第18話:受注手続きとギルドビースト
「すみません、受注手続きお願いします」
«受注»と書かれたデスクにいた猫の獣人のお姉さんにチロルが番号札を差し出す。
「はい、こちら2種の同時受注ですね。依頼内容を確認しますので少々お待ちください。冒険者カードの読み取りを行いますのでそちらの専用機にカードを照合してください」
チロルは革のケースからカードを取り出すとデスクに置かれていた機械にかざして読み取らせる。ピカッと一瞬機械が光って何かレシートのようなものが発行される。職員さんはレシートをぴっとちぎると何か記入してクリップでさっとはさんだ。
……おお、なんだかハイテク。受注ってこんな感じなんだ。でも、僕まだゲストカード発行されてないんだけど、その場合はどうするんだろう?
チロルの手続きを見ながら僕はむむっと眉を寄せる。
職員さんはファイルをぺらぺらとめくっていく。ファイルにはさっき掲示板に貼られていた依頼書が番号順に閉じられているみたいだ。職員さんはチロルに開いたページを見せる。
「ご希望の依頼はこちらとこちらで間違いないでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「承知いたしました。こちらの依頼でしたら等級についても同時受注についても問題ございませんので、ご希望通りに承認いたします。受付簿に確認の署名をお願いいたします。
依頼書の写しはご入り用でしょうか? 一枚あたり小銅貨1枚いただいております」
「いえ、依頼書の写しは大丈夫です。
でも被調教魔獣をお借りしたいです」
「かしこまりました。それでは被調教魔獣の貸与手続きを行いますね。
ご希望の獣種や期間はお決まりですか?」
「馬型魔獣か、わたし達二人が背中に乗れる種類がいいです。食性は草食か雑食で。期間は今日1日でお願いします」
「承知いたしました。お調べしますので、少々お待ちください」
職員さんは今度はタブレットみたいな板状の画面に触れて操作する。いろんなデータがその中で管理されてるみたいだ。これも魔法道具なのかな? もしかしてインターネット的なものもあったり? それだとかなり技術が進んでるし現代日本みたいだなぁ……。
そんなことを考えながら見ていると、職員さんはタブレットをくるりとチロルへ向けて画面を提示する。
「ご希望の獣種ですと現在空きがあるのはこちらの4種になりますね。ある程度移動速度が必要でしたら、上2種の半魔馬か黒曜角鹿、積載量に重きを置くのでしたら下2種の火革犀か森象亀をお薦めいたします。
それから、食性がご希望から外れてはいますが、チロル様はC級テイマーということで、ただいま試験導入している地竜系の魔獣をご紹介することもできます。
いかがいたしましょうか?」
「え! 地竜がこっちにも導入されたんですか? 前聞いた時はコシッハ支部は辺境だから難しいという話だったんですが……」
「ええ。長らく西方地域には地竜系魔獣の導入は見送られていたのですが、この度調教師の尽力が実を結びましてついに開始されました。ちなみに西方地域では初めての試みとなります」
職員さんがにこやかにチロルへ説明する。
チロルの表情がパアッと明るくなる。
「さすがリンジュさん! すごいですね!
タイチ! あのさ、せっかくだから地竜の方にしてもいい!?」
感激しているチロルがいきおいよく僕へ振り向いて聞く。チロルの様子から地竜にしたいのはよく伝わるのだけど、僕は話の意味がさっぱりだ。
「よくわかんないけど、チロルが好きな方でいいんじゃない? 正直、僕はギルドビーストも地竜もなんなのか全然よく知らないし……」
「あ、そっか。説明してなかったね。ごめん。
えーっと、被調教魔獣っていうのは、ギルドが特殊な技術で調教した魔獣のことで、利用料を払えば冒険者は依頼達成のために借りることができる魔獣のことなの。移動用とか運搬用とかにね。
もちろん、普通の馬とか牛とかも借りられるけど、依頼によっては動物を使うのは難しいの。魔力の濃い土地では動物だと興奮したり怖がったりして動けなくなることがあるからね。
まあ、薬草採取なら動物の馬でも良かったんだけど、ほら、わたしってテイマーだからさ。魔獣の方が好きなんだよね」
チロルがへへっと笑いながら説明してくれる。
「馬車の中で魔獣は飼育できないし、魔法契約しないと扱えないって話したじゃない?
