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ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
第三章 キャラバン —砦の街・トゥサーヌ編—
37/85

第32話 裏切り者(後編) —日暮れ前に—

 

「ここで止まってくれ! こっちの列はここまで――うん、上出来だ」


 トーリオの誘導で止まる荷馬車。


箱馬車(そいつ)はこっちだ! 馬を右に……もう少し前――よし、いいぞ」


 バッカスも箱馬車を誘導しながら整列させ、丘の麓の三本の大樹を組み込む形で陣を組ませていた。前方の馬車の側面に、後方の馬車の馬が並ぶ形。角度を変えて並べば馬を守れる円陣になる。


「騎馬組も中に馬を止めたら バタ板を降ろしてくれ!」


 箱馬車の屋根に登ったサガットが、周囲を警戒しながらも騎馬組メンバーに指示を出す。

 バタ板とは積み降ろしで使用する板だ。荷台から斜めに渡して荷の上げ降ろしに、荷馬車同士に渡して荷渡しの足場にと、用途は様々。時には長椅子やテーブルとしても使う。普段は荷の落下防止のあおりとして積まれているその板を荷台に立てかけ、盾代わりとする段取りである。

 半分程の馬車に板を立てかけ終えた時、警戒していたサガットの視界に馬群が映った。語るまでも無く追いついてきた賊だ。


「見えた! ――フン! やっぱり奴ら、弓も槍も無しだ!」


 その声に他のメンバーからも声が上がる。


「なんとまぁ……弓がないのは助かったなぁ」


「だが舐めて掛かると大怪我の元だ。慎重にいこう」


「ならこっちは予備の車軸、あれで突くか!」


「そうだな。どうせ斬り込んでくるのは下馬してからだ」


 危機感は多少和らいだが、どの声も緊張感までは失わず、荷台の底に吊るしてある予備の車軸を各自取り出し始めた。木製とはいえ荷馬車を支える車軸である。少々の斬りつけでは断ち切ることはできないだろう。

 油断があれば一喝しようと構えていたサガットだが、その考えは杞憂に終わった。そのサガットにトーリオが話しかける。


「でもこっちも弓は一張りだけ、か。決め手に欠けるかもね」


「ボスと合流するまで耐えればいいさ。――来たぞ!」


 サガットは話を打ち切り、全員に警戒を促す。

 まるでその声が合図だったかのように馬群が次々と現れ、陣の前に並んだ。その数は八騎。その中の一騎が代表するようにゆっくりと陣に近付く。リーダー格の男だ。


「止まれ! こっちには弓がある。射てもいいんだぞ?」


 サガットが警告を口にすると馬の脚が止まった。


「まぁ落ち着けよ商人! 取引をしようじゃないか!」


「悪いな。荷主はもう居るのさ」


 そう言ってサガットは弓に矢を番える。


「まぁそう言うな。あんたらの仲間、エルフだっけ? その子をウチの仲間が馬車ごと拾っててね」


 賊の言葉で空気が一変した。サガットの眼に冷酷さが宿り、それが伝播したかのようにキャラバンメンバーも剣呑な雰囲気を纏う。


「……そりゃお前ら――賢いやり方じゃないな。お前らの根城がどこか知らんがシベル中……いや、交易協定国全てを敵に回すぞ?」


 リーダー格の男はサガットの視線を受けても動じない。この男が頭目だろうかとトーリオも冷静に考えていた。

 

「おいおい。俺達は野盗じゃあない。取引って言ったろ? 親切に迷子を届けようってんだ。礼が欲しくてね」


「そうか。で? その馬車が見えんがどうしたんだ? 拾ってもないのに拾った礼が欲しいってのはな、詐欺って言うんだぜ?」


「そりゃそうだ! 心配しなくても――」


 リーダー格の男が後ろを振り返る。そこにタイミングよく現れるニコラスらが乗ってるはずの箱馬車。ゆっくりと進んでくるが、確認できるのは御者台にデミトリひとりだけ。隣りに居たはずのアッシュの姿は見えない。

