第12話:貸し馬車の中の会話
ゴトンゴトンと馬車が不規則に揺れる。馬車に乗るのは初めてだけど、結構揺れが強い。気を抜いたら酔いそうだ。
僕はチロルさんと二人、向き合うように席に座っている。ガロンさんとアウェイアさんは別の馬車だ。本当は四人で一台に乗れたら良かったんだけど、ガロンさんは体格が大きくて窮屈になってしまうので二台に別れることになった。アウェイアさんとガロンさんは二人で話すことがあったみたいで、結果的にチロルさんと僕が二人で乗ることになった。
馬車の中は静まっていて正直ちょっと緊張している。
何か話した方がいいのかな。でもな。チロルさんは話したくないかもしれないし……。
僕があれこれ考えていると、しばらく黙って窓の外を眺めていたチロルさんがおもむろに口を開いた。
「……あのさ、タイチって年はいくつ?」
「えっ? あ、年? 僕は今年18になったよ」
急に話しかけられて声がひっくり返ってしまう。
「へぇ、18……。ちなみにわたしは16。あなたの方が2つ年上だけど……。
ねぇ、タイチの種族って何? 混血森人であってる? グラス副支長と同じ?」
「えっと、うん、そう。ハーフエルフ!」
僕はアウェイアさんに言われた設定を思い出して答える。ていうか、アウェイアさんもハーフエルフだったんだ。
「フーン……。たしか純粋な森人は成人年齢が50歳とかなんでしょ? 混血森人だとその辺はどうなの? 半分の25歳とか……? それだと18歳はまだ未成年で結構子どもだよね?」
チロルさんに聞かれて僕は焦る。
ハーフエルフの成人がいつかなんてまったく知らない。嘘をついて後でバレたとき困るし……。どうしよう?
「たぶん、そんな感じかな……?」
「なんで自分のことなのにあやふやなの? まあいいけど。獣人は18歳が成人だからわたしはあと2年で大人の仲間入りよ。だからわたしの方が実質年上なんじゃない?」
チロルさんはふふんとちょっと得意げに胸を張る。
僕は年齢のことに深くつっこまれなかったことにほっとする。
チロルさんは僕に興味が湧いたのか次々質問をする。
「タイチは移民なんだよね。どこの国から来たの?」
「うーん、ものすごく遠いから言ってもわからないかな……」
日本とは答えない方がいいかなと思って僕は曖昧に答えを濁す。
「へぇ、そんなに遠くから? どうやって来たの? 高速魔導船? それとも転移魔法?」
「えっと、転移魔法の方かな」
「へぇ! すごいじゃん! よく知らないけど転移魔法ってめちゃくちゃ利用料が高いんでしょ? タイチってお金持ちのとこの子なの?」
「えっ、全然違う! お金ないよ。これから頑張って稼ごうとは思ってるけど……。その、転移魔法はたまたま選ばれて?ここまで運ばれたみたいな感じだから、お金はかかってないんだ」
僕はあわててお金持ちを否定する。
自覚は全然ないけど、精霊たちに連れて来られたみたいだし、転移魔法で来たというのはたぶん嘘じゃないはずだ。
「えっ? それって……つまり、魔法事故に巻き込まれてカナンマ王国に来ちゃったってこと?」
チロルさんが目を丸くする。
僕は用語がよくわからずなんとなく答える。
「魔法事故? うーん、まあ、突然だったしそんな感じかも」
「そ、そうだったんだ。それは大変だったね……。それならグラス副支長が直接わたしに頼みに来るのも納得だわ。
……家族の人とは連絡ついた? 心配してるんじゃない?」
「うーん、連絡は難しいかな……。それにもし連絡できてもしなくていいかも。そもそも僕は家族がいないから……」
「えっ? どういうこと?」
「僕は施設で育ったんだ。事情があって親と一緒に暮らせない子が生活するところ。僕は本当の親にはほとんど会ったことなくて……。お母さんは何度か会いに来てくれたけど、結構前に病気で亡くなったんだ。
施設の先生達は僕のことを心配してくれたかもしれないけど、元々そろそろ施設を出なきゃいけない時期だったから、どのみちお別れだったんだ」
「そ、そうなんだ。……変なこと聞いてごめん」
チロルさんは耳をふせてシュンとうなだれてしまう。
