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 足元にコロコロと石が転がっている。

 コロコロ、コロコロと。

 坂でも窪んでもない道をコロコロと転がっている。

 私はそれが物珍しくて流れに着いていった。

 石たちは川を越えて山を下って野を回った。

 そして、いつの間にか崖の淵に来ていた。

 私は立ち止まった。

 隣には腰の高さの石、いや、岩がいた。

 その岩は今にも飛び降りそうだ。

 私は、岩が変な気を起こさないように、目をぎゅっと瞑ってその固そうなフォルムに抱きついた。

 やっぱり固かった。


 目を開けると、ライの顔が目の前にあった。

 数回瞬きをして、ああ、夢か。と、やっと理解する。

 だけど、抱き付いた感触は固いままだ。

 変な夢を見たのは、きっとこれのせいに違いない。

 私はぼやけた思考のまま、ライを眺める。

 しっかりと見るのは初めてかもしれない。

 ライの顔でまず目にはいるのが、顔の半分を覆っている火傷だ。

 相当ひどい火傷だったことが見てわかる。

 左半分の皮膚は爛れ、そのせいで瞼が腫れている。

 これでは目が見えるのかも怪しい。

 鼻も口も不自然に歪んでおり、安らかに眠っているのに、苦しそうな感が否めない。

 それならば、右半分は普通かと言われるとそうでもない。

 誰かに殴られたことがあるのか、こめかみの部分のラインが少し歪だ。

 若干へこんでいるのがよく見ると分かる。

 頬には何年も残っているのだろう痣のあとがある。

 私はライの長い髪を緩くかきあげ、額を見る。

 少し黒地の肌に3本の線が斜めに入っている。

 えぐるように残っている明らかに人の仕業だと分かるその痕を見て猫だったら少しは微笑ましく見れるのに、と眉間に力が入った。


 ライは私が目を合わせようとするといつも下を向く。

 自然にライの髪は重力に逆らうことなく下へ垂れるので、ライの顔はほとんど見えないのだ。

 私はライの火傷の痕を手のひらで覆うように触れる。

 そのまま、するりと顎に沿って撫でていく。

 ライは、何か言おうとする度、口を閉じて言葉を飲み込む。

 それは、この沢山の傷と何か関係があるのだろうか。

 私はそっと、目を閉じた。



「おはようございます、ご主人様」


 後ろから聞こえる声につられて寝返りをうてば、床にススキのような髪の毛の男が土下座していた。

 …………………って、ん?!何でライが土下座してるの?!

 やっと覚醒した私は慌てて起き上がる。

 どうやら私はあのままもう一度眠ってしまったらしい。

 自堕落すぎて情けないと思わないこともない。


「ちょ、何で土下座!」


 顔上げて!と私が必死に頼んだのが効いたのか、そろりそろりと頭が上がる。

 けれど、ライは目を合わせないどころか、顔も一定以上のところまで来たら上がらなくなった。


「あ、朝から、こ、このような、醜いものを、見せるわけには、いきま、せん、から」


 出てきたのは、そっか、というつまらない同調の言葉。

 誰かに、言われたのだろうか。

 醜いと、朝からそんなものを見せるなと、そう言われたのだろうか。

 ライのせいでは、ないのに。

 こういう時は、どう言えばいいのだろう。


「……お腹、すいたね」


 結局、上手い言葉は見つからないまま、話を変える。

 無理矢理変えた話とは言え、お腹がすいているのは事実だ。

 何かないのかと周りを見渡して、はっと気が付く。

 そういえば、ここには何もなかったのだった。

 覚醒から時間が経つにつれて、昨日の出来事をだんだんと思い出してきた。

 昨日は体力的精神的に疲れすぎて全て投げやりな行動をしていた気がする。

 改めて考えると、よくこんな怪しい家に泊まれたものだ。

 日本に居るときなら近付きもしなかっただろうに。


 それだけ、精神が参っていたのだろう。

 そりゃそうだ。こちらに来て頼っていた人達が皆私を陥れるために保護していただなんて、フィクションも大概にしてほしい。

 いや、ノンフィクションだけども。

 というか、あの時の私よく冷静だったな。

 あの狸ジジイ曰く、魔法かなんかで一部の感情抑えてたみたいだし、それが幸か不幸か、まともに考えれる余裕が出来たみたいだ。

 あんな推理の真似事みたいなこと、初めてしたぞ。

 身体は子ども頭脳は大人の小学生じゃないんだから、あんなこと何回もあってたまるか。


 瞬間移動(テレポーテーション)だって、出来るのかとかどこにとかそんなこと予め考える余裕なんかなかったから、 瞬時だよ、ほんと。

 何で森にしたのか、よく覚えてないし。

 とにかく、あの人達の手の届かない場所って考えてたらここだよ。

 ほんとに、運がよかったんだ。

 あの時1つでも何かが崩れていたら、あの涎にまみれてむしゃむしゃされていたかもしれないと思うとぞっとする。

 それに、と私はちらりと未だ顔を上げないライを見る。

 人を、物みたいに。

 精神が参っていたからと言い訳出来ない。

 騙されるのが嫌なら、1人でいればよかったのだ。

 何も、人を巻き込むことはなかったのに。

 なのに、私は、ライを、買ったのだ。

 しかも、あの指輪ごときと交換で。


 ふぅ、と一つ溜息を落とす。

 びくりと震える存在を横目に見ながら、私は固く決意した。


 ライを、立派に養ってみせる。


 ぐっと拳を握り腹に力を入れた瞬間、ぐぅ、と情けない音がした。

 ………まずは、腹ごしらえから始めよう。






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