metronome
「お前ってさ。ズレてるよな。」
そんな言葉に、読んでいた本から声のほうへとちらりと視線を動かした。椅子にまたがり、俺の机で頬杖をつきながらこちらを見ている。その顔に、からかいの色や、ふざけた笑みはない。視線が合ったにもかかわらず、話し続ける。
「なんていうか、こー生きてるリズムがさ。」
しみじみと改めてこんなことを言われた。しかし今更、別になんと言われようと構わない。「ふーん。」と興味なさげな返事だけして、再び本へ視線を戻した。彼は相変わらず普通の会話のようなトーンで話す。
「いや、変な意味じゃなくてさ。」
だったら、他にどんな意味があるのだろう?
「別にいいよ。慣れてるから。」「えっ。」
「変な奴でいいってこと。自覚してるし。」
そう呟くと、頬杖をついていた手が下ろされた。その手がぐっと握られている。どうしたのかと、ふと、顔をあげると、ムッとした顔がさっきより少しだけ高い位置にあった。
「だから、違げぇって。俺が言いたかったのは…」
どうして怒られているのだろう?生きるリズム。それは、人と人が一緒にいる上で大切なもの。リズムが合うことで、一緒にいて楽しさや安らぎを感じる。そういう物じゃないのだろうか。つい、思っていたことが口から零れ落ちる。
「じゃあ…なんでお前はここにいるんだ?」
「はぁ?」
「だから、あいつらといた方が楽しいだろ?って。俺に構ってたってつまらんだろ?」
大きくため息をつき、あまりに拍子抜けだったのか、再び机につっぷした。何か間違ったことを言っただろうか?
「だから…俺は、お前の雰囲気嫌いじゃねぇよ?」
「……」
「なんでそんな顔すんだよ?!このクソ眼鏡っ。」
とりあえず自分がとても怪訝な顔をしたんだろうということは解る。そんなことを言うやつに初めて会った。
大抵、近づいてくるやつは面白半分で、結局、影で人をネタにして笑うのだ。何を言っただの、やっぱりあいつといてもつまらないだの。と。
「…それ、お前こそズレてる。」
「あのなぁ。他の奴らはガキで気づかねーだけだよ。なんていうかな、お前の所だけすごい時間がゆっくりっていうか。落ち着くんだわ。」
恥ずかしい台詞をさらさらと言ってのける。しかも、本気で。全く、どうも調子が狂う。戸惑う俺に向かって少しだけ、悩んだ顔をして、何とか伝えようと不思議な例えをひねり出した。
「あれだよ、あれ、一杯のホットコーヒーみたいな。」
「なんだそれ。てか…お前コーヒー飲めたっけ?」
「うるせーょ。じゃあ日本茶か。…いや、ココア?だめだイメージがずれるな。」
「どんなイメージだよ。」
真面目な顔をして悩む世志の姿がおかしくて、クツクツとこらえきれない笑いをこぼした。「いいだろ別に!」
と言って少し顔を赤くする。顔を赤くしたと思ったら、
「つまらないと思ってたら、話しかけなんかしねーよ。」
と言ってこれでもかというくらいに笑う。窓から差し込む光が奴の柔らかい茶色い髪を照らした。
吊られて笑いそうになる自分を慌てて抑えた。そんなの柄じゃないから。それでも少しだけ悔しいから、軽く頭を叩いてやった。それから少し伸びをする。
「…飯でも食って帰るか。今日はおごってやるよ。」
『色々、ありがとうな。』
最後の言葉は胸の奥でそっと呟く。
様子をうかがうと、目を輝かせている。ただめし万歳。とか考えているんだろう。
「なにそれ、太っ腹!」
「少しは遠慮しろよ。」
「おぅ。」
二人並んで校門を出る。
今日は不思議と夕方の寒さが気にならない。
-おわり-
つたない文章ですが、、
これからもちょこちょこ書いていけたらと思ってます。
ありがとうございました!!