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傀儡遣いは傀儡で嗤う  作者: 月夜野桜
第三章 傀儡遣いは傀儡で守る
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第一話

「バトルロイヤル……やはり少々心配ですね……」


 レギュレーション検査を終え、控室へと戻ってくると、サユリは腕を組んで考え込む様子を見せながら呟いた。


 NBRジャパンカップの参加者は、RRCを上回り、やはり過去最多となった。数が多すぎるため、当然予選からトーナメント形式というわけにはいかない。最初は多数が同時に戦場に放り出されてのバトルロイヤル。今回は、八ブロックに分かれて予選を行い、それぞれで生き残った四人ずつが決勝トーナメントに出場出来る。合計三十二人。


「大丈夫、久々だけどやれるよ。紛れが起こる可能性はあるけど、ジンはいないんだ。実力差を見せつけてあげる」


 少年がサユリを見上げて、そう答える。少女の方は鏡の前で、ドクによる再チェックを受けていた。隣には、主催者側の監視要員。部屋の映像や音声もモニタリングされ、監視されている。


 サユリは一度口を開きかけてから閉じ、ややあってから話し始めた。言葉を選ぶようにして、少々途切れ途切れな感じで。恐らく聞かれてはまずい内容を避けつつも、シオンには伝わるように工夫している。


「楽観視は禁物です。バトルロイヤルの経験は、RRC初参加の時だけでしょう? 無名だったその時とは異なり、今回はノーマークではありません。グループの他の参加者全員が協力して、あなたを仕留めにくる可能性もあります。勝ち抜け枠が少ない場合、団結して強い者から倒すのが定石です。集中砲火は事故が起きる可能性も高いので、それも心配です」


 もっともな言い分である。シオンは過去三回以内の優勝者として、RRCではずっと予選を免除され続けていた。そして最初の一回は、文字通りの完全な無名。どう見ても戦闘用の傀儡ではなかったこともあり、賑やかし要員と看做されていた。


 そして集中砲火による事故。確かに、傀儡遣い本人が負傷し、リタイアせざるを得ない事態が起きても不思議ではない。それが意図的なものであっても、誰も気付かない状況というのはある。


 バトルロイヤルにおいては、流れ弾に当たったりしないよう、傀儡遣い本人がうまく位置取りをするのも実力のうち。自身の身を守り、無事次の戦いに進出する必要がある。


 状況次第では、事故を装った狙撃で、シオンのリタイアを狙ってくるかもしれない。竜胆のライバルに雇われた刺客がいる可能性は、否定出来ない。


「それくらい想定済み。かつシミュレーション済み。ボクはもっと――」


 その先の言葉は飲み込み、慌てて自然に繋がる内容をでっち上げて口にした。


「厳しい設定のシミュレーターで練習してきたよ」


 本当は、『もっと危険な戦いでも、複数同時に相手したことはある』と言おうとしていた。『生命のやり取りに比べれば、とても簡単。傀儡遣い側が狙われる状況にも慣れている』と。


 しかし、監視されている以上、口にしてはならない内容。


 実際、闇の傀儡遣い同士の殺し合いと比べれば、とても簡単なことだった。何しろ、傀儡遣い自身への攻撃は、例え事故だとしても反則負け。それならば、いくらでもやりようはある。ライバル企業に雇われた者がいたとしても、事故に見せかけられる状況にさせなければいい。


 ルールはきちんと確認してある。いざという時に奥の手を使っても、恐らく失格にはならない。文字通りに解釈すれば、禁止事項には当たらない。とはいえ、これもまた抜け道ではあるので、審判のジャッジ次第とも言える。使わないで済むなら、当然使わないつもりである。


「そうですか。こちらは信頼して待つしかありませんね。ですが、その前にもう一度試合について確認しましょう。会場のマップ閲覧が、今解禁されました」


 試合開始三十分前。サユリが身振りで操作すると、壁のディスプレイの映像が切り替わる。スタジアム内に用意された、バトルロイヤル会場の立体マップが表示された。


「廃墟か……」


 少年の口からそう零れる。少女も注意深く画面を凝視した。


 そこに映っているのは、わざわざ建築したと思しき多数の建物。障害物がとても多く、射線は通りにくい。バトルロイヤル向きと言える。


 すべての建物は、一階建てか二階建て。いずれも屋根は存在しない。各部屋は必ずどこかの面の壁が丸々崩壊している。射線がほとんど通らない位置に隠れ潜むことは出来ない造り。これは恐らく、スタジアムの観客席から見えやすいように、という配慮もあるのだろう。


