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ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
第四章 鉱山のドワーフ —カカラ鉱山編—
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第47話 発見

「何があるかな〜」


 アッシュは好奇心を隠しきれず、ランプであちこちを照らしていた。出発してから断続的に風の波紋(リプルス)も発動しており、浮かれながらも警戒に余念はない。


「こっちはタイガさんが見た方だから、オレも知らないんだよね」


 ガランも壁を照らし、時折(グラン)を発動して壁を叩く。偶然とはいえ自分達は穴を発見してこの坑道に降りたのだ。崩落の可能性は捨てないガランだが、含有物質の興味もあった。


「ボク、このキラキラしてるの気になるんだけど、もしかして――お宝かな?」


 アッシュは壁面にある、ランプの明かりを反射する極々小さな結晶が気になっていた。ガランはその場所を(グラン)で叩く。振動を読み取ろうと集中したのか瞳も閉じた。横でアッシュはワクワクとした表情を隠さず、瞳を輝かせてガランの回答を待つ。


「これは……うん、石英だね」


「ふむふむ。――で、その石英っていうのはお宝なの?」


「アッシュも見たことあるやつだよ。簡単に言うと――砂だね」


「砂……」


 ガランの答えにあからさまに落胆するアッシュ。目は半眼となり、口角も下がる。


「ぷっ」


 ガランはころころと変わるアッシュの表情の落差を面白く感じて吹き出してしまった。アッシュは表情を変えず、黙ったまま目だけを動かしてジトっと横目でガランを見る。その視線で思わずガランは表情を取り繕うが動揺は隠せない。


「ぷぷっ」


 今度はアッシュがガランの動揺っぷりに吹き出すとガランもまた笑いだし、お互いに笑顔を見せあった。


「ま、いいや」


 アッシュはそう言うと歩き始め、行動で探検継続の意思を見せる。

 その後は特に気になる物も無く、十二本目の柱を過ぎた所で壁の様相が変わった。削られた壁の表面はゴツゴツとした鋭さを残したままだ。


「なんか変わったね――あ」


 アッシュがつぶやいてランプを掲げると、床に何かが見えた。ガランもランプを掲げながら先に進む。床にあった物は柱と同じ大きさの木材。それが右端に積まれ、その先にもう道はなかった。行き止まりだ。


「行き止まりだね」


 ガランは最奥まで進んで壁を観察する。行き止まりの壁は中央から縦に削られた亀裂にも見える窪みがあり、ツルハシを振るった跡が無数に残っていた。恐らく試掘で目ぼしい鉱物はもうないと判断されたのだろう。ランプの灯りで陰影を作るその跡はまるで、巨大な獣が残した爪痕のように感じる。ガランはその掘削痕を手のひらで撫で、過去にここでツルハシを振るったであろう人々の姿を想像し、思いを馳せる。


「行き止まりってことは、入口は逆側かぁ〜」


 アッシュが何気なくつぶやいたその言葉で、ガランも坑道入口の存在を改めて思い出す。


「そうか入り口……。アッシュ、入り口を目指したほうが安全に出られるかも」


「あ、そっか。距離次第だけど――タイガさんとアインさんにも相談しよっか」


 ガランの提案にアッシュも同意を示し、二人は坑道を戻り始めた。

 その頃、タイガとアインも焚き火を挟んで会話をしていた。薪の節約のために小さくしたその炎のゆらぎを見たまま、アインは嗄れた声でタイガに話しかける。


「タイガ。――あの二人はやはり気付いている」


「……だろうな。エルフとドワーフだ、見た目通りの年齢じゃないからな。兄貴が言ってた通り、常識を知らないだけで中身はそれ相応。()()()()から()()()()、ただそれだけだ」


 タイガはそう言って、ちらりと二人が進んでいった通路の奥に視線を送る。そこにタイミングよく灯りが見えた。二人が戻ってきたのだ。


「ただいま。あっちは行き止まりだったよ〜」


 アッシュは少し残念そうに成果を告げて肩を竦め、ガランも頷きながら焚き火の前に座ると、タイガとアインに視線を送りながら口を開く。


「柱十二本分しかなかったよ。それで今後なんだけど……足場の弱い崩れた外の壁を登るよりも、坑道の入り口を探そうと思うんだ。どっちも危険はあるんだけど――二人はどう思う?」


