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ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
第三章 キャラバン —砦の街・トゥサーヌ編—
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第34話 砦の街トゥサーヌ

 

 一夜明けたロクサ村。旧ガストン雑商店の店内にニコラスとサガット、リョウガとクリス、そしてガランとアッシュが顔を揃えていた。店の前の広場で他の者たちは待機している。


「依頼の件の前に――この二人は隊商員じゃないんだよな?」


 リョウガはガランとアッシュから視線を外すと、ニコラスに問い掛ける。


「まぁそうだが、二人共手形持ち。商人同士なんだ、道中協力したり同行したりするのは珍しいことじゃない」


「オレの手形は――これ、ね。アッシュも」


「っと。ボクのはこれ」


 ニコラスの言葉に続き、ガランとアッシュもそれぞれ手形を取り出してリョウガに渡す。渡された手形を見比べるぼうけんものの二人。ガランとアッシュも改めてぼうけんものたちを観察する。


 リョウガ、クリス共に年齢は恐らく三十代で髪色と瞳は茶系。リョウガは短髪、クリスは長髪を一つに束ねていた。長さの違いからか、リョウガの方がやや濃い色に見える。服装もキャラバンと同じく一般的な旅装で、厚手のシャツとズボン、足元もブーツと皆似たような出で立ちだ。一部の者は脚絆(ゲートル)を履いている。キャラバンとの違いは、ぼうけんもののほぼ全員がナイフを収めるホルダーやリングベルトの付いたチェストリングベストを着ていることだ。ガランやアッシュが身に着けている革服のベストに近い。


「見た感じだと俺たちに近い気がするけどな」


 リョウガはそう言いながら二人に手形を返す。


「二人は歩き旅だ。身を守る為に――っと。まぁ商人は詮索を嫌うんだ。その辺は勘弁してくれ、な」


 サガットがガランとアッシュに意味深に同意を求める。ガランとアッシュは苦笑いしつつも頷いた。


「そうだね。オレたちがその――依頼? の邪魔になるならここから別行動でも構わないよ」


 ガランがリョウガに向けてそう言うと、リョウガは首を横に振った。


「いや、同行して欲しい。まぁ――今回、キャラバンにクソかけた奴がいたろ?」


「クソカケ……?」


 アッシュはリョウガが使った言葉の意味がわからず、ガランを見る。目が合ったガランもわからず首を横に振った。二人の様子を見たリョウガはため息と共に補足する。


「あー。クソかけたってのはまぁ……裏切ったって意味だ」


「そっか、クソカケって隠語かぁ〜」


 納得して頷くアッシュ。そこにクリスが静止するように手を振った。


「違う違う。隠語じゃなくて下品なだけだ。普通は『砂をかけた』って言うんだよ。クソなんて覚えなくていい! ――リョウガ、リーダーならもう少し言葉を選んでくれ!」


「え? あ! そっちの――わかった。砂ね、砂」


 アッシュは単語の意味がわかり、言葉を言い直した。リョウガはクリスを無視して口を開く。


「話を進めたいが――もういい、はっきり言う。内通者の疑いもあるんだ。逆に同行して貰わなきゃ困る。全員な」


 全員を強調するリョウガの言葉。ニコラスも頷いて同意を示す。サヴェルの裏切り行為のせいで、キャラバンのメンバーたちも内心で疑心暗鬼になっている。ここでガランとアッシュの離脱を認めれば、此れ幸いと離脱を求める者や、罪をなすりつけようとする者が出る可能性もあるのだ。全員で移動すればその危惧は無くなる。


「そして依頼だが、こっちは難しくない。()の護衛、だ」


「――なるほどね。なんとなく見えてきたよ」


 ニコラスは頷き、一度外の広場に目を向けると視線を戻してリョウガを見つめる。リョウガも深く頷くと全員に聞こえるように告げる。


「ということで、今から発つ。 捕えた賊も殺さず連れて行く。生け捕りは報酬が上がるからな。ってことでニコラスさん、早駆けになる。そのつもりで頼むよ」


 外の者も含め、全員が頷いて出発の準備に取り掛かった。

 リョウガの言葉通り、トゥサーヌまでの移動は強行軍となった。本来丸三日ほど掛かる日程が二日に短縮されたのだ。


 そして二日後夕刻。

 一行は砦の街、トゥサーヌに到着しようとしていた。

 トゥサーヌは元砦跡を利用して作られた新興街だけあって、周囲を幅約三メートルの環壕(かんごう)で囲まれていた。その環壕も拡張したのか、ほぼ垂直に掘られた堀は高さも約五メートルと深く、恐らくその掘った土で作られたであろう土塁壁も約二メートルと高い。環壕と土塁壁の間には幅五メートルほどの堤防があった。その堤防は中央を分割するかのように丸太杭が打ち込まれ、柵が巡らされている。遊歩道のようにも見えるが、実際は侵入があった際にいち早く駆けつけるための通路と思われる。南方面はまだ拡張中のようで、柵の奥の土塁壁を更に上から打ち固めている男たちの姿が見える。大きな丸太槌を振るっており、親方らしき男の掛け声に合わせ、丸太槌が地を揺らしていた。西方面は土塁壁の地固めが終わた要所に櫓が立ち、櫓同士の隙間を埋めるようにレンガ壁を築いているところであった。

