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鬼譚―陰陽記―  作者: こ~すけ
第三章 真実
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三.

「そ、それと……もう一つ言わせてほしいことがあるの」

 俺が智也のことを考えていると、綾奈が改まった口調で言う。俺が視線を向けると、綾奈も上目遣いで俺を見ていた。

「なんだ?」

「えっと……その……」

「ん?」

 言いたいことがあると言った綾奈だが、なかなか二の句が出てこないようだ。俺はなんのことだか分からず首をかしげた。

「わ、私が言いたいのは、総真と……片桐明華のこと」

「俺と明華のこと?」

 ますます分からない。俺と明華のことなんだから昨日のことに関係しているのは分かるけど、それについて綾奈がなにを言いたいのだろうか。

 俺が首をかしげたまま綾奈を見続けていると、顔がさらに赤くなっていく。口はなにかを言いたそうな、それでいてそれを拒んでいるように唇を噛んでいる。だが、それもついに限界を向かえて、口が大きく開かれた。

「――――っ! あんたたち二人が付き合ってるってこと認めてあげる!」

 俺に向かってビシッと指をさし、綾奈が言った。しかし俺はその言葉が理解できずにあんぐりと口を開けていた。はたから見るとさぞかしまぬけな姿だったはずだ。

「は?」

「なにバカ面してるのよ! なんか言いなさいよ!」

「ま、待ってくれ……訳が分からないんだが」

 俺が言うと、綾奈は大きなため息をついた。

「察しが悪いわねー……昨日、私が内緒であんたたち二人のことをテストしてたのよ」

「……お前、尾行してたことを正当化しようとしてないか?」

「そ、そんなことあるわけないじゃない!」

 すぐに否定してくるあたりむちゃくちゃ怪しいんだが……まぁいいか、追及しても無駄だろうし。

「と、とにかく、私の見たところあんたたち二人はギリギリ合格ね」

 わざわざ「ギリギリ」を強調しながら綾奈が言う。いったいなにを基準にしてそれを言っているのか激しく問いたいところだ。

「……しかたないから認めてあげるわ」

 綾奈はフンッとまた顔を背ける。

「それはどうも――ははは」

「どういたしまして」

 そう言って綾奈が笑顔を見せた。ホント素直じゃないやつだ。けど、だからこそ今言ってくれた綾奈の言葉が最大の賛辞だということも分かる。

「嬉しいよ、綾奈。――ありがとう」

「分かってる。けど……」

「けど?」

 綾奈の顔から笑顔が消えて、少し顔を伏せる。

「……私はあきらめないから」

「は? 聞こえないぞ?」

 その綾奈の雰囲気に、心配になった俺はもう一度聞こうと顔を寄せた。

「――うっさい! アホ総真!」

「てっ!」

 そこに思いっきり蹴りを入れられる。……かなり痛い。昨日のビンタの時も感じたが、綾奈はいつの間にやら体術関係もレベルアップしているみたいだ。正直、これをくらい続けるのは酷だ。体が持たない。……俺も少し鍛錬の時間増やすかな。回避術をもう少し底上げしよう。

「あんまり力入れてないからそんなに痛くないでしょ!」

「……いや、痛いけど」

「そう? 急所に入ったかしら? まぁ、いいわ。私は言いたいこと言ってすっきりしたし、帰りましょ?」

 綾奈は言葉通り、かなりすっきりした表情をしている。そして、今来た道を今度は正門の方に向かって歩き始めた。しかし俺は、今度はその後をすぐにはついていけなかった。

 俺が立ち止まっていることに気がついた綾奈が、俺の方へと振り返る。

「総真ー? なにしてるの? 早く行こうよ」

 少し不満そうな顔をして、俺の方へと戻ってきた。

「綾奈、すまん。先に帰っていてくれるか? 俺はちょっと寄るところがあるから」

「寄るところってどこ?」

 今度は綾奈が首をかしげる番だった。その仕種に合わせて、ポニーテールも一緒に揺れる。

「明華のところに行ってくる。お前と仲直りできたし、あとはあいつだけだ。それに聞きたいこともあるからさ」

 できるだけ深刻さを出さずにやんわりとした口調。そして笑顔を向けながら綾奈に行先を伝える。

「……あの子のところに行くの?」

「あぁ、すぐに帰ってくるよ。だから先に帰っていてくれるか?」

 智也が背中を押してくれて、さらに綾奈が向き合うことの大切さを教えてくれた。だから俺はもう怖くはなかった。明華と会って、昨日のことを聞く。ただそれだけのことだ。俺一人で十分事足りる。

