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16

 

「私」は読書をしていた。

 ここまでのあらすじは、王子と市井の娘が恋に落ち、家族からの反対を受けた二人。

 二人が結ばれるために、駆け落ちをしようと王子が熱心に娘を説得している、というものだ。

 だが、娘はなかなか頷かない。

 普通ならば、どうして頷かないのだろうとやきもきするところだろう。

 けれど、「私」は、納得してしまう。

 何故なら、「私」は娘の気持ちが分かるからだ。

 身分の差のある二人には、身分相応の相手が相応しい。

 王子には、幸せになるための相応の相手がいるはずだから。

「私」とは、結ばれてはならないのだ。

 読書をする「私」の膝の上で気持ち良さそうに寝ている貴方にこんな気持ちを話したならば、きっと貴方は怒るでしょう。

 思わず、クスリと笑みが溢れる。

 もう、目の前まで「私」たちを引き離す為の準備が出来ているというのに。


 捕まった「私」に、貴方は「愛してる」と叫んだ。

「私」は、笑みを象ったままだった口を開き、静かに息を吸った。



 私はそこで、はっと目が覚めた。

 変な夢だった。安いドラマでも見せられているようだと思った。

 けれど、あんなにリアルな夢は初めて見た。

 まるで、自分が体験したかのような感覚だった。

 首を傾げながらも、ここはどこだっけ、と更に反対側に首を傾げた。

 ぐるりと広い部屋を見渡し、そういえば、ディアボロの(魔王)城へ来たのだと思い出す。


 サーヴェンへ、ライと同行付きを条件にだが、着いていくことを告げると、やつはすぐに兵士を自分の元へと帰らせた。

 そのまま襲撃することも出来たのに、やっぱり真面目なのだろうかと目を細めて眺めた。

 私の視線を感じて、なんだ、というサーヴェンに「何で私がこれで着いてくるって思ったの。もしかしたら、(グラッジョ)を捨てたかもしれないのに」と聞くと、「一月の間にただ演技しただけだと思ったのか。お前の分析も兼ねて観察していた。その結果を元にした対策に決まっているだろう。馬鹿が」と罵りも加えた解説を下さった。やっぱり真面目だよね、君。

 分かった。こいつは、お国(ディアボロ)大好きな真面目くんってところだろう。あながち間違ってないはず。

 認識を改めながら、歩いて着いていくと、暫くして騎獣を発見した。

 サーヴェンたちは、これに乗って来たようで、私とライも用意されていた騎獣に乗り、前を走るサーヴェンに着いていく。

 もう二月くらい間があいていたから、忘れてしまっていたかと思ったが、エヴィに教わった騎獣の扱い方は体が覚えていたようだ。

 こういう、四人に教わった教養(もの)が役に立つ場面があると、感謝をしていいのかどうか複雑な気持ちが胸を占める。

 結局、エヴィを心のなかで罵り、騎獣の頭をなでて感謝の意を表しておいた。


 騎獣の走るスピードはとても速い。

 半日もせずに辿り着いたディアボロの城の前で、サーヴェンは幾つか条件をつけた。


 まず、私は魔法を使わないこと。

 そう言うと、私に掌を合わせさせ、合わせた両手をぐるぐると包帯で巻いていった。

 目を丸くしている私に「これで魔法は使えないな」と満足気にどや顔を向けてきたけど、おい。


「生活を送る上でとても不便だと思うのですが?」

「大丈夫だ。後でマークスに術をかけてもらう。これはそれまでの応急処置だ」


 敬語で嫌味っぽく言ってみても効果がない。

 マークスって、あれか、チャラ男か。

 あいつの言葉はいちいち寒気がして困っていたのだ。

 なるべくなら会いたくはないのだけれど、このままは嫌なので仕方がないだろう。


 次に、ライは同じ場所には連れてこれないということ。

 これには私は猛反対した。最後の時までライにはついていてほしかったのに。

 けれど、魔法の使えない聖女()はただの聖女(ポンコツ)

 ライも抵抗はしていたけれど、多勢に無勢。あっけなくライはどこかへ連れていかれてしまった。

 ライを傷付けたら死んでやると脅したから、きっとライは大丈夫だと信じる。そうじゃなきゃやってらんない。


 最後に、もう暫く、ここで過ごすこと。

 すぐに終わると思っていたから、これには驚いた。

 私の死期を延ばして、何がしたいのだろう?

 私に分かるわけがないので、考えは早々に放棄したが。


 それだけ同意させられると、あれよあれよというまに連れていかれ、メイドさんたちのおかげで両手が塞がったままでも何不自由ない半日を過ごせ、今に至る訳である。

 今日は流石にこれをとってもらおう。

 自分の両手にぐるぐる巻きにされている包帯を見つめながら決意していると、コンコン、とノックする音が聞こえた。

 返事をする前にガチャリとドアが開けられたと思ったら、サーヴェンだった。

 普通、返事をする前に扉を開けられ、行くぞ、と無遠慮に声をかけらようものなら、世のレディは大激怒するということを知らないのだろうか、こいつは。

 憎らしいつり目の真面目男を睨みながら、まだ支度が出来ていないことを告げると、舌打ちと共に、「ノロマが、早くしろ」のお言葉を頂戴した。

 ほんと、前との差、半端なくありすぎだろ。前だったら、私の部屋に入った時点で「あ、お、お前、まだ着替えてないのかよ!は、早く着替えろよ!」と顔を真っ赤にするような純情ボーイだったはずなのに。実はこいつの方が役者向きなんじゃないだろうか。

 ブツブツと文句を言いながら、メイドさんに手伝ってもらい着替えを済ませ、サーヴェンに連れられていくと、私が入ったことのないような奥の部屋へと進んでいった。

 サーヴェンは「入るぞ」と短く告げると、直ぐ様扉を開けた。

 いや、だから、返事させろよ。

 中の人を哀れに思いながらも私も部屋へと入っていく。


「ちょっと!返事をしてから入れって何回言ったら分かるんだよ、この堅物!」


 慌てた様子でこちらを振り向くそいつは、私を見て「げ」と顔を盛大に歪めた。


「僕を好きになんない聖女(へんじん)じゃん。最悪」


 おい、お前、聖女とかいて何と読んだ。祟られろ。

 グラッジョ一等魔術師、マークス。お前だけは絶対に許さないからな。





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