「射撃角度、注意してください。客席の高さが、RRCの会場より低くなっています」


「本当だ……パラメータ調整しとくよ。観客席撃って失格とか、流石にシャレにならない」


「当然です。我が社の信用は地の底まで失墜します。――ドクター、念のためあなたも、射撃制御プログラムの設定確認を願います」


「もうやった」


 ドクは短く答えると、今日使う予定の外部兵装のチェックに入った。敵が多いので、アサルトライフルは二丁。予備弾倉も多く用意している。


 会場の観客席には、多数のファンが集う。充分な強度の防護ガラスに守られてはいるが、万が一に備えて客席方向への射撃攻撃は禁止。例え到達しなくとも、主催側が各所に仕掛けたカメラが攻撃を認識した瞬間、該当選手は失格となる。


 客席は戦場より大分高い位置に設置されている。その下のスタジアム外壁部分は、当然対象外となる。その角度までの射撃か、近接武器での攻撃で戦うことになっている。


「上を取れると楽そうだね。結構脆そうだけど、ボクたちなら問題ない」


 二階建ての廃墟が多いことを見て、少年の口からそう告げる。サユリも画面を見ながら応じた。


「過信はしないように。それで攻撃を封じられる範囲は、決して広くはありません」


 客席のない上方向への射撃も禁止されている。弾丸はいずれ落下してきて、それがどこへ行くかわからない。この会場の場合、屋根のある密閉型なので、破損させてしまうというのもある。


 そのため、相手の頭上を取れると、一方的に射撃可能となる。建材の強度が示されているが、重量級の傀儡は自重によって崩壊しそうな脆さ。廃墟に加工した際、更に強度が落ちているだろう。二階に上がれる選手は、意外と少ないかもしれない。


「大丈夫、どちらかというと、ボクの得意な地形だよ。対多数の戦いにも向いてる。例えば、この辺りとか、こことか陣取れば、後は時間の問題」


 少年の指で、マップ上のいくつかの場所を指す。開けた場所に面した二階建ての建物。射線の通りやすい広場に出る馬鹿はいない。守るべき方向が半分で済む。候補となる場所はいくつもあって、開始地点からすぐにどれかに辿り着けるだろう。


「そう悠長に構えないように。制限時間内に四人以下にならなかった場合、全員敗退です。残り時間が少なくなったら、積極的に仕掛けてください」


「わかってるってば。そんなにかかるわけないでしょ」


 少々不満気に、少年がサユリを見上げて返す。制限時間は三十分。人数が多いとはいえ、流石にないだろう。全員が結託して戦いを放棄し、仲良く通過を狙うことを阻止するためのルールでしかない。


「そろそろよろしいでしょうか? 会場への移動準備に取り掛かりたいのですが?」


 監視兼案内役の主催者側の男が声をかけてきた。時間は開始十五分前といったところ。


「わかった、お願い」


 少年が答えると、ドアが開いて箱が持ち込まれた。楔形に加工された多数の吸音材が複雑に張られている。無響加工。外の音が聞こえないようにするためのもの。


 それが開かれると、内側にも同様の加工がされている。そして吸音材が貼り付けられているはずの内側の面は存在しなかった。厳密には、見えない。蜃気楼ミラージュと同じ電磁メタマテリアルが使われている。


 これは、選手や傀儡がどこに配置されようとしているのか、事前にわからないようにするための箱。中に入ると、各種センサーを使用しても外の様子はまず把握出来ない。光も電波も、音すらも遮断して、ランダム配置の効果を最大限に上げる。


 少女は腰の高周波サーベルとアーミーナイフ、予備弾倉を確認すると、最後にアサルトライフルを首から掛けた。軍服風デザインの衣装と相まって、いかにも戦場に向かう少女兵士といった出で立ち。


