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 月の明かりが夜の町を静かに照らし出す頃、ふらふらと覚束ない足取りで歩く男が1人。


「いっつ〜。まだ痛えよ。なんつー怪力女だよ、あいつ。次会ったらただじゃおかねえ」


 男の大きな独り言が辺りに響く。

 男が歩くのは滅多に人の通らない、云わば裏道。

 そんなところを通らなければならないということは、そういうことなのだろう。


「あのガリガリの醜いガキ、自分がいい主人に貰われたからって調子のりやがって……そうか、あいつをダシに金出させりゃいんだ。奴隷の売買も正式なもんじゃねえし、あのガキが欲しかったら金と交換とでも言えば」


 未だぶつぶつと独り言を呟く男は、さっと射す影に気が付かない。

 男が気付いた時には、首元に冷たいものが当たっていた。


「先程から貴方、ずっと1人でお喋りされていますけど、喋るのが趣味なのですか?それはよかった。私の質問にも快く協力してくださることでしょう」


 男の耳元から丁寧な言葉遣いの、しかしゾッとするほど気持ちの入っていない声が聞こえる。

 男が答えていないにも関わらず、後ろにいる影は話を進めていく。


「貴方が先日売った指輪。あれは大変貴重な物でしてね。どこぞの平凡な輩がもっていい代物ではないのですよ。あれをどこで手にいれましたか?………そうそう、このナイフね、新しくて切れ味がとてもいいんですよ。うっかり手なんか滑らせた時には、ね」


 男は首に入った痛みに気付き、慌てて答える。


「お、女、女が持ってた!い、いきなり森で会ったとき、お、俺の持ってた奴隷と交換で!」


 その答えに、なるほど。森で、と納得した声が聞こえ、男がほっとしたのもつかの間、後ろから新たな質問が降ってくる。


「では、その女の名前を教えてもらえますか?」


 その質問に男はない今までにないほど頭を回転させた。

 しかし、どうしても思い出せない。

 だって、女は名乗らなかったし、奴隷も女の名前を呼ばなかったから。

 知らない。

 出た答えに顔をざっと青ざめた男は、それでも仕方なく答えた。


「し、知らねえ」

「………そうですか」

「ほんとだ!知らねえんだ!な、なあ、信じてくれよ!ほんとに俺はあの女の名前なんか」


 男の言葉はそこで途切れた。

 ごとり、と何か重たいものが落ちた音が響く。

 月明かりは、いつの間にか雲に隠れて消えていた。


「ああ、うっかり手を滑らせてしまいましたねえ」


 見えるはずのない影がゆらりと動いた。


「さて、行きますか」


 聖女の元に。

 その言葉は、闇の中へと消えていった。



 ***



「……ねえ、これって売れると思う?」

「……た、食べれますし、売れるんじゃないですかね?」


 そう思うんならそのひくついた口元やめろ。

 言っとくけど、堪えきれてない笑いが端から漏れてんぞ。

 笑いたきゃ笑えと言うと、ライはふはっと息を吐き出した。

 息止めてたのかよ。


 私の手の中には、魔法で成長させたじゃがいも……らしきものがある。

 正確には「ウナパタタ」という野菜なのだが、ほとんどじゃがいもと同じ色、同じ形だ。

 しかし、こいつやけにデカイ。しかも、なんというか、キモい。

 何故か凸凹加減が絶妙で、人の身体をくねらせたように見えるのだ。

 題名「いやん」とかでいいと思う。

 こいつが初めてかと言うと、そうではないのだ。

 時折、こんな感じに変な形のウナパタタができる。

 いつぞやかは、マリリンされるモンローみたいなポーズとしか言えないものもあった。

 それを見て、やっぱりライは密かに笑ってたけど。

 そんな変な形はもったいないので、魔法で保管して家で料理に使っていたのだが、消費が追い付かず、いつのまにかいつも売りに出す篭の分くらいに貯まってた。

 それなら、変な形バザーをやろうということで、ウナパタタを整理していたのだ。

 野菜を収穫するときは二人でやっているので、お互い取っていないウナパタタの形は初めて見る物もある。

 ぱっと手に取ったものを、私は光の速さで投げ捨てた。


「ぎゃあああああああ!!!むむむむむ虫の形なんか気持ち悪くて触れるあああああああ!ていうか売れるかああああああ!」


 完全にあの(にっく)き黒い害虫の形だった!!

 気持ち悪い感触がした気がして、作業着に手をなしりつける。

 それを見てライはぶふっと吹きながら、私の投げ捨てたウナパタタを拾いにいく。

 おい、今笑ったろ。

 ライの行く方向を見ながら私は気付いた。


「そこら辺、結界張ってないから、すぐ戻ってくるんだよー」


 家を建てる上で工事のおじさんたちに、魔法が使えるなら結界を張っておけと言われたのだ。

 地味に魔力消費するが、魔力量が桁違いな私には何てことない。

 これで安全が保証されるなら、御安いごようだ。


「サラさん、どこまで投げたんですか。草に隠れてて見えない……あ、ありました。もう戻ります」


 代わりに取って来てくれたライにありがとーとお礼を言いながらライの方を向いた。

 ライの後ろに、動く影が、見えた。


「!」


 ライの方へ両手を翳す。

 キン、と高い音がしたと思った瞬間、影は気付いたら私の手前にいた。

 しまった!狙いは最初から私……?!

 ライを攻撃されて動揺した瞬間を狙い、結界をすり抜けて来たのだろう。

 魔法は魔力源である本人の精神状態に大きくつながることが証明されている。

 私が動揺して、結界が少しだが緩んだのだ。

 慌ててライに翳していた両手を外そうとするが、集中(コントロール)出来ない。

 やっと外せた時には、影とは、もう目と鼻の先。

 ヤバイ、これ死んだわ。

 そう確信した私と影の間に入り込む者がいた。

 あり得ない。だって、君はもっと遠くにいたじゃない。


「ラ」


 あれから少しだけ人間らしい身体つきになったな、とライの胸板で覆われた視界の中、ぼんやりとそう思った。






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