第6話:三人での密談②
ガロンさんに質問されて僕は考える。
「うーん。正直こっちに来たばかりでよくわからないですけど……。その宮廷作法?とかは全然知らないですし、王様とか偉い人にも今まで会ったことないので、王宮で暮らすのはちょっと怖いなと思ってます……。できれば狭くていいので普通の部屋に住んで、気軽に散歩したり買い物したりできるような静かな暮らしの方がありがたいなと」
「冒険者についてはどう思っているの? 雇い人の方がはるかに安定しているわよ? 時間は多少かかるでしょうけど、私とガロンが本気で探せばそれなりの条件のところを紹介できると思うわよ」
今度はレインリアさんからの質問だ。
僕は自信なげにぼそぼそと答える。
「あのう、僕って今まで働いたことがないんです。だからそのう、甘い考えかもしれないですけど、とりあえずお試しで、気軽に働けたらなって気持ちがあって……。どんな仕事が自分に合うのかもよくわかってないですし。冒険者なら、いろんな依頼があるからその中から自分に合いそうなものを試せますよね?
でも雇い人として紹介してもらったら、当たり前ですけど、できるだけ長くそこで働き続けるべきでしょう? いきなり雇われて、本当にずっとそれだけを続けられるのかちょっと自信がないかも……と思って……」
申し訳なくなって、すみませんと僕は頭を下げた。
「あら、謝る必要はないわ。自分の考えをしっかり持っていることは大切よ。冒険者で試しにいろんな依頼を受けてみたいという気持ちがあるならいいと思うわ。私が心配だったのはガロンに言われるがまま、危険性を知らずになんとなく冒険者を選んでるんじゃないかってことだったのだから。そういうことなら、ぜひ頑張ってちょうだい。応援するわ」
レインリアさんがにこりと笑ってくれる。
紹介を断るなんて甘い考えだと叱られるかと思っていたので僕はほっとする。
「でも、冒険者で働いてみて、やっぱり雇い人になりたい、王宮で暮らしたいと思った時はすぐに相談なさいね。辛くなったら我慢しないこと。約束よ」
そういってレインリアさんはローブの袖からシンプルな銀のブレスレットを僕に差し出す。レインリアさんの瞳のような金の小さな石が埋め込まれている。
「連絡用にこれを渡しておくわ。通信機能のついた腕輪よ。魔石を押して色が変わったら伝えたいことを録音してちょうだい。もう一度魔石を押したら私に伝言が伝わるわ。やり直したい時は魔石を2回連続で押すの。そうそう。その操作であってるわ。
簡易的な魔道具だから、1度に飛ばせる伝言はせいぜい一言くらいけど、私と話したいとだけ伝えてくれれば別の手段で連絡を取るわ」
「ありがとうごさいます」
僕はレインリアさんからブレスレットを受け取って左腕にはめてみる。不思議とぴったりだ。
ガロンさんはそんな僕らのやり取りをおもしろくなさそうに見ている。
「なにも通信手段を直接渡さなくとも俺を頼ればいいじゃねぇか? タイチが俺に相談してくれりゃ、俺からレインリアにも伝えるしよ。
なぁタイチ? 困ったらまず俺に言えよ?」
レインリアより先にな!とガロンさんは念押しする。
それにレインリアさんはあきれ顔だ。
「あなたね……。面倒がって正式な謁見や書簡のやり取りを避けがちな人に連絡係を任せられるわけないでしょう? それに精霊の拐かしはあなたひとりに任せられるような事じゃないと言ったじゃないの。つまらない嫉妬でタイチくんを困らせるのはおやめなさい」
「あ、あの、お二人とも頼らせてもらえるとうれしいです」
「おう! 頼れ頼れ! 遠慮すんなよ!」
「ええ、気負わず気軽に連絡してちょうだい」
二人から良い返事をもらえて心強い。
「ああ、そうだわ。タイチくん。あなたは現時点で王宮に来ることを望んでないのはわかっているんだけど、私の師匠である宮廷魔導師長と第3王女殿下にだけはあなたのことをお伝えしておいても良いかしら?」
「おいおい、レインリア! そりゃ話が違うじゃねぇか。王宮の連中に精霊の拐かしのことをバラしちまったらタイチは連れてかれちまうだろ!?」
僕が答える前にガロンさんがレインリアさんへ怒鳴る。レインリアさんは肩をすくめる。
「話は最後まで聞きなさい。それに、王宮の連中と言われれば私だってそのひとりよ。
私だってタイチくんが強制連行されることは望んでないわ。でも、いざという時の保険は多い方がいいのよ」
レインリアさんはすっと表情を改める。
「私もガロンも職業柄、危険な任務につくことが多いわ。S級とA級だもの。高等級の魔獣を討伐したり危険区域で調査したり……。それはつまり、いつ死ぬのかわからないということよ。秘密を知っていて手助けしてくれる人がいつ死ぬかわからないというのはタイチくんにとっても危険よ。そもそも二人しか協力者がいないというのも少なすぎると思うわ」
「おいおい、俺ぁ死ぬ気はさらさらねーぜ」
「それは私だってそうよ。でも人の運命がどうなるかは誰にもわからないわ。仮に私になにかあったとしても、代わりにタイチくんを庇護できる人が王宮内にいるのは決して悪いことじゃないわ。
私の師匠は大変思慮深い方で王宮内で顔も利くしとても信頼できるわ。王都で庇護されている人間とも面識があるし。第3王女殿下もとてもお優しくて聡明な方よ。身分的にも政治や権力争いから少し距離のあるお方だし、秘密を共有する王族としては最適だわ。
でも、もしタイチくんがどうしても嫌だというのなら、その意志を尊重してやめておくけれど……。タイチくんはどう思って?」
レインリアさんの真剣な金の瞳が僕を見据える。
僕は少し考えて答える。
「僕としては、レインリアさんが信頼できると思っている人達にならお話してもらいたいと思います。
ただ……」
僕はレインリアさんとガロンさんをちらっと見上げる。
「ただ……何かしら?」
レインリアさんが続きを促す。
「あ、はい。あの、秘密を話すのは別にいいんですけど、それとはそれとしてお二人には長生きしてほしいです……」
「あらまあ、勿論よ」
「おう! 任せとけよ。おまえ、なかなかかわいいこというじゃねーか」
レインリアさんはふわっと微笑んでくれて、ガロンさんはへへっと鼻の下をこする。
僕はなんだか気恥ずかしくなってうつむく。
「それじゃあ、精霊の拐かしの件は私から内密に伝えておくわ。タイチくんもガロンも秘密の共有はくれぐれも慎重にね」
レインリアさんがシャランと杖を振る。
「それじゃあ、そろそろ魔法を解こうと思うけれど、いいかしら?
もう話し残した秘密はないわね? 特にガロン?」
レインリアさんがガロンさんをちらりと見やる。
「僕は大丈夫です。ありがとうございます」
「おう、俺ももう十分話しつくしたぜ。こんなに長くなるとは思わなかったがな」
「それはガロンが考えなしだからよ。精霊の拐かしの話が短時間で終わると思う方がどうかしてるわ。まったく。
……«魔法解除»」
レインリアさんの杖が再びあわく光った。
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