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ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
第五章 領都到達 —水の都・グランサクソン編—
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第61話 タイガの決断

「護衛、ですか?」


 タイガはラストールに聞き返した。


「いや名目上だよ、タイガ君。あの聖銀鉱脈の件、君たちはそれを伏せて欲しいとの事だったが……。報奨を受け取る()()は残されている」


 ラストールはタイガにそう言うと、皆の顔を見渡した。

 ここ鉱山局舎には今、ガランとアッシュ、アインの他、オラバウルも同席していた。

 カカラ鉱山の防護柵再建は既に終わり、今はケインズとヨゼフ、アダモスの指揮のもと、鉱夫たちがカカラ山沿いに立ち入り範囲の拡張を行っているところである。局舎内にも時折、樹木の伐採音が聞こえてきている。


「義務? 受け取らなきゃいけないの?」


 アッシュが困惑し、少し首を伸ばしてラストールに問いかけた。


「そう、義務なんだよ」


 ラストールの返答に、ガランはオラバウルに視線を向けた。オラバウルはガランの視線に気付くと、少し肩をすくめ、口を開いた。


「ガラン、それから他の皆も。ちっと考えりゃわかるはずだ。何かと困るんだよ、な?」


 オラバウルの謎かけのような問いに、ガランとアッシュは一度視線を交わした。しくじりを教訓として刻んだあの日、オラバウルもその場にいた。意思疎通、思考の重要性に改めて気付いた四人に、オラバウルは考えさせようとしているのだと気付いた。二人はタイガとアインにも視線と頷きを送り、四人はそれぞれ考え始めた。

 今回は今までのように個人で考え、後から答え合わせをする訳にはいかない。ガランとアッシュだけ、タイガとアインだけが阿吽の呼吸では意味がないのだ。皆の考え方を知るいい機会。それを意識したのか、ガランは腕を組んで首を少しかしげ、整理するように率先して言葉に出した。


「えぇっと、新しい鉱脈を見つけて……そこを掘るには人が? ――ううん、違うな。その前の話だ」


 そのガランのつぶやきを聞き、アッシュは宙に目をやる。何かを指さすかのように、立てた人差し指を胸の前で揺らしながら思考を声に出す。


「発見して報告した場合と……そうじゃない場合、かな……。今回は報告したから……そっか、発見者……! まずひとつはこれっぽい……。あとは……」


 思考を共有するように、ガランとアッシュのつぶやきは続く。


「鉱山は王様のもの。だから勝手には……そうか!」


 そうつぶやいてガランはアッシュを見る。アッシュも気付いて、宙を差していた指をガランに向けた。


「見つけた時に報奨……! 誰が困――なるほどねぇ〜……ということは……うん」


 頷き合うガランとアッシュの思考を手掛かりに、タイガとアインもおおよその見当がついたようで、顔を見合わせて頷いていた。


「タイガ、これもやはり……」


「あぁ、『鉱山の決まり事』だろうな……」


 四人の様子を見ていたオラバウルは頃合いと見たか、ひとつ頷いてタイガに視線を合わせた。それを受けてタイガは口を開く。


「鉱山の決まり事ってことなら……まず国王様、領主様は鉱脈を発見したら報告をさせたい、ってことですかね。十分な褒美を出せば、黙って掘るより手間やなんかが省けて旨味があるでしょうし、そのことを知らしめたいんじゃないかと」


 そう言ってタイガはガランを見た。その視線を受け、ガランが続きを話す。


「勝手に掘ったら危ないしね。崩落とか、鉱毒とか。今回困るのは……まずラストールさんかな。オレたちのこと全部黙ってたら、誰が見つけたのか辻褄が合わないから報告できなくなっちゃうし。報奨を貰うのが義務なのは、ちゃんと褒美が出たっていう事実が必要だからだよね?」


 ラストールは大きく頷いた。その頷きを見て、ガランもアッシュに視線を送る。アッシュはオラバウルに視線を移して話した。


「アダモスさんとオラバウルさんも困るよね。領の兵隊さんを護衛にして、わざわざ廃坑に行ったんだもん。枯れた廃坑に何しに行ったんだって、領主様に思われちゃうよねぇ。特に聖銀だし。――でしょ?」


 少し首を傾げながら問うアッシュに、オラバウルもにやりと笑って頷いた。それを見たアインも顎に手を当て、自身の考えをラストールに告げた。


「他にも不当に労働させないため、もあると思う。賊が人をさらい、悪党が不当に安い労働力を使って私腹を肥やすとか。闇で採掘した鉱物を横流しし、それを資金源として更に悪事を……もしかしたら裏に貴ぞ……いえ、少し言葉を選びます。……王家と他家に()()思わせないために、領主様は鉱脈発見を王家に報告し、王家がそれを公にして直轄管理する。――ラストール支局長殿、違いますか?」


