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第1話



 この手に銃を握らない日が来るとは、数年前までは考えもしなかった。


 傭兵として生きてきた私は、数多の戦場を潜り抜け、生と死の境目を渡り歩いてきた。


 極寒の地や砂漠、敵軍の基地、山岳地帯。


 時には密林の奥地に進み、何ヶ月も過ごしたことがあった。


 それが「人生」だと思っていた。


 生まれてきてずっと、「死」を感じないことはなかった。


 戦うこと以外に、生きる方法を知らなかった。


 とある辺境の町で、ある青年と出会うまでは。



 「おはよう」


 「…もう、起きてたの?」


 「眠れなくてね」


 「そうなんだ。昨日は遅かったのに」


 「体質だから気にしないで?」


 「あんまり無理はしないようにね。体は資本なんだから」



 眠たそうに軽くあくびをしながら、キッチンで朝食を作っていた私を見て、食卓の椅子に座る。


 彼の名前は、グレン・ボルフィートといった。


 一緒に住み始めて、もうすぐ1ヶ月になる。


 グレンは私にとって友人であり、恋人であり、良き相談相手だった。


 彼は兵士でもなんでもなかった。


 私と違って、普通の暮らしをしているただの民間人だった。


 戦争とはほとんど無縁だった。


 子供の頃に、両親を亡くしたこと以外は。



 「たまには僕にも作らせてよ」


 「だめ。これくらいしか、私にはできないから」


 「そんなことない。むしろ、僕の方こそ、君に何もしてあげられてない」



 彼は優しかった。


 戦争に巻き込まれ、長い間孤児院で暮らしていたとは思えないくらい、穏やかな性格の持ち主だった。


 彼は町で評判の花屋だった。


 大きな畑を持ち、僻な日中庭の手入れをしながら、数えきれないほどの花を植えている青年だった。


 寝る時も、食事をする時も、片時も銃を手放さなかった私とは違って、「命」を大事にしている人だった。


 たった一本の花も、——花の蜜を吸いにくる、虫でさえも。


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