星の神様の憂鬱
こんにちは、人間の皆さん。今日は少し、私のお喋りに付き合ってください。──え、嫌? そんなこと言わないでくださいよ。楽しいかもしれないでしょう? 聞く前からつまらないなんて言っていたら、面白い話も聞き逃してしまいますよ〜。
さっさと話せ? あっ、はいラジャーです。
まずは自己紹介から。初めまして、星の神様です。いるかいないか、そこは突っ込まないでください。神様なんです。本当ですよ?
でも──、もともとはただの女の子でした。
私の住んでいた村は、小さくて、辺境にあって、人も少なくて、とにかく貧しい村でした。私も、その日は朝から畑に出て働いていましたよ。いやあ、懐かしいなぁ。──戻りたい、かもしれない。
そしたら、不思議な人が来たんです。
容姿は、村の男の子たちと違って、目鼻立ちがはっきりしてて睫毛が長かったです。背が高くて、びっくりするくらい綺麗な星空色の髪を束ねていました。えーと、人間の皆さんの言う、イケメンです。それはもう、本当にかっこいいんです。しかも目は星の色。一瞬で見惚れましたねぇ。──かっこいいのはわかった? もうちょっと説明してたいですけど、しょうがないですね。
彼に声をかけたら、私はびっくりされました。
「俺が見えるの? じゃあ、もしかしたら……」
そう言って取り出したのは、小さな瓶でした。中には、綺麗な宝石が詰め込まれていました。
「これ、なんですか?」
「綺麗でしょ。これ、神様を探すための道具」
「……神様を探すんですか?」
当時、私は敬虔な星空教信者でした。だから、星空を写したような彼のいうことなら何でも信じられました。──それが、私の一つ目の間違いです。
「そう。星空から、このあたりに落ちた筈なんだ。大きな星の神様だから、いないと周りの星も均衡が保てないんだよ。だから、下っ端神様の俺がこうして探しに来てるんだ。……ねえ、俺が見えるんだったら、神様かもしれないよ。ちょっと泣いてみてくれない?」
下っ端神様という謎の言葉が気になりましたが、それは一応置いときます。
「泣くんですか?」
「うん。泣いて溢れた涙がこの中に入って結晶になったら神様の証拠」
簡単に言うけど、そんな簡単に泣けませんよ。
そう言っていれば良かった。それが二つ目の間違いです。
けれど、私は大好きだった飼い犬が死んでしまった時のことを思い出して、あっという間に涙を流してしまったんです。女優みたいでしょう? え、そこはどうでもいい? すいません。
そしたらなんと、見事、結晶になっちゃいました。綺麗でしたよ。青くて硬くて、透き通ってました。それを見た少年は、
「うわー、これってあれだよ、大スピカ神の涙じゃん! すげえ! ……って違うし。──大スピカ神様、故郷にお連れします」
そう言って私を星空へと連れて行ってしまいました。──それが、三つ目の間違いです。
分かりましたか? 私、地上から連れてこられて神様になったんです。不思議でしょう? でも、実は後悔だらけです。私は、私を育ててくれた両親や、弟にもお別れを言わずに来てしまいました。別に神様になりたかったわけじゃないんです。普通に暮らしていたかったのに。
その日から、父さんや母さんたちは新しく現れた私という星に、『娘が戻ってきますように』と祈るようになりました。悲しくて悲しくて、涙が止まりませんでした。そして結局、私の帰らないまま、両親や弟は天寿を全うしました。私の好きだった男の子も、他の人と結婚して死にました。
……私、今星から脱走しようとしてます。
こんなところで、死なないでずっと生きていくなんて、私には無理です。普通に好きな人を作って、家庭を築いて、幸せに死を迎えたかった。──だから、また人に堕ちたい。
結局つまらないお話でしたか?
でも、綺麗な宝石が詰め込まれた瓶にはお気をつけて。永遠に、一人で生きていくのは辛いですから。
いかがでしたか?
三十分で書いたので、いろいろ適当ですが、楽しんでいただけたら幸いです。