 ラストールはまたも大きく頷き、皆を見回した。


「そうだね。他家への牽制――まぁ、仮定の話は止めておこう。必要なのは私が領主様に会い、鉱脈の存在を領主様と鉱山総局の両方が知るということ。それと、発見者には十分な報奨が与えられたという事実、悪事や謀反の疑いの目が入る余地をなくすこと。それこそが重要なのだよ。だから名目上、私が領主様に会いに行く際の護衛として君たちに同行してもらえれば、それを知る者は最低限に抑えられる」


 そこでタイガが顔を曇らせ、右手でガシガシと頭を掻いた。


「名前だけの護衛じゃ困るんじゃ……? ガランとアッシュはともかく、俺とアインは木槍しか――」


 タイガの言葉にオラバウルの笑い声が重なった。


「ガハハッ! タイガ、だからこそだ。お前さんたちにとって、悪い話じゃないぞ?」


 左手の指で軽く二度テーブルを叩き、意味ありげに告げたオラバウルがタイガを指差した。


「え?」


 差されたタイガは思わず聞き返してしまった。オラバウルはまたも笑い声をこぼす。


「ガハハッ! タイガ、前にも言ったろ? その棒っきれじゃ心もとないだろうってな。俺の伝手ってのは、領都にいる武器職人さ」


「武器職人ってことは……! 鍛冶師だね?」


 思わずガランが身を乗り出し、腰を浮かせてオラバウルに問うた。


「もちろん鍛冶師に決まってる。――タイガ、あまり悩む必要もないぞ。今まさに領兵がいるじゃないか。彼らこそが本物の護衛ってな。そんで今、俺たち鉱夫連中は鉄を掘らずに柵を作ってる。次に来る荷馬車に積む荷が足りないのさ。だから領都まで、その馬車が使えるって寸法だな。――旅の寄り道にしちゃあ、そう遠回りでもないと思うぞ?」


 オラバウルはガランたち四人それぞれに視線を送った。


「そだね。ボクはいろんな()を見ときたいし、ガランも鍛冶が見たいだろうしね。タイガさんとアインさんも冒険者、でしょ? 褒美をもらって装備を整えた方が『生き延びられる』と思うよ〜? ……気になることはあるけど、ね」


 アッシュがそう提案しながらも、トゥサーヌでニコラスと話した『貴族同士のきな臭さ』を暗にほのめかした。そして頭の後ろで両手を組み、ガランをちらりと見る。それにガランも気付き、少し眉尻を下げながら頷いた。


「そう、だね。気をつけなきゃいけない()()はあるけど……。でもオレも、タイガさんとアインさんには生き延びて欲しいよ。せっかくパーティーを組んだんだし……。それに、スカッチは逃げないからね」


 ガランの言葉を聞き、ラストールは頭の中で地図を広げた。少し視線を彷徨わせ、ガランとアッシュを交互に見て口を開く。


「スカッチを目指しているのなら、領都グランサクソンからスカッチに続くシベル横断道がある。横断馬車が七日に一度、出ていたはずだよ。運賃は……まぁ、かなり高額だけれどね」


 運賃の額を思い出したのか、ラストールは少し困ったような顔になった。そのラストールの表情を気にもせず、アッシュは少し目を見開いた。


「横断馬車なんてあるんだ〜。ね、ね、ガラン。ちょっと面白そうじゃない?」


 アッシュの好奇心に触発されたのか、ガランも同意を示した。


「オレも気になる! 高額なら見るだけでもいいかもね。――ということで、タイガさんもアインさんも一緒に、ね?」


 視線を送られたタイガとアインも、腹のくくり時と感じたか、一瞬視線を合わせ、口を開いた。


「そうだな、タイガ」


「あぁ、行くか。領都グランサクソン。――ラストールさん、義務を果たしに同行しますよ」


 最終的な判断がタイガの口から告げられ、ラストールも満足気に頷いて壁の予定表を確認した。

 

「うん。荷馬車の到着は四日後。出発はひとまず……五日後の朝を予定としようか。ガラン君はもちろんだが、他の者も体調管理をしっかり頼むよ。――オラバウル、ケインズを残すがヨゼフは抜ける。明日にでもアダモスも交えて段取りだけ詰めておこう。現場の調整を頼むよ」


 ラストールの指示に、オラバウルは目だけで天井を見上げ、息を吐きながら答えた。


「はぁ、木こりの段取りは専門外だが……。ま、杭打ちもタガネ打ちも似たようなもん、だな。でかいタガネと思うとしよう」


 タイミング良く、外から木の倒れる鈍い音が聞こえてきた。皆が壁の向こうを透視するように視線を向けたが、アインは横目でタイガを見てささやいた。


「私とタイガは、他領に渡るかどうか決めなければ、か」


「そうだがアイン、その先は追々考えよう。まずは俺たち二人、護衛に見えるよう、しっかり兵の観察をしておこう」


「あぁ、そうしよう」


 オラバウルは耳聡く二人の会話を聞き、腕を伸ばしてタイガの背を叩いた。


「ガハハッ! タイガ、アイン。気張るのはいいが、あんまり気負うなよ? ガハハハッ!」


 そしてそれぞれの過ごし方で四日が経ち、予定通り五日後の早朝、ガランらは領都グランサクソンへと向かうのであった。

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