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第21話:調教師リンジュと地竜試乗③

 僕がリンジュさんと話しているとずっと後ろで見ていたチロルがやってきた。耳がピクピク神経質に動いている。見るからにほっぺがまん丸でふくれっつらだ。わあ、フキゲン。


「……ちょっと、タイチ! いったいどーいうことなのよ!? 魔獣には乗ったことないんでしょ!? なのになんであんなに地竜に好かれてるの! あんな、あんな頭こすりつけてなつかれるなんて……!

 ……ずっっっる~い!!!」


 地竜がまだ近くにいるので声はひかえめだけど、チロルは今にも地団駄(じだんだ)をふみそうな勢いだ。

 僕は困って眉をよせる。

 どうしようかと思っているとリンジュさんが間に入ってくれる。


「どうどう、チロルちゃん。あのね、タイチくんは例外中の例外よ。はっきりいって異常事態ね。王立学園で地竜の研究をしてたアタシだって初めて見る反応ばかりだったんだもの。

 それに言っておくけどチロルちゃんだって普通じゃありえないくらい地竜と相性はいいのよ? いくら翼竜に乗ったことがあったって、あんなにすぐ一人で地竜を乗りこなせるのは大したもんだわ」


「り、リンジュさん……。でもぉ~」


「いやマァ、テイマーとして納得いかないのはわかるわよ。単なる初心者幸運(ビギナーズラック)の域をはるかに超えてるからねぇ。操獣技術は学べても魔獣から好かれる(すべ)を身につけることは難しいもの。正直、アタシだってタイチくんがうらやましいくらいよぉ」


 二人に見つめられて僕は思わず後ずさる。いや、見られても、僕にもわかんないよ……。


「考えられるとしたら、精霊のご加護の影響だけど……。でもねぇ。アタシも精霊のご加護は複数持ってるけど、あんなに顕著(けんちょ)な反応をされたことはないのよね。不思議だわぁ」


「あ、精霊なら……」


 もしかして、精霊の(かどわ)かしのせいかな?と思って思わず僕はつぶやく。なんとなく反応しただけなのに二人はものすごい勢いで食いついた。


「え!? なに! タイチ、理由がわかるの!?」


「なにか思い当たることがあるならぜひ教えてほしいわぁ」


「え、えっと、あの……。僕って転移魔法でこっちに来たんですけど、その時の魔法がたぶん、精霊の魔法?だったみたいで……。もしかしてそれでかなぁって」


 僕は二人の勢いに押されながらふわっとした説明をする。これくらいなら精霊の(かどわ)かしってバレないかな?

 チロルが僕の言葉にハッとしたように耳を立てる。


「あっ、そっか……。タイチ、魔法事故に巻き込まれたんだもんね。それが精霊魔法だったの?」


「う、うん。たぶん。でも僕はよく覚えてなくてさ。くわしいことはわからないんだよね」


「アラ、タイチくんは普通の移民じゃなかったのね、そんな事情が……。魔法事故に遭うなんて大変だったわね。大きな怪我がなくて幸いだわ。

 専門外だけど転移系の精霊魔法って聞かないからたぶん珍しい魔法ね。

 なるほど。それの副次的作用だとしたら、地竜達のこの反応もありえるかもしれないわ。仮説としては十分成り立つわね……」


 リンジュさんは真剣な顔つきで考え込んでいる。研究者スイッチが入ったみたいだ。

 チロルの方はさっきまでの剣幕(けんまく)がおさまって、しょんぼりと耳を垂れている。


「ごめんタイチ。まさか魔法事故の後遺症(こういしょう)だとは思わなくって……。ずるいなんて言っちゃってごめんね」


「全然いいよ! 気にしないで。それに本当にその魔法事故が原因かは僕もよくわかんないしね」


 僕は今度レインリアさんに会ったら聞いてみようかな?と考える。

 リンジュさんが口を開く。


「そういえば、タイチくんは精霊のご加護は持ってるのかしら? よければそちらも参考に教えてほしいわ」


「あっ、それがその……。僕まだステータスボードを発行してなくて、自分でも知らないんです。今教会で予約はしてるんですけど、なかなか忙しいみたいで」


「アラ、そうなの? でも洗礼板(ステータスボード)の発行で教会に予約を……? 普通、直接行けばすぐ受け付けてもらえるけど。

 ああ、魔法事故の関係でいろいろ複雑なのかしら?」


「あ、はい。そんな感じです。

 ステータスボードをもらって、ご加護のことがわかったらリンジュさんにもお知らせしますね!」


「……わたしも気になるからよかったら教えてほしいな。ちなみにわたしは風と地、それと雷の精霊のご加護をもらってるのよ」


 しょんぼりしていたチロルがちょっとうれしそうに話してくれる。僕はその話題に乗る。


「そうなんだ。僕、精霊のご加護のこと詳しく知らないんだけど、それってすごいよね?」 


「うーん。ものすごく珍しいってほどではないかな。でも、家族の中で四大精霊から2つのご加護をもらってるのはわたしだけなんだよ。

 あと雷の精霊のご加護はたぶん(レア)だと思う。持ってる人わたし以外には会ったことないね」


 チロルはすっかり調子が戻って得意気に話してくれる。

 

