面接?お見合いみたいな感じですか?
「えっ…あ、はい、お願いします」
俺は目の前の女性の勢いに押されて、返事をしてしまった。
「やった!私バイトするの初めてで面接とか何聞かれるのかなぁとか緊張してたけど、もう採用ってことでいいんですね?」
「あ!面接!面接が…あります!」
そうだ、面接をすることをすっかり忘れていた。でも面接なんてやったことないけど、なにを聞くものなんだ?スリーサイズって聞いてよかったっけ?
「え、やっぱりあるんですか!うわぁなんか緊張してきた…じゃあ、面接の日時を教えてもらっていいですか?」女性はバッグから手帳とペンを取り出し、メモを取ろうとしている。今日はもう帰るつもりなのだろうか。正直1日でも早く人員の確保をしたいところだ。
「あ、じゃあ、い、今から…どうせ暇だし…」
ずっと、何千年も年下の女性の前で正座していた俺は立ち上がり、店のドアを開けた。
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「外から見ても思ってたんですけどやっぱりキレイですねぇ!」
女性は店内を見渡しテンションがあがっている様子だ。改めて女性を観察してみる。身長は150センチ台というところか。肌が白く、黒髪がよく似合っている。顔立ちは整っていて体のラインはすらっとしているが、多少なりとも出るべきものは出ている感じか。あれ、左目の下に泣きぼくろがある…。女性に泣きぼくろがあると庇護欲をかきたてられるな…。おっといかんいかん、観察しすぎてしまった。まぁ人が来ないんだ、汚れなんて出来るわけがない。俺は近くの席へ女性を座らせて対面の席に座った。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・あの、なにか聞かないんですか?」
沈黙に耐えられなかった女性がしびれを切らして聞いてくる。そんなことを言われても。こっちも何を聞いていいかわからないし、なにより人間と二人きりで会話するなんて初めてだから緊張が半端じゃない。
「そういえば、名前言ってなかったですよね?私、瀬山 雛子って言います。私のことは呼び捨てで雛子って呼んでください!あ、でもヒナって呼んでもいいですよ?」
瀬山さんと呼ぶ選択肢はないのか。この2つの内どちらかならもう答えは決まっている。
「じゃ、じゃあ、雛子…で…。俺は、サタン…です…。年齢は…?」
「15歳の高校1年です!」
「へー…。あの、ちょっと、トイレに行ってきます…。」
そう言い残し、早足でトイレに向かった。
俺はトイレの中で頭を抱えて考えた。どうする、人間が思う面接ってどういう感じなんだ?いや、まず女性との話し方がわからない。面接ってとりあえず相手と会話すればいいんだっけ?俺はズボンのポケットから携帯を取り出し、【女性 会話 話題】と検索してみる。
なるほど、相手の趣味の話を盛り上げればいいのか。しかも、女性との会話は恋バナが鉄板らしい。勉強になる、ありがたいサイトに巡り会えた。これで面接に励むことが出来る。
トイレから出た俺の表情が先ほどよりスッキリしていたのか、雛子によかったですねと笑顔で言われた。
まずは趣味の話を切り出し、俺のペースにもっていく。魔王を舐めるなよ、こんな小娘に気後れしてたまるか。俺は席に着き、先ほど学んだことを実践してみる。
「しゅ、趣味はなんですか?」
「んーと、最近は料理とかお菓子作りにハマってますね」
「へー、得意な料理とかってあります?」
「最近作った肉じゃがはお父さんに褒められました!」
「おー肉じゃがですか、いいですねー」
なんだ俺やれば出来るじゃないか、会話が続いている。ちゃんと面接出来てるよ。少しだけど緊張も和らいできた。あとは恋バナをすればもうこれは立派な面接だ。
「今彼氏はいますか?」
「えっ!いや、いないです・・・。」
「今までには?」
「いないですけど・・・。あの、これって面接に必要だったりするんですか?」
雛子は顔を紅潮させ、恥ずかしがりながらこんなことを聞いてくる。
「必要だと思います。じゃあもし彼氏がいるとして、浮気をされたらどうしますか?」
「すごくショックですねー、私の何がいけなかったんだろうとか考えてしまうと…って!この質問必要ですか!?お見合いみたいな会話から始まって、最終的にどこかの合コンでやってそうな話になってるじゃないですか!!」雛子がものすごい勢いでテーブルから身を乗り出してきた。
あのサイト、俺をハメやがった。向こうの反応からしてこれは面接ではないらしい。
「いや、面接ってなに聞いていいかわからなくて、女性、会話、話題って調べたら、載ってたから…。」
「面接ってワードは!?その検索ワードに面接の要素ほぼゼロじゃないですか!」
雛子はさらに身を乗り出し、俺の顔と雛子の顔との距離が50センチもないまでに迫ってきた。
「お、俺初めての面接だし!人見知りだし…緊張してるけど頑張ってるんだぞ!」
俺も初対面の人間に言うにしては、出来る限り強い言葉で言い返した。
「なんで面接する側が緊張してるんですか!普通は逆でしょう!」
「そんなに俺を責めるなよ!圧迫面接か!!」
「それも普通はこっちが感じる側です!!」
雛子との言い合いが落ち着いたとき、気づけば俺は、雛子とは普通に喋ることが出来るようになっていた。
あまり面接らしいことは出来ていなかったようだが、今や何の手でも借りたかった俺は雛子をアルバイトとして雇うことにした。
更衣室は当然男女にわけており、それぞれにまだ使われていない制服がいくつか掛けてある。女性の制服は白のカッターシャツにピンクのリボン、黒を基調としたスカートで、襟の裏には小さく「喫茶魔王」という刺繍をいれてある。見えないオシャレである。俺の制服もスカートがズボンになっているだけで大差はないが、ベタにベストを重ね着している。
「着替えてきましたー」
更衣室で制服に着替えてきた雛子が店内にやって来た。サイズも合うものがあったようで、よく似合ってる。雛子は今日から働く気マンマンらしい。
「まずは何をすればいいですか?」
「それは勿論」
俺は雛子に掃除の極意を教えた。
次話は仕事の関係で数日空くかも・・・。