僕はあわてて弁解する。
「えっ、全然いいよ! 慣れてるし大丈夫。それにこれからしばらく宿に泊まらせてもらうんだもん。僕のこと気になるよね。
えっと、えーっと、チロルさんの家族はどんな人たちなの? ノノハナ荘ってどんなところか教えてほしい」
僕は話題を無理やり変える。
チロルさんもそれに乗ってくれた。
「……うちは結構大家族だよ。父さんと母さんが宿の経営者で、私は長女。あと下に弟たちが四人。全部で七人家族。近くにおじいちゃん、おばあちゃんと伯父さん夫婦も住んでる。それから近所のおばちゃんたちもお手伝いに来てもらってるかな。
宿はちょっと古いんだけど、掃除は頑張ってるし修繕も父さんがきちんとしてるからそこは心配しないで。お風呂は時間制の共同風呂だけど便所や洗面台はちゃんと各部屋にあるわ。
あと、うちのご飯はおいしいって評判よ。食事だけ食べに来る人もいるくらいなんだから」
家族や宿のことを話すチロルさんは明るい顔だ。元気でたみたい。良かった。
「そうなんだ。にぎやかで楽しそうなところだね。ご飯も楽しみ。
それに、チロルさんはお姉ちゃんなんだね。だからしっかりしてるんだ」
僕がほめるとチロルさんは変な顔になって僕を見つめる。
「ねぇさっきから思ってたんだけど……。そのチロル«さん»っていうのやめてくれない? 慣れないし、すごくむずかゆいんだけど……」
「ええ? さん付けが駄目なの? じゃあ何て呼べば……?」
「普通に呼び捨てでいいよ。わたしだってタイチって呼んでるじゃない」
「えっ、それはちょっと……。女の子を呼び捨てにするのってすごく失礼な感じがするし……。そうだ、チロルちゃんならどう?」
「ちゃん!? もっと嫌よ! やめて!」
チロルさんがひぃっと二の腕をさする。鳥肌が立つくらい嫌らしい。困ったな。
「あのね、タイチ。冒険者になるなら名前は呼び捨てが基本よ。級の上下関係はたしかにあるけど、冒険者同士は対等って考え方が基本なんだから。冒険者では級が上だから必ずしも偉いとはならないの。剣士、魔導師、弓使い、盾使い、テイマー、探索士……。それぞれ役割が違うもの。依頼の内容や状況によって指示役も変わるわ」
「なるほど。じゃあ冒険者をやりたかったら、呼び捨てできるようにならないといけないのか……」
「まあ、そうね。わたしで練習しといたら? はい、どうぞ」
「う……、チロルさ、間違えた。チ、ロル」
「んー、ぎこちないけど、まあいいんじゃない?」
チロルは楽しそうににやっと笑う。なんかからかわれてない? 僕は咳払いしてごまかす。
ふと気になって僕はチロルに聞く。
「あのさ、じゃあガロンさんやレインリアさんのことも本当は呼び捨てにしなきゃいけないの?」
それはちょっとハードル高いな……と思いながら聞いてみる。
チロルはぎょっと目を見開いた。
「い、いや、それはダメよ。特にレインリア様を呼び捨てにするなんて絶対にダメ! 失礼すぎるわ。それに、レインリア様は冒険者でもあるけど、どちらかというと王宮の役人的な立場の人だしね。
あのね、S級・A級の上級冒険者は同じ冒険者といっても別格なのよ。昇級するのがものすごく難しいし、国からの特別任務もこなしてるし、王様から直接表彰だってされるんだから。わたしが話したのはB級までの普通の冒険者の話ね! 一緒にしちゃダメ! まあ、ガロンさんはA級だけど、あの性格だから気安く話してるんだけどさ……。
そもそもタイチみたいに登録したての冒険者だったら話すこともない人たちよ? 知り合いっていうのが普通じゃないのよ」
「そ、そうなんだ。わかった。気をつける」
「うん、そうして。
……あ、そろそろうちに着くわよ。話してたらあっという間だったわね」
チロルにつられて窓の外を見る。
木造の暖かみのある建物が見える。前庭にかわいい野花がたくさん咲いている。ここが野々花荘か。
僕は期待と緊張でこくりと唾を飲み込んだ。
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