「アラ、3つもご加護を持ってるのは十分すごいわよ。ひとつも持ってない人だって普通にいるんだし、腕利きの冒険者だってせいぜい1つか2つだからね。

 雷の精霊のご加護はアタシもほしいわぁ。警戒心が強い雷系の魔獣の好感度が上がるからねぇ」


「いや、四大精霊のご加護を全部持ってるリンジュさんの方がよっぽどすごいと思いますけど……」


 チロルがリンジュさんに少し口をとがらせる。

 僕は気になった単語について聞いてみる。


「あの、四大精霊っていうのは?」


「ああ、四大精霊、正式には四大基礎精霊ね。火、水、風、地の精霊のことよ。その上に三大上位精霊という存在があって、時、闇、光の精霊がいるの。この七柱をあわせて七大精霊と呼ぶわね。

 それ以外の精霊は眷属精霊と呼ぶわ。チロルちゃんの雷の精霊はこちらに該当するわね。 

 教会で洗礼を受けたら、その時に教主様がくわしくお話ししてくださるわ。精霊信仰はこの国の国教だからね」


「なるほど、そうなんですね。お話を聞くのが楽しみです!」


「ええ。タイチくんが精霊様からどんなご加護を授かっているか、アタシも楽しみにしてるわ」


 リンジュさんがにこりと笑う。


「さて、話が盛り上がっちゃったけど、二人は被調教魔獣(ギルドビースト)を借りにきたのよね。どうする? 予想外な反応はあったけど、二人とも地竜との相性は問題ないわ。タイチくんも落ち着いて乗れていたし、操獣者がチロルちゃんならまず大丈夫でしょう。

 二人が地竜の貸与を希望するならアタシがここで貸し出し手続きを受け付けるわ」


 リンジュさんがスマホのような板を取り出して僕らに聞く。さっきのタブレットの小さい版かな?


「あ、ぜひ地竜でお願いしたいです! タイチもそれでいいよね?」


「うん。僕も大丈夫」


 ちょっと好かれすぎて戸惑ったけど、地竜に乗るの自体は楽しくておもしろかった。チロルも喜んでるし僕に異存(いぞん)はない。


了解(オーケー)。それじゃあ、貸し出す個体だけど、ジェダとネフラのどちらにしたい? アタシとしてはジェダをオススメするけれど」


「あ、わたしもジェダでお願いしたいです」


「え? そうなの?」


 僕はチロルの答えが意外で聞き返す。

 てっきりチロルはネフラの方が好きだと思ってた。


「アラ、タイチくんはネフラの方が好み?」


「あ、いえ。僕もジェダの方がいいんですけど。……ネフラには干し肉食べさせられたし。

 でも、試乗してる時のチロルはネフラとの相性の方がよく見えたからちょっと意外で。動きがさくさくしてたし」


「ああ、タイチにはそう見えたんだ。確かに反応はよかったんだけどね。というより、反応がよすぎるというか。あの子、わたしが指示を出す前に先読みして動くところがあってさ。そこがいいっていう操獣者の人もいると思うけど、わたしとしては、こっちが指示を出し終えるまではきちんと待機してほしいと思って。

 特に地竜には初めて乗るし、慣れてないタイチも一緒だしね」


「そうなのよねぇ。アタシもだいぶネフラには待つことを仕込んでるんだけど、本当にせっかちな子で、なかなか癖が直らなくてねぇ。

 頭がとても良くて操獣者の意図を的確に読み取るから、後は指示をしっかり最後まで聞ければ素晴らしい被調教魔獣(ギルドビースト)になると思うんだけど」


 リンジュさんがネフラを見ながらため息をつく。ネフラはそれを知ってか知らずか顔をそらしてあくびをしている。

 ……僕には全然わからなかったな。

 あらためて二人のすごさを感じる。


「それじゃあ、今回はジェダで貸し出し手続きをするわね。期間は今日1日でよかったかしら?」


「はい、大丈夫です。お願いします」


「じゃあ利用料を徴収(ちょうしゅう)させてもらうわね。翡翠地竜(アズリス)1頭、1日で担保金(たんぽきん)もあわせて小金貨8枚よ」


「しょ、小金貨8枚!?」


 僕はあまりの高額に驚いて大声を出してしまう。

 柱に繋がれていたジェダとネフラがこちらを凝視(ぎょうし)してざっと身を乗り出したのが見えた。ご、ごめん。僕は手で口元を押さえる。


「お、落ち着いて、タイチ。半分は担保金(たんぽきん)で、後で戻ってくるお金なんだから」


「え、それでも小金貨4枚だよね……!? それって一月分の家賃とかじゃなかった……? ギルドの正式な登録料よりも高いしさ……。

 あの、僕、薬草採取は頑張るつもりだけど、とてもそんなには稼げないと思う。

 もしかしてチロルが受けてる方の依頼は単価が高いの? そっちで元取れる……?」


「いや、わたしが受けてる依頼もそんなには稼げないよ。あの、でも、大丈夫。地竜に乗る時点で手出しが出るのはわかってたから。テイマーとしての経験になるし、趣味も兼ねた先行投資よ。もちろん、わたしが全額支払うから心配しないで」


