第4話:冒険者ギルドとS級魔導師レインリア
きょろきょろと僕は周りを見回す。落ち着きがないのは自分でもわかっているけど、珍しいものが多くてつい見てしまう。
冒険者ギルドは天井の高い木造の立派な建物で、想像よりずっと広かった。そして、思ってたよりもずっとずっと人が多い! ガロンさんが言っていた通り、いかにも冒険者!って感じの若い人だけじゃなくて、小学生くらいの子や親子やおじいさんおばあさんもいる。
僕はガロンさんとはぐれないようにひしっと背中にくっついて進んだ。ガロンさんはかなり大柄だから離れてしまってもわかるとは思うけど、こんなに混んでると追いつくのが大変だ。
「すごい人だかりですね!」
僕は周りの喧騒に負けないようにガロンさんに話しかける。
「んあ? ああ、そうだな。だが、今日は妙だな。人が不自然に多すぎるし、明らかに普段見ねぇ顔もいっぱいいる。なんかあったか?」
ガロンさんは難しい顔で答える。それでも迷いなくずんずん進んでいく。ガロンさんが人混みを通り抜ける度に「赤獅子のガロンだ」「ほら、A級の……」とひそひそ聞こえてくるのでガロンさんはとても有名なんだろう。改めてすごい人に助けてもらったんだなと、僕は自分の幸運に感謝する。
「ああ、なるほどな。レインリアの奴が来てたんか。どおりで人が多いと思ったぜ。この人だかりはほとんどが野次馬だな」
ガロンさんが立ち止まってつぶやく。
僕はガロンさんの脇腹あたりから向こうをのぞきこんだ。
ギルドの受付らしきところにローブを来た人たちが数人集まっていて職員さんとなにやら話し込んでいる。みんなスラッと背が高くてかっこいいオシャレな杖を持っていた。魔法使いみたいだ。
「あの、ガロンさん。レインリアって……?」
「真ん中の、長い髪の女のことだよ」
いわれてローブの人たちを観察する。真ん中にいたのは腰まで届きそうなきれいな長い髪の女性だった。その髪色は銀色にもあわい水色のようにも見える複雑な色合いでほんのり輝いて見える。横顔しか見えないけれどすっと通った鼻が高くてとても美人だ。他の人のローブも十分素敵だけど、その人の金の繊細な刺繍が入った濃紺のローブは特別豪華だ。銀の錫杖の装飾もひときわ芸術的だ。
「レインリアの奴は森人のS級宮廷魔導師だ。特に水魔法に優れた魔法の名手だ。国の業務でたまに辺境都市に来るんだが、その時ついでにその地方の冒険者ギルドが困ってる依頼を片付けていくんだ。ギルドにとっちゃ大変ありがたい魔導師様で頭があがらない存在よ。普通は国の業務が終わったらさっさと王都に帰っちまうからな。
ほら見ろよ、普段奥にひっこんでる支長が珍しく出てきてやがるぜ。そんで、野次馬どもはめったに来ねぇ美人で凄腕の宮廷魔導師様を一目見たくて普段は寄りつきもしねぇギルドに押しかけてんだろうな。まったく、見せもんじゃねえってねのに」
やれやれとガロンさん首を振る。
「だがまあ、考えようによっちゃあちょうどよかったかもしれんな。レインリアなら精霊についてもわかるかもしれん。ちょっくら聞いてみっか」
「えっ! なんか忙しそうですけど大丈夫ですか……?」
僕は心配で受付で話し込んでいるローブの人たちを見る。でも、ガロンさんはまったく気にしてないみたいだ。
「んー、まあ大丈夫だろ。話してんのはレインリアじゃなくて取り巻きだしな。それに、あの感じ、たぶんレインリアは支長のおべっかに飽き飽きしてると見たぜ」
ガロンさんは人混みをかき分けて受付の方へとずんずん向かっていく。僕もあわてて後ろをついていく。
「おーい、レインリア。久しぶりだな。取り込み中に悪いが、今ちょっと話せるか?」
ガロンさんの声に、レインリアさんが振り返る。澄んだ金色の瞳を向けられて僕は内心ドキッとする。
「……あら、ガロン。コシッハ街で会うのは久々ね。あなた、あいかわらずA級で足踏みしてるの?」
「うっせぇな。そのうちS級にトントン拍子であがってやっからほっとけよ。
って、俺の話はいいんだよ。ちっとおまえに相談したいことがあってよ。それと紹介したいやつもいるんだ」
そう言って、ガロンさんは僕を振り返る。レインリアさんの視線もこちらに向く。
僕は慌てて頭を下げた。
「はじめまして、タイチ・マキノといいます」
「……はじめまして。私はレインリア。レインリア・ウォーターリリーよ。よろしくね。
ガロン、あなたこんな若い子を連れ回してるの? かわいそうだからおやめなさいな」
「連れ回してるたぁなんだよ、人聞きが悪いな。面倒見てやってんだよ!」
