表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
第五章 領都到達 —水の都・グランサクソン編—
72/85

第63話 グランサクソン到着

 ガランたち一行はサクソン街道を進み、関所に辿り着いていた。街道を挟んで左右に櫓が立ち、その櫓を柱代わりに天幕が張られている。さらに、丸太杭の柵が東西方向へ境界を示すように立ち並んでいた。その柵は、どこまでも続いているように見えた。

 騎兵のデリーが関所の兵士と言葉を交わし、御者役の兵士に指示を出した。


「人員の確認を頼む。――こちらも顔見せの準備をしよう。ラストール支局長殿以外、降りてもらえないか」


 御者の兵士は荷馬車を止め、御者台から降りた。同じタイミングで横に座っていたガランも降り、興味深そうに柵の向こうへ視線を向ける。


「ここから領都――ですか?」


 ガランは荷台に座っているラストールを見上げて問いかけた。


「そうだね。この関所から先がグランサクソンの行政区内だと思ってもいいだろうね」


 ラストールの言葉に、ガランの隣に立ったアッシュが街道の先に視線を巡らせた。ガランとアッシュの視線の先、街道の左右は耕作地が広がっているが、人が住むであろう家屋は見当たらない。粗末な作業小屋が、ぽつぽつと点在しているだけだった。


「畑ばっかりだねぇ。トゥサーヌみたいに検問所はないの?」


 アッシュの疑問の声に、馬から降りたデリーが笑い声をこぼした。


「ははは。検問所は農地を抜けたもう少し先にあるんだ。関所を通らなければ、この先で大変なことになる」


 ガランとアッシュは仕組みに思い当たり、小さく頷いた。


「オレ、関所の役目がわかったかも」


「ボクも。きっと検問所で改札だよ。『キセル』をなくすのと……同……じ……」


 アッシュが何気なく口にした『改札』という単語が、彼女の記憶を刺激した。

 不正乗車の俗語、キセル。それをきっかけにして記憶のイメージが、アッシュの脳内に押し寄せる。二本のレール。その上を走る電車。行き先を示す案内板。駅員と車掌の姿。そして、駅構内に響くアナウンス。アッシュは瞳を閉じ、そのまぶたと眉間を右手で押さえてつぶやいた。


「黄色い線の……内側に……? なんで……?」


 アッシュの声は無意識に漏れた。何のことか自分でもわからない。ただ、鮮明なイメージが脳裏に浮かび、胸の奥をざわつかせた。


「アッシュ?」


 アッシュの様子の変化にガランが声を掛けた。荷台の縁に留まっていたクーもアッシュの肩へ飛び移り、首を傾げて鳴いた。


「キュキュウ〜?」


「――あ、ううん! なんでもないよ。トゥサーヌで言われたじゃん、預かり証をなくすなって。あれと同じようなのがあるのかも――なんて、ね」


 クーの頭を掻きながら、そう誤魔化すアッシュだったが、嫌でも目に入る街道の轍がレールのイメージを消すことを許さない。それを振り払うかのようにガランへ視線を向ける。そして大きく振り向いて、後ろにいるタイガとアインにも目を向けた。クーがアッシュの動きに、翼を軽く広げてバランスを取る。

