前日
まだ入学してない。
私の家は代々続く陰陽師家である。
それを幼いころから誇りに思っていた。
立派な陰陽師になることが夢になったのは小学校高学年くらいだったと思う。
しかし、私は霊的なものを見ることができず、色々と試してみたが結局、感じ取ること以外はできなかった。
中学校3年になって見かねた母が、よく幽霊が出るという村に行くことを勧めてきた。
「更紗村っていうんだけどね、ちゃんと高校もあるし、私の知り合いが住んでるのよ。やっぱり、近くに霊的なものが存在したほうが霊力も強くなると思うし。」
「その知り合いの家に住み込むってわけ?」
「ええ、三好さんっていってね、いい人だし、古い御屋敷に住んでるから部屋余って困るって言ってたし。」
「いやいやいやいや…迷惑でしょ。」
「って言ったって、あんた陰陽師になりたいんでしょ?なれなくていいの?こんなチャンスめったにないわよ?」
「ぐぅ……わかったよ…」
「よ~し!さっそく連絡するわね。」
そして私は無事にそこの高校に合格。
電車を2時間乗り継いで、これまたバスに2時間乗ってやってきました更紗村。
「まあ…受験の時に来たからまだいいけど。」
初めて来たときは長すぎてバスの椅子と一体化するかと思ったほどだ。
「えーっと、このあたりだったはず…」
受験で来たときについでに三好さんの家に行って挨拶してきたのだ。
古い御屋敷というからすぐに見つかるだろうと思ったら村にある家のほとんどが古い御屋敷だったのだ。
「あ!深星ちゃーん!」
道の少し先で手を振っている人がいる。
三好鈴葉さん。今日から私の大家になる人だ。
「今日からよろしくお願いします。」
「そんなにかしこまらなくてもいいのよー?ほら、入って。」
入って、と言っても大きな御屋敷だから入るのは門だ。
「家族が増えてうれしいわ~。この前はいなかったけど娘と息子がいるから仲良くしてあげてね?」
「はい。」
三好さんは夫に先立たれて子供たちと3人暮らしらしい。
広い家を持て余すわけだ。
「あ、玄関散らかってるから気を付けてね。」
「えーっと、お邪魔します…」
「今日からここが深星ちゃんの家なんだからただいまでいいのよ。まあ、まだ難しいか。」
「ほら、あんたたち深星ちゃん来たんだから挨拶して。」
案内された居間の中には、二人でテレビゲームをする同い年くらいの男の子と小学生くらいの女の子。
「ええと、今日からここに住まわしてもらうことになった綾部深星です。よろしく…?」
先に振り返ったのは女の子のほうだった。
お母さんに似てすごく可愛らしい。
(でも、なんだか違う…)
「…三好琴葉。よろしく。」
「縁もほら。」
「ん~…」
「っ…」
ゆっくりと振り返った彼は、とても不思議な人だった。
整った顔断ち。黒い髪。深緑色の瞳。
今までに感じたことのない変な感覚がした。
「あ~……チェンジで。」
「はっ?」
「縁!あんたって本当に!」
「好みじゃねぇんだからしょうがねぇ。」
「好みとかそういうことじゃないでしょうが!」
「縁はやはりロリコン…」
「ロリコンではないが今んところ琴葉が一番好みだな。」
…なにこれ…。
「ごめんね、こんな子たちで。でも、みんな今年から同じ学校だし、仲良くて頂戴ね?」
「え…みんなって…?」
「私と、縁と、深星…」
答えたのは琴葉ちゃんである。
「え…えっと…つまり?」
「みんな同じ年…私も…」
「琴葉は半分人間じゃねぇからゆっくり年取んだよ。お前、実家陰陽師なんだろ?んなこともわかんねぇのかよ。」
「うっ…な、なんか違うな~くらいには思ったわよ!」
「大したことないんだな。」
「ぐぅ…」
こいつ、ムカつく。
「琴葉は雪男と人間のハーフなんだよ。ま、雪女みたいなもんだ。」
「…ということは、鈴葉さんは…」
「まあ、そういうことね。でもここいらじゃ寧ろ人間と結婚することのほうが珍しいんじゃないかしら。」
「俺の母さんもそうだったしな。」
「あんたのお母さんって…」
鈴葉さんではないのか?
「俺の名前は長船縁。母さんが死んでこの家に引き取られたんだよ。」
「父親は人間じゃないの?」
「あー…悪魔。」
予想外だ。そして専門外だ。
「おかげで人誑かすの得意なんだよ。だからって惚れるなよ?顔好みじゃねぇし。」
「なっ…?」
「まあ、かわいそうだし胸のでかさくらいは認めてやってもいいけど。」
「~っ!こちらこそあんたなんかお断りよ!!」
「へー。」
そんなこんなで、私の更紗村での陰陽師修業は始まってしまったのだった。