「いや! だったら私も一緒に行く」

「……おい」

 だが、目の前の綾奈は、そうは思わなかったらしい。自分もついていくと主張し始めた。

「すぐ帰ってくるって言ってるだろ?」

「すぐっていつ? 何時何分何秒ですか?」

「お前……そんなガキみたいな」

「ガキって言うな!」

 ガキじゃねぇか! というツッコミを口の中で噛み砕きつつ、俺はどうしたもんかと考える。

 正直、二人きりの方が綾奈には悪いが明華も話をしやすいだろう。綾奈を連れて行くのはいいんだけど、それで話が聞けなかったら本末転倒だ。ここは我慢してもらおう。

「あのなー……」

「だって、私だってあの子にはいろいろと謝りたいから。これまで少しきつく接してたこととか……謝ってこれからは仲良くしたいし……それに、それに……昨日のこともやっぱり心配だし」

「綾奈……」

 意外だった。綾奈が明華のことをこんなにも考えていることに……。言っちゃ悪いが、二人が合わないのは相性の問題だと決めつけていた。俺も綾奈に制止をかけたりはするが、別段に仲良くしろとは言ったことはない。

 大人しい明華と活発な綾奈。二人の性格が反対なのは見れば分かる。その間に俺と智也が入って緩衝剤になればいいくらいにしか考えていなかったけど……こいつは、綾奈は真剣に歩み寄ろうとしてたんだな。そして、その切っ掛けをずっと探していたのだろう。

「……分かったよ。じゃあ一緒に行くか」

「いいの!?」

「だめって言ってもついてくるだろ?」

「ふふん! さすが総真、よく分かってるわね」

「偉ぶるな。……ただし、もし明華が、二人がいいって言ったら大人しく帰れよ?」

「……なにそれ、いやらしい言い方……変態!」

「違うわ! ……それより分かったか?」

「はいはい! りょーかい! そうと決まればさっさと行きましょ」

 軽く返事をして、綾奈が歩き始める。その後ろ姿に俺はため息をつく。仲直りした後の綾奈は、なんだかこれまで以上に行動が積極的になっている。俺とのわだかまりだけでなく、それ以上に大きなものがなくなって、とてもすっきりしたように感じた。顔に浮かぶ笑顔も、最近では一番柔和なものだ。……これで態度も少し丸くなってくれれば、とつくづく思わなくもない。

 そんな複雑な思いを抱きつつ、前を歩く綾奈に続いて歩き出そうとした時、制服のポケットに入れていた携帯電話が電子音を鳴らす。初期設定のままのその音は、メールを受信したことを伝えていた。

 俺はズボンのポケットから携帯電話を取り出した。俺の携帯電話は二つ折りタイプのもので、所謂ガラケーと呼ばれる部類に入る。よく綾奈には古いと言われるが、俺はこのタイプを気に入っているのでいまだに使っている。スマートフォンが扱える気がしないとかそういう理由では決してない!

 画面を見ると、思った通りに「Eメール一件」という文字が出ていた。ボタンを操作し、メールを開く。そして、差出人の名前を見た時、俺は思わず声を上げた。

「明華!?」

 メールの差出人は明華だったのだ。よもや明華の方から連絡が来るとは思っていなかったので、かなり驚いた。俺は急いで本文を読んだ。

「総真君、昨日はごめんなさい。少しお話したいことがあります。今から会えませんか?」

 本文には、短く簡潔にそう書いてあった。

 明華の話したいこと……それはまさに俺が聞きたかったことかもしれない。まだ確定するには早いが、とにかく明華から少しでも話がしたいと言ってくれたのはありがたい。

 しかも今から家に向かおうとしていたタイミングである。まさに計ったように一致していた。

 俺は急く気持ちを抑えながら、すぐに返信の文を打つ。打つべき文字を何度か間違え、知らないうちに舌打ちまでしてしまう。

「分かった。俺も今から明華の家に向かおうとしていたところなんだ。すぐに行くよ」

 たったこれだけの文を打つのに、いつもの倍の時間がかかったように思う。とにかく発信ボタンを押して、メールを送ると、綾奈と共に歩き出した。

 それからさらに何通かのメールを送りあった。そして落ち合う場所と時間が決まる。

 落ち合う場所は、明華の家ではなく、学校から少し歩いたところにある月ノ森神社(つきのもりじんじゃ)の境内だ。なんでそんなところで? とも思ったが、明華がその方が説明しやすいからというのだから従うしかない。

 時間の方は、今から神社に向かって歩いて行けばちょうどいいくらいの時間になるだろうから心配いらなかった。

 そして一番心配していた綾奈の同行についてだが、それもあっさりと了承してくれて、少し拍子抜けするくらいだった。

 これだけの決め事をしたうえで、俺と綾奈は、一緒に月ノ森神社に向かったのだった。


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