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  作者: 黒井 羊
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水辺の戦い

 江川魚(ごうのかわな)は龍に憧れていた。虎をも瞬殺する龍のように強くなってあの娘を護りたい。そう思った。

 だけども龍の事など何も知らない。ましてや大昔にあの暴君さえも仕留めたなど知る由もなかった。


 ソテツの仲間やウィリアムソニアのようなベネチラス目の裸子植物が生い茂る森がある。直ぐ近くには大きな沼があり沼は川と繋がり大雨や台風の襲来でもない限り水は澱むことなく澄み切っていた。


 彼女はこの森と沼地に女王として君臨している。彼女の仲間が化石となり数千万年後に人類に発掘されるとティラノサウルスと名付けられた。

 彼女の体は群れで最も大きい。他のティラノサウルスの群れからこの狩場を守り、若い個体が森から追い出した草食恐竜を仕留めるのが彼女の役目である。水と獲物の豊富なこの場所に居続ける限り群れは安泰だ。


 エドモントサウルスの群れが沼へ水を飲みに行こうと森の中を移動している。森には肉食恐竜が潜んでいるので危険だ。リーダーは細心の注意を払い最後尾から急かすように群れを水辺に誘導した。この群れと並行して小型の若いティラノサウルスが数頭様子を伺いながら移動している。エドモントサウルスが森から出て水辺に近付いた瞬間に若い個体は左右に分かれ襲い掛かった。エドモントサウルスの群れはバラバラになり森に逃げ込もうとする。森では中型からやや大型のティラノサウルスが待ち構えていた。かなりの個体が仕留められた。今回彼女は自分の手を煩わす事なく食事にありついた。

 ある日トリケラトプスが数頭、森を抜け水辺にやって来た。ティラノサウルスは中型以上の個体で狩りを行う。雄のトリケラトプスは頭をティラノサウルスに向けて威圧する。一頭のトリケラトプスが中型のティラノサウルスに気を引きつけられ方向を変えた。その瞬間に彼女はトリケラトプスの頭部後方を覆う骨質フリルの後側、太い首に噛みついた。彼女が頭を激しく捻りながら首を縦横に振ると暫くしてトリケラトプスは倒れた。今日の狩りはこれで終了だ。群れの食事は充分に確保できた。

 食事が終わると彼女は喉が渇いた。大型のトリケラトプスを仕留めるのはかなりの重労働となる。彼女は沼へと水を飲みに向かう。水面に沈みかかった倒木が少しだけ姿を見せている。彼女は気づいたものの疲れのためかあるいは歳のせいかそのまま水面に顔を近付けた。

 突然水面が割れた。彼女の頭より大きな口が彼女の頭をしっかりと咥え彼女を水中に引き込む。彼女は水中で頭を数回捻られると動かなくなった。彼女はもう化石にすらならない。


 白亜紀が終わり彼女達ティラノサウルスは地球上から姿を消した。彼女を襲ったその生き物は数千万年の時を生き続け人は龍と呼んだ。 

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