽い爆発音は、


「この音、おい……まさか」


 名前も知らない影がロードの脳裏によみがえった。

 数か月前、ロードとほたるの二人を人のいない森で嬲り殺そうとしてきた男だ。

 あの時の焦りがジワリと汗とともに浮かび喉が鳴る。


 どうやら見事に敵が潜んでいた場所に出てきてしまったらしいと彼らはようやく理解した。

 しかし依然として被害のほどは見えない。

 一般人が例の男に襲われているのは確かだったが、あまりに人が多すぎていったいどんな状況なのかがうかがえないのだ。


 ぱんぱんと再び運動会のピストルを軽くしたような音が響いた。

 どよめきが確信に変わり、静まりかえる。

 性質の悪い嵐の前のような嫌な静けさだとほたるは思った。


 そして静まりの後、恐れていたことは正に現実となった。中心部にいたと思われる人々が波のようになって一斉に外側へと逃げ出したのだ。パニックの始まりだ。


 数え切れないほどの人が一度に移動したためか、地響きのような音が場に轟いた。

 不穏なその音が事態を理解できていない者をさらに恐慌へと落とし、状況は混沌としていく。


 人の群れから比較的外側にいた椿鬼たちの方角へも、周囲の人を飲み込み肥大化した波は襲ってきた。

 まるで恐怖という感情に質量を与えたような勢いだった。


 逆らうことを許さない流れの強さにロード達三人が離れ離れになりそうになる。

 互いが互いの視界から完全に消え去ろうとするまさにその瞬間、ロードの意識が一瞬プツリと途切れた。

 強い力に引っ張られるような感覚に、眠っているのか目を閉じているのか、はたまたただ黒の世界なのか分からないまま引っ張り上げられ――気がつけばそこは人のいない場所だった。


