20:狩りの時間
「いやはや、まさか軍の方と共に戦うことになるとは。」
(だなァ。まぁお前が巻き込んだからだけど。めっちゃ悪い顔してなかったか?)
失礼な。
なんか敵が来たから手伝ってもらうだけですよ? 外敵の脅威に晒された一般市民を軍人が守る。まさにこの世のあるべき姿、と言う奴ではないですか。
まぁ量が量なので死ぬかもしれませんし、生き残ったとしても後始末が死ぬほど面倒と思われるので、あの二人にとっては厄日でしょうが。
もう一人の『私』とそんなことを話しながら、ドレッドに火を入れていきます。
操縦席に飛び乗り、ボタンを押し込めば即座に起動するサブ動力。視界に広がる基盤や画面たちに光が灯って行き、鉄の巨人の目が覚めていく。開かれていた搭乗口がゆっくりと閉じていき……、密閉。
そしてすぐに、この胸へと杭が撃ち込まれる。
私達を生かす動力源であり、この『ドレッド』と呼ばれる巨大ロボを動かす炉心。私達の母、その遺作とも呼べる『グリオナイト・コア』。転生した当初はこの緑の光に戸惑ったものですが……、今は別。ドレッドにつなげたとしても、有り余る莫大なエネルギー。
これ以上頼りになるモノは、この世に存在しないでしょう。
(ロック完了、接続問題なしッ! いつでもいけるぜ!)
「えぇ。……さぁ鐵山。今日は大仕事ですよ?」
そう語り掛けながら、意識を切り替えていく。
何せ今回は久しぶりの“団体戦”。普段とは勝手が違うのです、気をつけることは大いにあるでしょう。
先程の会話、私からの『救援要請』の答えですが……。無事こちら側へと参戦して頂ける運びになりました。軍曹さんは快く即座に返答を返して下さり、少尉さんはそれに少し遅れ頷いてくださった形です。
まぁ少尉さんは明らかに断りたそうにしていたのですが、状況を見れば受ける以外の選択肢はありません。
限界までこちらに姿を現さなかったり、こちらの会話から背後を探る様な動き。確かに彼は何を考えているか解らない相手であり、油断できない相手ではありましたが……、それは『優秀』であるということの証。
ご自身の立ち位置をすぐにご理解なさったのでしょうね。
「2人の所属はあの町の駐屯地です。他の場所では『企業』や『団体』、もしくは現地勢力の影響を受けていることもあるでしょうが……。あの町は言わば『商会』一強状態。」
(『軍』は『商会』の子飼い状態ってわけか。)
「えぇ。つまり『商会』は、お二人がこの場所にやって来ることを把握していたことになります。」
彼らの上司にあげた報告は、確実に商会の耳に入っているはず。
そして今日パトロールとしてこの辺りに来ること。もっと言えばこの『給油所』に足を運ぶことは伝わっていたことでしょう。
それなのに彼らが『商会』の尖兵として動いていないということは……。
早い話、切り捨てられたのでしょうね。
軍としても、ドレッド乗りは貴重で無暗に捨てることは出来ないはず。けれどお上である“スポンサー”様がお怒りであれば、即座に見なかったことにするでしょう。おそらく口止め料としていくらか支払われるでしょうし、ドレッド自体はその金で再配備すればいい。
それに、少尉さんは知りませんが軍曹さんは少し、いやかなり生真面目なところがございます。その軍規に厳し過ぎる生き方は色々と大変でしょうし、要らぬ恨みを買うこともあるでしょう。
(消すにはちょうといいタイミング、ってやつか。……腐ってんなァオイ。)
「ですが私達にとっては、好都合。」
見捨てられた以上。彼らに生き残る術はありません。
無論今から商会に命乞いをするという方法もあるでしょうが、あれだけの戦力を持ってきているのです。確実に『知られたのなら闇に葬るしかないよなァ?』という事なのでしょう。命乞いした瞬間に消されるのがオチです。
ならば歯向かってでも生存率が高い方を選ぶ。
おそらく少尉さんは、そのようにお考えなのでしょうね。
…てnまぁあの生真面目な軍曹さんが即座に『勿論ですセファ殿! 小官たちにお任せください! 必ず守り抜いてみせます!!!』と答えてしまったせいで、断ることが出来なかったというのもありそうですが……。ま、彼の名誉の為に忘れてあげるとしましょう。
「あの何とも言えない顔は額縁に入れて飾りたいレベルでしたが。」
(趣味悪いぞ『アタシ』。)
「そうですか? よいインテリアになるかと思ったのですが……。」
まぁ冗談は程々にして。
それにしても、『戦力』が増えたのは大変素晴らしいことです。
少尉さんとはほとんど会話をしていないためその人となりが解っていないのですが……。少なくとも軍曹さん。レオネッタさんは最後の瞬間まで私の為に戦ってくれる人でしょう。
車両300以上に、ドレッド13機。
私とアタシ、2人がかりでギリギリ何とかなったでしょうが……、それでも結構な数。最悪この家を放棄する程に追い詰められていた可能性があります。
この時代に生れ落ちてから調整し続けた私の照準に、彼女が備え持つ天性の格闘スキル。そしてこの鉄の巨神である『鐵山』改があれば負ける相手など存在しませんが、数の暴力は決して侮れません。
故に彼らの参戦は、とてもありがたい。
大いに利用させて頂くのは確定事項ですが……。この恩はしっかりと覚えておくことにいたしましょう。
さてはて、あちらのチャンネルは……。
「失礼、聞こえていますか?」
