第1話:大衆浴場と異世界転生
………………い………………おい!」
「う……あ?」
「……い……おい!!」
がくんがくんとすごい衝撃。頭を思い切り揺さぶられて僕のまぶたはひんむかれた。白とびした視界が激しく揺れて気持ち悪い。
「気づいたか!? しっかりしろ!!」
「あ、う……げほっ、げぇ!」
横向きに寝返らせられて、バンバンと強い力で背中を叩かれる。
僕は盛大に吐いた。生ぬるさがのどをせりあがって気持ち悪い。呼吸が苦しくて涙がにじむ。
「はぁ、はぁ、げぇえ!」
「おし、おし! その調子だ。全部吐いちまえ。すっきりするから」
痛いくらいに激しく背中を叩いていた手が今度は乱暴ながらも撫でてくれる。僕は荒く呼吸をしながら目を瞬いた。焦点があわなくて何がなんだかわからない。
「あ、え、……あ?」
「おい、聞こえるか? おまえ溺れて風呂底に沈んでたんだぞ。死んじまってるかと思ってびびったぜ」
「あう、あ、すみません……」
どうやら僕は助けられたらしい。でも、誰だろう?
先生たちじゃない。全然声に聞き覚えがない。救急隊の人? 涙で視界がボヤボヤしてよく見えない。
「ほれ、これで顔ふけ!」
手にタオルっぽいものを握らされる。僕は横向きで起きられないまま、とりあえず顔をごしごしぬぐった。水と涙がとれて、やっと目がすっきりする。
「ありがとうございま……すっ?」
「おう、お安いご用よ!」
目の前に飛び込んできたのはしゃべるライオンだ!
「う、うわぁ! ライオンがいる!!?」
あわててはいつくばったまま後ろへ逃げたけれど、濡れた床ですべってしまい、べしゃりとまた床に転がってしまう。
「はあ? なんだ、おまえ。獣人見たことないんか? 命の恩人を動物呼ばわりしやがって、失礼なやつだな」
「え? え? ジュウジン?」
「そうだよ。俺ぁ正真正銘獅子の獣人だ。今時獣人を見たことないなんざ、いったいどこのド田舎から出てきたんだ?」
心底呆れた声でライオンがため息をつく。
僕はまともに体も起こせず混乱する。
「ジュウジン……獣人? 本物の? え?」
「おうよ。まあ、偽物の獣人なんか見たことねーがな」
何度瞬きしても目の前には二足歩行のライオン……もとい獣人のお兄さんがいる。僕に呆れていたようなのに、散らばったタオルや洗面器をテキパキと片付けてくれている。
呆然とその様子を眺めながら僕ははじめて周りを見回した。
……ここ施設のお風呂じゃない!
「あ、あの! ここはどこですか!?」
「あ? 溺れたついでに記憶なくしたんか? ここはコシッハ街の第一大衆浴場だよ。おめぇも風呂に入りにきたんだろ?」
「こ、こしっはまち? 聞いたことないです……、ここって何県ですか? さすがに九州ですよね?」
不安になって確認するが獣人のお兄さんは面食らったような顔になっている。
「は? なに言ってんだ。コシッハ街はコシッハ街だろ。ケンだのキュウシューだのはなんの話だ?」
「え? え? あの、でも、僕は岡福県の施設のお風呂にいたはずなんです。こしっはまちなんて聞いたことないんです」
「オカフク……? それこそ聞いたことねぇ地名だな。もしかしておめぇ移民なのか?」
「え? 違います。僕は日本人です。外国に行ったことないです」
「ニホン? そりゃ国の名前か? 聞いたことねーが、ここはカナンマ王国の辺境だぞ? やっぱりおめぇ移民なんじゃねーか」
「え!? ここ日本じゃないんですか!?」
「おいおい……。本当に大丈夫か? 記憶なくすにしても程度がひでぇぞ?」
獣人のお兄さんは思い切り顔をしかめる。僕はわけがわからず混乱するばかり。
「え? でも、え? 夢? ……なんで?」
「あー、わかった、わかった! ひとまず落ち着け! まず、いつまでも真っ裸で床に寝転んでるんじゃねぇよ。体が冷えちまってるだろうが。とりあえず湯船にもっかいざぶっと入れ! そんでぬくもったら外に出て飯だ! 話はそっから聞いてやる! ほれ、立て!」
僕は獣人のお兄さんに半ば追いたてられて湯船に転がり込む。確かに体が冷えていたみたいで暖かいお湯はほっとした。
……いったいどういうことなんだろう? ここどこ? ていうか獣人ってなに?
大混乱の中、僕は熱いお湯にザブンと体を沈めた。
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