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ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
第三章 キャラバン —砦の街・トゥサーヌ編—
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第43話 再会の約束

 

 前夜。狩りから戻り、事件解決の報を直接本人達から聞かされたガランとアッシュ。


「メリッサさん、ほんと無事で良かったよ!」


 白フクロウ亭の玄関の外で、アッシュは改めてメリッサに告げた。ガランも嬉しそうに微笑みを浮かべたが、メリッサの擦りむけた手首を見て眉を落とした。


「手首の傷、早く良くなるといいね」


「私達がしっかり送り届ける。今回のような事件を少しでも減らせるよう、警備に力を入れよう」


 ザビウスが二人にそう話すとライオネルも頷く。隣にはいつもの二人の衛兵もいる。

 狩りから戻った二人は代官のライオネルやメリッサらと夕食を摂り、短い時間ではあったが楽しい時を共に過ごした。メリッサが戻ったことでガランとアッシュの出発も明日と決まり、スープやソーセージが皆にも振る舞われた。まだ本調子ではないメリッサとライオネルはそれぞれの宿舎へと戻るとのことで、ガランとアッシュは見送りに出たのだ。


「二人共、とっても美味しかったし、楽しかったわ。いつかまた、必ず会いましょうね」


 そう言って帰宅するメリッサらを手を振りながら見送って、二人は宿の食堂へと戻った。食事もそろそろ落ち着いた頃。


「ガラン、アレ、確認しとこうよ!」


 アッシュの提案にガランも頷き、二人はブラウドから届けられた革筒を解いた。中には一通の紹介状と尋ね先の簡単な書付。書付は簡略化された地図入りだ。

 紹介状はドワーフ、オラバウル宛。書付にカカラ鉱山で鉱夫頭をしているとある。地図はいくつかの線と文字が書き込まれているだけの簡単な物。線で経路が、文字で町や村の名、目印になるものも書き込まれていた。


 カカラ鉱山へはトゥサーヌ北門から領都グランサクソンまで続くサクソン街道を北上。北東方面にうねるその街道を途中にあるカカラ分岐まで進み、そこで北西方面に向かえば鉱山に着く。

 後で知ることになるのだが、グランサクソンからは東に進むシベル横断道があり、幾つかの町と村を経由してスカッチ以東まで進める。東門から出た道もシベルの外周を回るように続き、幾つかの分岐を経てスカッチに行くことは可能だ。


「北の方角か。何日くらいかかるんだろ?」


「リョウガさん達なら知ってるんじゃない? 聞いてみよ!」


 二人揃ってリョウガたちのいるテーブルへ行き、カカラへの旅程を聞いたのだった。


◇ ◇ ◇


 そして一夜明けた契約確認で、キャラバンの護衛契約は成立。次はガランとアッシュの番となり、目的地をクリスが尋ねた。


「昨日の話だと目的地はカカラ鉱山、だよな?」


 その問いにガランが答える。


「うん、カカラ鉱山。そこに居るドワーフに会いに行く」


 ガランとアッシュは顔を見合わせ、嬉しそうに笑う。カカラとスカッチはほぼ真逆だが、トゥサーヌからだとカカラの方が当然近く、日程も徒歩で約七日ほどとそう遠回りでもない。手掛かりのないアッシュの探す『記憶の中の国』の情報も欲しいと考えている二人だ。色々な場所に行くのはガランとアッシュ、お互いにとって好都合である。


「そうか。カカラの先はどうする? 領都か、もっと先の王都まで行く予定は?」


 リョウガの問いに二人揃って悩んだ。スカッチ、そしていずれはイスードと一応の目的地はあるのだが、あって無いようなもの。道中で何らかの手掛かりがあれば変更しながらになるのだ。それをガランが正直に打ち明ける。


「カカラでの話次第かな。何もなければスカッチに向かうし……何か聞ければその時考える」


 それを聞いてニコラスが口を挟んだ。


「二人共、領都も王都も今は避けたほうが良いかもしれんぞ。――だろ? リョウガ、クリス」


 話を振られたリョウガとクリスは苦い顔で目を逸らす。ニコラスの言葉に先に反応したのはアッシュだった。


「ボスの勘――じゃなくてもボクもわかる。きな臭いってやつだよね? たぶん、貴族絡みで」


 アッシュはうんざりした口調でそう言ってガランを見ると、少し目を開いて片側だけほんの少し口角を上げた。答え合わせを待つ仕草に、ガランも少し考えを纏める。


 護衛が必要になった原因。キャラバンを襲った賊とエルフの誘拐、その背景には治安の悪化。もしかしたら他領から賊が流れてきているのかもしれない。そしてニコラスの勘、食糧不足に動けない領主。魔物の増加もあるだろうが、確かに揃い過ぎてると感じた。誰かが仕組んだ――その可能性は十分にあると。