でも冒険者ギルドには専門の調教師がいて、魔道具を駆使してテイマーじゃなくても広く扱えるように魔獣をしつけてるんだ。すごい技術よね。
特にコシッハ支部の調教師さんは凄腕で有名なのよ! 他のギルド支店で扱ってるのは馬型で扱いやすい半魔馬か、いたとしても動きがゆっくりでおとなしい亀系魔獣くらいないんだけど、ここには10種類近くいるんだよ! 魔法契約するのも難しい狼型までいるの! それってとんでもないことなんだから!
調教師ってテイマーの資格をとった上でギルドでの実務経験を何年も積んで、さらに王立学園を卒業して学位を取得した後、国家試験を受験して合格しないと得られないの。まさにテイマーの最高峰よ。わたしの大のあこがれ!」
チロルが夢中で語る。こんなにテンションが高いチロルは初めて見た。
さすがテイマー。そんなに魔獣が好きだったんだ。
僕はちょっと圧倒されながらチロルの説明を聞く。
「あ、ごめん! 話がそれたね。
えっと、それで今回は移動用に利用料の安い馬型の魔獣を借りようと思ってたんだけどさ……」
チロルは職員さんから借りたタブレットを操作すると画面を僕に見せる。
恐竜みたいな生き物が表示されている。昔映画で見たのに似てるかも。たしかラプトルだっけ。鮮やかなグリーンが派手でかっこいい。
「これは地竜っていってね、東方の一部の地域にしかいない魔獣なの。古代の姿がそのまま残ってる貴重な種類なんだ。翼竜系のドラゴンやワイバーンともまた違った形態でさ……。肉食で気性も荒いんだけど、移動速度は馬型をしのぐほどで、荒れ地や水中にも強くて、夜目も利くのよ。
それに、なによりかっこいいでしょ!」
チロルは目をキラキラさせて僕に力説する。
僕も恐竜はわりと好きなので気持ちはわかる。ロマンあるよね。
「それなら地竜でいいんじゃない? なんでチロルは迷ってるの?」
「う、うーん。ここまで説明しておいてなんだけど、本当にいい? 肉食だから牙とか爪とか鋭いし、慣れてないと怖いかなって思ったんだけど……。あと馬型よりも乗り心地が不安定かも。
タイチ、その辺は平気?」
「あ、なるほど。それは考えてなかったな。もしかして噛まれたりする……?」
「いや! それは大丈夫! 被調教魔獣とは魔道具を通した疑似テイムを結ぶから、気性が荒くてもきちんと制御できるわ。それ以前にわたしはC級テイマーよ。間違っても騎乗者にちょっかいだすような真似は絶対させないわ。それは約束する」
チロルが胸をはって僕にいう。
「そうなんだ。それなら……。
あ、でも待って。僕って馬にもほとんど乗ったことないんだけど、それでも大丈夫かな……? 人が引いてくれてる馬にちょっと乗ったことあるくらいで……」
僕は施設のみんなで遊びに行った牧場の体験乗馬コーナーのことを思い出す。あれって馬でもなくてポニーだったっけ……? そんな経験しかなくても本当に大丈夫なのかな?
