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「ディアボロに引っ越そう」


 カラーン、とライの手元から離れたお玉の落ちる音が、リビングに響き渡った。



 事の始まりはつい最近、王宮からの町へ通達が来たことからだ。

 内容は、とある若い女を探している。国中の暗めの茶色い髪に黒い瞳の女を連れて来ること。


 完全に私ですね、はい。


 心当たりがありすぎるが、何故グラッジョからの通達なのだろう。

 来るとしたら、この間のようにアランのようなディアボロの関係者だと思っていたのに。

 そういえば、毎日来ていたアランをここ2日程見ていない。

 まあ、初めから友好的に近付いて来ている訳ではないから、あちらにも考えがあるのだろう。

 私にとって良くない方向に。

 内心冷や汗を掻きながらも心の声が漏れないよう、カリーナさんに尋ねてみた。


「どうしてその方を探しているんでしょうね?」

「……息子に聞いたんだけどね、何でもその女ってのは、あの(・・)魔の国で何かやらかしたお嬢さんらしいんだよ。魔の国から逃亡してグラッジョに逃げ込んだってね。不可侵条約があるから探しに来ないらしいんだけど、見つけたらすぐさま連れてこいって上から目線で言われたみたいなんだよ。……まあ、仕方ないね。今のグラッジョは、魔の国に勝てる見込みはないからね」


 息子さんは、まだ幼いながら魔力保持量の一定水準を越えていたようで、王宮と関わりの強い学校へ通っているのだそうだ。

 関わりが強いのは伊達ではないらしく、詳しい内容を耳にすることがあるのだろう。

 溜め息を吐いているカリーナさんの隣で、私は全く違う意味で溜め息を吐く。

 何てことだ。

 不可侵条約が裏目に出るとは。

 これでグラッジョに助けを求めることも出来ないし、秘密を告発することも出来なくなったってことか。

 まあ、元々そんなことするつもりはなかったけども。

 問題はグラッジョに居られなくなったことだ。

 家を対策万全にしても、家に居られないんじゃ話にならない。


 考え込んでいた私に更に追い討ちがかかる。


「全く、逃げ出した先がどうしてグラッジョだったのかね。他にもいろんな国があっただろうに」


 はい、おっしゃる通りでございます。

 あはは……と乾いた笑いをしながら、私はふとカリーナさんの瞳の色が黒だと気付いた。

 この付近にいる人達は皆似たような特徴の色彩のようで、色素の薄い人達が多い。

 だからこそ、黒という濃い色は目立ってしまう。

 カリーナさんはここの出身ではないのかな、とそんなことを考えていたら、カリーナさんと目があった。

 暫く見つめられ、とりあえず笑っておく。


「サーラ、どうするんだい?」


 真剣な目でこちらを試すように問われ、この人には敵わないな、と苦笑いしつつ答えた。


「明日から病弱の予定が延びると思うので、私の居ない間、敷地の番、宜しくお願いします」


 なあに、お互い様だよ!とカリーナさんは豪快に笑った。


 それからライと一緒に帰り、ずっと考えていた。

 そもそもさ、なんで私が逃げなくちゃいけないんだ?

 勝手に連れてこられて、勝手に聖女にされて、勝手に殺されかけて?

 挙げ句の果てには指名手配犯のように扱われるって、どう考えてもおかしいよね?

 こっちに連れてこられたのもあっち(ディアボロ)の都合だし、追われてるのもあっち(ディアボロ)に不都合があるからでしょ?

 どんだけ自分勝手よ。

 私だけじゃなく、ライにも手を出して、グラッジョにも脅しをかけて。

 自分達は高みの見物?


 馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ。


 家に帰りたいのを必死に我慢して、こっちの世界で生きるしかないのかもしれないって、諦めてたのに。

 そっちがその気なら、私にだって考えがある。


「ライ」


 今晩の御飯を作っていたライがお玉を持ったままこちらを振り向く。

 はい、と真剣な顔をしてこちらを見つめるライは、こうなることを予期していたかのように真面目に耳を傾けている。

 私の決断を見抜いていたのだろうか。


「ディアボロに引っ越そう」


 私は、ライがお玉を落とした音を聞きながら、見抜けていなかったようだと静かに目を閉じた。


「な、な、なん、なんでですか?!」


 その詰まり様、初めの頃のライを思い出すね。

 あの頃は可愛かったなあ。今も可愛いけど。と思考が脱線し始めると、「聞いていますか?!」とライが怒った口調で問いかける。ごめん、聞いてなかった。

 目を開けると、机を挟んでライと向き合っていた。いつの間に。


「どうしてディアボロなのですか?!他にも国はあるでしょう!」


 うん、カリーナさんにも言われたけどね。

 だけどさ、考えてみてよ。

 生き物ってさ、相手に対抗出来ないから、逃げる訳じゃない?

 それって、私には当てはまらないと思うんだよね。


「私、強いし」


 逃げる必要ないと思うんだよね。と言うと、そっ、そう、ですけど、とライの勢いが落ちる。

 あの時は形成が余りに劣勢すぎた。今度はこっちから攻めてやる。

 それにしても、目の前のライは、何だか納得しているようには見えない。

 私は、ですけど?とライの最後の節を聞き返す。

 ライは、基本的には私の意見に余り反対しないというのに、今日はやけに食い下がる。

 口を開けては閉め、開けては閉めを繰り返して、結局口を閉じたのを見届けて、それに、と続ける。


「あっちは逃がす気はさらさらないだろうしね」


 それはどういう意味、とライが言いかけると、外から何かが爆発したような音が聞こえた。

 もう来たのか、早いな。

 ライにそこにいるよう伝え、外へ出る。

 そこには、家をぐるりと囲むように立っている兵士の姿があった。

 中央の左右に分かれた兵士の列から前へ出てきたのは、態度も図体もデカい、赤髪。


「聖女、サーラ。お前をディアボロの反逆者として、拘束する」


 ディアボロ一等騎士、サーヴェンと名乗ったこいつは、さて、どんなヤツ(本性)なんだろうね。






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