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 あるところに、魔王がいました。

 魔王は、とある人間の国と約束をしました。

 それは、自分達の国を守ることと引き換えに、自分達の国に突然現れた人間の娘を差し出すというものでした。


 その娘は、「 」と呼ばれていました。



 そんな始まりのお伽噺を、カリーナさんから聴いたことがある。

 自分の生まれる前からあるそのお伽噺は、多くの者が知っていると答えるだろう。

 しかし、娘がなんと呼ばれていたのか、誰にも分からない。

 そう、カリーナさんは付け加えた。


 何十冊目かの本を閉じながら、私はそんなことを思い出していた。




「聖女には基準があった?」


 3人を糾弾してから、2日後、彼等は思い思いの謝罪を私に告げてきた。

 謝る相手は私ではないことを述べると、「お前しかいないのだから、それでいいんだ」とサーヴェンは答えた。

 何と都合のいいことか。

 それでも、彼等には付き合ってもらわなければならないのだから、形だけ受け取ることにした。

 それから、聖女について私に伝えていないことを話すよう命ずると、「もっと蔑むように言って!!」とマークスがねだってきたが、華麗にスルーしておいた。

 彼等からの情報を集めると、聖女には基準があり、その基準を通過した者を「合格」と判断していることが分かった。

 けれど、未だ「合格」した者はいない。


「そうだ。だから、合格するとどうなるのか、俺たちにも分からない」

「分からない?」

「ああ、宰相のデイルでさえ、知らないはずだ」


 デイル?

 …………………………あ。思い出した。あの、幸薄そうな顔のおじさんか。

 宰相って、王様の次に偉い人なんじゃないの?

 そんな人でさえ知らないこと(実験)を実行するなんて。


「君たちの王様って、よっぽど信頼されてるんだね」

「いや、その逆だ」

「逆?」


 頷いたサーヴェンに、マークスは首筋を掻きながら弁明をするかのように小さい声で告白した。


「実は、怖くて誰も逆らえないんだ」

「怖いぃ?」


 さっきから聞き返してばかりだ。

 だけど、分からないことばかりで聞き返さざる負えないのだから、仕方がない。

 すっとんきょうな声をあげた私に、マークスは仕方ないだろ!聖女たちと負けず劣らず魔力量が半端じゃないんだから!と抗議した。

 その通りです。ですが、と黙って立っていたアランが眉間に皺を寄せて言った。


「王と唯一対等な立場にいる者がいます。者、というのは正しくは違うのかもしれませんが」


 ここに来てから姿を見せないと思ってはいたが、もしや。


「エヴィ?」

「そうだ。王とエヴィは、怒らせてはならない存在だ。怒らせれば、国が滅ぶ。俺はそれを避ける為にも、お前を逃がす訳にはいかなかった」


 聖女たちが、俺たちと一緒で死ぬのだと知っていたら、お前を連れ戻さなかったのに。

 サーヴェンは唇を噛み締めた。


 聖女たちが俺たちと変わらない、ただの人間だって気付かなかった。謝って済む問題じゃないことは分かっている。だが、謝らせてほしい。済まなかった。


 サーヴェンは謝る時、そう言った。

 だけど、()()()()()()()なんて、ありえるのだろうか?

 目の前で、殺されるのに?


 私は、聖女たちを立てなくなるまで追い詰め、魔力を吸いとらせていました。

 そのときに気付くべきだったのです。聖女がただの人間だと。

 本当に、馬鹿なことをしていました。

 すみません。本当に、すみませんでした。


 アランは謝る時、そう言った。

 つまり、自分たちと同じように生きて同じように死ぬ存在だと分からなかったということだ。

 聖女は、どんな存在だと()()()()()いたのか?


 濃い茶の髪色に黒の瞳の女って限定されて、更に暴れさせないように魔法をかける陣を作れなんて、国のためな訳がないのにね。

 どうして僕は疑わなかったのかな。

 少しでも疑っていれば、気付けてたのかな。

 あんたに謝っても仕方ないけど、ごめん。


 マークスは謝る時、そう言った。

 条件をつけて連れてくるなんて、まるで誰かを()()()()()ようではないか。

 どうして誰も、気付かなかった?


 中々嵌まらないピースに頭がごちゃごちゃする。

 とにかく、今のところ分かったことは。


「暗い茶色の髪に黒い眼をした女のことを調べて」


 この人物がキーワードであるということだけだ。


 それぞれ調べ始める中で、私は図書館に行きその人物の資料がないか本を漁っていたのだが、探し始めは高かった日がもう沈み始めていた。

 ふらりと図書館に来て、途中から一緒に探し始めてくれていたライも「そのような女の人の資料はどこにもありませんね」と首を横に振っていた。

 そもそも黒い眼という人種が、滅多に居ないのだ。

 いや、待て。そう言えば、誰か、それ(黒い瞳)に当てはまる人物が居なかったか?


 そう、確か、あれは。


 本を閉じながら少しだけ昔のことに思いを馳せる私の耳に、扉の開く音が聞こえた。

 音のした方を向いた私は目を見開いた。

 君は、まだここにいたんだね。


「ハーネ」


 呟いた私に、彼女は深く礼をすると、目を細めて微笑んだ。






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