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第16話:掲示板と依頼の選び方

 ギルドの中は人がまばらでだいぶ空いていた。

 人混みを覚悟していた僕はちょっと拍子抜(ひょうしぬ)けする。


「なんだか人が少ないね」


「まあ、この時間はこんなものよ。ギルド開所と同時に来たしね。でも、もう少し立つと一気に人が増えて、依頼掲示板も受注区画(セクション)もそれなりに混みあうよ。ゆっくり依頼を選びたかったら今日みたいに早めに来た方がいいよ。

 ……ああ、もしかして、前回来た時と比べてるの? あの時は特別よ。レインリア様が来てたから冒険者以外の人達がいっぱい押しかけてただけだから。普段はあんなお祭りみたいな人混みにはならないわよ」


 そう僕に答えながらチロルは遠くからでも目立つ大きな掲示板へ向かって進んでいく。


「ここが依頼掲示板ね。この中から自分の受けたい依頼を探すの。たまにここに貼られていない特別な依頼もあるけど、そういうのは上級冒険者とか特殊技能持ちの冒険者に直接ギルドから声がかかるから気にしなくていいわ。依頼書は朝一番と正午と午後6時の三回更新されるの。ただ、朝以外の時間はみんな依頼を確認したくて混雑するからそれが嫌ならその時間は逆に避けた方がいいわね」


 チロルはひとつひとつ丁寧に説明してくれる。

 

「掲示板は依頼の内容ごと大まかに分かれてるの。この辺は軽作業系で、一番依頼の数が多くて掲示場所も広いわ。いろんな依頼があるけど単価は安め。雑務も多いかかな。でも危険は少ないから初心者にはオススメよ。

 こっちが魔獣討伐や狩猟系、その隣が戦闘・護衛系ね。この辺は冒険者として出世したい人が積極的に狙ってるから競争率は高めで単価も高いかな。冒険者と言えば!って感じの依頼ね。

 それでこっちの端の方ががタイチのお目当ての採取系ね。たまに国とか研究機関から大口の依頼が来るけど、だいたいはいつも同じ依頼が貼り出されてるかな。

 依頼にある魔獣とか薬草とかを個別に調べたかったら向こうの資料棚に閲覧自由の図鑑とか絵図集があるから読むといいよ。持ち出しは厳禁だから気をつけてね。

 受けたい依頼を見つけたら、依頼書の横に下げてある番号札を取って受注区画(セクション)で手続きするの。札を間違えたら別の依頼を受注しちゃうからよく確認してね。たまに番号札がきれててないことがあるけど、その時は依頼書の端に書かれてる依頼番号を自分でひかえて受付に伝えたらいいわ」


 僕はチロルの説明をしっかり聞きながらシステムを覚える。掲示板から依頼書を探して番号札を取る。そしたら受注セクションへ。調べたい時は資料棚。うん、よし、オーケー、覚えた!


「ざーっと説明したつもりだけど、なにかわからないことはある?」


 チロルが僕に聞く。僕は少し考える。


「えっと、同時に受けられそうな依頼があったら何個か申し込んでもいいの?」


「それは依頼内容によるかな。たとえば、生息地がかぶってる魔獣の同時討伐とか自生場所が近い薬草の同時採取とかは全然問題ない。

 でも、ギルドが危険とか無理だと判断したらとめられるよ。

 たとえば、護衛の依頼を受けながらの魔獣討伐は原則禁止。魔獣討伐に夢中になって護衛がおろそかになったら意味ないから。昔そういう冒険者がいて依頼者が怪我したことがあるんだって。

 あと、依頼書自体に複数受注禁止って書いてあることもあるよ」

 

「ふむふむ、なるほどね。

 じゃあ薬草採取の依頼の場合は同時に何個か受けた方が効率がよくてお得だね!」


「うーん、確かにそうだけど……。タイチの場合、初めての受注なんだし一種類にしておいた方がいいんじゃない? あれも、これも……って目移りしてると判断に迷って気力も体力も使うし。そもそも同時に複数の薬草の特徴を覚えたり確認したりするのって大変じゃない? 違う草を取っちゃったら査定下がっちゃうよ?」


 チロルの言うことももっともだ。テンションがあがっていっぱい依頼を受けたい気持ちになっていたけれど、考えたらこっちの世界にどんな薬草があるのか僕は全然知らない。

 唯一知ってるのはレインリアさんにもらったモヨギ草だけだ。今日のためにしおれないように花瓶に生けて大事にポケットに入れてもってきている。

 