 完成すれば壕、柵、壁と三段構えの堅牢さ。まさに砦、城壁を思わせる作りだ。シベル南西の要所となる街だろう。

 そして街の出入りは四方にある門門からのみ。環壕に渡された橋に吊り上げ装置はついておらず、有事の際には破壊が前提となっているのか些か心許ない作りとなっていた。


 その南門門前の降車場にキャラバンが停車した。


「お尻痛〜い」


 カミーラが両手で尻をさすりながら御者台から降りた。


「全くだ、腰がどうにかなっちまう。痛てて……」


 ニコラスも右拳で腰を叩きながら箱馬車から出てきた。


「オレもあちこち痛い」


「ボクもだよ〜。それになんだか、まだふわふわしてる気がするよ」


 ガランとアッシュも首や肩を回し、身体をほぐしながら馬車から降りた。


「ずるいなぁ〜。俺だけ馬車門なんて……」


 御者台で抗議の声を上げたデミトリの表情は冴えない。


「どうせ行き先は同じ! 皆も中でな! 他はこっちだ」


 ニコラスがキャラバンの車列に手を振ると、降りた他のメンバーを手招きして呼び寄せる。


「ウチのモンは組ごとにまとまってくれ。ガラン、こっちは人数も多いから少し時間がかかる。アッシュと先に行ってくれ。門の先に広場があるからそこで待っててくれよ」


「うん。わかった」


「また後で〜」


 キャラバン隊から離れ、検問へと向かう二人。


「あ〜! 待った待った。俺も一緒に行く」


 そこにぼうけんものチームのクリスが走り寄ってきた。監視対象から離れる訳にはいかないのだろう。

 クリスと同行する二人だが、初めて見るトゥサーヌの門門に興奮が隠せない。橋を渡りながら環壕の深さを覗き見て楽しそうに会話をしている。

 

「見て見て、アッシュ。堀って言うんだっけこれ? 落ちないでよー?」


「これは落ちたら簡単には上がれないねぇ〜。その前に怪我しそうだけど」


「キュ! キュキュー!」


 飛べない二人に注意を促すようにクーが鳴いた。思わず顔を見合わせるガランとアッシュ。そこに検問所の役人と覚しき男が声を掛ける。


「おーい! 手続きはこっちだよ。後ろが詰まっちゃうから早くね」


 ガランとアッシュは慌てて窓口へと向かう。クリスも苦笑いだ。


「ご、ごめんなさい」


 恐らくまだ仮設なのだろう、簡素なカウンターテーブルを挟んで役人が二人、隣の門に兵士が二人並んでいる。


「手形はあるかい?」


「うん。はい、これね」


「これは交易……っと。じゃあ、ここに名前書いて」


 役人はおそらく名簿と思われる紙に何やら記入し、二人の前に紙を置いて羽ペンとインク壺の入った文箱を手で示す。二人はテーブルの上のインク壺にペン先を浸し、名前を記入した。


「えー……ガーランドとアシュリーンね。姓はなし、か。じゃあ門税、二十ダルずつ。それぞれで払うかい? それともまとめて?」


「あ、まとめてボクが払うよ。預り証だけ分けてくれる?」


 検問や出入国の方法、手続きは二人とも学びの中で聞いている。アッシュはジローデンから譲り受けた、里では使わない十ダル銀貨を四枚、ポーチから取り出した。里の財産であるため、譲り受けた硬貨は全てアッシュが管理している。先日パンのチーズ焼きで振る舞った肉の代金として、ニコラスから百ダル金貨六枚を貰っている。まだ両替ができていないので、今回はアッシュが立て替えた。ちなみに樽ひとつ分、約十キロのラード漬けの相場も五百ダルからであり、商人らしくきっちりと支払われていた。