「そうだな……」


 ガランの提案に暫し考えるタイガとアイン。


「食料はともかく水は二日分くらい。他も()()と同じような造りなら多少遠回りでも坑道を歩いたほうが安全――あぁ、どっちも危険ってのは()()()()崩れてる場所があるかもってことか」


 タイガはガランの言う危険に思い当たって小さく頷いた。アインは少し眉を寄せるが黙って聞いている。


「うん。途中が崩れてたら結局進めないしね。でも多分だけど――()()()()()()()()()()なら出口側――この場合は行き止まりに近いこの辺りが一番新しいはずだけど、()()()()()()()()だから途中も安全を確保したと思うんだ。崩れたら生き埋めになっちゃうから手入れするだろうし」


「「なるほど」」


 タイガとアインの言葉が重なり、二人はちらと視線を交わす。ガランがアッシュに視線を合わせるとアッシュも頷いて考えを話す。


「全部憶測だから保証はないけどね〜。でもボクもガランと同じ考えかな。あとは距離だよね。タイガさん、こういう坑道って入ったことある?」


「さすがに入ったことはないな。坑道の長さは見当もつかん」


 タイガは軽く首を左右に振り、肩を竦める。アッシュはアインにも視線を送るが、タイガと同じくアインも首を振った。


「じゃあ……」


 アッシュはガランにも視線を送る。ガランはその視線を受けながら少し考えたが、すぐに口を開いた。


「オレも坑道なんて初めてなんだけど……水のことを考えたら急ぎたいかな。万が一があって途中で引き返すことも考えるとね」


「そうだね」


「私も賛成だ」


 アッシュとアインが同意を示すとタイガも頷いた。


「そんじゃ早速移動だな。もう少し先に進んでみよう。どうせ今日はもう半刻もすれば寝るだけだ」


「そうだね。少しでも進んどこう」


 皆がそれぞれが準備を始める。アッシュは口笛でクーを呼び寄せ、クーが坑道に入ると念のため他の獣や魔物が入り込まないよう、穴から抜け落ちた木材をタイガと協力して元通りに戻して穴を塞いだ。その間にガランとアインが薪を束ねる。

 先行するタイガとアインがランプを持ち、ガランは薪を、アッシュは枯れ葉と灰を入れた麻袋を抱え、四人は坑道を左側の西方面に向けて歩き出した。当然ながらガランは(グラン)を、アッシュは風の波紋(リプルス)を発動しながらの移動だ。


「分岐があるかもしれないね〜」


「確かにその可能性もあるね。入り組んでたら迷う前に戻るのも考えとかなきゃ」


 アッシュの気付きにガランはいつもの慎重さで答える。


「やっぱりガランは慎重だねぇ。お宝があるかもしれないよ? 『ダンジョン』には――って、なんでもない」


「……安全を一番にしようよ」


 アッシュが誤魔化した記憶の何かをガランもスルーした。こちらもいつも通りだ。


「キュキュ〜ウ」


 クーは坑道にはあまり興味を示さず、アッシュの肩からリュックの上に移動すると瞳を閉じてしまった。空を飛ぶ鳥は地中は好きではないのかもしれない。

 ガランは柱を二本通過する毎に(グラン)で壁の地質も見ながら進み、十六本目の柱近くを叩いた時、振動に変化が見られた。


「ちょっと変わったかも。隙間――いや空間、かなぁ。入口か分岐が近いのかも」


「じゃあ、念のため俺が見てくる。少し待っててくれ」


 タイガは皆にそう告げると一人で先行していく。アインは少しでもランプの灯りが届くよう高く掲げ持った。ガランとアッシュも口を噤んで耳を澄ませ、タイガの背中を見つめながらも警戒は切らさない。