「誰かがこの街に……領主様にかな。仕掛けてるかもってことだね。はぁ、嫌な話。なるべく避けようか?」


 アッシュと目を合わせ、ひとつ息を吐くガラン。それを見てアッシュも頷く。そこでリョウガが切り出した。


「まぁそういうことだ。それで二人への護衛なんだが――まず金の話を聞いてくれ。二人から護衛料は、貰わない」


「「え?」」


 驚きが口に出たガランとアッシュ。構わずリョウガが話しを続ける。


「最後まで聞いてくれ。まずは昨日までの二日間分、こいつは分けて貰った肉でチャラ。逆に貰い過ぎかもな。……まぁそこはいい、好意に甘えるよ。で、だ。一応事件も解決したんで今後の護衛、こいつも見直しだ。二人に必要なのは単なる護衛じゃなく、案内人だと思うんだが。――なぁ、旦那。旦那もそう思うだろ?」


「まぁ、そうだな」


 ニコラスもリョウガに頷きで答えるとリョウガはガラン、アッシュへと視線を合わせる。


「今回の事件で俺達も考えたわけさ……今後をね。俺達はまだ諦めない。今後もこの稼業で何とか食っていく。堕ちてたまるか。――だが、二人に見せてもらった道具とか書付け、それと危険への向き合い方を見て、俺達に足りないモンも見えた気がするんだ。それが解ったからこそ知識、知恵、経験が欲しい。だから――」


 リョウガはそこで言葉を切ると改めてガランとアッシュを見つめる。二人も視線を合わせ、頷いて先を促す。


「二人には案内人を無償で付ける。その代わり二人に教えてくれ、なんて言わん。同行するだけ、見せてくれるだけで良い。足手まといになったら置き去りにしてくれても構わない。二人が持ってるその、生きるための力ってやつを少しでも持ち帰らせたい。その経験を蓄えて――」


 リョウガの言葉は熱を帯び始めた。ガランもアッシュも黙ってそれを聞く。


「俺達は玄人(プロ)になる。護衛、用心棒、便利屋のプロだ。――もう命の安売りはしない、させたくない。ぼうけんものだなんて言わせたくない、呼ばれたくないんだ。いつか……いつか学者や医者みたいに、冒険者(ぼうけんしゃ)って呼ばせたい。それを、俺達は目指したいんだ」


 リョウガのその瞳の決意。表情にもう自嘲はなかった。隣りにいるクリスも同様。

 そのクリスをちらと見て、苦笑いのリョウガ。右手で頭を掻きながら改めて皆に視線を巡らせ、口を開く。


「ガラにもなく暑苦しいな。……ニコラスの旦那。悪いな、まだ素人の護衛で」


「ふん。それも織り込み済み。それにまぁ――そういうのは嫌いじゃない。冒険者、か。いいじゃないか」


 そう言って頷くニコラス。


「オレ、いいと思う」


「ボクも嫌いじゃない」


 ニコラスに続き、ガランとアッシュもそう口にして一度頷いた。そして意図せず二人の言葉が重なる。


「「でも」」


 思わず顔を合わせる二人。ここは譲るとばかりにアッシュがひとつ頷くとガランも頷き、改めてリョウガに視線を合わせる。


「オレ達、まだまだ知らないこと沢山ある。危ないこともあるかもしれない。――だから提案。組ってことでどう?」


 静かに聞いていたサガットが膝を打った。


「なるほど、チーム――いや、目的と役割り、所属も違うからこの場合はパーティーか」


「うんうん。パーティーで良いんじゃない」


 アッシュもガランの意見に同意のようだ。


「よし、じゃあ決まりだ。……実はもう、すぐに発てるよう準備してある。二人の道具を参考にして、な。――クリス、呼んでくれ」


「ガラン、ボクらも」


「そうだね。準備してくるよ」


 クリスは外へ、ガランとアッシュの二人は荷を取りに二階へと向かう。

 その背を見てニコラスがサガットに何やら耳打ち。サガットは頷くと宿の外に出ていった。


「……旦那。悪巧みじゃないよな?」


 リョウガの訝しむ視線を受けながらニコラスがニヤリと笑う。


「バカ言え。二人はもう俺の子、まぁエルフの歳なんて知らんけどな。餞別を取りに行かせたのさ。――ところでお前さんや残る者に仕事はあるのか?」


「仕事もあるが――やる事もある。夕べ俺達は代官様の私兵として自分達を売り込んだ。兵役みたいなもんだが、兵と一緒の訓練を受けさせて貰う」


「なるほど。訓練で技術を盗む、か」


「見様見真似で剣を下げてたって、クソの役にも立たんって思い知らされたからな。ま、基礎だけでも持ち帰るさ」


 リョウガとニコラスがそんな話をしているとガランとアッシュが降りてきた。いつもの革服と大きな荷。持ち物チェックを欠かさない二人に忘れ物などない。アッシュは宿の主人に数枚の銅貨を渡し、水袋を二つ受け取って礼を言うとガランにひとつ渡しながらテーブルへと戻ってきた。


「それは?」


 リョウガの問いにアッシュが満面の笑みで答える。


「麦茶! 昨夜の内に薪代払うからって頼んで作って貰ってたんだ〜」


「なるほど、準備も考えてる訳か」


「準備も楽しいんだよねぇ〜、遠足――ま、まぁいいじゃん!」


「今、遠征って言おうとしたな? 軍じゃあるまいし――いや、そうか。それくらいの気構えか……」


 リョウガはアッシュの失言を聞き間違えた。聞き逃しと誤認は冒険者を目指す彼らにとって、初歩的な躓きに繋がる。しかし今回は良い方に傾いた。気構えも重要なことに間違いはない。

