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ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
第四章 鉱山のドワーフ —カカラ鉱山編—
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第60話 異形

 タイガを案内役としたオラバウルたち五人は、聖銀(ミスリル)を発見した廃坑に到着した。

 アダモスは木の板で塞がれた坑道の入り口、その板を叩きながらつぶやいた。


「ここか……」


 オラバウルも、地図に情報を書き込んでいたその手を止め、周囲の地形を眺めた。


「この辺りは……ふむ……先代か先々代の王の時代だな。資料が支局に残ってなくとも、総局にはあるだろ」


 オラバウルの意見にアダモスも同意を示す。


「ま、とりあえず中を見よう」


 オラバウルがランプに火を灯し、護衛の兵士二人が前後を固める形で、五人は前回ガランが開けた板壁をくぐった。

 タイガは先頭の兵士に並ぶと、皆に聞こえるように注意を促す。


「道中で話した通り、奥からバカでかいヘビが出た。ガランが倒しちゃいるが、二匹目がいないとは限らない。気を引き締めて進もう」


 二人の兵士は頷き、アダモスとオラバウルも注意深く岩肌を見ている。


「……そのヘビが目印ってのも、なんだか皮肉な話だけどな」


 タイガもそうつぶやいて、周囲を警戒しながら進んだ。

 以前発見した数字の書かれた板壁を目印にしながら五人は進み、三の板壁を通り過ぎた。


「次の四が――」


 ギッ……! ギギッ……!


 タイガが発見地点を伝えようとしたとき、微かな物音が聞こえたような気がした。声を潜めてそれを四人に知らせる。


「音が聞こえた気がする。もしかしたら何か入り込んでるかもしれない」


 オラバウルは髭を撫でて思考を巡らせた。


「ふむ……入り口は荒れてなかったが……。山だからな」


 そう言って、試掘用の小振りなツルハシをベルトから引き抜いた。


「小物、ならいいんだが……」


 アダモスも掘削用ハンマーを取り出して万が一に備え、前衛の兵士がパイクを構え直し、後衛の兵士もそれに続く。

 五人は油断せず、物音を立てぬよう慎重に歩を進めた。


 やがて微かな腐敗臭が漂ってきた。しばらくすると四の板壁があり、近くに明かりを反射する何かがあった。大蛇の死骸である。

 しかし死骸には不自然な膨らみがあった。何かがいる。

 先頭の兵士はその死骸に取り付いた、何かを見て息を呑んだ。


「……ッ!」


 兵士の動きに四人も反応し、それぞれの得物を握る手に力が入った。


 ギ!


 グギギ!


 得体のしれない()()が二匹。いや、二体というべきか。大蛇の屍肉に喰らいつき、噛みちぎり、その口から言葉とも声ともつかない何かを発している異形のもの。


 最初、タイガは小さな猿だと思った。

 しかし獣の猿とは明らかに違う。まるで人のように体毛がなく、肌は青黒い。口は大きく裂け、覗く口内は小さな牙が立ち並んでいる。顔中を屍肉の腐汁で汚し、一心不乱に屍肉を喰らうさまは、幼き頃に物語で聞いた、化け物に見えた。その化け物の名は、なんだったか。

 タイガがそう思ったとき。


 ギギッ


 その化け物が五人を見た。

 赤い瞳。


「うああッ!」


 前衛の兵士が叫び声と共に、化け物にパイクを突き刺した。

 タイガもその声で我に返る。手にした木槍で残ったもう一匹を思い切り突く。手応えはあった。獣のように毛皮の守りはない。が、突き通らない。


「せやああッ!」


 後衛の兵士が加勢し、化け物の身体をパイクで刺し貫く。

 アダモスとオラバウルは、それぞれ得物を握り締めながらも動けずにいた。少しでも闇を払うべく、ランプを掲げるだけで精一杯。

 タイガもひと突きした姿勢のまま動けない。

 兵士たちはパイクで突き刺し、抜いては刺しと繰り返す。


 ギッ! ギ……ギギ……


 もがいていた化け物はやがて、口から黒い(もや)を吐いて動きを止めた。


「な、なんだコイツは……」


 前衛の兵士がつぶやく。息を切らせ、目を見開いて。

 タイガも動かなくなった化け物から目を逸らせない。

 アダモスが化け物を見つめながらつぶやいた。


「猿、か? だがこんな猿は見たことがないぞ。まるで……まるでおとぎ話の『Gobble(ゴブル)』じゃないか」


「ゴブル……!」


 タイガはアダモスが言った化け物の名をつぶやく。

 物語で聞いた化け物の名と同じだと思い出した。

 兄リョウガと先を競うように食事をしたある日の晩に、ベッドで母が聞かせてくれた物語。


『慌てて食べると、ゴブルになってしまうよ』


「魔物になった猿にしても気味が悪い……! ()を見て、戻ろう」


 オラバウルの提案に四人は頷き、それぞれが役目を果たそうと動き出す。

 兵士は見張りとして坑道の前後に立ち、タイガは天井を指して聖銀の根状結晶と鉱脈をオラバウルに示す。アダモスは持参した麻袋へ、床に落ちていた結晶を詰める。

 そして最後に四の板壁を全て剥がし、それを薪として大蛇と化け物、ゴブルを燃やすことにした。ランプの予備の油も掛け、火を放つと注意深く、かつ足早に坑道の入り口へと戻った。

 四の板壁から引き抜いた釘で坑道を塞ぐ板壁を補強し、ようやくタイガたち五人は帰路へ着いた。


◇ ◇ ◇


「毛皮のない猿? そんなのボク、森で見たことないよ。ガランは知ってる?」


「オレも知らない。ウルラスの山越えでも見てないから、珍しいのかもね」


「『青い小鬼・ゴブル』、か。私もあのおとぎ話は怖かった。幼い頃は特に」


 カカラ鉱山へと戻ったタイガは、ガランたちと共に飯場宿舎の食堂で話をしていた。タイガは廃坑にいた魔物が、化け物のような姿をしていたと皆に告げたのだ。


「まぁ、魔物だしな。どこかの猿が流れ着いたかなんかだろ。鱗のないヘビもいるって聞くしな」


 タイガはそう言って両手を頭の後ろで組んだ。話の区切りとばかりにガランがポーチから燻製肉を取り出し、皆に勧める。アッシュも燻製肉を一枚摘み、誰に聞かせるでもなくつぶやいた。


「たまたま珍しい猿が魔物になって、おとぎ話の化け物みたいに見えた……なんて。――そんなことあるのかなぁ」

これにて第4章は終わりです。

次章もお楽しみいただけたらと思います。

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