 暫くするとタイガが持つランプが通路の終点を照らした。木材、おそらく木の板で塞がっている。位置は十九本目の柱だ。

 タイガは右へ左へとランプを動かして造りを確認してるようだが、タイガの背中越しに見ても大きな隙間はないとわかる。


「見ての通り、塞がってるな」


 タイガの呼びかけで全員で近付き、塞いでいる()を確かめる。やはり木の板だった。反対側から柱に打ち付けられている。板の境目には所々に隙間があり、手をかざすと風を感じる。向こう側を確かめようとアッシュが隙間を覗くが、闇に閉ざされ見通せない。


「何も見えないね〜。けどこの板、邪魔だけど……()()()()は安全ってことだよね?」


 アッシュは覗くのを止め、振り返って皆を見渡す。ガランが軽く中央付近を押してみると、板は少したわんで隙間を広げたが手を離すとすぐにもとに戻る。

 逆側から塞がっているということは出るには板を破るしかない。しかし出た先が安全かどうかは不明。外にしろ分岐にしろ、破った後は周囲の安全確認が改めて必要になるのは明白だ。


「そうだね……。今日はここで休んで、明日向こうに行こう」


 ガランはそう告げるとリュックを下ろす。三人もそれに続き、それぞれ敷物や寝具を出して横になった。


「ワクワクするね〜。今日眠れるかなぁ?」


 アッシュはそう言ったが、真っ先に寝息を立てたのは他でもない、そのアッシュであった。


「すぐ眠れたじゃん……」


 ガランは小さくつぶやいて瞼を閉じた。


 翌日。用意しておいた朝食のイモを食べ終え、いよいよ板を抜くことにした。


「まず一枚だけ抜くよ」


 ガランはハンマーを取り出して腰の高さの板の端を軽く叩く。コンコンと響くハンマーの音に混じる少しの擦過音。ガランは軋むようなその音に、叩くことで柱の倒壊を引き起こすのではないかと少し不安になった。一瞬だけ思考を巡らせると(グラン)を発動させ、慎重にハンマーを振るう。鉱物と違って木材の振動では明確な素材の差異まではわからないが、振動がどのように伝わっているのかはわかった。ハンマーの叩く力は確かに柱にも伝わるが、壁面や梁、柱を支えるように当てた己の手を通して分散されている。試しに柱を壁面に押し付けながら板を叩くと驚くほど振動が減った。柱の接地面が増えれば振動は減るのだと改めて気付く。


「なるほどね……壁は金床で柱はヤットコだ」


 ガランはつぶやきながら一人納得し、板を叩く。

 アッシュは何かを掴んだであろうガランの表情を見て、里の職人達の顔を思い出す。掴んだ()()。それはコツだと確信して、やはりドワーフは根っからの職人なのだ、と友を頼もしく、誇らしく感じる。アッシュは自身でも気付かぬほど自然に笑みを浮かばせた。

 ガランは僅かな時間ですぐに一枚の板を抜き取って()に引き込む。板の厚みは約二センチ、打ち付けられた四本の釘の長さは八センチほど。それだけ確認するとアッシュに視線を送る。おそらく一番最初に奥を見たがるだろうと思ったからだ。


「見てみよう!」


 ガランの期待に違わぬアッシュの声に、ガランも笑みを浮かべて頷くと、タイガとアインにも声を掛ける。


「じゃあ中を照らして。皆一緒に見よう」


 頷いたタイガとアインはガランとアッシュを挟むように立ち、ランプを持った手を開けられた板の隙間に差し込むと、タイミングを合わせたかのように四人同時に隙間を覗き込んだ。クーまでがアッシュの肩から首を伸ばして中を見ている。


「お〜!――って、何も見えないね。……地面も同じ感じかなぁ。風の波紋(リプルス)の反応もないや」


 現在地とほぼ同じ景色に、少しの落胆を滲ませるアッシュ。


「じゃあ抜いちゃおうか」


 ガランはそう言って皆を下がらせ、下の板も抜いていく。手早く計五枚の板を抜き、釘を板から抜き取ってポーチに仕舞うと板を積み重ねて左側の壁に寄せた。


「板は置いていこう。万が一何かあったら塞いだほうがいいかもしれないし」


「だな。薪にしてしまうと安全地帯に困るかもしれん。――じゃあ行くか」


 そう言ってタイガは屈みながら板壁を抜け、アインもそれに続く。ガランとアッシュも続き、周囲を観察する。タイガもアインもランプを高く掲げ持ち、なるべく周囲が見渡せるように灯りを広げている。