 サガットらは訝しむ。乗員の誰かが別行動を取らされたか、別の場所に連れて行かれたのではないかとの疑惑が脳裏に浮かんだ。


「な? ちゃんと拾ってある――ん?」


 ニコラスらの荷馬車が賊達の後方で止まった。デミトリが止めたのだ。


「何やってんだ! ここまで走らせろ!」


 リーダー格の男は苛立ちを隠さずデミトリに向けて叫ぶ。


「デミ! 皆はどうなっ――」


「黙れ! こっちの手のうちだって言ったろ」


 安否を確認しようとデミトリに声を掛けたサガットの問いかけはリーダー格の男により遮られた。サガットはその顔から感情を消して賊達を見つめる。その顔はまるで、冷酷な判断を下す覚悟を固めたかのように見えた。

 そんな空気感を和ませるようにデミトリが賊に向けて話しだす。


「いやぁー。さっきのいざこざで馬が興奮しちゃって危ないんだよー。え? なになに? ふむふむ。暴走すると面倒だってサヴェルが言ってるよ? それと、四人を降ろすから手伝えだってさー!」


 デミトリが車内の誰かと会話したかのような演技で賊達に馬車に近付くよう促す。明らかに下手くそな演技に少し安堵感を覚えるサガットらキャラバンメンバー。だが、普段のデミトリを知らない賊達は怪訝そうにしながらも馬を降りていく。しかしそこでリーダー格の男が待ったを掛けた。


「待て! ――おい御者。お前全員の武器を持って先に降りろ」


「ふーん。……はいはーい。降りますよっと。俺はいつも雑用だなぁ。中、頼むよー。この弓と槍だけでいいかい?」


 デミトリは右手にガランの槍、左手にアッシュの弓を持ち、両手を上げて見せてから御者台から飛び降りた。


「よし。馬から離れろ。――そこでいい。武器を置いてこっちに来い。お前ら! 大事な預かりモンを降ろせ。商人共はおかしな真似すんなよ?」


 リーダー格の男が馬を降りた瞬間、ニコラスらの乗った馬車の車内から高い音色が響く。


 ピッ ピィー!


 アッシュの指笛は作戦開始の合図。アッシュは鎧戸を細く開けて覗き見て、賊達が馬を降りるのを待っていたのだ。

 一番手として上空からクーが舞い降りた。リーダーの顔に爪を立ててしがみつく。そこに近付いていたデミトリが体当たりを決めて押し倒した。リーダーから離れて舞い上がるクーと入れ替わるとリーダーに馬乗りになり、あっという間に制圧。首元にナイフを突きつけた。

 呆気に取られてリーダーを見ていた賊達は、箱馬車のドアから飛び出してきたニコラスとガランに気付くのが遅れた。二人の手には魔鋼の棒が握られている。咄嗟に腰の剣に手を伸ばす賊達。しかしその腕を魔鋼で打たれる。


「ぎゃ!」


「いでで――!」


 次々と賊の腕を打ち据えるガランとニコラス。中には腕の骨が折れた者もいるだろうが、遠慮してる場合ではない。柄に手をかけていた者へは鞘ごと剣を打ち据え、躊躇なく叩き折る。魔鋼の硬さが成せる力技だ。


「ぐああ!」


「いっ!」


 次に飛び出したのはアッシュだ。デミトリがわかりやすく置いた弓に駆け寄り手に取ると矢を番え、大声で警告した。


「そこまで! 動いたら放つ!」


 アッシュは敢えて制御を緩めた(ウィンド)を纏い、逃げ出そうとした賊を威嚇する。

 しかし、ひとりの賊が警告を聞かずに(あぶみ)を踏んで騎乗の構えを見せた。アッシュは躊躇いもなく矢を放つ。狙いは足元。地に突き立った(ウィンド)を纏った矢が周囲の気流を乱し、枯れ草や砂を巻き上げた。それに驚いた馬が嘶きを上げ、騎乗を試みた男は尻餅をついた。


