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 こちらの様子を伺うように動きを見せないサーヴェン一行。

 いや、動けない、かな?

 何せこの家の周りには(聖女)の結界が張ってある。

 おいそれと簡単に壊せるものではないはずだ。

 きっと先程も魔法で攻撃したのだろう。ふっふっふ。(聖女)を舐めるんじゃないよ!


「……不可侵条約があるからこっち(グラッジョ)には入らないんじゃなかったの」


 心の中で高笑いをしながらも表では冷静に切り込む。

 これだけ兵士を連れてきたのだから、話し合いには応じないかとも思ったが、意外にもサーヴェンはふっと嫌な笑みを浮かべて答える。


「お前が他人(グラッジョ)の心配か?ディアボロの役にも立たずに逃げ出した腰抜けが」


 何だろう。こいつ、もっと溌剌としてなかったか?

 ただの嫌みなやつになってるけど。ある意味話し合いにならなそうだ。

 一番感じのよい人柄だと思っていた分、落差が激しくなっているように感じるのか?

 自然と眉間に皺が寄るのを感じながらも「着いては行かないよ」とスルーして自分の意見だけ述べた。

 どうせ、私が魔法を使えないように拘束して連れていく気なのだろう。

 いくら万能とは言えども、発動条件の両手を閉じてしまえば(聖女)は無能になる。それが分かっていて、みすみす着いていく馬鹿ではない。


「いいや、お前は俺に着いてくる。嫌でもな」


 そう言うと、サーヴェンは「町へ、出撃!」と兵士たちに命じる。兵士たちは1人残らず、木々を掻い潜ってサーヴェンの示した方向へと進んでいく。

 町へ、って。

 まさか。


「あんた、まさかとは思うけど」

「お前みたいな単細胞でも理解出来たか。そう、お前は戦争の火種だ。着いてくると言わない限り、この兵隊が止まることはない」


 馬鹿か!どれだけの被害が出ると思ってるんだ!

 サーヴェンが止めないのなら、私が止めればいい。

 手を翳そうとした私の考えが分かったのか、「兵隊はここだけじゃない」と町の方を指差した。


「反対にも兵隊を置いておいた。今居る兵隊だけじゃない。俺の指示で何度も何度も来るようにしておいた。お前が無駄な足掻きをするかもしれないと思ってな」


 この、外道め。


「外道が」

「何とでも言うが良い。俺は俺のやり方でディアボロに貢献するだけ。殺すしか脳がないあいつとは違ってな」


 あいつ、と言ったサーヴェンの顔が憎らしげに歪む。

 誰のことだ?

 殺す、って、もしかして、アランのこと?

 一応、暗殺者だって言ってたし。


「何、仲間割れ?」

「ふん、仲間などと。ただ同じ舞台に上がった役者同士であるだけだ。仲間などという寒々しい存在だとは欠片も思ったことはない」


 そもそもあいつはディアボロへの忠誠心が全くないからな、と吐き捨てるように呟くサーヴェン。


「面白いことにしか興味がない変人だ。ここに来ているはずの癖に報告も何もなかったことが何よりの証拠だ」


 アランは本当に報告をしなかったらしい。

 それなのに、毎日来てたのか。確かにあいつ(アラン)の考えは分からないな。

 心の片隅でそんなことを思いつつ、目線だけ動かして考える。何か。


 それより、とサーヴェンが今までの歪んだ表情から一変して、上から見下ろす笑みに変える。


「いいのか?こんな話をしている間も町への行進は進んでいるんだぞ?まあ、好きにするがいい。お前のせいで(グラッジョ)が滅ぶだけだからな!」


 うるっさいな!

 少しでもいい案はないかと、会話をしている間に頭を巡らしていたのだが、全く思い浮かばない。

 何か。何か。何か。

 考える私の耳に、きぃ、と扉の開く音が聞こえた。

 振り向くと、そこにはやはり、ライがいた。


「ライ…」

「逃げましょう。貴女がここに滞在した時間は短かったはずです。自分の命よりも大切なものなんて、ここにはないでしょう?」


 出てきたライは、諭す口調なのに、泣きそうな顔をしていた。

 私から今までの経緯を聞いたライには、今のこの状況が私の命の危機であることを誰よりも分かっている。

 また盗み聞きしてたのか、とか、いつもタイミング良すぎるとか、いろいろ思ったけど、最終的に頭に浮かんだのは、ライじゃなくて、お互い様だよ!と笑うカリーナさんの姿だった。

 これを言ったら、ライは一月も付き合いのない人でしょう!お人好しにも程があります!とでも言いそうだ。

 それでも、うん、やっぱり私はこうするかな。


「ごめん、ライ。どうも私はお人好しだったみたい」


 笑いたいはずなのに力が入らなくて、きっと今変な顔になってるだろうなあ。

 まあ、いいや。ライも相当変な顔してるから。

 ぎゅっと真ん中に皺を寄せて、唇を噛み締めているその姿は、まるで泣くのを我慢しているこどものようだ。

 その噛み締めた唇から、唸り声が漏れる。


「自分も、行きますから」

「うん」


 今度は目一杯の笑顔で言う。


「ごめんけど、ライを手放す気はないから!」


 相当自分勝手なことを言っている自覚はあるけど、これだけは譲れない。

 だって、離れたくないんだもん。

 ドン引きとまではいかないとは思っていたけれど、何故かライは顔を真っ赤にして何度も首を縦に振っていた。

 平衡感覚がなくなるまで頭を振り続けて、ふらふらとしていたライに先行きが不安になったのは、仕方あるまい。


 私の決断が下るまで馬鹿丁寧に待ってくれていたサーヴェンは意外と真面目なのかもしれないと思いつつ、私は告げた。


「君に着いていってあげるよ」


 望み通りにね、と私とライは結界の外へと踏み出した。

 こうして私は、望まぬ形で再び魔の国、ディアボロへと舞い戻ることになったのである。






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