 奥に壁は見えず、出てきた坑道の左右の壁も人が手を加えて削ってあるのはわかるが()()()()が大きい。それが上まで続き、天井は見えなかった。


「かなり広いな――あ」


 ランプを掲げたアインが何気なく振り返った時、板壁に模様のようなものが書いてあるのに気が付いた。

 その声でガランとアッシュもアインの顔を見て、アインが見ている視線を追いかけるように振り返ると同時に声を上げた。


「「あ!」」


 その声にタイガも板壁を照らす。板壁には所々が薄くなり、隙間で多少ズレてはいるが、明らかに人が描いたであろう()()があった。


「これ、数字だよ!」


「『6』だね」


 アッシュが数字だと言い当て、ガランがその数を告げる。


「ふむ……六番目って感じか」


 タイガの言葉に皆が頷く。


「坑道の決まりをボクは知らないけど……」


 板壁を見ていた皆の視線がアッシュに移る。アッシュは板壁に書かれた数字を見たまま言葉を続けた。


「ボクなら入口から近い順に数字を付ける、かな」


 そう言って皆を見回すアッシュに、ガランも小さく頷きを返して口を開く。


「オレもそう思う。塞いだあとに数字を書いてあるから掘り終わった順番かもしれないけど――それだと数字を書く()()はあんまりないよね。終わったら塞ぐだけでわかるから数字はいらないよ」


 二人の考えを聞いたアインも己の考えを話す。


「私もそうするだろう。そして私なら――ここだけを塞いで六とは書かない。最低でもあと五つ、塞がれた場所があると思うんだが、どうだろう?」


「だな」


「そだね」


 タイガとアッシュも頷いて同意する。


「塞がってない道を進めば行き止まりが回避できるし、並びがわかれば、入口に近付ける……」


 ガランがつぶやいて改めて周囲を見る。通ってきた坑道との大きな違いは広さと高さ。


「ちょっと待って」


 ガランはそう告げてリュックを下ろすと、使い古した手ぬぐいとラード漬けの樽を取り出した。そこでピンと来たアッシュが問う。


「松明、かな?」


「うん。広すぎて、ランプ二つじゃ足りないからね。――枯れ枝だから長くは持たないけど――よし、できた」


 ガランは口を動かしながらも手早く二本の松明を作り上げ、樽を仕舞ってリュックを背負い直す。


()()()()のは、二人にとっては当たり前、なんだろうな」


 タイガが思わず口にする。


「当たり前じゃないけど――オレ、臆病だから見えないの怖いんだ」


 眉尻を下げて答えるガラン。それを聞いたアインは首を振って否定する。


「いや、それを臆病だとは誰も言わない。言い表すとすれば慎重さだと私は思うが」


「うんうん。臆病とは言わないねぇ〜。ほんとに臆病ならあの板の壁から出ないよ」


 アッシュもそう言って背にした板壁の方に軽く顎を振る。


「だといいけど……」


 ガランが苦笑いしながらアッシュにも松明を渡すと、察したアインがランプの火を下ろして火を移す。すぐに燃え始めた松明をガランとアッシュが掲げると灯りが広がり、今まで見えなかった周囲の状況が視界に入る。


「これは……」


「元は洞窟だったのか」


「凄いね」


「ダンジョンっぽい! ……のかな?」


 四人がそれぞれ感想を言葉に出す。正面の壁はタイガの言葉通り、洞窟を思わせるように()()()()や窪みが残っており、天井は高く、鋭利な岩が鋸の刃を並べたように地脈に沿って連なっている。初めて洞窟を見た者はアインのように言葉を無くすだろうが、ダンジョンを想像するのはアッシュくらいであろう。