「その誰彼かまわずお世話する癖、いい加減に治したらどうなの? そのせいで私生活が散々で、実力的には十分なのにS級にあがれてないんじゃない。
それにあなたの面倒の見方って正直人を駄目にするやり方だと思うわ。この子のためにもならないわよ」
「う、うっせぇなぁ。別に誰彼かまわずってわけじゃねぇしよ。ただ、目の前で困ってる奴がいたら助けてやるのが人情ってもんだろ? おまえだって辺境に出張するたんびにほとんど奉仕活動みたいなギルドの依頼をこなしていくじゃねーか。世話好きはお互い様だ」
「あなたと一緒にしないでくださる? こちらは足を延ばしたついでに負担にならない程度の依頼を軽くこなしているだけ。ちゃんと報酬も受け取っているし実績にもなるわ。民衆からの評判だって宮仕えには必要な箔付けなの。あなたの場合はいつも私財をなげうって損ばかりしているじゃないの。そういう自分の身を犠牲にするだけのやり方はよくないと言っているのよ」
レインリアさんが淡々とお小言をいう。
ガロンさんは言い返しているけど勢いがない。横から聞いててもレインリアさんの言い分の方が正論だ。
……確かにガロンさんってすごい世話好きだよね。めちゃくちゃ助けてもらってる僕がいうのもなんだけど、普通は目の前で人が困ってるからってここまで面倒みないと思う。
これからはガロンさんが良いっていうからって頼りすぎないように気を付けよう。二人の会話を聞きながら僕は内心しっかりと決意する。
会話はなかなか終わりそうにない。レインリアさんとガロンさんはかなり親しいみたいだ。だからガロンさんは気軽に話しかけたんだな。
僕はそんなことを思いながらレインリアさんを見上げる。見れば見る程きれいな人だ。水の女神様みたい。特に長く光る髪が本当に目を引く。日本人にはどう頑張ったって絶対無理な髪質だ。
ぼーっと見とれていると僕はレインリアさん肩の下あたりの髪に草がひっかかっているのに気づいた。こっちの世界の植物かな? 初めて見る草だ。レインリアさんはそのことには気付いてなさそうだ。
「だー! 俺への説教はもういいんだよ! 用があるのはコイツだ、コイツ! タイチの方だよ!」
レインリアさんの長いお説教にしびれを切らしたガロンさんがいきなり僕の背中をバンッ!と勢いよく叩く。
痛いっ! 僕は前につんのめる。
「レインリア! おまえ、タイチを見てなにかわかんねぇか?」
「……なにかとはいったい何の話? この子……タイチくんだったわね。タイチくんの何が気になるというの?」
「いいから、よく見てくれよ。」
ガロンさんは特に説明せずにレインリアさんに無茶振りする。レインリアさんはため息をひとつつくと僕をじっと見下ろす。金の瞳にまじまじと見つめられて僕はどぎまぎする。
「……あら? なにか……。そうね、なにかしら。やけに精霊のご加護が騒ぐわね」
レインリアさんはそうつぶやくと腰をかがめて僕にぐっと顔を寄せる。近い! おでこがくっつきそうな距離で目をのぞかれる。緊張で心臓が飛びはねた。
「あ、あ、あの……」
「静かに」
気まずくてなにか話そうとした僕の唇をレインリアさんの細くてひんやりした指がすっと押さえる。シャンプーなのか香水なのかわからないけれど爽やかな花のような香りがふわっと鼻をくすぐった。
僕は自分でもはっきりわかるくらい顔が赤くなる。近い! いろいろ近すぎるよ!
「……ガロン。どういうことなの? 詳細を求めるわ」
しばらく僕をじっと見つめていたレインリアさんがすっと離れる。僕はほっと息をつく。ああ、緊張した。
「……さすがだな。おまえにはわかるんだな。話が早くて助かるぜ」
「助かるぜ、じゃないわよ。立ち話で話せるようなことじゃないでしょう? それをさも大したことない世間話のように声をかけてきて、いったいどういうつもり?」
レインリアさんはピリピリしている。
僕のことで怒ってるんだろうか。理由はわからないけど、申し訳ない。
「あ、あの、レインリアさん。すみません。僕のせい?で……」
「……タイチくんを責めているわけじゃないのよ。ガロンの雑なやり方が気に障っただけで」
ふぅー、とレインリアさんは深く息を吐くと後ろを振り返る。
「エヴリン、悪いけれど所用で少し席を外すわ。しばらくの間お願いね」
レインリアさんは受付とやり取りしていたローブの女性に声をかけると杖をすっと掲げる。
「«防音室»、«目隠霧»」
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