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「…じんさま、ご主人様」


 何かに呼ばれているような気がして重い瞼を引き上げる。

 ………何処だっけ、ここ。

 ぼーっとしている私にまたも声がかかる。


「ご主人様、流石に、く、暗くなって、参りました。こ、ここを離れないと、お、狼が、来てしまいます」


 ご主人様?それに、このつっかえつっかえな喋り方……

 声のした方を向くと、慌てて下を向くライがいた。

 ……そうだった。ライがいるんだ。

 緩む頬が抑えられない。

 ライは下を向いていてそんなアホ顔には気付かないようだけど。

 …って、ん?狼?

 私は首を巡らせて周りを見渡す。

 そうか。森だから、野犬みたいなのが出るんだ。

 納得した私は起き上がって宿探しから始めることにした。

 草を掻き分けて進む私は、後ろについてくるライに聞いてみた。


「ねえ、ライ。この辺りに泊まれそうな宿ないかな」

「いえ、あの、こ、この辺りは、町から、その、離れておりまして、歩いて行くのには、ま、間に合わない、の、では、ないかと………」


 だんだんと尻すぼみになっていく言葉にライを振り返る。

 びくりと目を瞑り肩を跳ねさせたライに、うーんと唸る。

 別に怯えさせたい訳ではないんだけど、まあ、こういうのって慣れだよね。

 ライには慣れてもらうしかない。うん、頑張れライ。

 自己完結して、再び前を見る。


「じゃあ、あれって人の家かな?」

「は、え?」


 私の指差す先には、小さな小屋のような家があった。



「意外と揃ってる」

「あ、あの、大丈夫なん、でしょうか……?」


 勝手に入っても、とやっぱり小さくなっていくライの声に、なんとかなるなる。後で謝ろう。と適当に受け答えする。

 家を見つけた私達は、まず家の主人の留守を確認した。

 しかし、応答なし。

 このままでは野宿!と焦った私はつい扉を開けてしまう。

 すると、鍵はかかっていなかった。

 ラッキーと私はノコノコと、ライはびくびくと家へ上がり込んで、現在に至る訳である。

 家具や生活するために必要な道具は一通り揃っているにも関わらず、この家はなんだか寂れているというか、人の気配がない。

 埃は何年も人が入っていないような積もり具合だった。

 きっと、何らかの事情で出ていったか、帰れなくなったか。

 深いことを考えてもしょうがないので、まずは掃除を始めた。

 ライに、慌てた様子でご主人様は座っていて下さいと引き留められたが、1人より2人の方が捗るに決まっている。断固拒否した。

 何とか生活出来るだろうというレベルまで終わった時には、とっぷり夜になっていた。

 魔法で光を使っていたから気付かなかった。

 ライも今気付いたようで、慌てて、「りょ、料理を、お作り、致します…!」と台所に向かって「あっ」と声を上げていた。忙しいやつである。

 すごすごと戻ってきたかと思ったら、俯いたまま、震える声で言った。


「しょ、食材が、ありません、でした」


 確かに。


 仕方がないので、お風呂だけ入ることにした。

 そのことをライに言うと、「ひ、火を焚いて、参ります!」と駆け出そうとしたのでストップをかけた。


「大丈夫。お湯に出来る」


 私が水を出して更に火を出して温めると、ライは感動したように、「ほ、炎だけではなく、水も、扱えるのですね!す、凄い、です!ご主人様!」と湯気の立ち上るお風呂を見つめていた。

 普通は出来ないのか聞くと、普通は1つの能力しか持って生まれることはないのだそうだ。

 極稀に2つ能力を持つ者がいるそうだが、魔力の強い王家の人達くらいらしい。

 ………どうしよう。言えない。

 この世界の能力原則、炎、水、雷、氷、風、土、念、光、闇の全てを使えるだなんて。言えない。

 先程、光を使っていたのには気付いていないのだろうか?

 炎と間違えたのかもしれない。

 まあ、いつか気付くだろう。

 その時まで放っておこう。面倒くさいから。


 先にお風呂に入った私は、「お次どうぞ」と自然にライに言うと、「と、とんでも、ありません。い、卑しい、奴隷めの私は、み、水浴びをさせてもらえるだけで、十分に、ございます」の言葉に目を剥いた。


 1日の汚れはお湯でしっかり落とす!これ常識!


 私はライを捕まえて磨きあげた。

 ライはこのかたお湯に触ったことがないようで、「あ、温かい……!」と泣いて感動していた。

 うむ、よきにはからえ。

 風を使って乾かすと、「か、風も、使えるの、ですか……!」と早々にバレた。

 どうせだから、全部使えることを伝えると、目をかっぴらいて絶句していた。

 なんか、ごめん。


 とりあえず今日は寝ようということで、ベッドに向かったのだが、ここで問題が1つ。


 ベッドが1つしかありません。


 ライにとっては特に問題ではなかったらしく、「それでは、お休みなさいませ」と床に寝そべり出した。

 ちょ、待て!せっかく洗ったのにまた汚す気か!

 もうこの際恥ずかしいとか言ってられん!と私が無理矢理ベッドに入れようとすると、「わ、私は、まだ、あの、そちらの経験が、なく、ご主人様を、あの、満足させることが、出来ないと、思います…が、ど、どうしてもとおっしゃるなら、…!」と訳の分からないことを言い出した。

 誰が下ネタ言えって言ったよ。


「変なことしたら叩き出すから」


 と、それだけ伝えてライを抱き枕代わりにして布団に潜った。

 固いし、ゴツゴツしたけど、人の体温に安心したのか、疲れていたのか、すぐに意識が薄れていった。



 意識が薄れていく中で、鼻を啜る音と「あったかい…」という声が聞こえた気がした。





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