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ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
第四章 鉱山のドワーフ —カカラ鉱山編—
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第46話 廃坑道

「結局ボクが最後か……」


 アッシュはしょんぼりと肩を落とすが、意図的にやっているのは明らかだ。更に上目遣いで皆をチラチラと見るその姿に、ガランは苦笑いを隠せない。


「仕方ないよ、奥に何があるかわからないし。タイガさんが入ってからオレ、その後にアインさん。アッシュは一番身軽だし、クーもいる。オレ達に何かがあっても荷を置いていけば(ウィンド)で脱出できるでしょ? 荷も中で確保しとけば無くなる心配もなく助けを呼べたりできるんだから――殿(しんがり)は重要な役目だよ?」


 諭すようなガランの言葉にアッシュは渋々頷く。


「わかってるよ〜。でも探検は一緒に行くからね! だから――タイガさんも気を付けて。危ない時は逃げてよ〜?」


 アッシュは顔を上げてガランと視線を交わすとタイガにも視線を合わせ、注意を促した。ガランとタイガは既にリュックを下ろしており、いつもの焚き火セットとオイルランプも準備していた。ランプは木枡で出来ており、ヒマワリ油と獣脂を混ぜ込んで粘度を持たせた燃料を使う携帯用だ。


「もちろんだ。――じゃあお先に」


 タイガはそう言うと後ろ向きに足から穴へと潜り込む。タイガの腰に回したロープをガランが掴んで降下を補佐し、最低限の安全は確保していた。


「よし、足が付いた。――ふむ、結構平らだな」


「じゃあここから静かに。タイガさん、物音がしたらすぐ上がろう」


 ガランは無事タイガが降り立ったのを見届けると、タイガの木槍と自身の槍を渡し、同じく穴を降りていく。降りていく姿を心配そうに見送るアイン。対象的にアッシュは好奇心が疼くのか、少しでも中を見ようと首を動かしていた。

 今度はタイガが下からガランを支えてサポートを行い、ガランも無事に降りる。ガランは半ば闇に溶けたタイガの輪郭に向かって声を掛けた。


「タイガさんありがと。まだ動かずに警戒してて」


 ガランはそう言うとしゃがみ込み、まず足元を(グラン)で叩いて確かめる。振動が伝えるのはしっかりとした岩盤層。隙間も感じられず、崩落はないと判断して一人頷く。


「うん。足場はしっかりしてるね――アインさん、焚き火セットとランプを」


 ガランは背伸びをして穴に右手をかざし、アインに手のひらを見せる。


「では先にランプから……」


 アインから渡された道具を受け取るとまたもしゃがみ込み、手早く種火を作ってランプに火を灯すとひとつをタイガに渡した。

 ランプの明かりは小さいが、それぞれが自分の周囲を照らすのには十分だ。

 降りてきた穴の周囲を確認すれば、セメント材で固めた跡がある。改めて内側から(グラン)で叩いてみたが壁自体に隙間は感じない。ガランは穴周辺の壁も大丈夫と判断した。


「穴の周りも大丈夫そうだね」


 ガランは無意識につぶやきながらランプをあちこちに向け、周囲の構造も確認していく。降りた正面には三メートル程先に壁があり、左右は見通せない。ガランはここが坑道であれば恐らく通路だと当たりを付けた。柱のような物が立っており、ランプを掲げて見上げれば梁も見える。崩落防止なのか、天井には凡そ二メートル毎に太さ五十センチ程もある角材が渡され、その左右を同じ太さの柱が支えていた。念のため柱も叩いてみたが余程しっかりと打ち込んであるのか、天井に渡された梁と一体となったかのような振動を伝えてきた。