 四人は離れすぎないよう距離を保ちながら、出てきた坑道から見て右へと進み、それぞれが気になる場所を確認していく。

 ガランはやはり地質に興味があるのか奥の壁に進んで、(グラン)で叩いてその岩壁を撫でる。極々微かな脈のような振動を感じる。亀裂か地層を走る水脈が近いのかもしれない。残念ながら水脈との確信はなく、位置も不明なため口には出さなかった。


「キュッ!」


 クーの鳴き声に皆がアッシュの方へと視線を向ける。ガランが見た時にはアッシュの肩から舞い上がるところであった。クーは右方向の壁に近付いて壁面スレスレに脚を滑らせ、何かを掴み取る。


「餌になるものでもいたかな?」


 アッシュが警戒しながらもクーを追うように先へと進む。と、視界の先、右の壁に木材のようなものが見えた。


「あ! 板の壁っぽいのがあるよ!」


 アッシュの言葉にタイガがいち早く反応して注意深く先行していく。ガランとアッシュもなるべく視界が広がるよう松明を高く掲げた。


「こっちで正解かもな、五だ。――次が四かどうかだが、さてどうなるか」


 タイガが壁面を見上げながらそう告げ、合流すると先頭を歩き出した。

 ガランは一度振り返り、五の坑道と六の坑道の距離を目測で測る。


「だいたい十二、三メートルくらいかなぁ……あ、角度が違う。――ひとつの層が枝分かれした、のかな? ……うーん。やっぱり地脈は簡単には読めないな」


 ガランはブツブツとつぶやきながらも壁面をあちこちと照らして地層の変化を眺めては手掛かりを探す。


「木と一緒だね〜。木目も木によってバラバラだから、地脈も場所によって違いがあるのかも?」


 アッシュの言葉に頷くガラン。カカラ鉱山に居るオラバウルであれば知ってるだろうかと考えを巡らせ、早く会ってみたい気持ちが強くなった。


「うん? ――ちょっと皆止まってくれ」


 先頭を歩いていたタイガが振り返り、皆を停止させる。


「どしたの?」


 アッシュの問い掛けに、立てた指を自身の口に当てるタイガ。それを合図に皆黙ってタイガを見つめ、耳を澄ます。静寂が訪れ、あまりの静けさに、耳が自身の鼓動を拾うのではないかとガランが思った時、微かな音が聞こえた。他の皆も聞こえたようで、視線を合わせると皆が頷き合う。


「聞こえたな。ここから喋らず進もう」


 皆が頷き、なるべく音を立てずに歩き始める。気が付けばクーもいない。ガランやアッシュ以上に目と耳が良いクーである。心配は要らないとアッシュは思っていたが居なくなったのはやはり気になる。

 十数メートル進んだ時、確かな音を聞いた。パシャと水をこぼしたような音にアッシュは訝しむ。風の波紋(リプルス)になんの反応もなかったからだ。


「皆、音は風の波紋(リプルス)の範囲内だけど察知できない……たぶん高低差があるよ、足元気を付けて」


 アッシュの呼びかけに頷く三人。


「オレも(グラン)でわかったら教え――あ」


 ガランも足で(グラン)を発動させており、変化があれば伝えようと思った時、範囲ギリギリで何かを捉えた。


「前の方、左側に何かあるかも。タイガさん、今回はオレが先に行くよ。足場が()()ないと危ない」


「わかった」


 ガランとタイガが入れ替わって進む。二十数メートル進んだ時、ガランの予測通り左前方に影が現れた。(グラン)でその影は長い窪みであるとわかったガラン。避けるルートを取ったがその影の中から何かが滴る水音が聞こえる。その距離凡そ十メートル。


「あの影の中だ。……オレ、確かめてくるよ」


「俺も行こう」


 タイガの申し出に頷くガラン。ガランが松明を掲げながら近付き、アインがその背を照らす。あと二メートルほどで影に差し掛かる位置まで近づいた時、ガランは掲げていた松明をゆっくりと前に突き出していく。徐々に薄くなる影。しかしその影の中に薄くならない黒いものが、居た。


「「あ」」


 ガランとタイガの声が重なる。息を呑むアッシュとアイン。


「キュ〜ゥ?」


 そこには岩の亀裂から流れ出た湧き水の溜まり場で、水を浴びるクーが居たのであった。

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