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アーシア大陸秘話 『魔剣』

  

 およそ千年前。

 ダッカス王国の南、ルッカ国との国境に程近いヴルカ山の麓。そこにある小さな鍛冶小屋に、ひとりのドワーフ族の男が住んでいた。

 男は山中に籠もり、ただただ炉に向き合い、黙々と鉄を打ち、己の技を磨く日々を送っていた。

 男は最初からひとりだった訳では無い。より高度な鍛錬技術を習得すべく、師と仰いだ人物と一緒に暮らしていた。その期間は、わずか二十日足らず。


 技法の相伝は、呆気ないものだった。


 『精霊への感謝、祈り。一心にそれを捧げ、奉剣と成せ』


 師にそう命じられて渡された、聖銀ミスリル。男はその聖銀をひと振りの短剣に仕上げ、師へと見せた。師は何も語らず、自らが鍛冶場へと向かい、自身が聖銀を打つ姿を男に見せた。


 打つ技術は同じ。打った際の音でわかる。

 手際も変わらない。打ち伸ばした回数も。

 炉の温度、その炉で熱した聖銀の温度も同じ。


 自分ならばここだ、こう叩く。男が思い描く通りに師はハンマーを振るう。


 同じ。全くと言っていいほど。


 そうして師が作り上げた短剣を男は受け取り、己が仕上げた短剣と比べた。


 違う。明らかに。


 師が仕上げた短剣は芽吹いている、命が。違いがあるとすれば、目に見えぬもの。すなわち内面、境地。

 男がその境地、真髄に至りたいと願った翌日。不幸は襲った。男が炭を焼くために山へ入っていた時。鍛冶小屋に魔物が現れてしまった。師は遭遇した魔物を倒しこそしたものの、致命の深手を負っていた。


『ただ一心に、一心に打て。さすれば打てぬものなど、ない』


 師は死の淵にありながらも、そう言い遺し、逝った。男は師を弔い、もう一度聖銀を打った。打っては潰し、潰しては打つ。七日目。改めて打った聖銀の短剣を、師が打った短剣と見比べてみる。


 違いは、なかった。


 男の打った短剣にも命が芽吹いていた。男は自身が打ったその短剣を、師への奉剣とした。


 男の名はローレンス、師はマンティスという名だった。


 数年後。とある辺境の聖銀鉱山で、あるおかしな聖銀が発見された。鉱脈の最深部から掘削されたその聖銀には、見慣れぬ黒い鉱物が混じっていた。質が良くないと判断され、買い手が付かないその()()()()をローレンスはただ同然で譲り受けた。一心に打てば打てないものはないという師の言葉を信じ、ローレンスはその混じり物に向き合う。


 ただ一心に精霊に祈り、混じり物を打つ。打っているうちに変化が訪れた。混じり物から聖銀だけが剥がれ落ちる。黒い鉱物は祈りを受け付けぬかのようにハンマーを弾き返すのみ。


 ローレンスは黒い鉱物に挑み続けた。いつしか混じり物から全ての聖銀が剥がれ落ち、その黒い鉱物は純粋さを増していた。しかしその黒い鉱物を延べることすらできない。


 ローレンスが黒い鉱物と格闘していたある日。二人の男女が鍛冶小屋を訪れた。二人はヒト族であった。魔物と対峙して撃退、疲れ果てたところに小屋を発見したという。


 ローレンスが二人を招き入れて話を聞くと、女は魔法使い、男はその護衛剣士であった。魔物は女の魔法で撃退したが、男の得物である剣が折れてしまったと聞き、ローレンスは剣を打ち直してやることにした。


 鉄に向かい合うローレンスを見て、女魔法使いはローレンスの素質、魔に打ち勝つ精神力の高さを見抜いた。


 魔を討てるのではないか。


 ローレンスが打ち直した剣を渡すと、女魔法使いと剣士は揃ってローレンスへそう告げた。それを聞き、ローレンスにある一心が浮かび上がった。

 ただ祈るのではなく、己の中の魔を封じる一心、克己(こっき)

 ローレンスは黒い鉱物に魔封の克己で挑む。黒い鉱物は板状へと形を変え、鍛え延ばされた。ローレンスがハンマーで叩くたびに黒い靄が湧き立ち、それをも叩き封じた。封じるたびに黒は赤みを帯びる。


 やがて赤黒い、一本の剣を打ち終えた。


 ローレンスは黒い鉱物に名前を付けた。

 師から名を貰い、鉱物には『マンティスの(アーダー)』、アダマンティス。

 魔を封じた魔鉄にはアダマンチウム。

 鍛え上げた魔鋼にはアダマンタイトとした。


 ローレンスは自身開眼のその剣を、きっかけとなった二人に贈った。


 その後、ローレンスはアダマンティスの製法を弟子たちに伝え、いつしかそれが『ドワーフの秘宝』と呼ばれ、文字通り血脈(アーダー)となり、受け継がれた。


 そして『ローレンスの魔剣』。

 その剣は今もなお、誰かの元にあるだろう。

 名もなき女魔法使いを、名もなき戦士が護り抜いた証として。


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