「凄く頑丈に作ってある……」


 ガランはまたも一人頷く。穴の近くに戻ると警戒待機していたタイガに告げた。


「造りはかなり頑丈みたいだよ。オレ左見てくるからタイガさんは右へ。取り敢えず――柱十本分進んだら一旦戻るって感じでいいかな」


「了解だ。危険があればすぐに声を掛ける」


 タイガの了承の声で左右に分かれる二人。


「じゃあボクらも準備しとこう! 探検の準備だ!」


 ガランの言葉を外で聞いていたアッシュが楽しげな声をあげる。


「準備も何も……」


 アインは待つだけと思っていたのか、その声は戸惑いを含んでいた。


「夕食もまだだし、火も起こさなきゃいけないからね〜」


 アッシュはそう言うと近くに落ちていた太い枯れ枝を拾い上げ、クーの目の前でそれを振って見せた。


「クー、薪拾いだよ。これくらいの枝、いっぱい拾って来て!」


「キュッ!」


 アッシュの指示を理解し、ひと声鳴いて飛び立つクー。


「なるほど……」


 アインも納得顔で頷き、近くの枯れ枝を拾い始めた。


「キュキュッ!」


 クーの声に視線を空に向ければ、枯れ枝を掴んで旋回するその姿が見えた。


「えーと……この辺りかな。クー! ここに落として!」


 アッシュが一本の枝を振って少し離れた場所に投げると、クーも器用にそこに枝を落としていく。相変わらず意思疎通は見事だ。


「リョウガ――兄に聞いてはいたが、賢いな」


 アインはクーの働きぶりに感心して目で追う。アッシュもまんざらではない様子で頷いて答える。


「ボクの自慢の()なんだ〜」


「自慢の子、か」


 アッシュの言葉をアインがつぶやきで繰り返し、少し眉を下げて微笑んだ。アッシュはアインのその表情を寂しそうだと感じ、何かを言いかけたが思い留まって僅かに頷く。


「アッシュ、アインさん」


 穴から聞こえるガランの声にアッシュが返す。


「大丈夫そう?」


「うん。多分問題ないかな」


「やっと探検だ! ――っと、その前に薪集めておいたよ!」


「さすがアッシュ!」


 そう言うとアッシュは空に向かって口笛を吹く。指笛ほど響かないがクーを呼ぶだけなら十分だ。程無くしてクーが舞い降りてくる。


「クー、呼ぶまでは好きにしてていいよ〜」


「キュキュッ!」

 

 その後薪を穴へと落とし、漸くアイン、アッシュの順で坑道に降りた。


「なんかワクワクするけど――ちょっと怖いねぇ」


 アッシュは左右に首を振り、何も見えない通路の先を見ながらつぶやく。


「探検、止めとく?」


 ガランがそう言うとアッシュは勢いよく首を振って否定する。


「そんな訳ないじゃん! 『お化け屋敷』が苦手――って何だっけ?」


 タイガとアインはガランを見るが、アッシュの問いに答えられる者などいない。ガランは()()は恐らく『記憶』なのだと判断してタイガとアインに首を傾げてみせ、知らん顔で提案する。


「何かわかんないけど、オレ腹減ったから、探検の前に腹ごしらえにしようよ」


「じゃあ今日は――串焼きかな〜?」


 アッシュの提案に頷くガラン。坑道内に水場があるとは思えず、手や食器を洗う水を節約する意図だとすぐに理解した。


 「そだね。スープは我慢しようか。――そうなると明日の朝食は……あ、灰焼きでいいか」


「うんうん。じゃあ準備しよ!」


 ガランとアッシュは手早く準備に取り掛かった。それぞれ食材をリュックから取り出すと、ガランは先にクッション用として大量に落とした枯れ葉を集めてランプの火を移した。枯れ葉はあっという間に燃え上がり、周囲を明るく照らす。

 アッシュはその火に鉄の平串をさっとかざし、ラード漬けの樽に突っ込んで肉を取り出すと、二本の鉄串とナイフを器用に使いながら細めの枝肉を鉄串に刺していく。長い肉を刺した四本の串が出来上がると噛み切れるようにナイフで切込みを入れた。

 ガランは枯れ葉を次々と火に焚べ、混ぜながら燃え残った葉も燃やし尽くしていく。灰を中央に集めては燃やし、大量の灰を作るとその中にイモを埋め、その灰を囲むように薪を並べて焚き火を起こす。