「次は当てる。両手を上げろ」


 (ウィンド)を纏ったまま、アッシュは動けそうな賊達を一人ずつ見据える。それきり賊は抵抗を止め、腕を打ち据えられた男達も痛む腕を擦りながらも手を上げていく。


「ハッハッハッー! どうだトーリオ! トーリー! 俺もまだまだやれるだろ? しかし――こいつはいいな!」


 陣に向かって魔鋼を握る拳を突き上げるニコラス。

 その声にアッシュは呆れながら声を掛ける。


「ニコラスさん。それより応援を呼んで欲しいなぁ〜」


「あぁすまんすまん。皆、こいつら縛り上げるのを手伝ってくれ!」


 そこに、箱馬車から顔を出したカミーラも手を振りながら告げた。


「麻袋も忘れないでねー」


 ニコラスらの無事な姿にホッとするキャラバン隊。


「はぁ……なんだか色々腑に落ちんが――急ごう。賊の捕縛だ」


 サガットは毒気を抜かれて苦笑いでメンバーに指示を出した。

 しばらくして縄や革紐、麻袋と手ぬぐいを持ってメンバーが賊を縛り上げていき、ようやくアッシュは(ウィンド)を解いた。そこにガランが並び、労いの言葉を掛ける。当然槍はすでに手の中だ。


「アッシュお疲れ。今日は散々な日だったね。オレ腹減ったー」


「ガランもお疲れ〜。……ちょっとずるい気がするけど、こっそり食べよっか」


 アッシュがポーチベルトから干した果実を取り出し、ガランにも渡す。赤い実はグミンだろうか。同時に口に入れにんまりと笑い合う二人。その隣ではデミトリがリーダー格の男を縛り上げていた。


「首謀者を聞きたいけど――アンタ、口は固そうだねぇ」


 リーダー格の男は冷めた瞳でデミトリに視線を合わせ、鼻で笑った。


「ふふん。誰が話すかよ。どうせ邪魔になるだけだ。殺せばいい」


「ふーん。ま、いいや」


 デミトリはそう言うと、男の口に無造作に手ぬぐいを突っ込み、猿轡を噛ませる。そこにカミーラが例の仕掛けを施した麻袋を被せた。唸り声と共に身を捩るリーダー格の男。しかし首が締まるのを理解したのかすぐに緩慢な動きへと変わった。


「聞き出すのは後よ、後。ロクサ村に急がないと完全に日が落ちるわ。――ねぇボス。ロクサ村にはまだ賊、いると思う?」


 カミーラの問いに当然とばかりに頷くニコラス。


「まぁ、途中で離脱した奴が戻ってるだろうな。それにこの時間。残党も動けないはずだろ?」


「はぁー。気が重いわね。でも行かなきゃみすみす逃すことにもなるわ。そうなったら闇討ちもあるし……。ガランとアッシュは大丈夫?」


 カミーラは二人に視線を向けると心配そうに聞いてくる。今日は魔物討伐から始まり、慣れない馬車移動に賊の捕縛も重なった。体力的にも精神的にも疲れていて当然なのだ。ガランはカミーラの問いに正直に答えた。


「疲れてるけど……今から野宿の方が辛い、かな。腹も減ったし――アッシュはどう?」


「ボクもガランに賛成。確かに今から野営地探すほうが休めない気がする。もうひとつ、気になることもあるしね」


 アッシュは一度ニコラスに視線を合わせ、次に自分たちが乗ってきた馬車に視線を送る。再びニコラスに視線を合わせ、今度はキャラバン隊が作った陣に目を遣る。三度目に視線を合わせた時、ニコラスは目を伏せ、小さく何度も頷いた。

