4.『幼なじみ』
夏国の掃火たちの基地。火楽の出現が冬国から夏国までに広がり始めた折に、逃げ出した領主の城を改装し集団の住処や訓練所、戦いのための要塞とした場所。
そこに与えられた一室で、京也はただ茫然と座っていた。齢16にして最高位である甲級掃火に叙せられ、いずれ超越位である竜級掃火になるだろうと皆から期待される青年、しかしその顔に覇気は無かった。
(舞が死んだ…)
そのことを知ったのは、昨日の夜だった。
神器を所持した火楽の討伐。その討伐隊に、舞は選ばれていた。
神器持ちの火楽との戦い。それは掃火にとって、もっとも危険な任務のひとつだった。
京也も千香も危険だからと止めた。しかし舞は、行きたいと言った。
舞の立場が、掃火内で微妙なことは京也にもわかっていた。火車を倒す力どころか、人間の暴漢相手にも殺されかねないか弱い少女。
そもそも京也も千香も、舞が掃火になるなどとは夢にも思っていなかった。掃火は志願すれば誰でもなることができる。しかし、弱いものはすぐに死んでいく。だから自らが力がないとわかった者は、なることを諦めるのが普通だった。
舞は必死に努力していたが、もとからの才能や体の弱さがあって、力はほとんど伸びなかった。自分の隊の人間は彼女に優しかったが、彼女を明らかに邪険に扱うものたちもたくさんいた。
だから必死な顔をして行きたいと言った彼女を止めることはできなかった。
しかし、本来はそれでも大丈夫な任務のはずだった。
ベテランの甲級掃火15人、そして何より夏国最強の掃火、女性でありながら竜級掃火の一人であり、神器もちの火楽たちを何度も倒してきた琳世が部隊のリーダーだった。考えうる限りで最高の構成。
失敗するはずの無い任務。
しかし…。
帰ってきたのは一人だけだった…。
帰還日ぎりぎりにぼろぼろの姿で帰ってきた琳世はそのまま京也の前で地面に頭を付き言った。
「すまない…!守ると、守るといっていたのに…!」
京也は茫然と、その後ろには誰もいないのをじっと見ていた。本当ならこの日、舞は帰ってくるはずだった。自分たちのもとに。あの弱気だけど、はにかむような笑顔を浮かべて。
絶対なんてないとわかってたはずなのに。きっと、帰ってくるのだと信じていた。
「舞は…」
聞くつもりで言った言葉ではない。ただ、声が虚ろを探るように漏れ出ていた。
その声に琳世の顔が苦しそうにゆがむ。悔しそうに固められたこぶしが血を滲ませていた。
「みんな…やつの手で焼き殺されちまった…」
舞が死んだ。焼き殺された…。舞の最期の姿の幻が目に浮かぶ。
京也は表情も失い、茫然と立ち尽くした。
その姿を琳世は苦しそうに見ていたが、やがて刀を持って立ち上がる。
「どこにいくのですか!?」
ぼろぼろの姿でまた立ち上がった琳世に、まわりが驚いて問いかける。
「奴はまだ生きている。奴はあたしがこの手で倒さなきゃならない」
刀をにぎる手には力が入り、顔は怒りで歪んでいた。
「お待ちください、せめて傷を治してから」
周りは止めにはいるが、琳世はとまらなかった。
「奴は凶暴な火楽だ。こうしてる間にも犠牲が増える」
「俺も連れてってください!」
京也はその背中に叫んだ。
舞を殺めた火楽。なら、そいつは自分の手で倒したかった。
琳世は振り返り、辛そうな顔で言った。
「あんたは大人しくしておいておくれ…。あんたの気持ちは痛いほどわかる。でも、相手は強力な火楽だ。今の心が乱れきったあんたじゃ無理だ。頼むよ、これ以上犠牲は増やしたくないんだ」
それでも駆け出そうとした京也の肩を大きな手が止めた。振り返ると、京也の部隊の隊長が同じく辛そうな、でも厳しい表情で京也を見ていた。
「落ち着け!今はとにかく時間を取れ!冷静になれば、やつを倒す任務も回ってくるかもしれん。何よりお前まで死んでしまったら、舞は絶対に悲しむぞ」
「京…、だめだよ…。死にいそいじゃ。舞は絶対、そんなこと望まない」
横をみると、もう一人の幼馴染千香が、自分も泣きそうな顔をしながら首を振った。
京也は動けなかった。みんなに止められたからなのか、ただ体から力が抜け落ちてたせいなのかわからない。
「じゃあ、京也のことは頼んだよ」
そう言って琳世は森の中へ消えていった。