 タイガとアインは関所の左右に連なる柵を目で追っていたが、アッシュのその動きでガランとアッシュの二人を見る。催促されたと感じたか、それぞれ考えを口にした。


「確かに。領都に入るなら、二重確認ぐらいするだろうな。関所を通ってなけりゃ、良くて検問所で門前払い……いや、俺が領主様なら捕縛するな」


「私もそうするだろう。関所を通らない理由なんて、後ろめたいことに決まっている。関所と検問を設ければ、抜け道も制限できる」


 そんな会話をしていると、荷馬車内の確認が終わったのか、関所の兵士が先頭のデリーへ何かを手渡した。デリーは御者の兵士とヨゼフに乗車を促すと皆に告げた。


「検問はもう近い。残りの者はこのまま歩いて行こう」


 ガランたち一行は、関所の兵士たちに挨拶しながらしっかりと顔を見せ、関所を後にした。

 アッシュは轍から目を逸らすかのように周囲を見渡す。街道の先、遠くに領都を囲む壁が見え、門と思われる場所に繋がっていた。耕作地にはちらほらと農夫たちの姿も見える。


「アッシュ、見て! あっちに池がある」


 いつものように地形を読んでいたガランが、進行方向左手、西側に池を発見して指差した。アッシュは西日を遮るように額に手のひらをかざし、その池周辺に風の波紋(リプルス)を飛ばしてみる。


「鳥もいるね……鴨かな? ……あ! 池の先のあそこ、ほら、あれ、橋じゃない? 川か水路になってるのかも!」


「トゥサーヌみたいに空堀じゃなくて……えぇっと……水堀だっけ? そうなってるのかも」


 ガランとアッシュの会話を聞いていたラストールが、感心した口ぶりで二人の会話に参加した。


「二人とも鋭いね。グランサクソンは環濠都市なんだよ。グランサクソンからほんの少し北上すれば、王都に続くマークス川があるんだけど、その支流が街の中を通っていてね。環濠は水路の役割もしている。街を巡る川や水路のおかげで、グランサクソンは水の都とも呼ばれているんだよ」


「水の都!」


 ガランとアッシュは目を輝かせていた。一方でタイガとアインは、間近に見える壁の高さに驚きを隠せない。


「意外と高いな……。トゥサーヌの壁より高く見えるんだが――俺だけか?」


「いや、私もそう感じる。トゥサーヌより高い」


 二人の言葉にガランとアッシュも一度壁を見たが、ほぼ同時に周囲を見渡し、改めて壁に視線を戻した。


「ねぇ、ガラン。この道やっぱり、上り坂だね」


「うん。高台を拓いた街かも。坂を見上げるからその分、壁を高く感じたんだと思う」


 ガランとアッシュの言葉を受けて、タイガとアインも周囲を見渡した。緩やかに続く傾斜に気付き、納得したように頷く。


「なるほど……」


「言われてみれば確かに……」


「マークス川、だっけ。川が近くても高台だったら治水しやすいとかあるんじゃないかなぁ。それに門も大きいから遠近感が――あ! ガラン! この橋、跳ね橋って教わったやつじゃない?」


「あぁ! ほんとだ! 縄が壁の向こうっかわに繋がってるから、きっとそうだね」


 二人が気づいた通り、その橋は可動橋の一種、跳ね橋だった。橋桁を固定せず、片側、または両側に巻き上げや吊り上げの機構が組み付けられている橋である。

 そんな好奇心旺盛な会話を弾ませているガランたちに、先を進んでいたデリーが声を掛ける。


「さぁ、急がないと日が暮れてしまう。検問を受けてしまおう」


 皆は足取りを早め、環濠の橋を渡ると検問所へと急いだ。やはり皆の予想通り、デリーが関所で受け取ったものを門の衛兵へと渡している。それが気になるガランとアッシュは、首を伸ばしてそれを覗き込もうとしている。


「コホン。これはただの符号だよ。毎日どころか毎回変わるから、見ても何の意味もない。――関所で渡されたものはその日のうちに検問所に渡して、出るときはそれが逆になる。今はそれだけ覚えておけばいいさ」


「なるほど。――じゃあ出るときのお楽しみだね、アッシュ」


「そだね!」


 それ以外の手順はトゥサーヌと同様だ。名簿に名を書き、門税を払う。税額はトゥサーヌより十ダル高い、ひとり十日で三十ダルと提示された。税はラストールが六人分支払い、当然ながら預かり証は各自に渡された。