「これが預り証ね。街を出る時に必ず返却を頼む。紛失は罰金で百ダル。持ち逃げして使いまわそうとしても無駄だからな。十日毎に更新しないと追徴対象だ」


「じゃあ――例えば三日で出れば、えぇっと……十四ダル戻って来るの?」


 ガランの質問に役人が笑って答える。


「残念ながら戻らない。徴税は十日刻みだ。一日目だろうが十日目だろうが二十ダル。遅れた時の追徴は三倍。払えなきゃ――労役だ」


「労役って……。オレたち、長逗留になってもちゃんと払おうね」


 思わずアッシュを見るガラン。アッシュもガランを見て頷く。


「うんうん。三倍は勿体無い」


「支払いは役場だけじゃなくて、宿と両替所でもできるよ。さ、次は隣だ」


 役人に促され、三人は兵士の前に進んだ。厳しい顔の兵士がガランとアッシュの二人を睨み、低い声で告げる。


「俺たちからの注意は二つだ。まず街での抜剣は禁止。そして俺たち衛兵に問われたら、必ず預り証を見せろ。――わかったな?」


「「はい!」」


 ガランとアッシュが反射的に答える。クリスが衛兵に何か見せるのを見て、二人も思わず預り証を見せた。


「……いや、お前たちは今はいい。――質問は?」


「オレは特にない……かな」


「ボクも――あ、衛兵さんってどうやったらわかるの?」


 ガランはアッシュに強く頷いて質問を褒める。どこで見分けるか知っておいたほうが良いのは確かだ。


「俺たちが今着てるのが制服だ。それと――この剣の柄印で見分けがつく」


 衛兵はそう言って、剣の鞘を少しだけベルトから抜き、柄を押し下げて柄頭を見せた。焦げ茶に染めたシャツとズボン、黒い革ベストに同じく黒革のチャップスブーツ。剣は護拳付きサーベルであった。柄頭に交差した2本のサーベルを模した柄印。よく見れば革ベストの左胸にも、柄印と同じ紋様の焼き印が大きく施されている。

 なるほどと頷くガランとアッシュ。と、そこへ。賊たちを引き連れてぼうけんものたちがやって来た。リーダーのリョウガが先頭だ。

 衛兵はその一団を見てガランたちに一言断りを入れる。


「悪いが先に通させてくれ。――詰所じゃ狭そうだ。雑居牢に頼む」


 リョウガが頷いて門の先へと歩いていく。ぞろぞろと歩く賊たちを見送るガランとアッシュ。その表情が曇る。恐らく明日にも自分たちも聴取される。憂鬱にもなろうというものだ。

 そんな二人に衛兵が告げる。


「さて注意は以上だ。――そうそう。労役は一日三十ダルの支給で、寝床飯付き。十日労役すれば二百八十ダル貯まる。商いに失敗したら相談に来い」


 ガランとアッシュは曖昧に頷くとクリスと共に門の中へと入っていく。

 街は夕刻ということもあり賑やかだ。仕事終わりで陽気に話しながら家路へ向かう者。同じく連れ立って飲食店に向かう者。店先で商品や会計のやり取りを行っている者たちなど。色々な人の声や音が街の活気となっている。ソウジュの里とはまた違った人々の生活がそこにはあった。


 ガランは、ソウジュの里を見た時のような気の焦りや不安、寂しさを感じていない自分に気が付いた。何故なのかと考えるまでもなかった。ガランは隣にいるアッシュを見上げた。

 アッシュも同じくガランを見ていた。アッシュもまた、里を出て初めて見る違う街の暮らしを見て、望郷の念に誘われるのではないかと内心で考えていた。その気持ちは、沸き起こらなかった。アッシュもそれが、ガランの存在にあると気付いた。

 これが友か。友とはなんと頼もしいものであろうか。二人はどちらからともなく微笑み、頷き合った。

 その直後。アッシュの『記憶』が何かを閃かせた。


「ね、ガラン。ちょっと右手を顔の横に上げてみて」


「え? こう?」


 ガランは素直に手を挙げる。


「もう少し上――そう、そこでいいや。そのままにしてて! いくよー?」


 高さを調整し、ガランと向かい合うアッシュ。

 そして。ガランの右手に己の右手を勢いよく打ち付けた。


 パァンッ!


 その音はトゥサーヌの街に響いた。


「――痛った〜い!」


 手を打ち付けた側のアッシュが、手を振りながら痛みを堪える。しかし言葉とは裏腹にアッシュは笑い出してしまった。


「アハッ、アハハハッ」


「……何やってんの」


 呆れ顔でつぶやいたガラン。しかしアッシュの楽しげな笑みにつられて一緒に笑うのであった。

お約束の日本円為替。

銅貨    100円=1ダル

銀貨  1,000円=10ダル

金貨 10,000円=100ダル


10万円の大金貨、100万円の白金貨もあります。


ここまでお読みいただいてありがとうございます。

是非引き続きお楽しみください。

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