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喫茶魔王は営業中。  作者: KAGOME
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ここ、やってますよ?

 まずい。さすがに1週間連続お客がゼロになったことはないが、これは新記録更新のにおいがプンプンする。今日もひたすら空いた時間を掃除に費やし、トイレで音姫様とハーモニーを奏でて一日が終わるのかよ。

 しかし音姫もとい、トイレ用擬音装置を本来の目的で使ったことがない。今ブリブリやってまっせ!って主張している感じが苦手だ。俺なら最新の注意を払って極力無音で用を足す。トイレでも気を遣わんといかんのか、やっぱり今度使ってみよう。


 サタンはホウキを手に外へ出ると、慣れた手つきで落ち葉を集める。常に店がキレイなのはサタンが暇すぎて常に掃除をしていることと、まず客が来ないのである。

 つい2時間前にも掃き掃除をしたため、落ち葉なんて2,3枚そこらだ。暇すぎてもうこの通り一帯掃き尽くしてやろうかと考えていると、20メートル程先に人間界からの観光客らしき若い女性の集団4人がこちらの方向に歩いてくる。


 4人なんてオープン2日目に記録した2番目に多い人数じゃないか。ちなみに1位はオープン初日の35人。

 どこか予定があって歩いている感じでもないしここは呼び込みと行こうか。


 まずなんて声かけよう、「そこのお姉さん達!暇ならここ寄ってかない?」…絶対にいやだ。

まず断られてしまうと恥ずかしさに耐えられないし、「は?私たちに話しかけていい男はイケてるmen'sだけなんですけどぉ?」とか言われようものなら、自暴自棄になってこの店を消滅させかねない。


 大体こういうことを言う奴にいい男は寄り付かんのだ、少なくとも俺なら寄らねぇ。ん?てことは俺はいい男になるのか、そりゃそうだよな、俺だって昔は魔界のボスで何万の悪魔たちを従えてたんだし。


 謎の証明が完了し、心の中で小躍りをしていたサタンに、先ほどの観光客がすぐそこまで近づいていて、そのうちの一人が声をかけてきた。


「あの~今この店開いてます?」


 この質問にサタンはすかさず答えた。


「エッ!アッヤッ…エッ…ウン、ハイ」


 いきなり話しかけられるとは思わずビックリしたが、多分最後のハイだけは確実に言えた、上出来だろ、察してくれ。そして店に寄ってくれ。

 話しかけたとたん目を泳がせ、よくわからない言葉を言われた観光客は若干戸惑い、この店に入るかどうか話し合っている。あれ何語なんだろ、悪魔語?とか、それで結局この店は開いてるの?なんて声が聞こえてくる。

 

 だからハイって言ったじゃん、開いてるよ。看板も置いてるんだから。サタンはそんなことを考えながら、地面のタイルの数を数えたり、ついでに履いているスニーカーの靴紐を乱れてもないのに直したりして、観光客の答えを待っていた。


「この店のオススメってなにかありますか?」

 観光客の一人が、俺が客に言われたいランキング上位にある言葉をぶつけてきた。これを聞かれた時のために、「本日のオススメはこの日採れた魔界産ルビーマウンテンと人間界産キリマンジャロをブレンドした二界の独立峰コーヒーです」という言葉を日に50回は練習している。

 しかし今日はこの日採れたルビーマウンテンを仕入れていなかった、まぁこの日採れたって言う部分を変えて新鮮な、とでも言うか。事実だし。


 営業は臨機応変に対応しなければ話にならないからな、気分は世界一のバリスタだ。しっかり客の期待に応えてやるよ。


「アッ…エット…コッ,コーヒー…ブレンドノ,デス」


 よくよく考えたら今日はこのコーヒーオススメじゃなかった。

 でも別のブレンドコーヒーがオススメなのは事実だし、嘘はついちゃダメだからな、完璧な受け答えだった。

 心の中でそんなことを考えながら挙動不審になっているサタンに怪しさを覚えた観光客はと言うと、苦笑いを浮かべながらサタンから距離を取り、やがてどこかへ行ってしまった。「あの人ちょっとヤバくなかった?」「えーでもオシャレなお店っぽかったよ?」「いやいやキョどり過ぎでしょ」「私の方をいやらしい目でみてたもん」そんな会話が聞こえてくる。

 

 俺は耳がいい。それなりに距離が離れていても音を拾ってしまうので悪口はやめてほしい。魔王といえど見た目はおでこの上から角が2本生えている、180センチ台の人間界基準でいう若者である。三界友好条約の決まりで、人間界の住人の目に触れる可能性のある場所では、大部分の見た目を人間界側に合わせるように、とある。ついでに言葉も人間側に合わせた。人間界の言葉は魔界や霊界の言葉に比べて理解しやすいものだったので、三界の共通言語のような認識となっている。なので‘あの人’という表現でも間違いではないのかもしれない。そして誰だ最後喋った奴。見てねぇよ!やめろよ普通に悪口言われるより傷つくじゃねぇか。


 結局今日も客は来ず、不名誉なニューレコードにリーチがかかった。俺は店内のカウンター席に座り、本日のオススメ、ベルゼブブレンドを飲みながら今日の反省会議を頭の中で開いていた。

 議題はいつも通り、〈なぜ客が来ないか〉〈どうすれば来るか〉である。掃除を1時間に1度やるか、窓を開けてコーヒーの匂いを漂わせてはどうだろうか、そんなことを考えた。


 違う、1番なにがいけないのかなんてわかってる。心の奥に秘めたまま、心の中で開く議論にすらその理由を挙げることを拒否していたのである。



 魔王サタンは、幾千年魔界や霊界の者としか関わっておらず、本や絵画でしか見たことがなかった人間が、魔王の歴史からすれば最近いきなり人間界から生の人間がやってきたため、極度の人見知りになり、人間界の住人に会うと緊張してまともに喋ることが出来ないのである。

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