 裏切り者は一人とは限らない。アッシュはそう視線で訴え、ニコラスもまたアッシュに指摘されるまでもなく、それを危惧していたのだ。


「……じゃあ話は後にして急いで向かおう。トーリオ! また逆戻りだ。陣を畳んですぐに発つ。サガット、賊は奴らの乗ってきた馬に乗せて引いていこう。おい賊共! 途中で落ちても誰も拾わん。落ちたくなきゃしっかり股で馬の背を挟むんだな! さぁみんな動け動け!」


 ニコラスの宣言に麻袋を被った賊達が緊張したのがわかる。縛られた状態での落馬は受け身は取れないし、置いていかれれば魔物の餌となるのは必然。抱えられ、乗せられた馬の上で必死に鞍を挟み込む者、(あぶみ)に深く爪先を差し込む者と様々な努力を見せた。

 ある意味、協力的になった賊を横目に、ニコラスがガランに声をかける。


「ガラン。この鉄棒はいいな。形見じゃなきゃ売って欲しいくらいだよ」


「いつかオレが打てるようになったら高く買ってよ!」


 差し出された魔鋼を受け取るガラン。魔鋼をリュックに戻そうと歩き掛け、西を見ながら提案した。


「ニコラスさん、薪あったら貰えない? 松明作るよ」


「ああ。そりゃあ助かる。おーい! 誰でもいい、薪を二、三本くれ!」


 ニコラスの声にメンバーがすぐに反応した。


「こっちにあるぞー! ホレ!」


「ありがと!」


 ガランは礼を告げ、箱馬車へと急ぐ。既に御者台にデミトリが座り、車内にはナイフを手にしたカミーラとピッケルを持つアッシュの姿があった。そして床には、カミーラに踏みつけられたサヴェルが転がっている。


「じゃ、パパッと作っちゃうね」


 ガランは魔鋼をリュックに戻すと手ぬぐいと、ラード漬けの樽を取り出した。


「なんかその樽、いい匂いだなー」


 デミトリは鼻をひくひくさせ、漂う匂いを嗅ぐ。そして何故かガランの腹が鳴った。


「これは後! オレも我慢してるんだから……」


 腹が鳴った恥ずかしさからか、ガランは急いで作業に取り掛かる。とはいっても簡単な作業だ。ピッケルの平刃を斧代わりに薪を四つに割る。手ぬぐいも適当に裂き、樽を開けるとナイフでラードを掬い取って手ぬぐいにたっぷりと塗っていく。後はその手ぬぐいを丸め、薪の先端に挟み込むように元の形に戻して革紐で縛れば、簡易的ではあるが松明の出来上がりだ。あっという間に三本の松明を作り上げた。

 横で見ていたデミトリが思わずその手際を褒める。


「さすがドワーフだなぁー。手際が良い」


「えへへ」


 ガランは照れながらも今度は焚き火セットで火種を起こし、これまた手際よく松明に火を灯した。ラードの油分があるとはいえ、これも十二分な手際だ。ここでもデミトリは目を丸くして驚く。


「じゃあ渡してくるよ」


 ガランは手早く道具を片付け、松明を掲げるとニコラスの元へと向かった。ここでもまたニコラスに驚かれる。


「ドワーフってのは凄いな……! ありがたく使わせてもらう。トーリオ! サガット! 松明が準備できた。先頭に持たせてやってくれ」


 呼ばれたトーリオとサガットはニコラスから松明を受け取り、火を移した。

 そしてポツリとニコラスがつぶやく。


「しかしこの匂いは……」


 サガットも釣られて同意する。


「あぁ。この匂いは……」


 そして重なる言葉はひとつであった。


「「腹が減るなぁ〜」」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この戦闘シーンはかなり把握が難しかったです。 本体 賊  ガラン達の馬車  の位置関係で始まり、 デミトリが小芝居などせず挟み撃ちで弓を使うのがセオリーのように感じます。 非殺傷が…
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