異世界転生して「ようこそ○○の町へ!」という町人Aになれたけど、ラストダンジョンがすぐ目の前にあった件
転生をする時に、神様から「3つ願いを叶えてやる」と言われた。
まず俺が望んだのは、小さい頃から好きだったゲーム『ドラグーン・クエスタ』の世界に転生をしたいということだ。
それから『高いコミュ力』と、『町を案内する仕事』。
せっかくならチート能力やハーレムを望めばいいのに、と思われるかもしれないが、分不相応な願いをしても、後で自分が苦労するだけだろう。
小さい頃から人付き合いが苦手で、ゲームだけが友達だった俺にとっては、コミュ症を治しつつ、ゲームで得た知識を活かせる仕事に就ければ、それ以上に望むことはないのだ。
そして望み通り、俺は町人Aに転生した。
外見はイケメンとまではいかないが、とても好感の持てる青年になっている。
俺がコミュ症だった原因は、大半が容姿のコンプレックスにあったから、これでコミュ症を解消できるに違いない。
仕事も希望通りに、町を訪れた旅人に「ようこそ○○の町へ!」と声をかける町の案内係になっていた。
旅人にも、町のみんなにも感謝をされる、素晴らしい仕事だ。
……まあ、ここまではいいよ。
俺の希望に、神様は十分に応えてくれたと思う。
ただ……。
ただ、さ。
この『ヘルハーミット』の町って、ラストダンジョンがすぐ目の前にあるんだよね!
いわゆる、勇者様御一行が訪れる「最後の町」なの!
だから、当然と言えば当然なんだけど――――
――――旅人が、まったく来ないんだよ!
「はあ……ヒマだ……」
俺は今日も町の入口で、旅人が訪れるのを待っていた。
「おう、お勤め御苦労さん!」
武器屋のおやじが声を掛けてくる。
「新しい武器を入荷したんだが、試しに装備してみてくれないか?」
「はい、いいですけど」
おやじが渡してきた剣を、俺は軽く手に持ってみる。
同時に、自分のステータスを確認してみた。
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名前:町人A
職業:町の案内係
レベル :17
最大HP:874
最大MP:730
力:185
体力:141
素早さ:163
魔力:225
運:17
装備
E:最果ての剣
体:町人の服
盾:なし
兜:なし
攻撃力:755
守備力:141
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「強っ!?」
なんだよ、最果ての剣って!
攻撃力が570もあるのかよ!
こんな武器、俺がゲームをやっていた時にはなかったぞ。
どうやらこの世界は、ゲームから多少のアレンジがされているようだ。
「ウチの新しい看板商品にしようと思っているんだ。良かったら、モニターとして使ってみてくれ」
看板商品って、いったいどんな奴が買いにくるんだ。
なお価格は850,000ゴールドで、一戸建てが余裕で三戸建てられる。
「そいじゃ、よろしく頼むぜ! お前の仕事には、みんな感謝しているんだ!」
ガハハハ、と豪快に笑い飛ばしながら、武器屋のおやじは去っていった。
ちなみに、おやじのステータスはこんな感じだ。
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名前:エミリー
職業:武器屋のおやじ
レベル :45
最大HP:999
最大MP:0
力:255
体力:255
素早さ:30
魔力:0
運:150
装備
武:なし
体:町人の服
盾:なし
兜:なし
攻撃力:255
守備力:260
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清々しいまでの脳筋である。
見ての通り、この町の連中はどいつもこいつもステータスが異常に高かった。
最初はバグかと思ったが、考えてみれば、ここはラスダン手前の町だ。凶悪な魔物たちが、そこらへんをウロウロしている。
そんな環境の中で日常を保ち続けるには、ただの町人といえど、これくらいのステータスが無ければ話にならないのだろう。
ましてや町の入口に立つ「町人A」の俺には、最初に魔物の襲撃を食い止めなくてはならないという役目があった。
そのためか、町の中でも圧倒的に高いステータスが割り振られている。
俺はふと、町の入口に気配を感じた。