 そこへクリスが案内人の二人を連れて戻ってきた。リョウガはクリスらに気付くと立ち上がり、ガランとアッシュに二人を紹介する。


「この二人が案内人だ。タイガとアイン。二人共俺の実の弟たちだ」


 タイガとアインはやはりリョウガに似ていた。身長体格、髪と瞳の色もリョウガとほぼ同じ。アインが一番年下なのか若く見えるが、その顔には特徴があった。左頬から首筋に掛け、大きな火傷の跡がある。ガランとアッシュもアインの首筋に一瞬目を向けたが火傷や傷は珍しくはない。特に気にせず二人と握手を交わした。


「オレ、ガラン」


「ボクはアッシュ」


「タイガだ。話は兄から聞いてる。カカラまでの案内は俺とアインでやるよ」


「アインだ」


 アインの声を聞き、ガランの視線がまたも一瞬だけ首筋に向いた。アインの声は(しゃが)れていたのだ。


「私の声はできれば気にしないで欲しい」


「もちろんだよ。ね、アッシュ」


「そだね」


 アッシュは頷き、アインに笑顔を見せた。


「弟達にはしっかりと言い含めてある。取り敢えず領内にいる間は好きに使ってくれ」


 リョウガの言葉にガランとアッシュは頷き、改めて握手を交わす。そこにサガットも戻ってきた。手には麻袋を持っている。


「ボス、言われてた物を持ってきた」


「ん。ガラン、アッシュ。まぁ短い間だったが面白かったなぁ。これは餞別、例のカラシナ粉と色々だ。それと――」


 ニコラスは麻袋をガランに渡すとその背後を指差す。


「――みんな来ちまったな」


「「え?」」


 後ろを振り返るガランとアッシュ。そこにはトーリオらアーリア商連のキャラバンメンバーが揃っていた。


「何だよ〜、水臭いな!」


「ほんと! 発つのは昨日聞いたけど、水臭いわ」


「ガラン、アッシュ。俺とサガットを助けてくれたことは忘れない」


「兄さんを助けてくれてありがとね」


 ガランとアッシュはそれぞれと握手と短い言葉を交わした。


「まぁ、俺達も東。二人がスカッチに行くんならどっかでまた会うさ。そん時にまた、色々話そう」


 ニコラスはそう言いながら何度も大きく頷く。


「ボス、ありがと。オレ……楽しかったよ! 絶対また会おう!」


「ボクも楽しかった! でもボスの言う通り、きっとどっかでまた会えるね!」


 二人は改めてニコラスと握手を交わし、皆と言葉を交わしながら白フクロウ亭の玄関を出た。皆もそのまま外へと続く。そこでアッシュが指笛を吹いてクーを呼ぶ。


「キュキュー」


 程無くしてクーが舞い降り、アッシュの肩へ留まる。


「「皆、またね!」」


「ガラン、アッシュ! また会おうな!」


「四人共、気を付けてな!」


 ガランとアッシュは皆に手を振って歩き出す。タイガとアインもその後ろを歩き、職人通りを目指す。


「そうそう! この子はケンジャフクロウのクー。ボクの遣い鳥」


「キュッ!」


 アッシュがタイガとアインにクーを紹介し、他愛もない話をしながら職人通りを抜ける。飯場横、露天炉窯の前には燃えるような赤髪を三つ編みに編んだドワーフ、ブラウドが居た。ひっくり返した木箱に座って道具の手入れをしているようだ。


「ブラウドさん!」


 声を掛け、駆け寄るガラン。ブラウドも手入れの手を止め立ち上がる。


「お、ガラン。――そうか、行くのか」


「うん。紹介状、ありがと! アッシュと案内人の二人、タイガさんとアインさんと一緒に向かうよ」


 ガランの弾んだ声にブラウドの目が細くなる。表情は読みにくいが目は口ほどに物を言う。


「そうか、ガラン。俺達は同族、もう仲間だ。いつでもまた会えるさ、なぁ兄弟」


 ブラウドはそう言ってポンとガランの肩を叩いた。心底嬉しそうにガランは何度も頷く。アッシュも横で嬉しそうに微笑んだ。そのアッシュにブラウドが右手を差し出す。


「アッシュ。兄弟を頼む」


「もちろん!」


 ブラウドと握手を交わすアッシュ。ガランは喜びで胸がいっぱいとなった。兄弟と呼ばれたのだ、嬉しくないはずがない。


「兄弟……。ブラウド兄さん――ううん。ブラウ(にぃ)、かな!」


「ふっ。――じゃあ兄弟、行ってこい。また必ず会おう」


「うん! 必ずまた!」


 そして二人は胸を合わせ、お互いの背を叩いた。



 ブラウドと再会の約束を結び、歩き出すガランとアッシュ。

 新たな目的地、カカラ鉱山を目指して。



これにて第三章締めとなります。


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