第2話
「やったあ!ありがとう、アル!」
日和は無邪気にはしゃぐ。
先程までの狂気が嘘かと思えるほど。
「……うん。それじゃ、帰ろうか」
日和とは裏腹に、アルはまるで絶望のふちに立たされているかのような表情だ。
(いや……もう気にしていても仕方ない。やると決めた以上、この子の異常性を全力で隠し通してみせる……!)
頭ではそんなことを考えていても、やはり抵抗感が拭いきれなかった。
ボトッ……ボトッ……
アルの頭がぐるぐると回っている間に、魔物の作った空間が崩壊し始めた。
臓物のような膜が音を立て、少しずつ地面へ落ちる。
(まずい、膜が……!)
アルは顔をキリッと正し、日和に言う。
「いいかい?日和。キミが魔法を使えないこと、誰にも話しちゃいけない。魔法少女を続けたいならね」
「はーい!」
日和は元気に返事をする。
魔法少女になれたことの喜びでいっぱいなのか、元から何とも思っていないのか。
どちらか判別はつかなかった。
そうこうしているうちに、膜はほとんど崩れ落ちていた。
「貴方があの魔物を倒してくれたの?!」
「ありがとうお姉さん!」
そして逃げ遅れた一般人たちが駆け寄ってくる。
「えへへ、どういたしまして!」
(私が感謝されてる……!すごい、すごい!私人助けできたんだ!役に立てたんだ!)
見たことの無いの魔法少女、というのもあるのだろう。
いつの間にか周りをぐるりと囲まれていた。
「お名前教えて!」
様々な質問が飛び交う中、そんな声がいくつか聞こえてくる。
「ごめんね!まだ今日からの新人で、魔法少女名はないんだ」
その言葉で、アルはハッとした。
今まで動揺で考えられなかった問題が次々と出てくる。
(たしか、名前は外見や戦い方からのイメージで上司が決める……)
先程までザワザワと耳障りなほどしていた人の声が、アルに一切届かなくなる。
(そもそも、なんて報告すれば?)
頭は回るだけで、答えは一切出てこない。
そんな状況でも日和は舞い上がり、気の抜けた笑みを浮かべながら人々に囲まれている。
何も深刻に考えていない相方。
この事実がアルを更に焦燥させる。
(お、落ち着け……一旦静かな所でゆっくり考えよう。試験なんて普通はもっとかかるし怪しまれはしないはず)
アルの意識は頭の中から現実へと帰り、深呼吸して言う。
「そろそろ行くよ!本部から呼び出しだ」
「はーい!」
盛り上がった現場を収めるためそう嘘をつき、皆を納得させる。
「さ、箒を出して」
日和は変わらず、迷うことなくステッキの底を叩き箒を取り出す。
光に包まれた箒を手に取り、それに跨り地面をタンッと軽く蹴る。
すると一瞬軽い風が吹き、日和はふわふわと飛んでいた。
「ばいばい!魔法少女さん!」
「ありがとう!」
助けられた一般人たちの声は、見えなくなるまで響き渡った。
(ああ、私、魔法少女として人の役にたてた……ふふ、まだみんなの声が聞こえる気がする)
(やっぱり、箒は普通に使えている……なにが、何が原因なんだ?)