「それもそうだね。ちょっと舞い上がってた。

 まずは採取系の掲示板を見て、簡単そうな依頼を探してみる。レインリアさんに教わったモヨギ草があったら、それにするよ」


「うん、その方がいいよ。わたしはタイチの護衛をしながらついでに受けられそうな依頼がないか探しておくね」


 僕はふと気になってチロルに尋ねる。


「チロルも僕と一緒の依頼を受けたらいいんじゃないの? 番号札を2枚取ってきたらいいんでしょ? ……あ、薬草採取は単価が低いしC級のチロルには退屈かな?」


 僕の質問にチロルはなんとも言いにくそうに、歯切れ悪く答える。


「うーん……。本当はそれが一番効率いいとは思うんだけど、わたし、薬草採取はあまり……。一回だけやったことあるけど好きじゃなくて……。せっかく外にいるのに地面ばかり見なきゃいけなくて、同じような場所にずっと腰をおとして作業して、似たような草を見比べてにらめっこして……。頑張っていっぱい取ってきたのに査定してもらったらハズレばかりっていうのがちょっと本当にきついって言うか、向いてないっていうか……。

 いろんな場所を移動して景色を楽しみながら魔獣を探したり狩りをしたりする方が性に合ってるっていうか……。 

 タイチは楽しみにしてるのにこんなこと言ってごめん……」


 チロルは申し訳なさそうに耳をパタンと倒す。

 僕はあわててフォローする。


「全然いいよ! 僕の方こそチロルみたいに魔獣を狩れって言われても絶対無理だもん。僕はもともと植物が好きなだけだからさ。それに、得意苦手は人それぞれだよね」


「……うん、ありがと。じゃあ、わたし、魔獣系の依頼を見てくるね」


「うん、またあとで!」


 チロルと一時別れて僕は採取の掲示板に向かう。

 えっと、あ、これは鉱石の依頼かぁ。月光石ってなんだろう? 宝石かな? その隣は発火石。火打ち石みたいなことかな?

 えっと、薬草は……、あ! あった、あった!

 薬草の依頼は全部で10種類くらいだ。どれも薬草の詳細なイラストの横に名前と効能、自生地の説明と採取単価や注意事項などが細かな文字でずらっと書かれている。でも、このイラスト白黒なのかぁ……。植物なんだしカラーの方が絶対わかりやすいと思うんだけど。日本と同じで白黒コピーの方が安いのかな?

 

 そんなことを考えながら僕はモヨギ草の依頼を探す。モヨギ草、モヨギ草……。あ! あった、良かった!

 レインリアさんが言っていた通り、モヨギ草は本当にいつも依頼が出てるみたいだ。依頼書がだいぶ日焼けしてて端が少しやぶれているし、他の依頼と比べても番号札がたっぷりと下げられていて、たくさん受注してくれと言わんばかりだ。

 僕は番号札を一枚取る。念のため依頼書に載っている依頼番号と同じかどうかも確かめた。うん、大丈夫!

 

 僕はくるりとチロルの方を振り返る。チロルはしゃがみこんで下の方に貼ってある依頼書をじっくり読み込んでいる。もう少し時間がかかりそうだ。


 ……それなら、ちょっと資料棚の方に行ってみようかな。

 僕はチロルが教えてくれた棚の方へと移動する。持ち出し禁止!と書かれた赤文字の張り紙が離れたところからでもとても目立つ。

 木製の本棚にはいろんな資料がざっくりと並べられている。製本された立派な分厚い本もあれば紙を束ねただけの薄い冊子もある。どれもきちんと立てて並べてはあるけど、本の高さもジャンルもバラバラで規則性は感じられない。分類や整頓はされていないみたい。

 薬草図鑑はどれだろう? 背表紙にタイトルがある本はまばらで見つけづらい。僕は適当に手に取った資料を開いてみる。

 

 あ、これは魔獣の図鑑だ。依頼書とは違ってフルカラーだ。左のページには大きな牙の真っ黒な狼が載っている。下位黒牙狼レッサーシャドウファング? 狼なのに等級はCなんだ……。正直もっと強そうに見えるけど。

 右のページに載っているのは角の生えた猪だ。熱角猪(フレアホンボア)。等級はD。ってことはチロルはこの猪倒せるの? 角燃えてるんだけど……。

 僕はあらためて魔獣討伐は無理だと認識する。魔獣図鑑は早々に閉じて戻す。 

 こっちはどうかな?

 

 ありゃ、これは鉱石の資料だ。さっき依頼書で見た月光石のことが載っている。なになに? 陽光をためて夜にあわく光る。旅人や冒険者の守り石。安眠と鎮静、魔よけの効果もあり、その光りはすべての精霊が好むとされる。石の光り方により効果が変わり、等級と査定額が決定される。へぇ……。さすが異世界の石。不思議な力があるんだなぁ。おもしろいけど、今はくわしく読んでる時間ないや。僕は本を戻す。

お読みいただきありがとうございました。

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