第17話:薬草図鑑と衝撃の事実
なかなかお目当ての薬草図鑑が見つからない。
僕は手当たり次第に資料を手に取って開いていく。
あ、やっと見つけた! 薬草のことが載っていたのは薄い冊子だった。よかった、これもフルカラーだ。
僕はモヨギ草を探してページをめくる。最初の方のページに載っていた。なになに?
モヨギ草。単にモヨギとも呼ぶ。効能は鎮痛、消炎、整腸、健胃、軽い毒消し。頭痛・胃痛止めや整腸剤、湿布薬としても用いられる庶民の常備薬、と。ほうほう、いろんなことに効くんだなぁ。
それから、生食には向かず主に葉や茎を乾燥させて煎じる。根は一般に用いないが、茶として摂取すると体を整える効果がある。へえ、さっき依頼書の注意事項に根は取るなって書いてあったけど、一応薬効はあるんだ。
次は詳しく知りたかった自生地の情報だ。開けた草原から林縁にかけてよく生える。明るく適度に乾燥した場所を好む。土地の魔力濃度にはそれほど依存しない草であり、魔力が濃い土地ではかえってまばらとなる。……なるほど? 魔力濃度って測定器とかあるのかな?
他には……、 葉を揉むとわずかに柑橘のような爽やかな香りがする。花は黄色。見分けがむずかしい草としてニセモヨギ草があるが、こちらは毒草なので採取の際には注意が必要である。
……え? これだけ?
僕はページをめくるがモヨギ草の情報はそれで全部だ。あまりにあっさりした解説に僕は唖然とする。
うっそぉ? 薄いとはいえちゃんと図鑑なのに肝心の特徴があっさりしすぎじゃない? もっと葉のつき方とか葉の形とか草の背丈とか、茎はつるつるなのか毛が生えてるのか、それに断面の形や中空なのかとかさぁ。
花も色だけじゃなくて、せめて花弁と蕊の数は書くべきだし、他にもいつ咲くとか子房の位置はどうなのかとか蕚の形や花柄の長さはどれくらいとかちゃんと書いといてほしい! 具体的な大きさや数が1個もでてこないなんて信じられない。絵から読み取れってこと? でもイラストのモヨギ草にはそもそも花咲いてないし……。
そしてなにより、ニセモヨギ草との違いや見分け方がまったく載ってない! そこが冒険者には一番必要な情報なのに。
この図鑑が手抜きなだけ? 確かに薄いけど……。
そうだ、ニセモヨギ草は載ってる? 見分け方はそっちに詳しく書いてあるとか……?
僕はパラパラと図鑑をめくってみる。
「おまたせ、タイチ。薬草図鑑はどう?」
僕が図鑑をにらんでいると、チロルがいつの間にか横に来ていた。
僕はチロルに助けを求める。
「あ、チロル。薬草図鑑なかなか見つからなくてさ。やっと見つけたと思ったらひどいんだよ、この図鑑。ほら!」
僕はモヨギ草のページをチロルに見せる。チロルはそのページにざっと目を通すと不思議そうに僕を見る。
「ちゃんと色つきの絵が大きく載ってるし、情報も書いてあるじゃない? どの図鑑も似たようなものだと思うけど……いったい何がひどいの?」
「え! 確かに薬効とか自生地はそれなりに参考になるけど、特徴があっさりしすぎじゃない? わかるのは匂いと花の色くらいでさ。説明に花のことが書いてあるのに花の絵が載ってないのもどうかと思うし。
なにより肝心のニセモヨギ草との違いが全然載ってないんだよ?」
僕はチロルに図鑑のひどさを訴える。
結局ニセモヨギ草はそもそもページがないみたいだ。だから情報は本当にこれで全部だ。
でも僕の不満にチロルは意外そうな顔で返事をする。
「え? それは当たり前じゃない?
