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ガランとアッシュの旅路  作者: 玲 枌九郎
プロローグ
1/85

聖域にて

「爺ちゃん……」


 燃える炎を直視することができず、ドワーフの少年ガランは横に立つ祖父を見上げた。五人の男性も炎を囲んで見守っている。ガラン以外は皆年老いたドワーフだ。


 祖父はガランに顔を向け、その頭に一度ポンと手を置いた。分厚く大きな手。そしてその手がガランの肩を引き寄せる。


 祖父は視線を炎に戻すと静かにガランに語りかける。


「そんな顔をするな、ガラン」


 ガランは祖父の、その静かな声を俯いて聞く。


「年寄りから先に逝く、当たり前のことよ。ワシと共にこの聖地に来て――もう十五年、か」


 祖父はガランの肩を軽く叩き、静かに言葉を続ける。


「ガランよ。血の繋がりは無くとも、奴はお前の成長を見られて……最期も皆に見守られて逝った。奴は幸せだったに違いなかろう?」


 燃える炎。

 それが包んでいるのは、ひとつの棺。


「――先に逝った爺共と同じく、な」


 祖父の声に応えるように炎の中で一本の薪がパキリと爆ぜた。その音に励まされたようにガランも顔を上げ、炎を見つめる。


「オレ……上手く髭、仕上げてあげられたかな? 喜んでくれたかな?」


「もちろんじゃ。贈られた細工道具、あれも使ってやらにゃな。そうすれば奴はもっと喜ぶじゃろ」


「――うん」


 ガランは頷く。そして炎のその先、枝を広げた大きな樹を見て祖父に問う。


「爺ちゃん。霊樹はまだ――まだ枯れないよね?」


「……あぁ。まだ枯れぬよ。霊樹はまだ、な」


 祖父は視線を上げ、火の粉舞う炎に照らされた霊樹を見る。しかし残酷にもその霊樹の葉が一枚、ひらりと風に舞い山へと消えていく。それを見て眉根を寄せてしまったが、ガランに悟られぬ内に表情を戻せた。


 祖父は炎を囲む爺さんたちを見渡す。五人の爺さんたちも二人を見ている。思いは同じはず。すでにもう何度も話し合ったのだ。


『竜脈は枯れた。霊樹も我らの命もあと五年は持つまい』と。

『ならば少しでも遺してやらねば』とも。


 祖父を含め、爺さんたちに与えられた時間がもう残り僅かな事。それはまだガランには伏せられていた。これから残りの時間で伝えられることを伝え、話すべきことを話さねばならない。


「――ガラン、お前も明日から鍛冶場じゃ。死んだ爺たちへの(はなむけ)に、お前の初打ちも奉じてやろうぞ」


 ガランは炎から目を離さず大きく頷く。何度も何度も――。



 それからおよそ六年。ガランは祖父たちと濃密な時を過ごし、ついにその日を迎えた。

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[良い点] 読みやすい。 文字数適切。 [気になる点] 初手設定は悪手です。 理由は、この時点では読者に設定への興味が無いからです。 主役の人とナリをまず書くべきですね。 この時点での読者の興味はそこ…
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