 視界が突然開けたことにロードは困惑し、右に左に目を動かす。

 すると、先ほどは見上げていた看板が自分より下の位置にあることに気がついた。まさか自分たちがいる場所は――


「ここは建物の上だ。落ちないように」


 ロードの手を握った椿鬼がロードの隣にいた。

 力強く、硬い手だった。


 椿鬼の言葉に改めて辺りを見回すと、すぐそばに人が二人分くらいの大きさの半透明のピラミッドのような物があった。

 素材は硝子ではなくプラスチックに近い何かに見える。三角形のそれはいくつも連続して設置されている。

 どこまで続いているのか遠くを見れば、かなり遠くまで続いていた。

 なるほど、これは確かに遠くから見えていたアーケードの屋根だ。

 降り注ぐ雨やなにやらを下に流すための知恵が施された街の象徴たるアーケードの屋根。特徴的なそれを見間違えるはずがない。


 視界に広がるものが何か確認しようときょろきょろしていたためだろうか、バランスを崩し傾いたロードの体を椿鬼の片腕が支える。

 ロードが不本意ながらその腕にしがみついていると、椿鬼の体を挟んだ向こうからほたるが心配そうに ロードを覗いていた。


 ロードは手を振って無事を伝える。

 ほたるはそれをほっとした顔で受け止めるとバランスを保ちながらゆっくりとかがんだ。

 密かにロードはほたるが自分よりは事態を冷静に受け止めているらしいことにむっとした。

 拗ねたように尖らせられた小さな貝殻のような唇がぼそぼそと呟く。


「なんで僕たちいきなり屋根の上にいるのさ」

「瞬間移動しただけだ」


 さも当然のようにとんでもないことを言う椿鬼に、「ああそういう奴だった」とロードは一つ息を吐く。

 能力の名の下に好き放題やるのがこの人間たちなのだ。


 ロードは思考を放棄――もとい、頭を切り替えると二人が目で追っているものを探した。

 二人の視線の先、つまりは地面の辺りに目を滑らせていく。


 屈んで十数メートル下の地面を見れば豆のような……と称するには少し大粒の人の群れがうねる大蛇のように移動していた。

 上からはパニックがパニックを生んでいる様子がよく見えた。

 逃げ惑う人間を見て逃げ出した人間が、更に別の人間にぶつかりその衝撃ががさらなる混乱と恐怖を呼ぶ。

 ロードはその人の流れに逆らうように視線を動かして彼らが何から逃げているのかを探した。

上った先に人が不自然に少ない場所があった。

 そこはアーケードとアーケードを繋ぐ大きな横断歩道。

 頭上には待ち合わせに使われていそうなとても大きいビジョンが設置されていて、この混乱の中でも陽気に県の名産物を使ったタルトの紹介をしていた。


 そんな横断歩道の中心に、六人が蹲っていた。

 六つの人影のそばには、赤黒く光る複数の血痕。どう見てもそこが悲鳴と破裂音の発生源だった。


 彼らの周囲には赤い血が散っていたが、幸いなことに彼らの中に死亡者はいないようだった。

 彼らは連れか近くの人間の助けを受けながらジリジリと動いてそこから逃げようとしていた。

 六名全員がどこかしらから血を流しており、特に痛々しいのは足をやられて一人では歩けない状態になっている男性と、こめかみの辺りから一番の出血をしている女性だった。

 真夏の太陽に照らされ輝く白のブラウスと女性のものであろう血液の赤のコントラストは見ている者に強烈な印象を植え付ける。

 強烈なフラッシュを焚かれたような衝撃に、ロードは眩暈を感じた。今までに見たことがない惨状だった。


 単純な悲劇や事故ではない、意図的な悪意によって起こされた事態。

 そこには利益はなく、他人に害したいという歪んだ欲求に基づく目的だけがある。


「この程度で済んでるのは良心かな」

「多分小心者だからだと思いますよ。そしてそのせいで力を発揮しきれないためかと」


 日が遮られたように辺りが少し暗くなり、ほたるとロードが椿鬼の背後に目を向ける。

 そこに霧とも雲ともいえない何かが集まってきていた。次第に霧は人の形になって――ヤマトになった。

 ヤマトは何食わぬ顔でロード達がいる屋根に立った。何の説明もなしだ。

 ああもう、本当に何でもありだと頭を抱えたくなる気持ちを必死に抑え込みながら話を聞く。


「どういうことだ、ヤマト」

「前に逃がす前にいろいろ調べたんですよ。流石に殺傷能力が高い者を無条件に放つわけにもいきませんしね。――奴ですが、一番得意なのはやはり身を隠すことです。そして苦手としているのは、人を攻撃すること」


 その言葉にほたるが怪訝そうな顔をする。

 ロードにはその顔が何を言いたいのかわかった。

 「十分人を傷つけているだろう」そう言いたいのだ。

 実際、彼らの足元では血を流した被害者が六人、這うようにして逃げている。人を攻撃することが苦手な人間だというならこの光景は何なのだろう。


「いやまあ、その手の人間にしては、ですよ。お嬢様なら本気が出せれば一瞬で血の海ですもの。……要するに犯人は小心者なんですよ。正面から戦う自信はない。人を殺す覚悟もない。でも優位には立ちたい。そんな気持ちの結晶が彼の気配消し能力と爆破能力ですよ」


 ほたるとロードの視線から察したように先回りした答えがヤマトの口から出てきた。

 確かに、ヤマトのその言葉に納得できる部分はあった。

 あの時何度も死ぬかと思うような爆発があった。

 直撃すれば死ぬ。そう思って逃げていたのに、結局最後まで直撃することも殺されることもなかった。

 それは途中で椿鬼が助けに入ったためではあるのだが、椿鬼が来るまでに殺されなかったのはそういう事情があったためだったのだ。



「能力では殺し切れない、そして精神的にも人を殺せないってことか。そんでもって能力で隠れているうちは物理的には手を出せないと。だから姿を隠しているうちは人を殺す心配はない。そういう判断だったわけか」


 椿鬼の言葉にヤマトが頷く。


「まだ十六歳くらいのようでしたし、記憶を探っても本人はあまり重大なことはしていなかったようだったので。更生することに期待して逃がしました。生かして自由にしておけば所属グループが回収しに来るかもしれませんし。そこを一網打尽にできたらなあ……みたいなのもあったんですけどね」