チロルの希望を叶えてあげたいけど、もしも落っこちたりして迷惑かけるのもとても困る。
僕が悩んでいると会話を聞いていた職員さんが助け船を出してくれる。
「もしよろしければ試乗されてからお決めになりますか? 現在、地竜は第3調教場にて訓練中ですが、ご希望があれば試乗は可能ですよ」
「あ、試乗ができるんですね! それなら、実際に乗ってみてから決めようか。やっぱりタイチが平気かどうかちゃんと確かめた方がいいしね。無理なら今度別の依頼の時に借りるから」
「うん、そうだね! ありがとう」
「ううん、早く乗ってみたいっていうわたしのワガママだから。こっちこそありがとね」
「それでは、被調教魔獣の貸与手続きは一旦保留とさせていただきますね。調教師に試乗の連絡をいれておきます。
お連れのタイチ様の受注手続きを開始してもよろしいですか?」
職員さんが僕にいう。
そうだった。僕の方の受注手続きがまだだった。
ちょっと緊張しながら僕は職員さんに依頼の番号札を渡す。
「は、はい。お願いします。
あの、僕ってまだ冒険者カードが発行されてないんですが……」
それでも大丈夫かなと思いながら尋ねると、職員さんはにこりと笑ってくれる。
「はい。副支長のグラスより申しつかっております。登録料後払い制度をご利用されての新規発行中ということですね。グラスより冒険者番号を印字した手首帯をお渡ししているかと思いますが本日はお持ちでしょうか?」
「あ、はい。つけてます」
僕は左腕の袖を少しめくって見せる。アウェイアさんにもらったバンドだ。こんな風に使うんだ。
ていうか、アウェイアさん、職員さん達に僕のこと説明してくれてたんだ。さすがだ。
「それでは、番号を照会いたしますね」
職員さんはささっと調べて受付を行っていく。カードがないこと以外はチロルとほとんど同じ流れだ。依頼書ファイルでモヨギ草の依頼を確認して、受付簿にサインする。そういえば、異世界なのになんでか読み書きは不思議とできるんだよね。精霊の力なのかな?
ギルドビーストの件がないので、僕の方の手続きはあっという間に終わった。
「それでは手続きは以上となります。
依頼書の写しをお持ちになりますよね? 一枚あたり小銅貨1枚いただいております」
「あ、いえ。写しは僕もいらないです」
「えっ? しかし……。タイチ様は初めての薬草採取ですよね? 依頼書の写しがないと手がかりがまったくないわけですから、薬草の見分けが困難かと思われますが……」
テキパキと仕事をしてくれていた職員さんが困ったようにいう。僕は事情を説明する。
「あの、僕本物のモヨギ草を一株持ってるんです。なので、これを見ながら採取しようと思ってて」
僕はポケットに大事にしまっていたモヨギ草を取り出す。職員さんは僕の説明に納得してうなずく。
「なるほど。それでしたら、確かに問題ございませんね」
「あの、それで、薬草を見分けるためにニセモヨギ草を一株分けてほしいんですが、それってできますか?」
「ニセモヨギ草をでございますか?」
職員さんが目を丸くする。
「はい。本物のモヨギ草とニセモヨギ草を見比べながら採取すれば初心者でもやりやすいんじゃないかと思って……。ダメでしょうか?」
「いえ……。初めて聞くお申し出ではありますが、おそらく可能かと。確認して参りますので、少々お待ちくださいませ」
ダメだと言われなくて僕はほっとする。
職員さんはわりとすぐに戻ってきてくれた。
「許可がおりましたのでお渡しいたしますね。
こちらの麻袋にニセモヨギ草をいれておりますのでご確認ください。毒性がありますので、くれぐれも口にしないようにお気をつけください。素手でさわった場合は流水でよく手を洗い流してくださいね」
「はい! ありがとうございます」
「よかったね、タイチ」
僕は袋を受け取ってペコリと頭を下げる。チロルも喜んでくれる。
やった! ニセモヨギ草ゲット!
「それでは手続きは以上です。お気をつけていってらっしゃいませ。
試乗を行う第3調教場の場所は左手の方角です。案内に従ってお進みください。
……お二人とも良い冒険を」
職員さんに見送られながら僕らは受付セクションを後にする。
次は地竜だ。実物はどうなんだろう? 大きいのかな? 僕は不安と期待を同時に感じながらチロルについて進んでいった。
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