相反する気持ちを抱え、2人は空を風のように飛んだ。
数分後、着いたのは古びた小屋だった。
木でできた壁や屋根は所々腐り穴があき、中は埃っぽい空気に包まれている。
家具などはひとつもなく、くしゃくしゃに丸めてある紙が数枚だけ落ちていた。
「アル、ここどこ?本部に帰るんじゃないの?」
日和は不思議そうに周りをキョロキョロ見まわしている。
「ここはボクの秘密基地さ。1人になりたい時とかなにか考える時、よくここへ来るんだ」
ふーん、と軽く返事をする。
あまり興味がないらしい。
「ここで決めよう。これから、どうするか。」
その言葉を聞いた瞬間、日和の目がキラキラと輝き出す。
「作戦会議だね?!」
「ああ……まあ、そうだね」
魔法少女っぽいことなら、なんでもしたい。
なんでも嬉しい。
日和は、そんなスタンスなのだろう。
「まあ、適当に座ろう」
日和は埃と砂を被った床を軽くはらい、ペタっと座る。
「……で、これからのことって?」
アルは目を軽く閉じ、うーんと唸る。
待っている間、日和はずっと胸の高鳴りが収まらなかった。
「色々と問題は積み重なっているけど……まずは、今直面していること。どう報告するかだ」
未だ悩みながら、アルは話し出す。
「どう、報告するか……?」
「そう。ボクたち妖精は試験後、合格不合格、戦い方、性格などを報告する必要があるんだ」
重い表情をしながら、言葉を選び、ゆっくりゆっくり言葉を紡ぐ。
「へえ……自分で決めるんじゃないんだ」
そんなアルと裏腹に日和は能天気な様子だ。
「そこから上司が名前やこれからの活動方針を決める」
「ふーん……だから、私の戦い方が報告できなくて困ってるのね」
日和はすっと受け入れる。
飲み込みが早いようにも見えるが……どこか他人事で、外側から見ている故のものにも感じられる。
「そうだ。……情けない話だけど……ボクには何も思いつかなくて」
しょぼんとした様子のアル。
(はぁ……だからボクは成績最下位なんだ……)
話を聞き、日和も少し考え込む。
「んー……じゃあ嘘ついちゃえば?」
「……嘘?」
少ししない内に、日和はパッと顔をあげる。
「うん。そうだなぁ……例えば、人に知られると性能が落ちるとか」
アルはハッとする。
口をあんぐりと空た。
ありえない、信じられないという様子だ。
「たしかにそれならいける……けれど、本部に嘘の報告を……?」
(そんなの、バレたら裏切りだと思われても仕方ない行為だ……)
「なにかダメなことでもある?」
アルは頭を抱え、数秒間唸り続ける。
少ししてふう、と一つ息をつき、覚悟を決めたように顔をしかめる。
「……わかった。それで行こう」
「おっけー!」
日和はニコッと笑い、元気に返事をする。
「基本は魔法少女第一だから、そう報告すればこれからの戦闘も人目につかないよう対策してくれるはず」
「良かった!じゃあ決まりね!本部に帰ろ!」
勢いよく立ち上がったせいで、埃が舞う。
「ハックション!」
数分空を飛び、本部が見えてくる。
建物に近づく度アルの鼓動は大きくなっていった。
(大丈夫……目撃者はいないしバレることは無い。決めただろ。大丈夫、大丈夫……)
飛んでいる間、沈黙が場を包んだ。
2人とも黙りこくったまま本部へ到着する。
日和は地面へふわっと足をつけ、箒をしまう。
「……じゃあ、報告に行ってくるよ。もう今日はそれで終わりだから、ロビーで待っててくれ」
「おっけー!」
そう話をし、2人は屋上で別れた。
魔法少女本部のロビー。
広々とした空間に妖精や魔法少女など、関係者が行き来している。
「あれ?さっきの……」
綺麗に並べられた椅子に座って待っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ!」
振り向くとそこにいたのは、出発前出会った新人魔法少女だった。
「やっほー、さっきぶり。試験どうだったー?」
その子は隣に勢いよく座る。
「合格!そっちは?」
「あたしも合格ー。じゃ、今日から正式に同期じゃん」
相変わらず飲み込まれそうになる不思議な雰囲気。
お互いニコッと微笑む。
「あ、そういえば自己紹介まだだったね!私は春野日和。よろしくね!」
「あたしは雨宮ミラ。よろしくー」
魔法少女としてできた初めての友達。
日和はその事実だけで胸がいっぱいだった。
「ひよりんも相方の報告待ち?」
(ひよりん……)
日和はミラの距離の詰め方に驚きつつ答える。
「うん、そうだよ!ミラちゃんも?」
「そ。妖精さん待ちー。名前楽しみだねえ。いよいよ正式な魔法少女って感じしてさ」
そうだ。
名前が貰えるということは、正式に魔法少女の仲間入り。認められたということだ。
自覚した瞬間、日和の胸の高鳴りは大きくなった。
「……あ、そろそろ集合時間だ。最後に連絡先交換しとこーよ」
「うん!」
ミラは連絡先を交換した後、ロビーを去っていった。
そして入れ違いにアルがやってくる。
「報告、通ったよ。名前も来た」
「えっもう?!どんな名前?!」
アルがすうっと息を吸う。
アルが言葉を放つまでの間、日和は緊張とワクワクで体が爆発しそうだった。
「花モチーフの、人に見えない所で戦う魔法少女」
アルは1拍おき、言う。
「……マリヴェル。今日から正式な、魔法少女だ」