「やい人間、今日こそ貴様らを血祭りにあげてやるぞ!」
現れたのは『サキュバス・ロード』だった。
真っ白な肌に、黄金色の髪。
露出の多い衣装が特徴のサキュバス・ロードは、冒険者を色香で惑わし、その精気と生き血をすするという。
サキュバス系のモンスターで最上位の強さを持つ彼女は、定期的にこの町を襲いにくるのだ。
「おい、なんだその剣は」
「え? ああ、さっき武器屋のおやじに借りたんだが」
俺は最果ての剣を振ってみる。
きらきらと、光の筋が空中に線を描いた。
「あっ、私それダメだ、たぶん苦手な属性。いつもの『どうのつるぎ』に変えてよ」
「アホか。どうして俺が、魔物の要望に応えなくちゃならんのだ」
「だって、強すぎるじゃん、お前」
サキュバスは口を尖らせて文句を言った。
俺は、町を襲いに来た魔物は全て倒しているのだが、どうしても人型モンスターを相手にすると、トドメを刺すのに躊躇ってしまう。
何度か見逃しているせいか、最近はこのサキュバス、やけに馴れ馴れしい。
……そう、これが俺の日常だった。
来るはずのない旅人を待ち、お呼びでないモンスターたちの相手をする。
まあ、たしかにさ、望み通りコミュ力は上がったよ。
今では町のみんなと、普通に挨拶をすることも出来る。
小さい頃から大好きだった『ドラグーン・クエスタ』の世界で、案内係という仕事に就く事も出来た。
でも……
でもさあ!
「ふふん、では勝負だ、人間! ……って、いつまでも『人間』と呼ぶのでは、なんとなく不便だな。 というわけで、そ、そろそろ名前を教えてくれても――」
「――――こんなん、違うだろうがああーーーーーーっっっ!!!!」
「きゃあっ!?」
俺が突然に声を上げたものだから、サキュバスはひっくり返って、白い下着が丸見えになってしまった。
「ど、どうした人間、何か悩みでもあるのか。性の悩みだったら、私が相談に乗ってやるぞ? といっても、私もまだ未経験なんだが――」
「違うわい! な・ん・で、ラスボス手前なんだよ! たしかに感謝されているけど、それ町の案内人じゃなくて、町の門番的な意味でじゃん! 普通のお客さんなんて一人も来ないじゃん!」
「お、落ちつけ、体調が悪いなら、今日のところは引き下がってやるから――」
「うるさい! 特にお前、ここんとこ毎日毎日、飽きもせずに来やがって!」
「べ、べつに、お前に会いたいからってわけじゃないんだからねっ!」
「ツンデレか! ていうかお前ら、そんなに人間を滅ぼしたいんなら、さっさと勇者がいる最初の城へでも攻め込めばいいだろう! あの城の周り、スライムとかゴブリンしかいねえじゃねえか! いくらなんでも不公平だろ! 俺の町なんて、メテオラドラゴンだのギガモスキートだの、名前からしてヤバイ魔物ばかりじゃねえか!」
俺はチート能力なんて望んじゃいなかった。
ただ『○○町の入口にいる、愛想のいいお兄さん』として、平穏に暮らしたかった。
半べそになっていた俺の頭を、サキュバスが撫でている。
「その、なんだ、私が悪かったよ。これからはあまり、来ないようにするからさ」
「……いや、それはそれで寂しい」
「ツンデレか!」
こうなったのも全て、俺を転生させた神様のせいだ。
クレームをつけてやり直してもらいたいところだが、神様は俺を転生させたきり、一度も姿を現さない。
「じゃあ、私が相手になってやろうか?」
モジモジしながら、サキュバスが言った。
「あ、相手といっても、エッチの相手じゃないからな! 勘違いするなよ!?」
「するか馬鹿」
日頃から命を見逃してもらっているお礼に、サキュバスが旅人の役を演じてくれるという。
「ほら、見た目だけなら私も人間っぽいし、練習相手くらいにはなるんじゃないか?」
「ふむ、なるほど」
「れ、練習といっても、エッチの練習じゃないからな! 勘違いするなよ!?」
「それはもういい」
「なんと、練習などいらないというのか! 大人しそうな顔をして、経験豊富なのだな。いいだろう、優しくリードしてくれるなら、私はお前に初めてを――」
「道案内の話だよな?」
そんなわけで翌日の昼過ぎ、「せっかくならお前の好みの服を教えてくれ」などとテンションの上がっていたサキュバスを、俺は町の入口で待っていた。
イメージしていたのとは違うが、ようやく俺の望みが叶うのだ。
(ようこそ、ヘルハーミットの町へ!)
