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24

 

 ぱちりと目が覚めて、隣で眠るライを見つめる。


「……ごめんね」


 音を立てないよう、慎重にベッドから降りた私は部屋から出て静かに扉を閉めた。

 しんとした廊下を進み、棟から出ると、私は後ろの気配に話しかけた。


「君は、エヴィかな?何をしに来たの?儀式は明日だと聞いたのだけれど」


 後ろを振り向くと、どうやって隠れていたのか、闇の中から白い人影が現れた。

 いつものにやりとした顔をして、エヴィは答えた。


「何も。ただ単にお前さんと話がしたかっただけじゃ」


 あの3人をも懐柔した、聖女をな。

 そう言って笑みを深くしたエヴィに、首を傾げた。


「懐柔したなんて、覚えはないのだけれど」

「なんと。今回の聖女は大胆な上に鈍感らしい。これは面白いのぉ」


 にやにやと笑って私を眺めるエヴィに、不快感を隠さず私は尋ねた。


「君、魔王と対等な関係って聞いたけど、それなら君からこんな馬鹿なこと止めさせるようにいってくれないかな?」

「それは、出来ぬな」

「どうして?君は、いつもふざけているけれど、頭がおかしいようには見えない。手を組んでいるということも考えられるけれど、私と会話をしようとするということは、そうではないと考えたのだけど」


 エヴィはそう言った私に驚いた表情をした後、嘲笑うようにふっと息を吐いた。


「……ハーゲストは、わしのせいで()()なった。わしは、ハーゲストに付き合う義務がある」

「そう。でも、私にはそんなこと関係ないよね?私は、()に御願いしているのだけど」


 そう問いかけた私に、エヴィは目を丸くした後、腹をかかえて笑いだした。失敬な。

 涙を拭いながら私に向き合ったエヴィは、やっと笑いをおさめて問いかけた。


「のぉ、自分のせいである人の大切な人を奪ってしまったとしたら、そなたならどうする?例え自分が嫌だと思っていることであっても、その人に尽くすのであれば、それをするのは当たり前じゃろう?」


 自分がやりたくないと思っていることをエヴィはやっているのだろうか。

 尽くす?尽くすって、何だろう。

 どれくらい考えたのか分からないけれど、エヴィはその間じっと待っていてくれた。

 私は顔を上げて、自分の答えを告げた。


「本当に、そうかな?反省して、償わなければならないとは思うけど、嫌なことを押し付けられるというのが尽くすということならば、それは違うと思うよ」


 尽くして大切な人が返ってくるならば、そうすればいい。

 けれど、そうでないならば、尽くす意味はあるのだろうか?

 自分からしようと思わなければ、それは償いではない。

 私は胸をはって答えた。


「嫌ならば嫌と、言ってしまえばいい。例え全員が間違っていると答えたとしても、私ならばそうする」


 私だって、奪われた側だけれど、嫌なことをしてまで尽くしてもらおうとは思わない。

 その答えに、エヴィは少しだけ笑って俯いた。

 顔を上げたエヴィは、いつものにやにやとした笑いではなかった。


「そうじゃのぉ。もう、いいのかもしれんの」


 何が、とは聞かなかったけれど、どこかスッキリしたような顔のエヴィに私は驚いていた。

 そんな笑顔も出来るんだね。

 姿だけは美少年のエヴィに眩しさを感じながら瞬きをすると、「今更じゃがの」とエヴィは笑顔に陰を落とした。


「すまんかったのぉ。許してもらおうとは思わん。それに、明日、お前さんの命をも奪ってしまうことになるじゃろう」


 だが、今だけは、謝らせてほしい。

 エヴィは、普段なら絶対にしないのに、この時だけ深く深く頭を下げた。

 私は「もう、いいよ」とは言えなかった。

 そんなこと、言ってはいけない。いけないから。

 ぽん、と肩を叩いた。

 エヴィの身体が、震えていたような気がした。





「ここに来るのは、二度目だね」


 夜が明けて、自分の部屋で支度をし終えた私を迎えたのは、ハーネだった。

 私は、微笑むハーネに連れられ、見覚えのある地下への道を進んでいった。

 今度はトンネルを扉の前まで歩いたハーネと二人、向き合う。

 ライとは、お別れも済んだ。もう、大丈夫。


「君が、こんな役をもうしないことを、願っているよ」

「……ええ、そうですね。ありがとうございます。…ただ、1つだけ、言っても宜しいですか?」

「いいよ」


 そう言うと、ハーネはにこりと笑って言った。


「貴女は、出会った時からですけど、他人の心配ばかりして、馬鹿ですね」


 本当に、馬鹿みたいに優しい。

 俯いたハーネに、私は笑顔で答えておいた。


「馬鹿の方が、人生楽しいもんだよ」


 ふふっと笑うハーネの口許が震えているのに気付いたけれど、私はくるりと向きを変えて一言だけを告げる。


「じゃあね」


 そして私は、躊躇うことなく扉を開いた。


「待たせたね、魔王」


 最後の最後、この最低な物語に、抗うために。







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