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第8話:ゲストカードとお金の価値①

洗礼板(ステータスボード)の話はこれくらいでよろしいでしょうか? これ以上の詳細になりますと私も専門外になりますので、教会に直接問い合わせた方が早いでしょう。

 タイチ様、それより、ギルドのゲストカードを発行いたしませんか?」


「おいおい、ゲストカードなんか発行して意味があるか? 制限が多くてすごくショボいカードじゃねぇか」


 僕が口を開く前にガロンさんが文句をつけた。

  

「ガロン様。確かにゲストカードはA級冒険者のあなた様からすれば取るに足らないカードに感じられるかもしれません。ですが、今はタイチ様の立場になってよぉくお考えください。まず、タイチ様は洗礼板(ステータスボード)をお持ちでないのです。ということは現時点で身分証と言えるようなものが何もないのでしょう? あなた様は気づいていなかったようですが」


「……おう、まあ、そうだな」


「提示できる身分証が何もないというのは非常に不安定です。まずまともな宿には泊まれません。宿の者が嫌がりますから。家を借りるとなるともっと難しいでしょう。仕事を受けるのも厳しいですし、関所を通れないので街からの移動もできません。それに見回り中の自警団などに万が一怪しまれたら身分確認ができないので最悪拘留されてしまう危険性もあります。それを理解していますか?」


「た、確かにいろんな危険性はあるだろうが。衣食住はしばらく俺が面倒見るつもりだし、そもそも俺が後見人をするんだから捕まるなんてことありえないだろ? 俺A級だぞ? それに洗礼板(ステータスボード)を作っちまえば全部解決じゃねーか」


「だからあなた様はお人好しだと言われるんです! 減らせる危険性(リスク)を減らすこともせずにすべて自分が背負えばいいなど()骨頂(こっちょう)! いつだったか手癖酒癖の悪い借金まみれの老婆を同情だけで居候(いそうろう)させて謝罪行脚(しゃざいあんぎゃ)でボロボロになったのをもう忘れたのですか?」


「うっ、あの頃は若かったからよ……」


「言い訳は結構。少しは真面目に反省なさい。

 それに洗礼板(ステータスボード)の話ですが、こちらも見通しが甘いです。普通は洗礼板(ステータスボード)の発行は即日から2日程度でそれほど時間はかかりません。ですがタイチ様の場合は種族の件もあるし、他にも不足の事態が起こるかもしれません。なにせ精霊の拐(かどわ)かしなのですから。個別対応の申請をしたとしてすぐに教会が対応してくれるかも不明ですし、発行が速やかに行われる保証はどこにもないのです。むしろいろいろ確認されて時間がかかるものだと最初から思っておく方が無難でしょう」


「む、むう」


「あなた様がショボいと言われたゲストカードですがね、最低限の身分保障の効力はあるのですよ。どんなに制限が多くても冒険者ギルドの発行物ですからね。

 高級宿に泊まるのは難しくても、民宿くらいならゲストカードの提示で問題なく泊まれますし、ランクの低い案件に限りますが、ギルドの依頼を受注して稼ぐこともできます。関所は通れませんが、街の中での自警団からの追求は緩まります。何か問題が起こった時はある程度我々ギルドが責任を持ちますからね。実際、洗礼板(ステータスボード)発行待ちの移民の方の身分保障として利用している側面もあります」


 アウェイアさんはそこまで説明すると話を切って僕に視線を向けた。


「それに洗礼板(ステータスボード)があったとしても、タイチ様にはゲストカードの登録からおすすめするつもりでした」


「え? それはどうしてですか?」


「ゲストカードは身分保障の意味合いもありますが、本来の目的は“冒険者のお試し“なのです。冒険者をしてみたいけど向いているかわからない、あるいはちょっとした依頼を受けておこづかいを稼いでみたい、そういう方たちが安い登録料で気軽に冒険者を体験できるように作られた制度なのです。

 ガロン様は自身がA級冒険者なので、生計を立てるといえば冒険者!と思っていらっしゃるようですが、当然ながら全員が冒険者に適性があるとは限りません。花形依頼の魔獣討伐などは危険を伴いますし、ランクをあげて稼ごうと思ったら体力も根気も必要です。雇い人と違って収入も安定しませんし、人によって向き不向きがある職業です。まだお若いタイチ様にも、まずはお試しをしてもらうべきだと考えています」


 アウェイアさんがにこりと微笑む。


「もちろん、いずれ冒険者という職業を気に入っていただけた時には正式な登録をぜひしていただけたらと思います。ゲストカードから正式なランクカードへの変更手続きは可能ですし、登録料も差額分のみをいただいておりますから、ゲストカードを作ったからといって損をすることはありません」