だってモヨギ草とニセモヨギ草のちゃんとした見分け方ってわかってないよ?」
「え!? じゃあみんなどうやって探すの!?」
僕はチロルの衝撃発言に思わず大声を出してしまう。あわてて口を手でふさいだ。
チロルは僕のいきおいに戸惑う。
「いや、その……。わかってないっていったらちょっと大げさだったかも。正確には薬草採取専任で何十年みたいな冒険者の人たちは見分け方を知ってるわ。大抵は老練者のおじいちゃん、おばあちゃん達だね。わたしも初心者の頃、薬草採取について教えてほしくて話を聞きに行ったことあるんだけど……。でもその人たちは言葉で説明するのは苦手なんだよね。見ればわかるとか雰囲気がこう!みたいな感じで参考にはならなかったかな……」
「じゃ、じゃあ、ギルドの人たちはどうしてるの? 査定するんだから、見分けられないと困るでしょ?」
「ああ、ギルドの職員さんは鑑定の魔道具を使ってるからそれでわかるの。大型で魔力消費が大きいから持ち運びはできないけどね。本当は移動式の鑑定魔道具があれば、採取の依頼はもっと達成しやすくなると思うんだけど……」
チロルが残念そうにため息をつく。
僕はカルチャーショックすぎてぼーっとしてしまう。
「まさか薬草採取がそんな感じだなんて……。おすすめされたモヨギ草でこの難易度って全然初心者向けじゃなくない……?」
「いやいや、初心者向けではあると思うよ。魔獣狩りと違って危険は本当に少ないし。それにモヨギ草の場合、見分けつかなくても絵に似てるのをとりあえず摘んでいけば、モヨギ草かニセモヨギ草のどっちかなんだから、二分の一で当たりでしょ? 一応匂いでこっちかな?って予想がつかないこともないし……。当たりが多ければ査定も高くなるよ」
「ええ~……。それってつまり運ゲーじゃん……」
僕はがっくりとうなだれる。
「う、うーん。なんかごめん……」
落ち込む僕にチロルが謝ってくれる。
いや、チロルはまったくなにも悪くないんだけど。
「いいんだ。僕の予想と違っただけだからさ……。
あー……、せめてニセモヨギ草が図鑑に載ってればなぁ。そしたら、僕はレインリアさんからもらったモヨギ草の実物があるから、違いを見比べて探せたんだけど」
「まあ、ここに置いてあるのは薬草図鑑だもんね。もしかしたら植物の専門書には載ってるかもしれないけど……。普通の図鑑にはニセモヨギ草は役に立たない毒草だから載ってないの。まあ、まぎらわしいもんね。
……あ、それなら受注区画でニセモヨギ草を一株もらえないか、聞いてみたら?」
「え? そんなことできるの?」
「本物のモヨギ草の方は買い取り対象だから当然譲ってもらえないけど、ニセモヨギ草は間違えて取ってきちゃったいらない草だしね。毒があるから注意しろとはいわれると思うけど、一株、二株くらい別に持ってっていいと思う。ていうか、ギルドの人たちだって焼却処分しなきゃいけないって扱いを面倒がってる草だしね」
「そうなんだ! それなら僕実物同士を見比べて見分けを頑張るよ!」
がぜんやる気が湧いてきて僕はガッツポーズをする。
でもチロルは冷静だ。
「うーん、まあ、やる気は買うけどさ……。そんなに簡単にいかないと思うよ? 本物をよく見ただけで違いがわかるなら、もっと採取率上がってると思うし……」
「そうかもしれないけど、それでもやる気出たから!」
「そう? まあ、タイチのやる気が戻ったんならいいんだけどね」
チロルは笑う。僕はチロルに尋ねる。
「そういえば、チロルの方はいい依頼あった?」
「ああ、うん。ちょうど一角兎の角の回収と、愛玩用野ねずみの捕獲依頼が出てたからそれにしようと思う。この2種類なら薬草採取の場所でも見かけるし、タイチの護衛の支障にもならないから」
チロルが2枚の番号札を僕に見せる。
「そっか。チロルも見つかったならよかった。僕に合わせた依頼にしてくれてありがとね。
じゃあ、さっそく受注して出発しようよ」
「そうね、受注区画はこっちだよ」
チロルについて僕はうきうきと進む。楽しみだ。
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