「なるほど。灰焼きというのはこうするのか」


 アインが坑道の奥に注意を払いながら、二人の調理をチラチラと覗き見る。ガランも焚き火に集中しすぎないよう気を配りながらアインに答える。


「砂中焼きとか土中焼きもあるよ。地面に穴を掘ってから石を敷いて、葉で包んだ食べ物を土とか砂、灰の中に埋めてその上で焚き火をすると熱で蒸し焼きに出来るんだ。焚き火で肉を焼いてる間に明日の朝食が出来ちゃう」


「ほんとはパンも焼きたいんだ〜。けど、四人分のパンを焼くには小麦粉が足りないんだよね……っと! 肉、焼こっか!」


 アッシュの言葉で皆自分のリュックから敷物を出して座る。ガランとアッシュは起毛革(スエード)、タイガとアインは毛皮だ。柔らかさと暖かさは毛皮が勝るが、手入れの容易さとコンパクトさではスエードに軍配が上がる。しかしそれも他の持ち物との組合せでどうとでもなるので、結局は好み。所持する荷物の優先順位で変わるだけだ。

 焚き火を囲み、各々がのんびりと串を焼く。肉は慌てて焼いても生焼けになる。くるくると指先で回したり、手首を返しながらじっくりと焼いていく。

 その肉が焼き上がった頃、アッシュが何か思いついたように顔を上げた。


「肉だけってのも寂しいから――胡椒、少し使っちゃおうか」


 アッシュの提案に一も二も無く頷く三人。胡椒はアーリア商連隊商のニコラスから餞別として貰ったカラシナ粉の麻袋に、少量だが入れられていた。


「アッシュ、ちょっと持っててよ」


 ガランは己の串をアッシュに渡すと水を指先に掛けて洗い、ポーチから巾着を取り出した。乾燥した胡椒の実をひと粒摘み出すと、そのままそれぞれの串の上に右手をかざし、指先を擦り合わせながら肉に掛けた。指先で胡椒をすり潰せる握力はさすがドワーフだ。


「俺が胡椒を口にできるなんて……贅沢かもな」


 タイガがしみじみとつぶやくとアインも頷いて同意を示す。串焼きが上等なローストに変わったように感じるが、その肉もラードに漬け込まれた手の込んだ品だ。ただの肉ではない。皆、それぞれが好みの塩、ハーブを掛けながら肉を頬張る。

 ガランも肉をかじり、先程すり潰した胡椒が付いた己の指をぺろりと舐めて満足気に頷くとまた肉を噛みしめる。けして行儀良くはないが、それを見る三人に不快感はない。それほど胡椒は高価であるし、美味そうに食べるガランを見るだけで自分の肉も美味くなったような気さえする。いや、実際に美味い。ぴりりとした胡椒の刺激が舌に乗ると甘い脂の旨味が増す。皆、満足気に肉を平らげた。


「じゃあちょっとだけ奥、見に行こうか!」


 アッシュはそう言うとリュックから新しい弦を取り出して弓を張り直した。


「そだね。()()の場所も決めておいたほうがいいもんね」


 ガランも同意して立ち上がるとリュックから畳んだ麻袋を二つ取り出し、ひとつをアッシュに渡した。


「アッシュ、枯れ葉をこれに入れて」


 ガランはそう言うと自身は灰を集め始める。アレとは用足しの場所である。坑道内では埋める訳にもいかない。灰を大量に作ったのは、用を足した跡に砂代わりに灰をかけて枯れ葉で隠すため、という意味合いもあった。


「それはどういった理由でやってるのだろうか?」


 アインは二人の作業の意図がわからずガランに問う。


「用足し」


「なるほど……アレか」


 ガランの短い答えにアインがすぐさま納得する。憚られる()をなるべく口にしないガランの配慮にも感心し、はたと気付いて僅かに眉を上げた。しかしアインは言葉には出さず、すぐに表情を戻した。


「じゃあ行ってくるね!」


 枯れ葉と灰が入った麻袋を傍らに置き、二人は手を振って坑道の奥へと進んでいった。

よく登場する肉の獣脂(ラード)漬け。

ラードを使った保存食は中国の油底肉やフランスのリエットなど、実際に存在します。オイルサーディンとかオイルコンフィなども油を使った保存食ですね。

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