『わッ!? え、せ、セファさんッ!?』
「連携の問題になるかと思い、勝手に繋げさせてもらいました。」
操縦席の基盤を操作し、あちらの通信に割り込みます。
どのような理屈かは解りませんが、『私』の作り上げたもの。しっかりと役目を果たしてくれているようで、画面端に写る軍曹さんと少尉さんの顔。戦闘時は視界を遮るので消す予定ですが……。こういうのは連携に必須ですからね。
あ、痕跡は欠片も残さないように出来てるみたいです。安心ですねぇ。
『ぐ、軍用回線にどうやって……。』
「その話は追々。まずは装備の内訳を教えて頂けませんか? 武器が解らなければ取れる手も取れませんから。」
『え、でも……。』
『いいよぉ軍曹ちゃん。共闘なんだろう? もっと柔軟に行こう。あ、そっちも。セファちゃんだっけ? 君も教えてくれるんだろう?』
「えぇ、胸襟を開かせて頂きます。」
おそらく何かの軍規に引っかかるのでしょう。軍曹ちゃんが少し口を濁しますが……。少尉さんが口を挟みながらデータを送って来てくださいます。
本音を言えばその機体スペックまで開示して頂きたいところですが、それを求めてしまえばこちらも『鐵山』のことを明かす必要が出てきます。無論隠しますが、隠せば何かしらの綻びが出るもの。“異様なほどに強力な動力炉”に繋がる情報を見出してしまうかもしれません。
故に、外から見て解る装備の情報だけ。
この程度ならば彼も喜んで開示してくれるようですし、“現状は”仲良くしてくださるようで。軍曹ちゃんはかなり渋々といった感じですが、これで互いの見せ札が場に置かれました。
さて、『私』。
(……ほ~ん。色々手を加えてはいるが、50㎜の機関砲。総弾数240が2門ずつ。近接用のシールドスパイクが基本装備。後は肩に乗っけてるのがそれぞれ違う感じだな。)
彼女の声に耳を傾けながら、画面上に写るあちらの機体。私達が排除した砂賊が乗っていたモノではない、完品の『アヴァランス』を見つめます。
この砂漠の惑星では一般的なキャタピラタイプであり、その拡張性が評価されている傑作機。彼らが所属している駐屯地では小口径をより多くばら撒くマシンガン。そしてキャタピラを用いた突撃を安全に行える盾に大きなトゲが付いた盾を装備している様です。
ここまではまぁ外から見ても把握できる点ですが……。問題はその肩に乗せている幾つかの機構。経常的に右側が多連装のミサイルポッド。左側が長距離射撃用の砲身だと思うのですが……。
(弾丸の内訳は?)
(ミサイルは小物向きの奴だな。対人・対車両向けの空中で分裂する奴だ。んで砲身の方が……。軍曹の方が“対害獣”向けの神経弾。少尉が“対ドレッド”の貫通弾だな。)
(……場合によっては殺す気でしたか。)
(ま、だろうな。)
軍曹さんの装備は、理解が出来ます。
私の言葉を信じた彼女は、この辺りに危険な現住生物。ミミズのような存在がいると考え、奴らの神経を破壊する特異弾頭を持ち込んだのでしょう。しかしながら少尉の方は……、私を殺すため。もしくはこちらに殺されるのを避けるための装備を持って来ていたようで。
やはり警戒すべき相手のようですが……。今は仲間です。追及はしないで上げましょう。それに、これくらいなら『後ろから撃たれても』避けられますし。
そんなことを考えていると、あちらも私が送った『装備スペック』を確認したのでしょう。軍曹さんから少々戸惑った声が帰ってきます。
『に、200㎜って20㎝ですよね? 船の大砲とかの口径ですよね? それを連射可能? こ、これ。真面に撃ち合ったら『アヴァランス』でも木っ端みじんになるんじゃ……。』
『……これ、“裏”でも見たことない奴だねぇ。自分で作ったのかい? 最近の子はすごいねぇ。』
「えぇ、ウチには優秀なメカニックがいますから。」
(はッ! こんなもんで驚いちゃ後で心臓吹き飛ぶぜ!)
そう返しながら、少し思考を回します。
確かにこちらの方が大口径ではありますが、弾数は明らかにあちらの方が上。確かにこちらも幾つか仕掛けを用意していますので、弾切れの心配はそこまでしなくてもいいのですが……。
面倒で数の多い雑魚は任せてしまいましょうか。
「装備を視させて頂きましたが、やはり車両は其方。ドレッドは此方で受け持つのが良いでしょう。」
『ま、弾数的にそっちの方がいいだろうね。でも大丈夫? この砂漠じゃ2足だと動きにくいと思うんだけど……。』
「では、そのように。……あぁそれと、そう言えばまだお見せしていませんでしたね?」
そう言いながら、基盤を操作する。
私達の胸部からエネルギーが吸い出され、火が灯るのは脚部に集中した熱核ジェットエンジン。熱と共に轟音がゆっくりと立ち上り、それと同時に徐々に浮かんでいくこの機体。周囲の空気を吸って、熱して吐き出す。そうやって鉄の巨人を“ほんの少し”だけ浮かばせれば。
手に入るのは無類の機動力。
(『私』が一番速くて、)
(『アタシ』が一番強い。)
(あまり、不確定な言い方は好みではないのですが……。)
(二人合わせたら“最強”! 負けなしってやつだッ!)
「では、『鐵山』改。参りましょうか。」
そう口にした瞬間。
全力でレバーを、押し込む。
さ、狩りの時間ですよ?
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