「……ん?ちょっとまって。椿鬼あの男をバラバラにしてなかったっけ。なんで無事なんだあいつは」


 ふと思い浮かんだ疑問をロードは椿鬼にぶつけた。

 そう、今までの話によれば奴は五体満足かどうかはともかく無事に生きているという話ではないか。

 自身の記憶が正しければ奴の四肢は吹き飛んだはずだ。

 そこに眉を寄せて立っている筋肉女に音もなく芸術品のような剣で切り落とされて。


「切ったけど切れてなかったんだよ」


 当然のようにそんなことを言う椿鬼にはあとロードは大きなため息を吐く。

 自分の記憶が間違っていなかったらしいことに安堵はするものの矛盾するその物言いには理解が届かない。

 至極真顔であるため真実かはともかく椿鬼にとってはそれが事実なのだろう。

 もう何を信じるべきなのか見失ってしまったロードはもうそれをそれとして流してしまう。


「それより、逃げるぞ」

「えっ?」


 そんな言葉よりも流せない言葉が椿鬼から発せられた。

 ――逃げる、逃げると言ったのか。

 今度こそ信じられないという顔でロードは椿鬼の顔を見た。

 椿鬼の向こうからはほたるがロードと全く同じ顔をして見つめていた。


「逃げる?どうして」

「さっきの話聞いてたよね?誘われているのは間違いなくあなたたちだから、おいそれと差し出すわけにはいかない。だからあなたたちは逃げないといけない」

「関係ない人が僕のせいで襲われてる!」


 既に相手とやりあう気でいたロードは毛を逆立てて怒りをあらわにする。

 それを宥めるように椿鬼は言った。


「私たちが何とかするから。だから光琉のいる家に帰ってくれない?瞬間移動で移動自体は一瞬で終わるからさ。その後私たちがここに帰って来て何とかするから」


 子供に言い聞かせるような言葉にロードは噛みついた。

 きゃんきゃんと犬のように吠える。

 手を取ろうとする手を叩いて拒絶した怒れる少年に、少女は困ったように眉根を下げた。


 椿鬼は仕方がなさそうに強引に手を取る。

 取られた手を振り放そうと必死にロードは身を捩った。

 しかしそこは自由の効かないアーケードの上だ。逃げることは叶わずあっけなくその身は捕まってしまう。

 それでもなおロードは抵抗を続けるが、椿鬼は強引にロードを引きずった。


「ほたる、こっちに来て。光琉にあったら――ほたる?ちょっと、おい、ほたる?」


 普段は丸い目が細められていた。

 まるで別の世界に次元をずらして存在しているかのように少年は微動だにしない。

 話しかけても反応しないほたるに椿鬼が声を強める。

 しかしそれでもほたるはピクリとも動かない。何処か一点を真剣そうに見つめている。

 椿鬼はほたるが何を見ているのかとその先を探した。


 ぱんぱんぱん


 爆発音。

 どこで爆発しているのかなど探す必要もなかった。

 ほたるが、いやほたるの視線を追うように同じ場所を見つめていた三人の視線の先でその爆発は立てつづけに起こったのだ。


 爆発の近辺にいた三人の男女がよろけた。

 遅れて悲鳴を上げながら三人は逃げていく。

 見物するように眺めていた野次馬たちも新たに起こった爆発に先の三人と同じように悲鳴を上げて遠くへと散っていく。


 ことが終わったと言わんばかりにほたるが目線をずらす。

 慌てて三人はそれを追った。



 ぱんぱんぱんぱん!


 四連続、爆発音。爆発した場所はまたしてもほたるの視線の先だった。

 椿鬼とヤマトはその視線に確信を得た。


「次はどこですかほたるさん」

「ヤマト、お前何を勝手に!」


 ほたるを懐柔するようにヤマトが優しい声をかけた。

 ほたるはしばらく探るように目を閉じていた。

 そして一点を指さす。場所は人が複数逃げ込んでいるコンビニだった。

 怯えた風の老若男女が身を寄せ合っていた。


「あそこ」


 ほたるがそう声を上げた次の瞬間、コンビニの入り口辺りで小規模な爆発が起こった。

 ガラスを直撃したらしく自動ドアに蜘蛛の巣を彷彿とさせるヒビが入る。

 動かなくなった自動ドアを無理やり開けて、避難していた人々が一斉に飛び出していく。


 そして次々にほたるは指を指していった。

 その先々で爆発は起こる。

 先を競い合う勢いだった。しばらくその競い合いは続いていたが、向こうが行動をやめたのかほたるは静かになった。

 玉のような汗を垂らしながらはあはあと荒く息をつく。


「やっぱり能力あるんじゃないですか。今まで隠してたんですか?」


 普段の感情の見えない微笑とは違う、本当にうれしそうな笑顔でヤマトはそう言った。


「違う!自覚がなかったし目覚め切ってなかったんだ!目覚めさせないようにしてたのにお前……!」


 椿鬼は目を吊り上げながら叫んだ。握りしめられた手は色が失われていた。


「なるほど、不幸中の幸いってやつですね。才能が埋もれずに済みました」

「ふざけるなよお前!こうしたくてここに連れてきたろ!絶対駄目だからな!」


 椿鬼は息荒くヤマトの首元を掴んだ。

 ヤマトの着ているジャージはよく伸び縮みするのかヤマトは傾くことすらなくそのまま立っている。

 それがさらに怒りを買ったのか、椿鬼の目は軽く血走らせて何事かを言い放つ。酷い暴言だった。


「何を言い争ってるの……」


 当人不在の言い争いは当人によって打ち切られた。ほたるは疲れ切ったような表情で少しくたりとしている。

 二人の言い争いの内容は理解していないようだ。

 ヤマトはほたるの手を取ると立たせた。

 強引ではあるが無理のない誘導にほたるはすんなりと立ち上がる。


「ほたるさん、よーく探ってみてください。あの爆発を起こしている男はどこにいますか」


 耳元で囁く。どこにも留まらない聞き心地のいい声がほたるを通り抜けていく。


「そんなこと言われても相手知らないし……」

「そうでしたね。記憶が戻れば探りやすいでしょう……よいしょっと」


 ヤマトが額を手で覆うとほたるが電流でも流されたかのように跳ねた。


「ほたる!」

「記憶を戻したのか」


 目を見開いたままのほたるはゆっくりと自分を抱えていたヤマトを見上げた。


「探すべき気配は思い出せましたか」

「あ、あっち……」


 わかりました、と小さく呟いたヤマトはほたるを抱きかかえるとほたるが指さしたほうを目指して飛び降りた。

 ロードが声にならない悲鳴を上げるが、一瞬後、ほたるを抱えた大きな鳥が低い空を舞っていく。

 ほたるが驚愕の表情で連れ去られていく様をロードと椿鬼はあっけにとられてただ見ていた。


「僕の親友が連れ去られちゃったんだけど……」

「……」


 確かめるようにもう一度ロードが言った。


「連れ去られたんだけど?」

「……ほら、抱いてやるから遠慮なくしがみつきなさい」


 苦々しくそして渋々と椿鬼はロードに言った。



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