「いや、でも……」


 チロルはなんでもない風に答えるけど、僕はあまりの金額にしり込みする。初心者の薬草採取に付き合ってかけるお金じゃないと思う。ていうか、小金貨4枚ってチロルからしたら出せる金額なんだ……。貯金がゼロ、むしろ後払いばかりで借金中の僕からするとそれもちょっとショック。なにより、自分がちゃんと利用料のことを考えてなかったことに気づいてへこむ。

 ……ちゃんと貯金しなきゃ。

 そんな僕らの会話を聞いて、申し訳なさそうにリンジュさんが言う。


「ごめんなさいねぇ。そりゃ、高額で驚くわよね。

 地竜はまだ試験導入中の希少種だから利用料が高くついてしまって。盗難の心配もあって追跡や特定の魔道具なんかも使ってるからどうしても、ねぇ。

 それでもある程度実力のあるテイマーなら結構ポンと出しちゃう額なんだけど、駆け出し冒険者のタイチくんからしたら目玉飛び出るわよね」


「大丈夫です、リンジュさん! なんたって地竜なんですし、それだけの価値がありますから!」


 チロルがどんと胸をたたくけど、僕は何とも言えなくて口をつぐむ。そりゃお金を払ってくれるのはチロルだけど、行く前からすでに赤字確定なのは申し訳ないというか……。

 リンジュさんが気遣わしそうに僕にいう。


「あの、安心してちょうだいね、タイチくん。

 地竜の利用料が特別高いだけで、馬型の半魔馬(ヒポリス)なら1日あたり小金貨1枚くらいだし、動物の馬ならさらにその半分よ。それに、今回は1日貸しだけど、短時間の時間貸しならもっと安くすむわ。頻繁に利用する冒険者には割引や定額制度なんかもあるしね。

 なによりチロルちゃんだって毎回地竜に乗るわけじゃないわ。でも、テイマーって初めての魔獣を見たら自腹を切ってでも知りたいものなのよ。テイマーの習性と思って今日は付き合ってあげてちょうだい」


「は、はい。わかりました。僕も地竜に乗って楽しかったですし、チロルがいいのなら、僕も別に大丈夫です」


「ありがと、タイチ!」


 チロルはニコニコだ。

 どっちかというとお礼をいうべきは僕の方な気がするけど。

  

「リンジュさん、利用料ですけど、現金の手持ちはないので口座からの残高払いでいいですか?」


「ええ、もちろん大丈夫よ。カードを出してもらえるかしら?」


 チロルは革のケースから冒険者カードを取り出す。リンジュさんがスマホ的な板をカードにかざすと画面がピカッと光った。その後、板の側面からレシート的なものがジジジッと印刷されてでてくる。


「うん、これで支払完了ね。領収控えを渡すからちょっと待ってね。知ってると思うけど、担保金(たんぽきん)の払い戻しの時に必要だから失くさないように気をつけて」


「はい」


 リンジュさんはレシートに何か書き込むとチロルへ渡す。チロルはレシートを受けとるとカードと一緒に丁寧にケースにしまった。


「じゃあ、これで貸与手続きはすべて完了よ。

 二人ともジェダに乗ってちょうだいな。アタシはネフラに乗って出口まで見送らせてもらうわ」


「わかりました。行こ、タイチ」


 チロルに声をかけられて、ジェダの方へ向かう。僕はまた顔をなめられるのが嫌だったので少し離れたところで止まった。ジェダはあいかわらずしっぽをブンブン振っている。うーん。ちょっとは落ち着いてほしい。

 でも、チロルはジェダをうまいことなだめながら騎乗準備を進めていく。さすがだ。


「じゃあ、タイチからどうぞ」


「あ、うん。ありがとう。えっと、僕はまた前に乗るのかな?」


 リンジュさんの時も恥ずかしかったけど、チロルの腕の間に座るのはもっと気まずいな。まあ、しょうがないんだけど……。

 僕が内心そう思っているとチロルが首を横に振る。


「ううん、タイチは後ろに座って。タイチの方が背が高いし前に座られると操獣がしづらいからさ」


「ああ、さっきタイチくんに前に座ってもらったのは姿勢や様子を見たかったからなのよ。普通は操獣者が前に座るわ。その方が操獣しやすくて安定するしね」


「あ、そうなんですね」


 僕はほっとしてジェダの後ろにまたがる。

 すぐにチロルが乗り込んできた。


「いいかな? タイチ。(あぶみ)の調整や騎乗安定装置(サドルガード)の設定は大丈夫?」


「うん、バッチリ。いつでもいいよ」


 僕はしっかり持ち手をつかんでチロルに答える。

 チロルがピュイッと口笛を一吹きした。すぐにジェダが立ち上がって歩き出す。

 すでにネフラに騎乗して待っていてくれたリンジュさんが出口へ先導してくれる。

 さあ、いよいよ薬草採取だ!

 僕は高鳴る気持ちを押さえながら持ち手をぎゅっと握りしめた。

お読みいただきありがとうございました。

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