(ようこそ、ヘルハーミットの町へ!)
頭の中で、何度も練習してみる。
うむ、完璧だ。いつでも来いってなもんだぜ。
浮かれ気味の俺は、群れをなして襲いかかってきた魔物たちを『最果ての剣』で片付けると、手鏡を見ながら、髪の毛を直してた。
町の第一印象は、すなわち俺の第一印象でもあるのだ。
感じの悪い町人Aがいる町で、どこの勇者が羽を休ませようなどと思うものか。
責任は重大である。
「……よし!」
意気込む俺の服が、くいくいと引っ張られた。
「あ、あのう……」
遠慮がちな声に振り向くと、とびっきりの美少女がそこにいた。
白いワンピースに麦わら帽子という、ラスダン手前のエリアには似つかわしくない格好ながら、その胸元では、清純さとは程遠い魅力的なふくらみが過半数を露出している。
「来た……んだけど?」
理想の女の子をチート能力で出現させてしまったのかと思ったが、それがサキュバスであることに、俺はようやく気が付いた。
「……あ、うん、似合っている」
「そ、そうじゃないでしょ、セリフ、セリフ!」
サキュバスは真っ赤になりながら、目を逸らす。
……セリフ?
ああ、そうか、そうだった。
肝心のセリフを忘れていた。
「いや、俺も今来たところだよ」
「デートか! デートの待ち合わせか!」
切れ味のあるサキュバスのツッコミに、大きなおっぱいが揺れていた。
「もう! 自分の役割、忘れちゃったの?」
「ああ、いや、そういうわけじゃないんだが……」
普段、制服姿しか見ていないクラスメイトの私服を、外で見かけたときの違和感みたいなものだ。
決して一目ぼれをしたとか、そういうことではない。はずだ。
OKOK、もう大丈夫。
俺は名もなき町人Aだ。
やるべきことはただ一つ。
「よ、ようこそ! ここはヘルハム――――っ!?」
噛んだ。
噛んでしまった。
あれだけ練習したのに。
サキュバスが、わざわざ協力してくれたのに。
「うう……ぐすっ……やっぱり俺は、ダメなんだ! 転生したって、外見が変わったって、コミュ症には違いないんだ!」
「ほらほら、気にしないの。最初は誰だって下手っぴなんだから……もう一度、ね? 一緒に頑張ろうよ。ほら、がんばれ、がんばれ!」
サキュバスが頭を撫でて慰めてくれる。
この角度からだと、おっぱいが視界の3分の2を埋め尽くしていた。
「えっと、じゃあ私、もう一回その辺から来るから」
仕切り直しで、少し離れたところからサキュバスが歩いてくる。
……はあ、いい子だよな、この子。
なんだかんだ俺を気遣ってくれるし、超可愛いし、超おっぱい大きいし。
……おっと、余計なことを考えていたら、また失敗してしまう。
俺は意識を集中して、町の入口までやってきた彼女に、明るく元気に声を掛けた。
「ようこそ、ヘルハーミットの町へ! 俺と結婚してください!」
「え……ええっ!? あ、はい……私で良ければ!」
挨拶のついでに告白して、OKまで貰ってしまった。
いいのか、これで。
ヘルハーミットの町の入口に、赤い屋根の小さな家が建つのは、もう少し先のお話。