 手続きが終わったところでデリーがラストールに告げた。


「ではラストール支局長殿。領都に不慣れな方もおりますので、宿――白馬館でしたか、宿の者に迎えに来るようにと使いを走らせましょう」


「それは助かる。では迎えは……そうだね……あまり動き回ってはすれ違いになりそうだ。馬宿の前で待とうか」


「了解しました。迎えは馬宿へと言付けます。――では我々は一旦これにて」


 デリーたち領兵はラストールに一礼すると、ガランたちに向けて右手を上げた。


「ではまたな」


「皆さんありがとう! またね!」


「またね! 兵隊さ〜ん」


 ガランとアッシュが手を振り、他の皆も手を上げて領兵を見送った。


「そういえばオレたち今回、交易手形のメダル、使わなかったね」


「あ! そだね。ラストールさんがいたから、かな?」


「そうだね。今回は理由が理由だから、私の名で良かったんだが――」


 今回は同じ領内の移動、それも鉱山支局長のラストールと同伴しているので交易手形の提示は必要なかった。しかし今後はそうはいかないとラストールに教えられた。

 交易手形を持たないタイガとアインが他領に渡る場合、交易キャラバンの出稼ぎ組と同じような扱いとなる。ガランとアッシュ、二人と一緒ならばその手形で他領、他国にも渡ることは可能だ。手形持ちと一緒であれば戻ることもできる。しかし二人と別れてしまった場合、場所によっては戻れなくなる場合があると指摘されたのだ。


 ガランとアッシュは、国をまたぐ交易キャラバンに加わるためには領主、または領主名代たる村長や町長の紹介状が必要だと、アーリア商連のニコラスからも聞かされている。その紹介状を持たないということはつまり、交易キャラバンには加われないことを意味していた。

 ラストールは、国によっては身の証がない者を流民と定めており、受け入れを拒む場合もあると危惧してくれたのだ。流民を受け入れるかどうか。それは、その時の国や領の情勢次第なのである。


「なかなか難しいんだね」


 息を吐きながら肩をすくめたガランを見て、アッシュも同じく肩をすくめた。


「そだねぇ。旅は簡単じゃない、かぁ。ボクらはボスを知ってるから、タイガさんとアインさんが、今後どうしたいかによっては力になれるかも。一緒に考えよっか、ね!」


「まぁなんとでもなるだろ。――アイン、詳しいことはまた後日、役人に尋ねるとしよう」


「そうだな。もしかしたら報奨が役に――」


 アインが言い終わらないうちに、グランサクソンの街に鐘の音が鳴り響いた。


 リンゴーン…… リンゴーン……


 その音色を聴きながら、アッシュがつぶやいた。


「刻の鐘……だ」


「キュキュ〜 キュキュキュ〜」


 アッシュ肩の上でクーが、鐘の音に合わせて鳴きながら身体を揺する。


「へぇ。アッシュ君は刻の鐘を知っているのかね。今のはそう――暮れ六つ刻の鐘、だね」


 ラストールはそう言って通りに視線を移した。六度鳴らされた鐘に誘われるように、夕暮れ時の領都の喧騒は慌ただしさを増した。その人々の動きは、ガランたち四人の予想以上であった。


「うわぁ……! アッシュ、領都って本当に人が多いんだねぇ……」


「ほんとだねぇ……! 道の先までずぅっと続いてるよ……」


「こんなに活気づくなんて……。俺ぁ自信がなくなったよ。ひとり歩きなんて、無理だ」


「まぁそう、だな。――タイガ、裏路地には注意しよう」


「四人とも、私とヨゼフから離れない方がいいだろうね。――ヨゼフ、目を離さないようにしようか」


「そうですね。迎えを頼んでおいて良かったです」


 そこへひとりの使用人が、荷車を引くロバを連れて馬宿に現れた。


「お待たせいたしました。白馬館のシモンズでございます。ご無沙汰しております、ラストール様。お迎えに参上いたしました。――さ、さ、お荷物をこちらに」


 シモンズの案内で、一行は宿、白馬館へと向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