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ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
第二章 エルフの集落 —ソウジュの里編—
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第21話 完遂

「ええ〜! これもあるの〜?」


「アハッ! そりゃあるわよ。原理は鉋だもの」


 アッシュの驚きの声と加工地区女長老の笑い声を聞きながら、レンフィールドは苦虫を噛み潰していた。


 アッシュが自信満々で持ってきた『()』削り器だったが、仕組みは至極簡単。拳ほどの四角い木材を貫通する穴。片側は広く反対側は狭い。すり鉢状に開けた穴が徐々に狭まりながら貫通し、底は箆と同じサイズになっている。すり鉢部分にガランが潰した釘を刃の代わりに幾つか埋め込み、切り出した棒を回しながら削っていけば箆と同じものが出来上がる。


 レンフィールドは極短時間でアッシュが作ってみせた一本の箆を見て、残りは時間の無駄と早々に課題の一つに合格を出してしまった。

 ところが。アッシュが作った『形だけ丸い棒』は箆としては最低ラインもいいところで、木の節や反りまで考えられていない。よくよく見れば歪みがある。アッシュが自信作だから女長老に見せに行く、というので同行してきたレンフィールドだが、女長老に見せるや否やすぐに欠点を見抜かれ、自身の判断が早過ぎたことを悟っての表情である。


「レンフィールド族長も判断が甘いこと。弓を置いて長いからかしらね。アハハッ」


 女長老にこう笑われては、いつぞやマクレンに『まだまだ』と言った言葉が己に返ってくる。

 そんなレンフィールドを置いてけぼりに、アッシュと女長老は箆削りについて話が盛り上がっている。立ち去っても構わないレンフィールドだが、何故か負けた気がするので忌々しくも残っているのだ。


「やっぱり触った感触というのかしら? 鉋を掛けた時の滑り具合とかね、わかるのよ。確かに、中心を取って回しながら刃物を当てれば一見綺麗な丸い棒は作れるわ。井戸の脱水機なんかはそれでいいと思うのよ。でも真っ直ぐ飛ぶ矢を作ろうと思ったら、鉋に限るわ。矢羽もそう。重ねて切れば同じ形」


「でも葉っぱと同じで全く同じ羽根はない! ってことだね?」


「アハハ! そう、そういうこと。おおよその見当は付くけど、木工を課題にしたのは失敗だったと思うわよ? レンフィールド族長」


「そうですね。無効、としたいところですが覆せません」


 レンフィールドは表情を隠さず正直に告げた。アッシュは満面の笑みで激しく頷き、思いついたかのように切り出した。


「じゃあ役に立つ(アイデア)も話してもいい?」


「そうね、女長老にも聞いてもらったほうが正しい判断ができそうだわ」


 レンフィールドがそう言うとアッシュはローブの裏側で何やらゴソゴソと右手を動かす。


「じゃあ……加減がわからないからこの棒に――」


 アッシュが自ら作った棒を床に置くと、ローブ裏で弄っていた手を出し、人差指を親指に引っ掛け、勢い良く棒を指差した。


 パチン!


 指が発した音ではない。指差した棒が勢い良く跳ね、床を叩いたのだ。


「「――!?」」


「今の、どうかな?」


 レンフィールドも女長老も何が起こったのかわからない。レンフィールドが棒を拾い上げ観察するが、どこも変わった所が無いように見える。


「……何をしたの?」


 レンフィールドは思わず問いかける。女長老はレンフィールドが持っていた棒をゆっくり取り、まじまじと観察する。

 わかった。変わったことが一つ。棒の先端付近に極々小さな焦げを見つけた。


「……精霊魔法ね? 風じゃない……火かしら?」


 アッシュは微笑みながら首を左右に振る。


「精霊魔法だけど、火じゃないよ」


 レンフィールドはアッシュの事前の動きを思い出そうとする。しかしローブの中で何をしたのかまでは見えない。


「どういうこと?」


 アッシュは種明かしをするようにローブの裏地を見せる。そこには何の変哲もない羊毛生地(フェルト)があるだけ。


「まさか……! ――『悪戯』」


 思わず女長老がつぶやく。アッシュは満足気に頷いて見せた。


「そう! 『精霊の悪戯』だよ!」


 冬場に起こりやすい静電気。それが悪戯の正体である。


「悪戯は雷と同じじゃないかと思って、試したらできた!」


「できたって……なんで出来るのよ!?」


 レンフィールドは理解が追いつかないが女長老は違った。


「悪戯の前に髪が逆立つ時があるわ。そして雲が厚くなって雷が落ちる前にも……。そう考えれば悪戯と雷は似てる。そうね……精霊が司る『水』は血が身体に流れてるし、『火』も身体のぬくもりで身体に小さい火があるってわかる。『風』だって息を吸えば身体にあるし『地』だって地で育つものを食べてるんだから身体にあるでしょう。だから、身体に自然の力があれば精霊が力を貸してくれる……」


「じゃあ雷は……まさか……悪戯が身体に宿()()()いれば力を貸してくれるってこと……」


 レンフィールドのつぶやきにアッシュは頷く。

 アッシュが度々起こる静電気を感じた時、『記憶』は雷を連想させていた。同時に、心電図のようなパルスや生体電位信号のイメージ、物を擦り付けた時に悪戯が起こりやすいことも連想している。体内に雷はあり、乾燥しているときに物を擦ると悪戯が発生すると。


 しかし体内電気は話せない。『記憶』のことも話さなくてはいけなくなるからだ。だから悪戯だけを話す。


「暗い部屋でローブを脱いだ時、雷みたいにパチって光って悪戯されたんだ! それでなんとなく、ローブをゴソゴソすれば悪戯が起きるって気付いた。試しにゴソゴソして最後に勢い良く指差したらできた! どう? 役に立つかな?」


 レンフィールドは言葉も出ない。しばらく呆然とし、なんとか絞り出す。


「や、役に立つとかじゃない……新たな視点……」


「じゃあ二つ目も合格でいいよね!?」


 アッシュが期待を込めて確認する。レンフィールドもさすがに否定はできなかった。四大精霊に『新たな精霊』が加わる可能性は未知数だ。頷くしかない。


「やったー!」


 アッシュは両手を上げて歓喜を表す。

 残りひとつはたった三日森で過ごすだけ。クーがいるアッシュに食糧の心配など無い。火起こしも、ガランから既に習っている。


 翌日。アッシュは水袋を三つ持ってしっかりと防寒ローブを着込み、クーと共にシロノウサギを三頭狩った。捌いて調理を終えたらあとは太い木に登り、身体を蔓で幹に巻き付けて大人しくしてるだけ。

 三つの課題を完遂し、条件は難なく満たされたのだった。

お読みいただいてありがとうございます。

無事条件を完遂できたアッシュ。旅立ちは近いです。

是非引き続きお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
里に役立つアイデアがやっぱり前世の知識からくるもので、エルフの里としてはすごい大発見だったと思います(*'ω'*) クーがとってもしっかり相棒のような存在に成長してくれているんじゃないかな。すごく心強…
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