「なるほど! それならぜひゲストカードを作りたいです。よろしくお願いします。

 ちなみに、登録料っていくらくらいですか?」


「はい、ご説明いたします。仮登録となるゲストカードの場合は登録料は大銀貨5枚、つまり5,000ネカオいただいています。正式なランクカードですと小金貨3枚なので3万ネカオになりますね。ランクカードへの切り替えは差額の2万5,000ネカオいただいております」


「えーっと、それってつまりどのくらいなんでしょうか……? お金の感覚が全然わかってなくて……」


「ああ、そうですよね。失礼しました。大銀貨5枚は駆け出し冒険者ですと2~3日分くらいの稼ぎになりますね 。食事だとそれなりのお店でちょっとした晩餐(ディナー)がいただける金額です。

 小金貨3枚はその6倍です。食費なら成人一人の1ヶ月分でしょうか。

 そうだ。本来は移民の方にお渡ししている資料にはなりますが、報酬説明のための硬貨の種類とお金の価値がわかる一覧表がありますのでそちらお渡ししましょうか?」


「ありがとうございます! 僕も移民みたいなものですし、ぜひ欲しいです!」


 アウェイアさんが資料の束からさっと紙を一枚取り出して渡してくれる。

 僕はすぐに目を通す。


――――――――――――――――――――――――――――――

■報酬説明補助資料


【硬貨の種類とネカオ換算表】

小銅貨 1ネカオ

大銅貨 10ネカオ

小銀貨 100ネカオ

大銀貨 1,000ネカオ

小金貨 10,000ネカオ

大金貨 100,000ネカオ

宝貨  1,000,000ネカオ

小切手 それ以上


【標準報酬】※代表的なものを一部抜粋

・軽作業(荷運び・草むしり・軽微な農作業他)

・日常支援(簡単な掃除・子守・家事手伝い他)

 一時間あたり 小銀貨3枚~小銀貨8枚程度

・採取

 薬草1株あたり 大銅貨5枚~

 鉱石1キロあたり 小銀貨5枚~

・戦闘及び討伐補助(護衛業務・魔獣調査他)

 大銀貨5枚~

・魔獣討伐

 魔獣E級1匹あたり 大銀貨1枚~

 魔獣D級1匹あたり 大銀貨5枚~

・危険作業(危険区域・水中・夜間護衛他)

 一時間あたり 小金貨1枚~


【参考物価】

・丸パンひとつあたり 大銅貨5枚~小銀貨1枚程度

・一般的な食堂一食あたり 小銀貨5枚~大銀貨2枚程度

・素泊まり一泊 大銀貨2枚~

・貸し馬車(1日) 小金貨1枚~

・一般的な物件(単身向け)の1ヶ月の家賃 小金貨4枚~

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 えーっと、まずどの硬貨が何ネカオなのか覚えなきゃいけないな。ちょっと大変かも。でもどの硬貨も10枚集めたら一つ上の硬貨に替わるみたい。日本でも1円10枚で10円、10円10枚で100円だしそこは一緒だ。良かった。

 僕は資料を読み進める。

 報酬がのってる。いろんな依頼があるんだな。やっぱり魔獣を討伐するんだ。すごいなぁ。あ、やった! 気になってた薬草採取の報酬も書いてある! 一株当たり大銅貨5枚から? それってどれくらいだろう……。あ、物価について書いてあるからそれでわかるかも。

 僕は一番下の参考物価のところを注視(ちゅうし)する。

 えっと、丸パンひとつが大銅貨5枚から小銀貨1枚くらい。これをネカオになおしたら、50ネカオから100ネカオってことか。丸パンがどんなのかわかんないけど、日本でもパンはひとつ100円くらいで買えるよね? ということはネカオは円と同じくらいなのかな。

 

 薬草採取の報酬大銅貨5枚は50ネカオ。安い丸パンひとつ分。100株集められたら5,000ネカオで、ゲストカードの登録料だ。

 あ、宿の素泊まりは1泊2,000ネカオなんだ。じゃあ薬草40株集めたら宿に泊まれるのか。食堂の1食が500ネカオから2,000ネカオになってる。もし毎日100株集められたら、宿に泊まって2,000ネカオ、安いメニューで三食1,500ネカオで、他にちょっと買い物したとしてもたぶんおつりを貯金できる!

 

 目標100株!と心のなかで拳をにぎったところで、ふと疑問がわく。あれ、でもさっき……。

 僕がじっと資料を見つめて考え込んでいるとアウェイアさんが声をかけてくれる。


「タイチ様、いかがでしょう? 資料の中でわからない部分はございませんか? なんでもお気軽にお尋ねくださいね」

お読みいただきありがとうございました。

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