「シオン、いつも通りやれば大丈夫じゃ。お主は強い」


 にこやかに笑いながら、ドクが少女と少年両方の頭に手を置く。


「ワシの作ったボディの間違いじゃないの?」


 頭に置かれた手を退けながら、少年が軽口を叩く。サユリの方にも笑顔を見せてから、箱の中へと納まった。


「じゃあ行ってくるよ、二人とも」


 少女と少年両方に手を振らせてからしゃがみ込んだ。蓋がゆっくりと閉じられていく。サユリの声が聞こえた。


「念のため、ギリギリまで同行させていただきます。よろしいですか?」


 それに対する主催者側の返答は聞こえなかった。蓋が閉められたことにより、完全な無音空間となってしまった。


 何も聞こえない。人が聞き取れる最も小さな音は、心臓の鼓動音だという説がある。シオンの場合、存在しないので聞こえない。体内には各種の機械が内蔵され、動作しているが、それらの発する音はもっと小さい。


 かつてジンが言っていた。ここに閉じ込められると、耳鳴りや幻聴がすると。普段は周囲の環境音をマスクしているものが、反転して聞こえる。シオンの場合、聴覚デバイスを使っているからか、そういう現象は起こらない。


 しかし、心理状態は同じ。何も見えない。何も聞こえない。この状況はどうしようもなく不安を掻き立てる。特に、殺し合いをするような敵が存在するシオンにとっては、最大の恐怖としか言えない。


 箱ごと爆破されても、爆発するまで気が付かない。このまま海に沈められても、気付くのは浸水してから。誰かが悪意を持てば、シオンを簡単に殺せる状況。


 頭の中がグルグルと回りだし、平衡感覚が狂ってきた。シオンはオートバランサーのアシスト強度を上げ、身体が崩れ落ちてしまうのを防いだ。それでも、心は今にも崩壊しそう。


 この死の恐怖は、かつての出来事をどうしても想起させる。スオウによって殺されかけた時のこと。見てはならないものを見てしまい、物陰で息を潜めたあの時。気付いたら残虐な悦びの表情を浮かべたスオウが目の前にいた。


 悲鳴を上げる前に気管を切り裂かれた。ひゅうひゅうと空気が漏れる喉を押さえつつ、転げるようにして必死に走り出して逃げた。その足が、腕が、少しずつ切り裂かれて、体力を奪われた。


 動けなくなったシオンは、全身を切り刻まれ続けた。死なないよう浅く、何度も何度も。その度に倒錯した快楽に身を震わせ、スオウは狂喜に顔を歪ませていた。


(駄目だ、あの時のことを考えては)


 シオンは激しく首を振って、その記憶を頭の中から追い出そうとした。


(何か別のことを……)


 思考を切り替えようとして真っ先に浮かんだのが、ジンの顔だった。同時刻開催の、別会場での予選に出ているはず。そして恐らく、この同じ箱に入っている。


(アイツも今頃同じ気持ちになってるのかな……)


 そう思ったものの、脳裏に浮かんだジンの顔はへらへらと笑っていた。


(そんなタマじゃないか、アイツは……)


 何故かその妄想が、シオンの心を少し落ち着かせた。ジンのように笑っていればいい。大声を出して笑っても、外には聞こえない。今頃ジンは、人前では口に出来ないようなことを叫んでいるかもしれない。そう考えると、少女の方にも少年の方にも、自然と笑顔が浮かんだ。


 永遠とも思えるほどの時間が過ぎた。僅かな振動があり、会場内に設置されたことを示す。それからまたしばらくの孤独。


 予定時間になると箱が自動的に開放され、即座に戦闘開始となる。


 あと三十秒。シオンはその瞬間に備え、最大限に意識を集中した。すべての感覚デバイスの感度を上げる。


 どこに配置されたかは推測も出来ない。開始直後の索敵と状況把握が最も重要。初めから誰かの射線が通った位置に配置されることはないが、周囲の確認をしている間に即時敗退してしまう選手も多い。


 その点、全方位索敵の結果をダイレクトに把握出来るシオンは、圧倒的に有利。開始直後の動きで、勝負は半分決するようなもの。


 突如として斜め上から眩しい光が差し込む。それが一気に広がり、視界が開けた。


 周囲の状況を確認して、シオンはらしくなく呆然としてしまった。


(これは……逆シード……)


 シオンたちの収められた箱は、会場内の最も開けた部分に置かれていた。しかもその中央。遮蔽物までは、どの方向でも距離がある。


 主催のライバル企業たちの陰謀か、はたまた単に試合を盛り上げるための演出か。圧倒的に不利な状況に配置されたのだと、シオンは悟った。


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